第九十話 王都への準備期間 一 買い物 一
俺達の王都行きが決まったがすぐに出発ということはなかった。
二から三日程俺達に準備期間をくれるらしい。
と、言うことで翌日俺はセレスティナと買い物に出ていた。
レストさん直々のお願いである。俺に拒否権はない。
朝から他のメンバーはどこかに行っているようだったので俺とセレスティナの二人と言うわけだ。
「さて、いる物はっと」
「ケイロンと同行するという形をとるならば服を買いませんと」
「服? 何故」
「恐らく貴族用の馬車で行くことになるでしょう。ケイロンの事です。自分だけ馬車に乗って他のメンバーを荷台に座らせるようなことはしないと思います。ドラグ家の家人がその中にいるかもしれないので一応服を整えておかないと」
「なるほど……。だがそんなにお金ないぞ? 」
「ワタクシのポケットマネーから出すので大丈夫ですよ」
商業区を歩きながらいる物を確認するとセレスティナが案を出してくれた。
服か……。正直服にお金をつぎ込みたくないから買いたくはないのだが、確かに俺は最初の旅服のような服装だ。ケイロンの実家の人と会うかもしれないのなら確かにこの服装はまずい。
セレスティナがお金を出してくれると言うが、正直複雑な気分だ。
「そう言えば今日は朝のような戦闘服じゃないんだな。セレスティナは」
「ワタクシの事はセレスかティナでいいですよ。長いですし」
「ああ、じゃぁセレスで」
「はい! 」
ケイロンと呼び方が同じというのも、と思いセレスと呼ぶことにした。
名前を呼ぶと心地いい笑顔で返してくれた。
そんな笑顔で返されるとこちらも気分がいい。
が、名前を呼んだくらいで、と思わくもないがそれは置いておこう。
「実の所ワタクシ町に出る時はいつもこの服装なのですよ」
「へぇ。赤のミニスカに白シャツと黒い羽織か。よく似合ってると思うよ」
「ありがとうございます。あ、そろそろ近づいてきましたね」
俺達が話し合っていると目的の店——服屋に来たのであった。
★
その頃アンデリックとセレスティナを見張る影がいくつかあった。
その一つは建物の影から三つほど顔を少しだし二人の行動を監視していた。
「全くデリクはデレデレしちゃってさ。僕には「服が似合ってる」って言ったことないのに」
「二人の仲がいいのは良い事じゃないのか? 」
「駄乳エルフ……。多分だがそう言うことじゃない」
三つの影とはケイロンとエルベルそしてスミナであった。
真ん中の顔——ケイロンが愚痴り、一番上のエルベルが分からないといい、スミナが状況を察した。
この三人はアンデリックとセレスティナが宿を出る前、レストからおつかいを頼まれた。何でもこの町に来るのは久しぶりで店の場所が分からないから買ってきてほしい物があると。
それ自体は何でもなかったのだが、買い物が始まった頃ケイロンの脳裏に何か走るものがあった。
身体強化も使い高速で移動し買い物を済ませアンデリック達を探したが、案の定いない。
レストに問いただすと買い物に行ったとの事。
「まさか僕達が買いに行った方向とは反対方向に買い物に行ってるとはね」
「別にいいんじゃないか? 」
「意図的……だよね」
「まぁ結果だけを見るとな」
「お、服屋に入っていくぞ? 」
「あそこはこの前エルベルの服を買いに行ったとこだね」
「……」
二人が今のエルベルの服を見て、アンデリック達の方を見た。
「まさかティナにいかがわしい服を?! 」
「いやぁそれはないだろ」
「じゃぁ率先してエルベルのような服を?! 」
「これは駄乳エルフだからこうなったじゃなかったけ? 」
「……そうだった」
「オ、オレの服がいかがわしいとは何だ! いかがわしいとは! 」
まだまだ彼女達の尾行は続く。
★
「こちらの服もいいですね」
「あのー」
「あらこちらも。店主さんは中々の腕前のようで」
「ほ、褒めていただきありがとうございます!!! 」
セレスが色々と俺の服を見繕い俺に着せる。
最初はわくわくもあったのだが、途中からとてもしんどくなった。
次から次へと店主のエルフが服を持ってきてはセレスが俺に着せるという循環が出来てしまい、今や着せ替え人形状態だ。
財布を握られている為口を出すことは出来ないが、もう少し自重して欲しい。
店主も店主で初めてか久しぶりの貴族の客なのだろう。緊張しながらも商品を並べていき売ろうとしていた。
「もうそろそろいいか? 」
「え? まだこんなにあるのに? 」
「いや、十分だろ。と言うか全部買う気か? 」
「全部とは言わずとも十着ほどは」
「着ないから! そんなに着ないから! 」
「貴族のパーティーなどこのくらい普通ですよ」
「俺は平民だぁ! それに置く場所がない!!! 」
「確かに……。場所は盲点でした。つい楽しくなって」
貴族ならばこの数は普通なのだろう。場所も服を運ぶ用の馬車を出せばいい。
パーティーの前の他家への挨拶ごとに違う服を着るのかもしれない。
だが俺は単なる友人枠の同行者だ。しかも普通ならいるはずもない平民の。
買ってもらっても置く場所がない。
だから店主さん。そんな悲しそうな目でこちらを見ないでください。
「仕方ありません。オーソドックスなこちらの二着とこちらの一着をお願いします」
「かしこまりました」
「……本当にいいのか、買ってもらって。正直罪悪感しかないのだが」
「構いません。元を辿ればワタクシのワガママが原因です。このくらい未知の前には毛ほどもありません」
「そ、そうですか……」
貴族と一緒にいても違和感のないような——白いシャツと黒の上下のスーツを二着と少し派手めな服を一着。
正直置き場に困るのだが……後で考えよう。
少なくとも王都へ出発するまではレストさんにでも保管してもらおう。
持つのも怖いし、着るのも怖い。これ破けたら直すのどのくらいかかるんだ?
少し冷や汗を流しながらも服を旅人の服に戻し、そーっと畳んだ。
「では金額がこちらになります」
「はい。ではこれでお願いします」
「かしこまりました」
畳み終わりセレスの声がする方を見るとお金を払っている所だった。
受け取る店主の体が若干震えているのが分かる。
手元を見ると……その大量の金貨は何ですか! 生きる世界が違う……。
そうひしひしと感じながら俺達は服屋を出たのであった。
尚、店主のエルフはホクホク顔だった。
★
店の窓からその様子を覗く影があった。
勿論あの三人である。
「なんだ。デリクの買い物か」
「執事みたいな服だな」
「ま、貴族の間では貴族子息が着るような一般的な物だね。多分この町に何軒か貴族家の別荘があるから彼ら用に作ってたんだとおもうよ」
「へぇ。でもこう見ると見違えるな。服装だけでこうも変わるとは」
「本人は気付いてないけど地が良いからね。それなりの物を着せればああなるよ」
「お、出てくるぞ。隠れろ! 」
アンデリック達が出てくるのを察知した三人は他の建物の隠れ尾行を続けた。
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