表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第三章 バジルの出会いと王都の出会い
110/442

ミッション『お嬢様を援護しろ! 』 一

 時は(さかのぼ)りセレスティナとアンデリックが買い物に行く前夜(ぜんや)

 とある一室に異様(いよう)雰囲気(ふんいき)(ただよ)わせた人物達がいた。


(みな)さん。これからが重大(じゅうだい)ですぞ」

「分かっちゃいるんだが。気乗(きの)りしねぇな」

「ええ、(まった)くです。しかもこれ、失敗したらかなりまずくないですか? 」


 その者達——レストとルータリアそしてガイの三人は顔を合わせて会議(かいぎ)をしていた。

 が、レストの提案(ていあん)に対して慎重(しんちょう)な二人。

 それもそのはずもし失敗し、いや成功してもセレスティナ達にバレると自分達の立場(たちば)(あや)うい。それほどに今回の任務(にんむ)危険(きけん)なものになる。


「せっかくの機会(きかい)なのです。これを逃したらいつ次が現れるか……」

「長命なんだから次の機会をまったらどうです? 」

「そうですぜ、兄貴。龍人族は俺達よりも長命だ。長く待てばいいじゃないか。その内またいい人が出るかもしれねぇですぜ? 」

「……ドラゴニカ王国第一王子殿下(でんか)以上に魅力(みりょく)を感じる方が今後現れると? 」


 レストが手袋(てぶくろ)をした白い手で頭を(ささ)溜息(ためいき)をつく。

 セレスティナが王子と結婚すれば一番良かったのだが王子は玉砕(ぎょくさい)

 もう少し王子に頑張(がんばって)ってほしかったと心の中で(なげ)きながらも頭から手を離す。

 するとガイの方から声が聞こえ、そちらを向いた。


「そりゃ……きついかもだがよ。ドラグ伯爵家とやり合うのはまずいぜ? 」

「そうです。()(りょう)産業(さんぎょう)にも一役(ひとやく)買ってくれているのですからここは大人しくケイロン様を応援(おうえん)しましょうよ」

我々(われわれ)龍人族は長命が(ゆえ)に結婚に対して積極的ではございません。より正確に言うと『恋』というものをしにくい……。長期的に見てこの()で何かしらの進展(しんてん)がないと後が厳しいのです」


 ガイの言葉に便乗(びんじょう)(おも)いとどまるようルータリアがレストに言うが聞く耳を持たない。

 そしてとんでもない事を言い出した。


「これは決定事項(けっていじこう)です。では作戦をお話しますので――」


 こうしてコードネーム『お嬢様を援護しろ! 』が発動するのであった。

 部下達の「本気か?! 」と言う意見を他所(よそ)にどんどんと説明していくレスト。

 夜行性(やこうせい)の鳥が鳴くころに彼らは寝静(ねしず)まるのであった。


 ★


 早朝(そうちょう)ガルム達が起きる前。

 レストは早くに起きた。

 (すべ)てはお嬢様の今後の為一族の為と今日も今日とて頑張(がんば)るレスト。

 大袋(アイテムバック)から大きな姿見(すがたみ)を出し服装(ふくそう)をチェックする。


「少し(みだ)れていますね」


 独り()ちながら(すそ)の部分を少し調節(ちょうせつ)する。


「これでいいですね」


 そう言い更にバックからパン等を取り出し自分の腹を()たす。

 昨日の事もあってか起きるのが遅い部下達を起こしつつセレスティナが起きる前に身支度(みじたく)()ませた。

 

「お三方(さんかた)にこちらの(しな)を頼みたいのですが……」

「レストさん? 別にいいけど……どうして? 」

「恥ずかしながらバジルの町へ来るのは(ひさ)しぶりでして道に迷いそうなのです。本来ならお嬢様をお連れして次の町へ行く予定でしたがそれは(かな)わなくなりました。なのでこの町に(くわ)しいケイロン様に頼もうかと」

「……僕もそこまで(くわ)しいってほどじゃないけど」

「お、何だこれ?! いっぱいだな! 」

「おい、駄乳エルフ! 何してる! 勝手に受け取るんじゃねぇ! 」

「おおーこれならこの前見たぞ! 」

「おお、そうですか。ならばお(まか)せしても? 」

(まか)せとけ! 」


 ありがとうございます、と言いながら(ふくろ)から金貨と銀貨が入った(ふくろ)を取り出しエルベルの方へ向き差し出した。


「こちらが必要経費(けいひ)になります」

「おお、こんなにか?! 」

「ええ。項目(こうもく)も多くありますのでお金も多めに入れました」

「よし、行くぞ!!! 」

「ちょっ! エルベル! 」

「待て!!! 」


 エルベルにつられて出ていく彼女達を見て少し微笑(ほほえ)み、そして顔を引き(ひきし)めた。


総員(そういん)。これより作戦に移行します。よろしく頼みましたぞぉ! 」

「「「はっ!!! 」」」


 腕を口元(くちもと)()て各指九本に同じ刻印(こくいん)がされた指輪に話掛けると彼の部下から返事が聞こえてきた。

 各部隊でもとりわけ龍人族を隊長とする部隊の返事が良かったのは気のせいではないだろう。


 ★


「はぁ、言い出したこととはいえ、これは気乗(きの)りしませんな……」


 馬車に乗り()()からレストの声がしていた。

 どうしてこうなった、と思いながらも馬車に()られている。

 彼が憂鬱(ゆううつ)なのは本当なら部下に()せるつもりだったことを自分がしなくてはいけなくなったからだ。

 部下の失敗をカバーに向かったり大損(おおぞん)した事業(じぎょう)を立て直す時の気分(きぶん)よりも憂鬱(ゆううつ)になっていた。

 その状態で馬車を出て目的の場所に向かう。


「おかーさん。あれ何??? 」

「……ごめんね坊や。お母さんにもわからないわ」

「ありゃぁ国を(いく)つか(また)いだ所にあるっていう国の魚じゃねぇか? 」

「お、本当だ。だがあんな魚いたか? 」

「聞いたことねぇな……」


 それもそうだろう。今のレストは『魚』である。内陸部にあるカルボ王国で加工前の魚の姿を見るのは(めずら)しい。

 と言ってもレストのそれは着ぐるみだが。

 だが魚の着ぐるみを着たレストではあるが海に出たことがある者でもあまり見ない魚であった。

 (てん)(そび)え立つ、(とが)った長い巨大な鼻。()には大きなヒレがありこれが未発見の新種の魚か想像(そうぞう)で作られたものと言われても納得(なっとく)するであろう。

 そしてその魚には着ぐるみの例に()れず両手両足がついていた。

 

 その足でトテトテトテと歩いたレスト魚は一段(いちだん)(たか)(もう)けられたステージに立ち――


「私の歌を聞いてくださぁい!!! 」


 レスト魚から女性の声がして歌い出した。


 ★


 一人ノリノリで歌う執事レスト魚を遠くから見る者が複数いた。


「……あれだけ嫌がってたのに(やく)にハマってんじゃねぇか、兄貴」

「すごいですね。これお金取れるんじゃ? 」

詐欺(さぎ)だろ……」

「魚に歌で負けるなんて」

「『変色魔球(カラー・ボール)』に『変声(チェンジ・ボイス)』と『拡声(ボイス・スピーカー)』、それに『魔法範囲拡大(マジック・スプレッド)』と『総員注目(スポット・ライト)』の併用(へいよう)……それに加えて武技もつかってますね。魔法の四重詠唱クアドラプル・マジックに加え範囲拡大と武技……いくらお嬢様のためとはいえここまでやりますか……」

「お嬢の為にここまでやるとは……あんた龍人族の鏡だぜ。執事長! 」

「「「執事長!!! 」」」


 何事(なにごと)かと集まった観客(かんきゃく)にフリフリダンスを披露(ひろう)して()り上げるレスト魚。

 歌に合わせて(おど)り、手を大きく振り、ある時は大ジャンプして曲芸(きょくげい)のようなことをしながら歌う。

 それを見た部下達——龍人族はその身を(てい)した(おこな)いに(なみだ)ぐみ他の者は五百を軽く超えた執事のキレッキレのダンスとボイスに()ちひしがれた。

 だがすぐに物見見物(ものみけんぶつ)は終わりを()げる。


「! 監視(かんし)より入電(にゅうでん)。作戦成功しました! 」

「了解。本作戦は次のステージへ移行(いこう)()り返す。本作戦は次に移行(いこう)


 こうして彼らの作戦はまだまだ続くのであった。


*ファーストステージ: 観客に押し出されたセレスティナがアンデリックによりかかる所。

お読みいただきありがとうございます。

もしお気に召しましたら是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しく始めた異世界転生ものになります!
ハズレ枠の転生貧乏貴族は武姫を継承し最強へ至る
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ