表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第三章 バジルの出会いと王都の出会い
118/442

第百一話 アース公爵家

 早めに先代アース公爵様に会いに行った方がいいということで俺とケイロンは翌日朝食をとって宿を出た。

 スミナとエルベルはお留守番(るすばん)である。

 喧嘩(けんか)して他のお客さんに迷惑をかけないか心配だが仕方ない。

 今回のご指名(しめい)は俺とケイロンなんだ。他の人を()れて行くわけにはいかない。

 特にエルベルがやらかすと思うと気が気でない。


 一抹(いちまつ)の不安を(かか)えながら俺達は整備(せいび)された道を行くことに。


(すご)い人だな。誕生日の(たび)にこの(さわ)ぎなのか? 」

「そうだよ。更に言うと王様——カルボ三世陛下の誕生祭(たんじょうさい)とかもこんな感じかな。でもいつもより少し多い気がするね」

「一体一年に何回誕生祭(たんじょうさい)があるんだ……」


 ははは、と苦笑(にがわら)いしているケイロンと共に道を行く。

 俺達がとった宿はバジルの町で言うところの商業区にあったようだ。

 宿を出てからすぐに店が立ち並んでいる。

 そしてそこにはいつもの人達が。


「……(しの)べてねぇ」

「うう」


 そう(しの)べていないお(しの)び貴族がいっぱいいた。

 お(しの)び貴族が店で物を買いホクホク顔で品物(しなもの)を受け取ったり屋台やたいで食べ物を買い食いしている。

 そしてその周囲には彼らを見守(みまも)従者(じゅうしゃ)達が。

 もちろん従者(じゅうしゃ)達も(しの)べていいない。


「ねぇ。僕もあんな感じ、だったの? 」

「ああ、ほぼあんな感じだな」


 それを聞き顔を赤くするケイロン。

 ま、気持ちは分からんでもない。あれは()ずかしい。

 自分はバレていないと思っているのにバレバレな感じ。

 そして周りの大人な対応(たいおう)がそれに拍車(はくしゃ)をかけている。

 ()ずかしい以外の何物(なにもの)でもない。


「あら、ケイロンでは? 」


 顔を赤らめたケイロンと共に商業区を出ようとしているとケイロンを呼ぶ声がした。

 一度足を止め二人とも女性の声の方を向く。

 するとそこには冒険者ギルドの職員服を着た女性がいた。


「ア、アルビナ……」

(ひさ)しぶり。ケイロン」

(ひさ)しぶり」


 ケイロンが答えるとアルビナと呼ばれた女性が挨拶(あいさつ)をする。

 すると何故(なぜ)か周りが(さわ)がしくなった。

 (おも)にお(しの)び貴族達が。


「な、何?! ケイロンだと! 」

「ケイロン様がここに?! 」

「こ、殺さないでくれ!! 俺は悪い事なんてしてない! 」

「きゃぁ! ケイロン様よ」

「足で()んでください! 」


 周りの声を聞き顔を赤らめると同時に真顔(まがお)になって周りを見回した。

 今までにないほどの冷たい雰囲気(ふんいき)だ。こんなケイロン見たことない。


「誰かな? 僕の事を悪く言ったのは……」

「ひぃぃぃ! 」

「こ、氷の女王が出たぞ! 」

「逃げろ! いや全員土下座(どげざ)(あやま)れ。今ならまだ()に合う! 」

「その冷たい目線(めせん)で私を(こお)らせてくださいぃ! 」


 ケイロンが冷たく言い放つと一同騒然(いちどうそうぜん)となり全員が逃げていった。

 学園で何をやった?! ケイロン!

 奴らの反応が普通じゃないぞ?!

 それを外から見ていたアルビナと呼ばれた女性はクスっと笑いながらもこちらに向き直した。


「ケイロンの人気っぷりは(おとろ)えていませんね」

「こんな人気いらないよ」


 やれやれと手を振りながらケイロンが言うとアルビナが何かに気が付いたようだ。

 はっとした顔で言う。


「あ、私これから仕事があるからこれで! 」

「うん。またね」

「はい、後程殿下(でんか)誕生(たんじょう)パーティーで」


 そう言うと大きな建物(たてもの)の方へ行ってしまった。

 アルビナが()()ったあと俺は活気(かっき)を戻した商業区で少し呆然(ぼうぜん)としながらもふと聞いてみる。


「氷の女王って、何? 」

「……触れないで。学園の黒歴史だから」


 どこか遠い目をしながらそう(つぶや)いた。

 しかしこのままここにいる訳にもいかないので俺達は移動することに。

 広い道を行くと大きな広場のような場所に出た。

 そこには何か(もよう)しでもやるのだろうか。天幕(てんまく)()られている。

 さらに中央通りを通り()ぎ貴族街へ着いた。


「すげーな。バジルの町の貴族街は遠目でしか見たことないが王都の貴族街は壮観(そうかん)だな」

「ふふ、(くら)べ物にならないでしょ」

「ああ……」


 目の前に広がる高級住宅に目を光らせ(なが)めた。

 種類はいくつかあるが一番分かりやすいのが大きさだろう。

 貴族街の隣にある王城に近付くにつれて大きくなっている。


「僕達が向かうのはあっちだよ」


 ケイロンが指を指した方向を見ると、やはりと言うべきか一番大きな建物(たてもの)の方向であった。

 正直今の服装(ふくそう)でも身分不相応(ふそうおう)なのだがそれでも行くのを躊躇(ためら)われるほどの豪華(ごうか)さであった。


「なぁ……行かなくちゃいけないのか? 」

「もちろん。まぁいかないとこの国で生きていけなくなるかもね」


 なんでそんな人が俺達を呼ぶんだよ。

 悪い事じゃない、とジュリア様は言ってたけど疑わしくなってきた。


「こっちこっち」


 ケイロンが手招(てまね)きをしながらその死地(しち)へと誘導(ゆうどう)する。

 重い足を上げながらもケイロンに先導(せんどいう)されるままに俺は貴族街を歩いた。

 最初の方、中央広場に近い家は比較的質素(しっそ)なようだ。他の貴族街の家に(くら)べて比較的ではあるが。

 それを(のぼ)っていくにつれて俺の心臓がバクバクしてくる。

 入ったらいけないような場所に入ったような緊張感だ。

 すぐにでも帰りたい。


「着いたよ」


 足を止めた先は四つある巨大な屋敷(やしき)、いやもうここまで来ると小型(ばん)王城のような屋敷(やしき)の一つだ。

 巨大な門がありその前には(よろい)を着た二人の門番が槍を持って立っている。

 交代要員(こうたいよういん)だろうか。その向こう側にも何人かが(ひか)えていた。


「ドラグ伯爵家の娘ケイロン・ドラグと(もう)します。カーター・アース様はご在籍(ざいせき)でしょうか? 」


 いきなりケイロンが話かけた。

 ちょっ! ケイロン?! 何をいきなり!


「……不審(ふしん)(やから)め! 」

「こちらが紹介状になります」


 (わか)そうな門番がこちらに近付き警戒(けいかい)する。

 ほら怒られた……。ものすごい形相(ぎょうそう)でこっちに近付いてきている。

 若い門番が乱雑(らんざつ)に手紙を受け取るもすぐにケイロンに返していた。


 俺は一歩下がりもう一人の方を見た。

 もう一人はどうも様子見の用だ。こちらを(なが)めているだけである。


「ちっ。この手の偽造(ぎそう)論外(ろんがい)だ! すぐに立ちされ!!! 」

「……アース前公爵様に直接来るように言われたのですが? 」

「立ち()れと言えば立ち()れ! また旦那様を悲しませるつもりか! 許さんぞ、(ぞく)め!!! 」


 (ひど)い言い様である。とてもじゃないが貴族家の門番とは思えない。


「……いったん帰ろう、ケイロン」

「そうだね。話が通じそうにないから帰ろうか」


 俺はケイロンに提案(ていあん)し、彼女はそれを受けた。

 罵詈雑言(ばりぞうごん)()かれながら俺達は公爵家の門を後にするのであった。

 もう一人の門番がじーっとこっちを見ているのに気付かずに。

お読みいただきありがとうございます。

もしお気に召しましたら是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しく始めた異世界転生ものになります!
ハズレ枠の転生貧乏貴族は武姫を継承し最強へ至る
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ