第百七話 王都での活動 二
「おいおい、おめぇはこの前美人を侍らせた色男じゃねぇか!!! 」
「……誰だ? 」
「さぁ? スミナ知り合い? 」
「いや、俺にこんな粗暴な知り合いはいないな」
依頼も終え明日の依頼をどうしようか、椅子に座り考えているとこちらに向かって大きな声を上げながら接近する影があった。
その方向を見ると獣人族の大男や人族の男が複数やってきてにやにやしていちゃもんを付けている。
「この前の綺麗なねぇちゃんを少しよこしな! なら痛い目を見ずに済むぜ? 」
「「「ゲハハハハハ!!! 」」」
ガラが悪い冒険者がいるのは知っていたが、酷いな。
見るに堪えない、聞くに堪えないとはこの事だろう。
それを冷ややかに俺達は見る。
が、少し様子がおかしい事に気が付く。
「おいおい優男。ビビってんのか?! いいぜぇ! そのビビりよう」
「だが安心しな。あのねぇちゃん達を寄越せばお前にはなにもしねぇ」
男達はそういうがやはりおかしい。
……目が俺でなくケイロンの方を向いている。
これってもしかして。
「僕は……女だけど? 」
「「「……は??? 」」」
彼らが一瞬固まった。
顔も体も硬直状態だ。周りの冒険者達は笑うのを抑えている。
それはそうだろう。美男子が美女を引き連れていると思ったら女性だったんだから。
「え? ならそっちの冴えないクソガキが美女を連れてんのか? 」
「ありえねぇだろ! いやこいつが言っていることが嘘ということも」
「そうだ。嘘に決まってる! あんな取り柄のなさそうで貧弱な男が美女を囲う?! ありえねぇ! 」
貧弱とは何だ貧弱とは! 平均的だ!
目線で猛烈に訴えるも向こうも動揺が激しく気付いていない。
そして両肩をポンと後ろから叩かれる感じがした。
振り返るとそこにはいつの間にか立ったスミナとケイロンが。
「「……ドンマイ! 」」
「ドンマイじゃねぇよ! 」
親指を立て「気にするな」という二人に激しく突っ込んだ。
俺達がやりとりをしている間に向こうもおちついたようだ。
こちらを再度向き直し言い直す。
「ま、まぁいい。むしろ好都合だ。女ってんなら俺達の……「「「やぁぁぁめぇぇぇろぉぉぉぉぉ!!! 」」」……」
笑いをこらえている集団とは別の冒険者集団がいきなり割り込んできた。
な、なんだ!
数人……いや数十人集まって奴らを囲んでいる?!
彼らは一体……。
「氷の女王に手を出すな! 」
「俺達にまで被害を出すつもりか! 」
「貴方達いい加減にしてよね! 死ぬどころじゃすまないわよ!!! 」
「お願いだ。引いてくれ! 頼むから引いてくれ! ここでお前達が引かないなら……俺達が相手する! 」
若い冒険者が中心となって彼らを止めようとしている。
その様子に笑いをこらえていた人達も事情が分からない様子だ。
正直俺もわからない。
また氷の女王関係か。本当に学園の頃何をしたんだ?
死ぬどころじゃすまないって一体……。
ゆるりゆるりと顔を後ろに向けケイロンの顔を伺う。
様々な感情が入り混じり形容しがたい表情になっていた。
せっかくの綺麗な顔が台無しだ。
そしてその隣にいるスミナに小声で話す。
「いいかスミナ。悪名が広がるとこうなるんだぞ」
「あ……あぁ。これは嫌だな。正直エルベルを運べと言われた時は嫌々だったがこれを見ると正解だったように思える」
俺は更にスミナに声をかけケイロンを励ますことに。
「「……ドンマイ! 」」
「ドンマイじゃないよ! 」
こちらに振り向きそう怒る。
が、若干涙目だ。
さて、とケイロンの肩から手を離し再度彼らを見るとチャラい集団に過激集団が魔杖や剣を向け始めていた。
「お前達! 何をしてい……本当に何をしている? 」
騒ぎを聞きつけたのかギルドの職員と思しき人が二階から声を上げた。
だが状況に困惑している。
何が起こっているのか確認するためだろう、二階からカツンカツンと靴の音を鳴らしながら半螺旋状階段を降りてきた。
「これはどういう状況だ? いつもは大人しいお前達が……」
「こ、こいつらが氷の……ヒィ! 」
「俺達は何もしてねぇ! まだ何もしてねぇ! 」
「そうだ! 冤罪だ! 」
「……君達は少々問題行動が目に余る。ちょっと来なさい」
「俺達は悪くねぇ! 」
「ナンパの何が悪い! 」
「あ、こら! おめぇ! 」
「……すまねぇ」
額に角を持った魔族とらしき男性が問いただすと止めに入った冒険者が答えようとするが詰まる。
その隙にナンパ男達が抗議した。
少し考えると職員は彼らの腕を取りナンパ男達が連れて行く。
一部逃げようとするチャラい冒険者を魔法——麻痺——で足止めをしてどんどんと他の職員が開けた他の部屋に投げていた。
その流れるような作業に見惚れているとふと気づく。
「あ、あの人達は……」
仲介に入った冒険者達がいた場所に目を向けると――そこには誰もいなかった。
「逃げたか……」
「誰から逃げたのかな? かな? 」
俺の横にきて暴漢達を見ていたケイロンがそう呟く。
こ、こえー!!!
その冷たい声と眼差しに戦慄を覚えた。
そうか。これが氷の女王か。
「デリク。今変なことを考えていなかった? 」
「ソ、ソンナコト、ナイデスヨー」
さっ! と目を逸らし否定する。
下からのぞき込んでくるその冷たい瞳が恐ろしいなんて言えない!
まだ生きていたいもの。
「はぁ。仲介に入ってくれるのはいいけどもう少し穏便にして欲しいよね」
「どの道騒ぎになってただろうからなんとも」
「穏便にしてくれないと僕の黒歴史が広まっちゃうじゃないか……」
だから何なんだよ! その黒歴史は! むしろ気になるよ!
そう心で思いながらも口に出さず顔に出さずに再度依頼ボードの前に行く。
まだ依頼は残っているようだが今日はやめておこう。
依頼ボードの前には他に冒険者がいなかったので一応隅々まで見る。
すると端の方に興味深いものを見つけた。
「【初心者訓練】? なんだこりゃ? 」
「へぇ。王都の冒険者ギルドにはこんなものがあるんだ」
「見たことねぇな」
「これはその名の通り入りたての人が受ける訓練のような物です! 」
突然後ろからアルビナの声がした。
少し驚き体をビクッと震わせ後ろを見ると上司を伴ったアルビナがいた。
「お前さん達はバジルからやってきたのか? 」
「ええ。そうですが……」
「あ~なるほど。最近まで腐ってたからな。これがあるのを知らねぇのも仕方ねぇ」
頭をポリポリ搔きながらバツの悪そうな顔をして説明する。
「一応制度としてはどの冒険者ギルド支部にもあるんだ。本来ならこれを受けてから依頼に出るんだが……その様子だとなかったみたいだな」
「もしくはあっても見せなかったかもですね」
「ま、そういうことで本来は――希望者のみになるが――皆が通る道だ。Dランクまで上がってるならやる必要はないかもしれんが……やってみるか? 」
厳つい顔で言われ、考える。
『銀狼』を出てから訓練をしてなかったしな。
やってみてもいい気がするが……。
ケイロンとスミナの方を向くと頷いた。
「ではやってみます」
「おう。任せとけ! 」
「任せとけ? 」
「俺が――担当だ!!! 」
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