第百十七話 お忍び貴族と遊ぼう! 一
あれから数日俺達は薬草摘みに討伐依頼と様々な依頼を受けて回った。
セレスとの連携を良くするためである。
ある時一匹のシルバー・ウルフが後衛を横から襲撃したがセレスの拳に倒れた。
なるほど。力が強いということはこういうことか、と思うと同時に頭蓋を殴り砕かれた無残なシルバー・ウルフを見て彼女を怒らせるような行動は控えようと心に誓った。
同時に法律やマナーの勉強もしている。
ケイロンとセレスのつきっきりの訓練は冒険者ギルドの依頼よりも厳しかった。
文字の読み書き、数字の計算が出来るだけの元村人にこれらは重い。
まだまだ修得には時間がかかりそうである。
ともかく詰め込み過ぎも良くないと力説して今日はお休みにしてもらった。
体調管理は冒険者にとって必要なことだ。
決して逃げではない。
「今日も賑わってますね」
「ああ、賑わっているな」
「すっごいねー。誕生祭の時だけとはいえこの賑わいは! 」
今俺達は商業区を出て中央広場に向かおうとしていた。
俺は前に買った上下の黒いスーツに白いシャツ、ケイロンは黒いパンツに白いシャツそして青いブレザーで、セレスは赤いミニスカに白い半袖シャツと軽めの黒い羽織を被せていた。
ケイロンはいつも通りだがセレスのこの服装は初めて見る。
イメージとはかけ離れていて少し新鮮だ。だがとても似合っていると思う。
少々胸元がはだけてそれが強調されているのだが着やせするタイプだったのだろう。人よりかは大きい。
「なんでしょうか。今とても馬鹿にされたような気がしたのですが」
「お、あれはどこの国の人だろう? 」
「他よりも少し厚手の服だね。雪国『スノウウェル』かな。もふもふしてそうだね」
「時々みるあの頭を被った人達は? 」
「砂漠の国『サンドラー』でしょう。あまり詳しくはありませんが火の精霊が多く住み通常の作物が育たないとか。馬も我々のとは違い何やら面妖な馬を使うらしいですね」
「あっちの剣士はなんだ? 見たことない服装だが……」
「多分僕達の国を幾つか向こうに行ったところにあるという『大和皇国』と言う国じゃないかな? 確か最近指導者が変わったらしいから王城に挨拶に来ているかもね」
商業区から広場に向かう。
王子誕生祭が近づくにつれて人の数が増えていた。
加えてそれに応じるかのように入ってくる人の出身地も多様になっている。
ケイロンとセレスのお勉強によりこの国以外の国を多く学んだ。
まぁ勉強を始めてまだ数日なので当たり障りのない事ばかりだが。
しかしそのおかげで王都にいる人達の特徴的な服装に目が行くことに。
こうして実地のお勉強ということだ。
休憩だったはずなのだが。
「おっとごめんね」
「あ、こちらこそすみませ……ん」
下を向き考えながら歩いていると誰かにぶつかった。
すぐさま謝ったのだが……どう見てもお忍び貴族だ。
いや、この場合は貴族子息か?
茶色く真新しい外套の縁に金糸が入っている。
そして外套の頭を覆っていた部分がはらりと取れた。
「本当にすまないね。ボクが周りに目を取られていたからぶつかっちゃって」
「いえ。こちらこそ申し訳ない。少し考え事をしていて注意が散漫だった」
少し高めの声にすらりとした体型。短めの金髪に青と赤のオッドアイを持つ人。中性よりも少し男性よりの顔をしている。
男性……だよな。
ケイロンの事を思い出す。彼女を長らく男性と勘違いしていた。あの時のミスはしまいと考え、再度見る。
うん。男性だ。
「ボクはエカ。君は? 」
「俺はアンデリックだ」
「そうアンデリック君、か。見たことないけどどこかで会った事あるかな? 多分君は……ボクと同じでしょ? 」
エカと名乗った少年貴族は俺の事を聞いて来た。
すぐに否定しようとしたがよく考えると俺はこの前貴族の仲間入りになったばかりだ。
そう思うと同じと言われても否定できない。
うう“……まさか自分が言われる立場になるとは。
「ま、まぁそんなところかな。実の所この前仲間入りしたところで現実味がないけど」
「なるほどね。それで見覚えがないわけだ」
「エカ君は同年代の貴族子息子女を覚えているのかい? 」
「ボクのことはエカでいいよ。後普通に話してくれてもいい。で、さっきの質問だけど、そうだね大体は覚えているね。だけどアンデリック君みたいに一度も顔を見たことがない人は流石に分からないかな。ハハハ」
そう言い少し苦笑いするエカ。
ちくしょう……これがイケメンと言うやつか。
笑顔が眩しい。光って見える。
しかし大体覚えているとはすごいな。俺なんてケイロンとセレスのしごきについて行くだけで精一杯で貴族の名前を覚えるところまで頭が回らないのに。
ん? 何かエカが手振り身振りで何かしている。
何してるんだ? 後ろ?
「ケイロンとセレスはエカと知り合いなのか? 」
「え、ええ……。まぁ」
「そ、そう、だね。知っている。そう知ってるね」
俺は振り向き二人に聞く。
するとどこかしどろもどろになりながら俺の質問に答えるケイロンとセレス。
そうか。知り合いか。少しもやっとする。
が、これがイケメンパワーかっ!!! 顔が良かったら覚えもいいってかっ!!!
「どうしたんだいアンデリック君。顔が面白くなってるよ」
「……何でもないよ」
笑う顔も憎めない程にいい顔をしやがる。
エカは本当に男性か?
いや、俺の観察眼を信じろ! 彼は男だ……と思う。
しかし……。
「で、エカは何しに中央広場に? 」
「これから商業区の方へ買い物にね。アンデリック君も同じじゃないの? 」
「俺は息抜きに外に出ただけだからな。特に行き先は決めてなかったよ」
「なら一緒に行かないかい? 」
「いいのか? 俺達が一緒なら抜け出した意味がなくなるんじゃないのか? 大人数で移動すると多分思っている以上に目立つと思うぞ? 」
「いいの、いいの。少し遊ぶだけだから。楽しんだらすぐに帰るよ。まぁまた来るけど」
「抜け出すこと前提かよ……」
「「……」」
「「ハハハ」」
抜け出すことを前提に話すエカに笑いをこらえれず笑ってしまった。
声が重なり更に腹が痛くなる。
抜け出す前提なら抜け出せれる自信があるのだろう。
従者の人も大変だろうに。
今頃大騒ぎになってるんじゃないのか?
「じゃ、行こう! 」
「行くか」
まぁ細かい事はいいかと思いつつ俺はエカに先導されケイロンとセレスのを引き連れて商業区へ戻るのであった。
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