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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第三章 バジルの出会いと王都の出会い
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第百五話 一日目終了

 セレスが雑貨屋の商品を貴族買いした後、ルータリアさん先導(せんどう)(もと)、レストさんがやってきた。

 挨拶(あいさつ)もほどほどにレストさんが大袋(アイテムバック)を取り出して商品を()め込む。

 すると店の中の物は何もなかったかのようになくなり閑散(かんさん)とした。


 買い物も()んだということでお婆さんと(わか)れを()げ俺達は次の場所へ。

 レストさんとルータリアさんはいつの()にか見えなくなっていた。本当にいつの()に?


 次の場所に行くと言ってもどこに行けばいいのか分からない。

 もう(ほとん)ど買い物が()んだようなものだからな。


「ケイロン。どこか()りたい場所はある? 」

「ん~ぱっとみて何も思いつかないな」


 まだ何も買っていないケイロンと俺が市場(いちば)散策(さんさく)していた。

 セレスは「これから本を読み(あさ)ります」といいエルベルとスミナもそれに続いた。

 何でもセレスが買った雑貨の中に精霊に関する本や有名(ゆうめい)細工師(さいくし)が作った物があったらしい。それを()してもいいということで二人共宿に戻った。


「あ! あれ見て! 」


 露店(ろてん)が作る道を行くとケイロンが声を上げ指を指した。

 その方向を見ると一つの色とりどりの大きな天幕(てんまく)()られており多くの人が(さわ)いでいる。


「何だろう? 行ってみようよ! 」

「ああ、行ってみるか」


 ケイロンの言葉に乗っかかり俺は人だかりができている方へ向かった。


 ★


 商業区を中心にしてみると北西の方向に王城が西の方向に中央広場(ちゅうおうひろば)がある。

 中央広場を更に西に行くと貴族街があるのだがそれとは反対側、つまり商業区を東に()き進むと市場(いちば)や小さな広場(ひろば)がいくつもある。さらに行くとバジルの町へ(つな)がる東門に行くのだが今回はそれよりも少し冒険者ギルドに近い方向——南の方向へ行っていた。

 

 そしてそこで行われていたのは……。


「凄い、凄い! あれ見て! なんで浮いてるんだろ! 」

「熊が浮いているだと?! 」

「水がまるで生きてるように動いてるね! 」

「魔法か? だがあそこまで繊細(せんさい)な魔力操作……一体だれが……」


 俺とケイロンがその集団を遠目(とうめ)で見ると(ちゅう)に浮いて水芸(みずげい)をしている熊を見た。

 まぁ本当に熊が水芸(みずげい)をするわけでもないので恐らく着ぐるみか何かだろう。


 多くの人が集まっているせいか俺達は(ちゅう)に浮いている熊しか見えないが地上でも何かしらすごい事が起こっているようだ。

 前の方から絶叫(ぜっきょう)に近い熱狂(ねっきょう)的な歓声(かんせい)が聞こえる。


「何をやっているんだろ? 」

「分からない。だが多分熊よりもすごい事なんだろうな」


 純粋(じゅんすい)にすごいと思いながらも(ちゅう)を浮く熊を見ていたら更に歓声(かんせい)が上がる。


「水が……龍に!!! 」

「……なんだろう。分かった気がする」

「我々は水龍サーカス団でございます。(みな)さん! 是非(ぜひ)アクアディア! アース公爵領アクアディアでお会いしましょう!!! 」


 やっぱりか。それにしてもこの声どこかで聞いたことあるな……。

 遠い目をしている俺の顔を不審(ふしん)に思ったのかケイロンが黒い瞳を下から(のぞ)かせた。


「どうしたの? 」

「いや。今この瞬間、(ゆめ)から()めた気がしただけだ」


 ふ~ん、と言いながらケイロンはまた前を向き次の演目(えんもく)を待ち遠しいようにキラキラした目で見る。

 気付(きづ)かないのか?! ケイロン! 多分この中で一番彼らの事を知っているのはお前だぞ?!

 だがキラキラした瞳を見ると正体についていうわけにもいかず俺も前を向く。


 空中に「アクアディアでお会いしましょう」と書かれた色付(いろつ)きの水を戻して本当に終わったことを(しめ)す水龍サーカス団。

 もしかしたら次があるかもしれないと思って終わったのに残っている群衆(ぐんしゅう)

 時間が()つにつれて完全に今日の演目(えんもく)が終わったのが分かったのだろう。徐々(じょじょ)に人だかりが解散(かいさん)していった。

 だがその顔には興奮が残っていた。


「凄かったな! 」

「ええ。王都でまさかアクアディアから出ないと(うわさ)されてた水龍サーカス団を見れるなんて」

「今年は運がいい」

「本当だ。音楽旅団もいることだしな」

「早く音楽旅団も演奏(えんそう)始まらないかな~」


 そんな彼らが横を通りながら俺達も足を商業区へ向ける。

 群衆(ぐんしゅう)に飲まれたらいけないので俺とケイロンは少し横にずれて彼らが()るのを待つ。

 すると同じように考えたのか一人の耳の長い人——エルフが横に来た。


「……いいものを見ることが出来ましたが、この人混(ひとご)みの移動は災難(さいなん)でしたね」

「ええ」


 いきなり声をかけられ吃驚(びっくり)し、そっけない返しになってしまった。

 ケイロンも自然と声をかけてきたその人に驚いたのか声が出ない様子だ。

 だがそれも(つか)()、ケイロンは彼が持っている道具を見た。


「ハーブ? 吟遊詩人(ぎんゆうしじん)ですか? 」

「ええ。しかしお客さんは水龍サーカス団に取られてしまいましたがね」


 苦笑(にがわら)いをしながら一つポロンと小型の湾曲(わんきょく)した道具に手をかけて(かな)でた。

 ふわりと風が()くと帽子(ぼうし)についてある大きな鳥の羽が()れる。

 自然と音だけが流れてそれに合わせるかのように少年は口を開いた。


近々(ちかぢか)王都で良くないことが起こりそうです。予感、予感。嫌な予感。逃げるも一手、(あらが)うも一手。はたまた巡り合わせで違う未来も。貴方にクレア―テ様の(みちび)きがございますように」


 そう言いエルフの少年はどこか消えるように行ってしまった。


「何だったんだろう」

「さぁ……。何か不吉なことを言ってたが。これから何かするつもりか? 」

「犯罪者……には見えないね。何より堂々(どうどう)としすぎている」

「結局何が言いたかったんだ? 」

「分からない。ま、一旦(いったん)戻ろう」


 俺達が移動する(ころ)には人の(なみ)はなくなっていた。


 ★


 水龍サーカス団天幕(てんまく)の中。


「ふぅ今日もお疲れ様でした!」

「「「お疲れ様でした!!!」」」


 そこには色々な種族の人達がいた。

 顔料(がんりょう)で顔を()めた赤と白の服のエルフ族に熊の着ぐるみを首から上だけのけている龍人族。


「今回の王子殿下(でんか)誕生祭(たんじょうさい)()に合うかと冷や冷やだったが、()に合って何よりだ」

「そうですね、隊長! 」


 隊長と呼ばれた獣人——ガイは腕で汗を(ぬぐ)簡易的(かんいてき)な椅子に座る。

 今日は彼は土を使った(げい)披露(ひろう)していた。

 だから体中が土塗(つちまみ)れだった。


「あ、あの~私出来てましたでしょうか? 」

「完璧だ! これからもよろしく頼むぜ!」


 不安(ふあん)げに口を開いたのは龍人としては年若(としわか)い――それでも百歳を超えている――女性だった。

 彼女の首から下は熊の着ぐるみだ。

 つまり浮いていた熊というのは彼女ということになる。


「俺達の副業も時には役に立ちますね」

「ああ、(かせ)げるし万々歳(ばんばんざい)だ」

「これから王都や他の領地でもやりませんか? 」

(まれ)にやってるだろ? 」

「それ以外にですよ。この(かせ)ぎですよ。もっと(もう)けれるじゃないですか」


 そう言い猫獣人の女性が(ふくろ)をゆさゆさと()さぶり鳴らす。

 が、それを他の団員が否定した。


「アクアディアでの仕事に()(つか)える。無理だな」

「副業は副業ってことですね」

「ま、副業が認められているだけでもありがてぇ」

「きついですがね」

「「「ははは」」」


 こうして彼らは天幕(てんまく)(たた)みアクアディア家の別荘(べっそう)へ人知れず帰って行くのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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新しく始めた異世界転生ものになります!
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