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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第四章 カルボ王国の激震 上 エレク第一王子誕生祭
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第百二十八話 王都のアクアディア子爵家別荘へようこそ! 二

 セレス達と別れた俺はレストさんに連れられ男風呂と言うところへ向かった。

 湯気(ゆげ)が立ち上る風呂の横に小屋(こや)のようなものを見つける。


「こちらで着替えるようになります」


 レストさんが先導(せんどう)し木でできた小屋(こや)(とびら)を開け俺に入るように(うなが)す。

 中は外から見たよりも広い。

 木の匂いがするが普通の木ではないのは明らかだ。


「木の匂いがいいですね」

「おお、これがおわかりに」

「これは今の大和皇国から直接取り()せた一級品らしいぜ。あんまお目にかかれるもんじゃねぇぞ? 」


 隣に来たガイさんがそう言いながら自慢(じまん)する。

 (ほこ)らしげな顔をしながら俺よりも前に行き服を脱ぎだした。


「ガイ、お客さんが先ですよ? なに先に入ろうとしているのですか」

「いいじゃねぇか。な! 」

「え、ええ」

「わかってるじゃねぇか」

「はぁ全くガイは。ささ、お早めにお着替えを」


 急に俺に話を振り同意を得る。

 いきなり声をかけられたせいか曖昧(あいまい)な返事になってしまった。

 が、気にする必要などなく一瞬にして風呂に入る準備が出来たようだ。

 俺も服を脱ぐとレストさんが木でできた(たな)に置いてある(かご)を持ってきて、入れるように指示をしてくる。


「こちらに入れておいてください。後程洗濯してお返ししますので」

「……そんなに早く(かわ)くのですか? 」

「大丈夫でございます。(かわ)くまでの(あいだ)()えの服をご用意いたしますので」


 レストさんがそう言いながら服を回収した。

 臭いがきついだろうに……。申し訳ありません! と心の中で謝りながらレストさんから風呂の方向へ顔を向けた。

 俺は――貴族出身者やお金持ちはやらないようだが――所謂(いわゆる)生活魔法で自分の服を綺麗(きれい)にしたり臭いを消したりすることが出来る。


 だが俺は今戦闘後で、しかも大量の魔力を消費し無理に体を動かしたせいか疲労感が(ひど)い。今生活魔法を使ったら確実に倒れるだろう。よって洗濯消臭のような諸々(もろもろ)の作業はアクアディア家の(みな)さんに任せることにした。


「行こうぜ! 」


 ガイさんがそう言いながら立派(りっぱ)尻尾(しっぽ)をフリフリしている。

 早く行きたいようだ。

 その様子に少し笑みをこぼし俺達は風呂へ入っていくのであった。


 ★


「気持ちいいな……」

「あ“あ”あ“あ”……」

「はしたないですわよ、ケイロン」

「エルベルほどじゃないよ」


 全員が彼女の方に(あきら)めた目線を向けた。

 

「うひょひょひょひょ! 精霊様がいっぱいだ!!! 」


 精霊が視える彼女は狂乱(きょうらん)しながらハイテンションでタイルの上を裸で(おど)っていた。

 視えない人からは彼女が何をしているのかはわからない。

 いつも付き合わされている種族の輪(サークル)のメンバーは恐らく手を伸ばした先に精霊がいるのだろうと(かん)づくが、一緒に入っている使用人達はドン引きの状態で彼女を見ている。


「あ、あの。お嬢様。あのお客様は一体……」

「ええ~っと。精霊(ぐる)いのエルフってところですわ」

「精霊(ぐる)い、ですか」

「タウ家(ゆかり)の人と言えばわかる? 」

「ヒィッ! タ、タウ家?! 」


 彼女達の反応でタウ家が余程(よほど)問題のある貴族家なことが分かったスミナ。

 が、同時に今の異常行動を見たらそれも仕方ないと思う。

 弁論(べんろん)余地(よち)もない。


「あ、お風呂は走らないでください!!! 」

「うひょー! 火の精霊様お待ちをー――!!! 」

『な、なにこいつ! 私達が視えてる?!』

『なんか目が怖い! 誰か助けて! 』

『まて。このエルフは触れないようだ。ここはじっと待って……』

素敵(すてき)な体ですね! 土の精霊様ぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」

『『『変態だぁぁぁぁぁ!!! 』


 精霊達が逃げまとう中、彼女らは隣の風呂へ通り抜け――


「へぶしっ!!! 」


 ギギギギギ、バタン!!!


 男湯と分けていた仕切(しき)りと共にエルベルがこけて倒れた。

 そしてその先には……。


 ★


「ふぅ……疲れが取れる」

(いや)されるぜぇ」

「いい湯ですねぇ。ほほほ」

「本当だな」

「「「……あれ??? 」」」


 レストさん指導(しどう)(もと)俺は体を洗いお風呂に浸かっていた。

 お湯につかるということがここまで気持ちいいとは。

 肩まで浸かると更に気持ちいいとの事だったので更に深く(しず)む。

 ああ……。(いや)される、と思っていながらレストさんとガイさんと共に浸かっていたらいきなり目の前に龍人族の男性が()かっていた。

 いつの()に、と思ったが今更だ。知らない(あいだ)に誰かに見られているなんていつもの事だ。恐らくこの家の諜報員(ちょうほういん)か何かだろう。気配の消し方からして。


「「だ、旦那様! 」」


 主人かよ!!!

 すぐに立とうとする従者(じゅうしゃ)二人を手で(せい)して止める。


「かまわない。少年は初めてだな。俺はコウだ。コウ・ドラゴニル・アクアディア子爵家当主。いつもうちの狂乱(きょうらん)娘が世話(せわ)になってるな! ハハ! 」

「は、初めまして! お、私はアンデリックと言います。先日騎士爵を拝命(はいめい)しアンデリック・セグを名乗(なの)らせていただいております! 娘さんにはいつもこちらがお世話(せわ)になっております!!! 」


 緊張しながらの挨拶(あいさつ)

 よくよく見るとセレスとは真逆(まぎゃく)な感じだ。

 発達(はったつ)した筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な体に巨大な()き通った青色の角。色からして水龍人だろうことがよくわかる。

 平常時のセレスを冷静沈着と取るなら熱血感(ねっけつかん)あふれる印象(いんしょう)を受けた。


「振り回されてばっかりじゃないか? 興味のままに行くからな、セレスティナは」

「それ以上に助けられています! 」

「否定はしないんだな、ハハハ!!! 」


 体つきとは逆にハンサムな顔で笑い俺の失礼ともとれる言葉を笑い飛ばす。

 肩まで伸ばした青い髪を湯舟(ゆぶね)外縁(えんがわ)()()めた岩に()らしながら豪快(ごうかい)に。

 そして金色の瞳がこちらに向いた。


(はぶ)くが……今回は大変だったな」

「ええ、全く。まさか古代神殿探索がこんな事態になるなんて思いませんでした」

「そりゃそうだ。もしそれが分かるのなら流石の俺だってセレスティナを西の森に行かせてねぇ」


 はぁ、と少々溜息(ためいき)をつきながら上を向き独り(ごと)のように口を開く。


(ひさ)しぶりの子だったもんで一族総出(そうで)で喜んだんだがな。甘やかしすぎたか……」

「いいえ、旦那様! これからですぞ! アンデリック様がおります」

「そうだな。色んな意味で期待しておこう! 」


 そう言うとこちらに顔を戻してニカッと笑った。

 何の? と言いたいところだが口を(つむ)いだ。

 聞いたら大変なことになりそうだからだ。一見(いっけん)すると筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)のハンサムダディだが権力の片鱗(へんりん)を見せているアクアディア子爵家の当主だ。(へん)言質(げんち)を取られないようにしないと。


「そういえば……」


 と、セレスパパが口を開こうとすると隣から(さわ)ぎ声が聞こえた。

 エルベルの声だ。

 それを聞き俺は顔を片手で(おお)項垂(うなだ)れる。


「なんだ? (さわ)ぎか? 」

「むむ、旦那様。もしもがあったらいけません。おさがりを」

「ご当主。俺が様子を見てきます」

「ちょ、お前、(こと)(じょう)じて可愛(かわい)いセレスティナちゃんの裸を見るつもりか?! 」

「何言っているんですか?! 違いますよ、外から声をかけてみるだけですよ」


 (へん)(かん)ぐる水龍人に一言入れ俺が仕切(しき)りの(ほう)へ行き何が起こっているのか確認しようとする。

 が、正面から意外な者——精霊が多数こっちにすり抜けてぶつかった。


「うわっ!!! 」


 ぶつかった衝撃(しょうげき)と驚きで飛び()ねて一歩後退(こうたい)する。


『あ、ごめん! ってあれ? 』

『もしかしてこの人も視えてる? 』

『今さっきぶつかってなかった?! 』

『え、本当だ! 触れる! 』


 俺の周りをぐるぐる回ったかと思うと次は体を触ったり髪を引っ()られた。

 い、痛い。地味(じみ)に痛い。


「何が起こってるんだ? 」

「さて。まさか精霊関係でしょうか? 」

「何人か精霊が俺の周りを、痛っ! ちょっ! 引っ()るな! 」

『なにこれ面白い! 』

『まさか大精霊の加護持ち! 』

『珍しい! 』


 俺の不思議な行動と(へん)な方向に動く髪の毛を信じられないと言った表情で見るアクアディア家の人達。

 振り払うように手を動かすが、その手も小さな手で(にぎ)って遊ぼうとする。


「やめっ……」

「へぶし!!! 」


 やめろと言おうとした瞬間エルベルの声と「ミシミシ」と言う嫌な音が聞こえてきた。


「おい、まさか……」


 どんどんと音が大きくなり――俺の脳天(のうてん)を直撃する。

 その先の桃源郷(とうげんきょう)を見ることなく俺は意識を手放したのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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新しく始めた異世界転生ものになります!
ハズレ枠の転生貧乏貴族は武姫を継承し最強へ至る
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