表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第一章 安全マージンをとる冒険者
16/442

第十三話 一日目の終わり

「お帰りなさいませ」

「「ただいま戻りました、フェルーナさん」」

「ただいま! ママ! 」


 ()(しず)む前に俺達とフェナは宿屋『銀狼』へ戻ることが出来た。そして待っていたフェルーナさんが出迎えてきてくれて、挨拶(あいさつ)を。

 俺達とフェナもそれに応じた。


 笑顔が(まぶ)しいフェルーナさんの出迎(でむか)えと同時にいい匂いがする。

 食事ができたのだろう。

 いいタイミングのようだ。


「娘は何か粗相(そそう)をしませんでしたか? 」

「いえ、そんなことはないですよ」


 どんな食事か考えていると、フェルーナさんが心配そうに聞いてくる。

 そうですか、とほっとしたような顔でにっこりとするといきなり(あつ)がかかってきた。

 一体なんだ?!


「で、フェナ。なんでこんなに時間がかかったのかしら」

「え、え~っと……お、お兄さん達を(みんな)に紹介していたら……」


 物凄い形相(ぎょうそう)だ。金色の尻尾(しっぽ)が上を向き、怒りを表しているようだ。

 いきなり怒りをぶつけられたフェナもおろおろとしている。

 ああ……なるほど。

 時間に厳しい、いや時間に遅れたらどうなるかが今証明された。

 フェルーナさんの右腕がゴゴゴゴゴゴゴという音を今にも()(ひび)かせそうだ。

 恐ろしや……。

 しかし今回はいくら怒ろうとも分はフェナにある。

 何せ事前に行ってもいいといわれ、時間を指定されていなかったからだ。

 まぁ確かに遅くはあるが。


「まぁいいでしょう。ご飯にしましょう。お客様方は如何(いかが)いたしましょうか? 一旦(いったん)部屋へ戻り支度(したく)をいたしますか? それとも一階でお待ちになりますか? 」


 かかっていた(あつ)()き、俺達に女神の笑顔で聞いてくる。

 ……落差(らくさ)がすごい。

 ケイロンと顔を合わせる。


「どうする? 」

「一回上がろうか」

「では、一階で料理の配膳(はいぜん)をいたしますので出来たらお(むか)えに上がります」

「「よろしくお願いします」」


 こうして俺達は二階へ行った。


 ★


「凄かったな、フェルーナさんの怒りよう」

「まぁ時間にルーズなのはあまり良くないからね」

「とはいえ、少し遅かったからと言ってあそこまで怒るか? 」

「ん~、本人はそう思ってないようだけど、フェナはまだ小さいから、ね。誘拐(ゆうかい)されないか心配なんじゃないかな? それと客である僕達を振り回してないか、気が気じゃなかったんじゃない? 」


 ケイロンがそう言いながら部屋を見ている。

 またもや机の下、ベット、(まど)等色々な所を見ている。


「一体何を警戒(けいかい)してるんだ? 」

「忘れたの? 市場(いちば)に行った時会った人達の驚きよう。まるでこの宿に人が住むのが異常だといわんばかりの……」

「けど、最初調べても何もなかっただろ? 」

(ねん)には(ねん)を、ね」


 そう言いケイロンは隅々(すみずみ)まで調べていっている。

 まぁケイロンがそういうならば、そうなのか?

 俺の警戒心(けいかいしん)が薄いだけなのだろうか?

 ん~、分からん!


「……ないね」

「やっぱり? 」

「だけど何だったんだろう、あれは」

「……分からないが……ガルムさん達の人柄(ひとがら)ってことじゃなさそうだな」

「そうだね……。そう考えると……う~ん」


 ケイロンが一人(うな)る。

 部屋じゃない、人柄(ひとがら)でもない。犯罪系統でもなさそうである。

 正直これ以上考えてもなにも出ない気がする。


 立っているのも疲れたので大きなベットに腰を下ろそうかと移動している途中、ノックの音がした。


「晩御飯の準備ができた「ギャァ!!! 」……」

「晩御飯の準備ができました」


 ……。

 フェルーナさんの教育的指導が発動したようだ。

 大丈夫かフェナよ……。


 ★


(さき)ほどは失礼しました。まだお客様と接する機会(きかい)も少なく、不慣(ふな)れなもので……ホホホホホ」


 たんこぶを作ったフェナを見ながら俺達はフェルーナさんの謝罪(しゃざい)を聞いた。


「大丈夫です」

「ええ、僕達もこの町は初心者なので」


 引き()った笑顔で(こた)える。

 ま、まぁ……ほどほどに、と思いながらも目の前に並べられた料理を見る。


 白パンにソーセージ、スープにサラダ。

 ソーセージはとても大きく、(こう)ばしい匂いが(ただよ)っている。

 またスープは白い色をしておりフェルーナさんに聞くところによるとシチューという物らしい。中には大きく切られた人参(にんじん)に、細かく切られた玉ねぎ、そして肉等様々な食材が入っていた。

 そしてサラダはレタスであった。これもみずみずしい様子を出しており美味(おい)しそうだ。


「「クリアーテ様の恵みに感謝して」」


 手を()んで(いの)り、いざ食べる。


 パンを食べ、シチューを木のスプーンで口に入れる。

 美味(おい)しい……。

 こんなの食べたことない。


 感動が収まらないまま、ソーセージとレタスを木のフォークで。

 ソーセージを()むとそこから肉汁が!

 (あふ)れだす感動を味わいながら、レタスに手を付ける。

 シャッキっという音がしたような気がする。

 かなり新鮮(しんせん)なレタスだ。

 野菜に関しては家でも新鮮な物を食べていた。

 (ゆえ)に、この鮮度(せんど)の高さに吃驚(びっくり)だ。


 更にソーセージとレタスを一緒に食べる。

 ソーセージのみでも美味(おい)しかったが、二つを合わせると味の調節(ちょうせつ)が出来これはこれで美味(びみ)である。


 食事の美味(おい)しさに感動(かんどう)しながら、ふと相方(あいかた)の方を向く。

 するとそこには俺と同じく感動(かんどう)しながら食べているケイロンがいた。

 

 食事の興奮冷めぬまま俺達は食事を終え、寝るために取っている部屋へ行った。


 ★


美味(おい)しかった……」

「本当にね」


 そう言いつつ俺は服を脱ぐために服の(すそ)に手をかける。


「わ……何するの?! 」

「え? 服を綺麗(きれい)にするんだけど? 」

「き、綺麗(きれい)にする? 」

「ああ……。そう言うケイロンはやらないのか? 」

「……どうやって? 」

「え? 魔法で」


 赤い顔をしているケイロンの黒い瞳を見つめ、パチクリと時間が止まる。

 ん? どういうことだ?

 ケイロンは何故(なぜ)服を綺麗(きれい)にしようとしないのだ?


「……洗うのかい? 洗ってしまったら明日どうするの? 」

「いや、だから洗浄(ウォッシュ)乾燥(ドライ)で服を洗って乾燥(かんそう)させて明日使うんじゃ? ついでに体も洗って……ってこうしないと逆にどうするの? 」

「まず普通は宿に頼むか、な。というか()け出し冒険者は服を洗ったりはしないと思うよ。お金の問題で」


 何ということだ……。

 俺は(ひざ)をつき、世間(せけん)との認識(にんしき)の違いに愕然(がくぜん)とする。

 家では(みんな)使ってたから普通かと思ってたが違うようだ。

 

「な、なら……俺も服を綺麗(きれい)にしない方がいいのか? 」

「いや、出来るのならやったほうがいいよ」


 そうか。

 片膝(かたひざ)ずつ起き上がらせ、ゆっくりと体を起こす。

 上げた顔の先には苦笑いのケイロンがいた。


洗浄(ウォッシュ)乾燥(ドライ)を使えるなら、それで店を開いたらいいんじゃないかな? 」

「いや、それは無理だ」


 (あん)に「無理して冒険者をやらなくても」と言っているケイロンに対し俺はすぐに否定する。


「確かにそうかもしれんが、店をやる程には魔力量が圧倒的に足りないんだ」

「そこまで使い勝手がいいものでもないんだね」 

「と、いうかケイロンは出来ないのか? 」

「あー、できないね……。僕も一応魔法は使えるけど初級だけだし、生活魔法は勉強すらしなかったし……。それに(ほとん)ど魔法よりか細剣(レイピア)を使う方が多いから……」

「なら俺がケイロンの分もやろうか? 」

「え?! いいよ! 悪いから! それに魔力量が少ないんでしょう? 」

「いやいや、流石に一回ずつ使ったからと言って魔力が枯渇(こかつ)程に少なくない。まかせろ! 」


 そう言い俺はケイロンに近付く。


「いいから、本当にいいから!!! 」

「まぁそういうなよ、相棒(あいぼう)


 後退(あとずさ)りしていくケイロンに近づく。


 ゴトン。

 ケイロンと壁の距離がゼロになった。

 そして彼の青いブレザーに手が()れようとした瞬間――


「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」


 ゴッ!!!


 俺は(あご)衝撃(しょうげき)を受けたと思うと意識は暗転(あんてん)した。

お読みいただきありがとうございます。

もしお気に召しましたらブックマークへの登録や下段にある★評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しく始めた異世界転生ものになります!
ハズレ枠の転生貧乏貴族は武姫を継承し最強へ至る
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ