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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第一章 安全マージンをとる冒険者
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第八話 宿屋『銀狼』 三

 フェルーナさんの声に(みちび)かれ俺達は階段を降り、一階へ向かった。

 もふもふしている金色の尻尾(しっぽ)が美しい……。


「ねぇ、デリク。変なこと考えてない? 」

「え? そんなことないけど」


 そう? とだけいい、一瞬こちらを振り向いたケイロンは再度前を向く。

 だが彼自身も右に左に()れる尻尾(しっぽ)夢中(むちゅう)のようだ。

 目が尻尾(しっぽ)の動きを()っている。


 わかる! 分かるぞ! その気持ち!

 あのもふもふ! ()き着くとさぞ気持ちいいのだろう!

 流石ガルルさんの妻なだけはある。

 物凄いもふもふ具合だ。

 魔性(ましょう)の女ならぬ魔性(ましょう)のもふもふだ!


 ガルルさんの尻尾(しっぽ)ももふもふだが、フェルーナさんの尻尾(しっぽ)素晴(すば)らしい!

 元気よく()れるその(さま)はまるで光の道を創っているかのようだ……。

 流石ガルルさんを射止(いと)めたほどはある。


 ふぅ……神はここにいたのか……。


 ガルルさんの銀色もふもふとフェルーナさんの金色もふもふ……合わせて金銀夫妻といった所か。

 

 一人そのもふもふ具合(ぐあい)感嘆(かんたん)しながら木製の階段を下りる。

 一階へ行くと、そこには丸い机に丸い椅子。

 その上に置かれたお椀の上にはサンドイッチが綺麗(きれい)に並べられており、水が用意されていた。


「お昼も過ぎ夕食も近くなることから少なめの食事にしました」


 俺達に着席を(うなが)し、そういった。


「し、白い……パン……ですか! 」

「ええ、そうです」


 ニコリとして返事をする。

 何やら簡単そうに言うが、基本的に庶民(しょみん)には手が届かないもののはずだ。

 司祭様がそう言ってた。

 ケイロンも驚いているようだ。

 目の前に置かれた野菜が(はさ)まれたパンを見つめている。


「す、すごい、です、ね。どこから仕入れているのですか? 」

「企業秘密です♪ 」

「確かパンは水辺の工房で作られてるはず、なんです、が」

「企業秘密です♪ 」


 笑顔が……怖い。

 どこから仕入(しい)れているのか、()かさないつもりだ。


「フフン! 驚いたでしょう! このパンは、ムグー!!! 」


 フェルーナさんは途中(とちゅう)で話に入ってきたフェナの口を押えた。

 そのまま拳骨(げんこつ)を落とし、フェナが沈黙(ちんもく)する。

 口から(たましい)のような物がみえるが大丈夫だろうか?

 何やら重要なことのようだが、これ以上追及(ついきゅう)すまい。


 ケイロンもフェナの様子を見て(あきら)めたようだ。

 元より強靱(きょうじん)な肉体を持つ獣人族、その中でも強い力を持つ狼獣人の一撃(いちげき)を今日で三度見たのだ。

 これで(あきら)めない(ほど)、バカじゃない。

 だが……


「このパン。宿をするより売った方が(もう)かるんじゃないですか? 」


 素朴(そぼく)な疑問を投げつける。

 白パン自体、貴族の食べ物というほど高価だ。

 だが少なくとも宿のメニューにするということは、値段を抑えられるのだろう。

 ならば数を(そろ)えれて売りに出せばパン屋としてやっていけるのでは?


「他のパン屋さんに(うら)まれそうなので」


 少し困ったような顔でフェルーナさんが言う。

 頭に疑問符を浮かべているとこちらをみたケイロンが俺の疑問に答えた。


「デリクの村もそうだったかもしれないけど、基本僕達が食べるのは固い黒パンだよね? 」

「そうだけど? 」

「で、黒パンは大体水につけて柔らかくして食べるのが普通」

「ああ」

「で、この(やわ)らかく美味(おい)しそうな白パンだ」

「どういうこと?」

「つまりこの白パンをパン屋で出すと――数量を限定しても、他のパン屋を廃業(はいぎょう)させ、(うら)みを買うかもしれないってこと。それに、もしその製法(せいほう)を知っていたら何が何でも製法(せいほう)を聞き出そうと暴力に(うった)えかける人達もいる」

「え……えぇ?! パンに! 」

「それだけ価値があるってこと。それにまだ暴力なら何とかなるかもしれないけど……」

「けど? 」

「あらぬ(うわさ)を立てて、(おとしい)れようとする人達が出てくるかもしれない……」


 その言葉に愕然(がくぜん)とする。

 そこまでするのか!

 都会、恐ろしいぃ!!!


「そういった理由もありますが……(おっと)が宿をやりたいというので」


 と、良い顔で言った。

 こっぱ()しいのか、カウンター席で顔を少し赤らめ頬を()くガルムさん。

 (なか)の良い事で。


 談話(だんわ)を楽しみながらも、俺達は早速食事を始めることに。


「「クレアーテ様の(めぐ)みに感謝して」」


 創造神へ向けた食前の(いの)りを行う。

 手を組み、少し黙祷(もくとう)した。

 そして白いパンを手に取り、口にいれる。


 美味(おい)しぃぃぃ!!!


 ふっかふかや!

 食べたのか一瞬分からなかった!

 溶けるような感じだ。

 中に挟んでいるレタスとハムの食感でやっと分かったくらいだ!


 ハムも最高!

 何の肉かは分からないが、とても美味(おい)しい。

 食べたことのない味だ!


 塩味が効いてて、口の中を蹂躙(じゅうりん)していく!

 レタスのみずみずしさも過度(かど)なしょっぱさを緩和(かんわ)しているようだ。


 半分くらい食べ、水を一口。


 村では味わえない食べ物に驚いたと共にその美味しさから手がとならない。

 ぱくぱくぱく、と食べ一瞬にして机の上にある食べ物がなくなった。


「ふぅ……美味(おい)しかった」

「ありがとうございます。サンドイッチを作った甲斐(かい)がありました」

「それはよかったわ! 私が手伝ったもの! まずいなんて言わせないわ! 」


 フェナが自慢(じまん)げに、胸を()る。

 そう聞くと何故(なぜ)だろう。

 一つ一つに味の違いがあるような気がしてきた。

 不思議だ。


「何よ! その反応! そっちのお姉さんはともかく、お兄さん! 失礼でしょう!!! 」


 ブフォ―――!!!

 ゲホッ! ゲホッ!


 ケイロンが、むせた。

 手に持っていた木製のカップを机に置き、(くる)しそうにしていた。


「ケ、ケイロンがお姉さん! ハハハッ! ケ、ケイロンがお姉さん」


 俺も笑いが止まらない。

 お腹を(かか)えながら、(うずくま)る。


 ひぃー、ひぃ……。


 腹が痛い。

 顔に出てしまったのは申し訳ないが、それ以上にフェナが申し訳ない事を言っている。


「ケ、ケイロンは男だよ、フェナ」

「え? ええ???? 」


 フェナが混乱する。

 俺達二人を見て、訳が分からない、といった表情をしている。


「た、確かに美男子(びだんし)だけど、男だろ、どう見ても」

「え? だって……」

「……フェナ。これにはやんごとなき理由があるのだと思いますよ」


 (いま)だに混乱しているフェナに母であるフェルーナさんが言う。

 やんごとなき理由というのがいまいち分からないが、フェルーナさんは最初からわかってくれていたようだ。

 十歳の女の子には判別(はんべつ)(むずか)しかったようだ。


 むせかえっていたケイロンが復活した。


「これでも一応男だよ、フェナさん」

「本人も、そういってんだ。フェナ」


 ケイロンの言葉に、ガルムさんが言葉を乗せる。

 何か(うった)えるかのような顔で愛娘(まなむすめ)に言うが、(とう)のフェナはチンプンカンプンのようだ。

 (むずか)しい顔をして、(いま)だに混乱が続いている。

 

 羞恥(しゅうち)のせいか、むせかえったせいか肌白い顔を真っ赤にするケイロン。

 金銀夫婦とその娘は何やら話し込んでいるようだが、よくわからない。


 向うの状況を放置したのだろう、ケイロンが俺の方を向いて口を開いた。


「さて、これからどうしようか? 」

お読みいただきありがとうございます。

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新しく始めた異世界転生ものになります!
ハズレ枠の転生貧乏貴族は武姫を継承し最強へ至る
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