第百三十一話 王都のアクアディア子爵家別荘へようこそ! 五
瞬く間にアクアディア子爵家にいる精霊達のおもちゃになってしまった俺。
体中を引っ張られ痛いが最早どうすることもできない。
思っていたよりも多いのだ。引き剥がせない。
『ねぇねぇ面白人間さん。ちょっといい話があるんだけど』
『そうそう。悪い話じゃないわ』
『むしろこの話を広めると一人信じてもらうごとに人間さんに金貨が一枚入ってくる仕組みよ』
『いや、それは犯罪だから』
『え? ちょ、裏切り!? 』
『ダメだよ、犯罪は……』
『犯罪に走る精霊を抑えるのも私達の役目』
『精霊ポリスウーメンとは私達の事よ』
「知らんがな。それに精霊に法律なんてあるのか? 」
『『『……』』』
「ないんかい! 」
途中から話を脱線させて漫才に走る精霊達。
人間よりも人間らしい……。と言うよりも人に見られない触れないことが多い彼女達は独自の文化を作っているのだろう。
きっとそうだ。
「で、話って? 」
『あ、聞いてくれる感じ? 』
『げへへへへ、お兄さんいい人』
『ちょ、ふうちゃんダメでしょここでふざけたら話がおじゃんになるかもしれないじゃない』
『ごめん、ごめん、そんなに怒らないでよ』
『全くもう! 』
『『『私達をお外に連れてって』』』
一人で外に出れば良いのでは?
★
「急な面会に応じていただきありがとうございます」
「我々としても友好国である『ビスト』の申し込みを拒否する理由などございません」
王城の一角で二人の王が対面で話していた。
それぞれが妻と息子や娘を伴い座っている。
そしてその周りには両国の護衛として武官が数名配置されていた。
一人はこの国の王で人族のカルボ三世、そして他方が獣王国『ビスト』の国王獅子獣人のカイゼル五世である。
「この度は我が国の警備が不甲斐ないせいでご迷惑を」
「それは言わぬ約束でしょう。警備と言うならば我々も甘かったことになります故」
二人は目を合わし、嘆息し疲れた表情をする。
幾らか話し終えた後にカイゼル五世が話を切り替えた。
「先日の我が娘、そして貴族子息子女の誘拐事件なのですが――
カルボ三世はついにこの話が来たと思いほんの一瞬顔に緊張が走る。
さてどう切り抜けるべきかと考えていると別の方向へ話が行った。
どのように報告がされていますか? 」
考えていた会話パターンからはずれ戸惑う。
てっきり賠償のような話になるのかと思っていたが違うようだ。
どういう意図だ? 何かこちらの情報を引き出すためか?
考えるも答えは出ない。
「ふむ。今日王都騎士団より報告書が上がってきた。それによると王都騎士団が少数精鋭で賊を討伐した、と報告が上がっているが……」
それを聞き大きく項垂れた獣王。
意図不明な問いに加えカイゼル五世のこの挙動に困惑するカルボ三世。
それと同時にカルボ三世にはカイゼル五世の娘であるリン・カイゼルのやはりと言うような表情が映った。
戸惑い隠せないまま首を下に向けているカイゼル五世にリンが耳打ちをしカルボ三世の方を向く。
「獣王カイゼル五世陛下の了解を得ましたが、この先私リン・カイゼルが説明させていただいてもよろしいでしょうか? 」
「構いませぬ」
「ありがとうございます。では単刀直入に言うと我々を救出したのはその者達——嘔吐騎士団、失礼王都騎士団ではございません」
「あのっ!!! 不忠ものがぁぁぁぁぁぁ!!! 」
彼女は一瞬、しかしわざとらしく言い間違えた。言い間違えにしては酷い言い間違えだ。しかしそれも耳に入らないほどに怒るカルボ三世。
しかし彼女の――攫われた当事者の言葉により予想していた妄想が事実になってしまった。
ドン! と机を叩き怒り狂う。
最悪なのはこれを国の者から報告が上がるのではなく他国の――それも王女からされた事だった。
幾ら友好国相手と言ってもあまり隙を見せるのはよくない。カルボ三世がキレるのも頷ける。
「父上、落ち着いてください」
「貴方、見苦しいですわよ」
息子と妻の言葉を聞き我に返るカルボ三世。
そして少し咳払いをしてリンに向き直る。
「見苦しいところをお見せした」
「いえ。構いません。それに父王も同じ状況ならば机を叩くに収まらず政務を放り出し殴り込みに行くでしょうし」
ふふ、と笑い冗談を言うリン。
彼女自身にその気があるのかは不明だが相手の不作法を自国の王ならもっと酷いと笑いを誘いバランスを取ろうとするそれは「侮れぬ」と感じさせ、カルボ三世とカイゼル五世の関係を知らない周りの者達を警戒させた。
「どのような者だったかお聞きしても? 」
「はい。そのために私が来たのですから。まず人数は五人。人族の男性と女性が一人ずつに龍人族——恐らく水龍人の女性とエルフ族とドワーフ族の女性が一人ずつでした」
ここまでくればもう仕方ないと思い直接聞くことに。
そして語られるアンデリック達の話。
彼女はまるで英雄譚を話すかのように顔を紅潮させながら身振り手振りを踏まえ熱弁。
話も佳境に入り強敵を倒したところで一段落した。
そこでエレク王子が情報をまとめ父王と共に考える。
「水龍人。ならばアクアディア子爵家の者でしょうか」
「ならばその人族の女性と言うのはドラグ伯爵家の『氷の女王』か」
「リーダーの男性……ああ、なるほど」
「エレク、知り合いですか? 」
「ええ、まぁ。確か最近貴族位を拝命したとか」
「早急に調べよう」
エレクの指摘によりカルボ三世が騎士に声をかける。
が、その段階である事に気付いた。
もしかしたらリンが何か情報を持っていないかと。
「リン王女殿下。不躾ながらお聞きしたいのですが何か特徴となる物はありませんでしたかな? 」
「そうですね。一瞬貴族章の短剣が見えました。詳しくは分からないのですが、何やら葉っぱの上に龍か蛇のようなものが鎮座しているような……」
と、首をコテっと傾け思い出そうとするリン。
それを聞きカルボ王国の面々は一同同じことを頭に浮かべる。
龍はアクアディア子爵家を指し葉は恐らく薬草でドラグ伯爵家を指すことを。
それと同時にカルボ三世は「アース公爵家の派閥か」と考え安堵した。これがもし、と思うと気が気でない。
彼が伝令の騎士に早急に該当する貴族家を調べるように指示を出し、彼は文官に伝えに行く。
騎士が扉を閉めると更にリンが口を開いた。
「虚偽の情報をあげた者達は如何するおつもりでしょうか? 」
「即刻財産没収の上、爵位返上させようと考えている」
それを聞き少し考える素振りをして青い瞳を王に向けた。
「それを少し待っていただけませんでしょうか? 」
「どういうことかな? 」
「我々獣人族は力を誇りにしております。それを蔑ろにされたも同然。偶然にも面白いことがありましたので、このような処分は如何でしょうか? 」
それは小さな女の子が考えるには、ある意味残酷な処罰の方法であった。
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