第百十三話 変わったこと、変わらなかったこと
宿に戻った俺達は疲れた表情で人数分の銀色に光るバッチを見た。
帰る時馬車の中で本物のガドリアさんが俺達に渡してくれた。
なんでもこれを出せばアース公爵家が後ろ盾になっているのが分かるとの事。
何て厄介な。
煌びやかな馬車で宿に帰るとやはりと言うべきか注目を浴びてしまった。
それもそうだろう。そこらで通るような馬車じゃない。
彼らは失礼とは思いつつも物見客が集まっていた。
これ以上の注目を浴びたくないので俺達はすぐに中へ入り俺の部屋に引きこもることに。
「……返してぇ」
「それは無理ですわ」
「キラキラして綺麗じゃないか! 」
溜息混じりに呟くとセレスがツッコミエルベルが純粋な感想を言った。
窓の方へ銀バッチをかざしてその輝きを楽しんでいる。
俺もあそこまで楽観的だったら悩まずに済むのに。
「それにしても大きなアイテムバックだね」
「ああ。しかも全部で三つか。いや小さいのを合わせて五つか」
「僕達の人数に合わせてくれたのかな? 」
「にしては小袋が少ない気がするが? 」
「分散させて持つんだよ。もし何か不測の事態でバラバラになった時に大変でしょ? 」
「確かに。ならこれは……」
ケイロンの指摘を受け俺は手に持つ大袋と小袋を一つずつスミナに渡した。
「え? ワタシか? 」
「ケイロンとセレスは自分のを持っている。エルベルに渡すのは不安が残る。残った俺達の中で頼りになるのはスミナしかいない」
「そ、そうか。頼りになるか。分かった。引き受けた」
俺から袋を二つ受け取り小さな方に大きな方を入れて腰につけた。
早速露店で買った物を出し入れして性能をチェックしている。
大丈夫なようだ。きちんと出たり入ったりしている。スミナの顔も満足そうだ。
「あの時の雰囲気で僕達が士官を断っちゃったけど大丈夫だったかな? 」
「助かったよ。元より騎士なんてする気はなかったから」
少し心配そうにこちらを見上げるケイロンに大丈夫だと伝える。
安定した収入を得ることが出来るだろうがそれ以上に面倒事が多そうだ。
公爵家の門番をみて良く分かった。
そう言えば……。
「にしても公爵家の門番に左遷って言ってたけど門番は左遷先なのか? 」
「多分一般の憲兵扱いみたいになったんじゃないかな? 」
「どういうこと? 」
「この国では憲兵と騎士の大きな違いは爵位を持つかどうかになります」
「そ。一番わかりやすいのが国軍だね。騎士爵を持つ人達が王国騎士団や王国魔法士団に爵位を持たない人が兵団所属になるんだ」
「話にある門番は恐らく爵位剥奪の後罰金に加え一般兵に落とされたのちに門番となったのでしょう。表向きは子女を守り切れなかったという理由で」
二人が交互に解説してくれそれを吟味する。
つまり爵位の有無で騎士になるか憲兵のような一般兵になるか分かれるってことか。
カーター様が「普通は職を探す」と言っていたのは一般兵と騎士の扱いに大きな違いがあるからだろう。
冒険者でも騎士爵を持った人はそれに漏れず騎士になる人が多いのかな。
成り行きとは言え俺も爵位を持ってしまった。
ん? 爵位?
「……爵位を持ってしまったということはもしかして王子様の誕生パーティーに出ないといけない? 」
「いや騎士爵は大丈夫だったと思うよ」
「ええ。国内の騎士爵保有者を集めていたら領主不在時の領地防衛がままなりませんし」
そうか。
よかった……。ならマナーは当分大丈夫か。
「何言ってるの? 僕達がいるんだよ? 」
「マナーはお任せください。みっちり仕込みますので」
俺は顔を強張らせながら迫りくる二人に恐怖しながら後退るのであった。
★
「種族の輪としてはどうする? と言うか二人はパーティーの準備をしないといけないんじゃないか? 」
「まだまだ時間に余裕があります」
「大丈夫だよ」
本当か? と訝しめに疑いの目を向ける。
午後も夕食に近くなった頃、俺達は王都での活動について話し合っていた。
もっともケイロンとセレスは途中から誕生パーティーに出ないといけないので一時的に抜けるが。
「一先ずはセレスが入っての連携の確認だな」
「お任せを! 主にアンデリックの観察は! 」
「しなくていい!!! 」
「後は? 」
「そうだな……」
「それならば少し考えがあります」
王都滞在期間は大体王子様誕生祭が終わった頃くらいまでだ。
もう少しいたい気持ちもあるけれど一旦バジルに戻って軽く仕事をこなしたい。
バジルには護衛依頼が多いから俺達のランクアップにはもってこいなのだ。
王都冒険者ギルドでやってもいいんだがガルムさんの師匠ことケリーさんに目を付けられてしまった。
いつ講習と偽り気を失うまでボコボコにされるかもわからない。
これは決して逃げではない。
そう。ランクアップの為にバジルに帰るだけだ。
そう考えつつ話し合っているとセレスが声を上げた。なんだろうか。
「実は以前に買った【世界の古代神殿図鑑】にこの王都カルボが記載されていたのです」
「「「え?! 」」」
「まぁこういった書物にはガセが多くあてにならない事も多々あるのですが、少し興味深かったのでそこに行ってみたいのです」
「古代神殿か……」
「でもそんな場所あったかな? 」
「王都近郊でしたので立ち寄るくらいなら、と」
「面白そうだな! お宝とかあるのか?! 」
「王都にあるんならないだろうよ」
「ま、何にせよセレスと連携の訓練をした後だな」
そう締めくくり今日の所は解散するのであった。
★
「父上。あれでよろしかったのでしょうか? 」
「ああ、構わん。と言うよりもジルコニフ、お前は甘すぎるわい!!! 」
アース公爵邸の一室。
そこには先代公爵カーターと現当主ジルコニフが顔を合わせていた。
心配そうなジルコニフとは相対的にカーターは物足りないと言った感じだ。
「大体この国じゃわしらの方が上じゃぞ?! それを何ビビってんだ」
「そう言われましても『戦時の英雄』に加えてあのアクアディアですよ? 下手をすると外交問題で」
「この国の貴族として、この国に住んでるんじゃ。下手に下手に出ればそれこそ外交上こちらが不利になる! 」
そう言い終わると溜息をつき置いてある水を少し飲み口を潤す。
「それにしてもドラグ家とアクアディア家のお眼鏡にかなった少年か」
「爵位を与えてどうするおつもりで? 」
「特に何も、じゃ。冒険者として活躍しているようだが、それだけじゃないじゃろう」
「そうですね。それだけならこの二家が目を付けるはずがありません」
「ま、これからの更なる活躍に期待といった所じゃな」
意味ありげな瞳をしてにやりと笑うカーターと疲れた表情のジルコニフ。
話は深夜まで続く。まだまだやることは多いのだ。
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これで三章は終了となります。
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