第百二十四話 古代神殿探索 四
開けた場所に出ると前には大きなクレア―テ様の像が立っていた。
じっくり見ると俺達の三倍ほどの大きさはある。
下には祭壇のようなものがあり後ろ側には何もない。
普通の教会ならば窓等があるのだが地下の為か単なる壁だ。
「……誰かいるぞ」
あまりにも夢と似すぎている背景に驚いているとスミナが口を開いた。
その声に反応し俺達はそれぞれ武器を構える。
ここは敵のアジト。首謀者がいてもおかしくない。
「ぼ、僕達は敵じゃありません」
声がする方向にセレスが光球を移動させると一人の犬獣人の男の子がいた。
だがかなり衰弱しているのか座ったままだ。
セレスが光球をその後ろに向かわせるとその他たくさんの人族や獣人族の子供達が集められていた。
旅服を着た子供から貴族服を着た子供等色々とそこにいる。
「子供? 」
「人攫いか?! 」
子供達の様子を見てセレスとスミナが驚く。
が、他の面々は違うことに警戒していた。
「デリク、他に気配は? 」
「今の所ない」
「ティナ。今はもう古代神殿探索どころじゃない。この子達を戻すよ」
「分かっていますわよ。そのくらいの分別はあります」
セレスが武器を降ろして渋々と言った感じで子供達に近寄り解放しようとするが――
キィン!
セレスの首を狙った剣を短剣で弾き飛ばした。
「「「なっ!!! 」」」
「スミナ構え直せ! 後ろだ! 」
その言葉と同時にスミナが大盾を構え少し遅れて盾と何かが衝突する音がした。
咄嗟に武技『攻撃誘導』を使ったのだろう。
他の攻撃も彼女に降りかかる。
ド! ド! ド!
魔法攻撃と盾がぶつかる音がしている。
くそっ! 気配が薄すぎて反応しなかった!
遅れをとったことに内心毒づきながらも光がする方をみると女性の声がしてきた。
「あらら、失敗しちゃった」
「こら。何初撃を潰されてるんですか」
「仕方ないじゃない。かなりの手練れなんだし」
「問題有。作戦がバレる」
「この人達、あちし達を潰しに来たの? 」
「ヤバ気? まさかこれてヤバ気? 」
この空洞の入り口部分から複数人の声が聞こえてくる。
聞いたことのある声だ。
「カルボ・ファイブ……」
「まさかあの音楽旅団が?! 」
ケイロンが呟きセレスが振り返り驚きの声を上げる。
その五人は入り口から更に中に入る。
すると全体が魔法の光で明るくなり彼女達の衣装を照した。
「ほらバレた」
「いや最初からバレてるでしょう? 」
「問題。どちらにしろ」
「ここで倒さないとまずいよね」
「倒すべきっしょ。手練れっつーても所詮国の奴らっしょ。よゆーよゆー」
彼女達はニヒルに笑いながらそう言った。
余程自信があるのか余裕で俺達を無視して話している。
こいつらがやはり誘拐犯か。
しかしどうやって戦うか全体を見渡し考える。
広さは……十分だな。
貴族章の短剣を腰にしていた鞘に戻し他方も、長剣に切り替える。
「最悪殺しても構わないな」
「そうだね。誘拐犯だ」
「まさかこの人達が誘拐犯だとは」
「いやもっといると考えていいだろ。この人数攫ってんだぜ? 」
「――」
驚くもすぐさま切り替え各々武器を構えて戦闘準備に入るとカルボ・ファイブがこちらに瞳を向けた。
すると何やら一人一人がポーズを決めていく。
「ふっふっふっ。悪を倒せと誰かが呼ぶ!」
「呼ばれ出てくるは正義の味方! 」
「今日も今日とて正義のお仕事、お仕事! 」
「悪が倒されるのが世の理」
「我ら五人! 正義の先兵にして」
「「「「カルボ・ファ――
ドゴン!!!
五人とも俺達の目の前で盛大に吹き飛んだ。
「「「ちょっ!!! 」」」
吹き飛んだ彼女達を放り出し俺は攻撃を放った方向をみる。
そこには精霊弓を構えたエルベルと魔導書を持ち冷酷な瞳で正面を見つめて言るセレスがいた。
「な、何したんだ?! 」
「「見ての通り、攻撃だ (です)」」
「いやそれは分かるけれどもっ! 」
「何であいつらに合わせないといけないんだ? 」
「全くもってエルベルさんの言う通りです。わざわざ自分達で隙を作ってくれているのですから攻撃しない方がおかしいですわよ? 」
「せめて口上くらい言わせてやれよ! あとちょっとだったろ?! 最後の締めくくりだったろ? 」
「最初は何をするのか分からなかったので警戒していましたがその必要がないと判断しましたので攻撃しました」
「変な口上だったな。オレの方が数百倍いい口上を述べれるぞ! 」
あくまで自分達は悪くないと言い張る二人。
言っていることは確かにそうなんだが例え誘拐犯であってもあれはかわいそうだ。
振り向き憐みの目線を向けようとするとそこにはカルボ・ファイブの姿はなかった。
良く見るとぎっちぎちに鉄の縄で拘束されて色々なところをまさぐられている女性の面々がいる。
カルボ・ファイブだ。
「ケイロンにスミナ、何してるんだ?! 」
「見ての通りだが? 」
「丁度良く吹き飛んで気絶したんだ。この隙に鉄の縄で拘束しただけだよ。いやぁそれにしてもスミナはいい仕事するね」
「はは、そうか。これは新製品だ。試作品だったから試運転に丁度いい」
「……それと今の行動が結びつかないんだが? 」
顔を横にずらしながらちょっと彼女達をみた。
カルボ・ファイブの面々は今、服を脱がされあられもない姿になっている。
俺がセレスやエルベルと話している間に脱がせたのだろうが、どうしてそのような行為に走ったのかが分からない。
「彼女達はこの前かなり短い魔杖を持ってたからなにがあるかわからない。全部脱がして武器を隠し持ってないか確認しているんだよ」
「そんなもんもあんのか? お、これは毒か? あぶねぇな」
「見て。口の中にこんなものまで隠してる」
「これ魔力を放ってるな。差し詰め魔力の底上げでもして戦う予定だったんだろうよ」
様々なところに手を入れ武器や毒のような物を抜き出していく。
正直、どっちが悪役かわからない。
後ろにいる子供達の教育に悪そうだ。
そう思いふと後ろを見ると男子達は少し興奮気味にその様子を見ていた。
逆に彼らを見ていた女子達はその男子達を冷たい目線で見ている。
この中に婚約者同士がいない事を祈るばかりだ。
「「終わったよ (ぜ)」」
まさぐっていた二人は役目を終えたのか彼女達に布を被せて横に置いた。
男子達からは落胆の溜息が聞こえたが、無視だ。
この先の方針を決めないと。
「皆、一旦ここから出るよ」
「私達助かるのですか?! 」
「ああ。一先ず外に出てまずは国に話そう」
「貴方のお名前をお聞かせ――」
「おりゃ? なんでカルボ・ファイブじゃねぇ奴がいるんだ? 」
また入り口から声が聞こえてきた。
子供達から目を離し声の方を見ると脂ぎった男と共に屈強な者が大勢入ってくる。
俺達の戦いはまだまだこれからのようだ。




