第八十八話 vs セレスティナ
「水球乱舞」
「うぉっ! 」
セレスティナの透き通った角が少し光ったかと思うと本がパラパラと捲られ、一ページが立つように真ん中で止まる。
すると彼女の周りに十を超える水球が現れ、俺に向かってきた。
なんだ、あれ! 本が魔杖の役割をしてるのか!
分析しながらも身体強化をかけた体で水球をギリギリで回避する。
ズドン!!!
地面に衝突した水球は大きな音を立て、破裂し、大穴を開けている。
「ちょっ! これは洒落にならない」
「このくらいの緊迫感が無いと普通の戦闘になってしまいますので。ではっ! 」
「うぉっ! 」
俺は迫りくる大量の水を避けながら移動する。
どこか安全なところは……と考えようとするといつもの感覚に襲われた。
後ろから水球が襲ってくる未来だ。
後ろを見ずに体を捻り、地面に転がり込む。
ズドン!!!
間一髪で背後からの攻撃を回避できたのだが。
あ、あぶなっ!!!
冷や汗を流しながらセレスティナの方を向き、聞く。
「さっきのどうやって?! 」
「単なる魔力操作で避けられた水球を戻して攻撃させただけです。しかし完全に不意を突けたと思ったのですが。本当に先読みが? いえ、まだ戦闘の勘と言う可能性も捨てきれませんね。それに魔力感知で感知して回避した可能性も……」
「ちょ、ちょっとまっ!!! 」
「ではどんどんといきますよ! 」
更に角が輝きを増し、本が捲れ、ページが止まる。
「多重氷槍」
「やめてぇぇぇぇ!!! 」
次々に多種多様な魔法が飛び交い俺を攻撃してきた。
時々観戦していた種族の輪の面々にまで魔法が飛び、全力で皆逃げる。
周りに甚大な被害を与えながらもセレスティナの暴走は続いたのであった。
★
「コホン。検証の結果、『先読み』なる異能を認めます」
「ありがとうよ」
俺の『先読み』を認めるセレスティナにジト目を送る俺。
ボロボロになった俺は最終的に魔力欠乏一歩手前まで魔法を避けに避けまくった。
が、最後で俺の様子に気が付いたケイロンが少し不機嫌そうに仲介に入り最悪の事態を避けることが出来た。
止めてくれたので文句は言えないが、せめてもう少し早く仲介に来てほしかった。
「ですがまだ不十分な気がします」
それを聞き全員が彼女に「まだやるのか」と言う目を向けた。
ぼこぼこになった裏庭にぼろぼろな俺。流石にこれ以上は無理だ。
加えて明日くらいは依頼に行きたい。金銭的な意味も含めて。
決して彼女から逃げるためじゃない!
「なのでワタクシも冒険者登録しようと思います」
「「「え?!!! 」」」
キリっとした目で全体を見るセレスティナに全員が驚く。
そしてケイロンから注意の声が上がる。
「ちょ、それはまずいんじゃ?! 」
「そうだよ。貴族令嬢が冒険者なんて! 」
「ケイロンは人の事言えませんよね? 」
「うぐっ! 」
ケイロンがセレスティナの言葉で撃沈した。
確かにケイロンは人の事言えないが、これから王子様の誕生パーティーがあるんじゃなかったのか?
そう思っていると執事のレストさんやメイドに騎士達がやってくるのが見えた。
恐らく音を聴いてやってきたのだろう。
が、裏庭の状態を見て何が起こったのか考えている。
あそこまで頭を捻り考えている様子を見ると、思い当たる節がいくつもあるのだろ。
振り回される従者はつらそうだ。
「アンデリック様」
俺の名前を呼びながらレストさんがこちらに近寄ってくる。
筋骨隆々なせいか威圧感が半端ない。
「こちらでお話をお聞きしても? 」
「ワタクシも参ります」
「お嬢様はダメです」
「何故ですか」
「誤魔化そうとするからです」
レストさんが俺に話を聞くために誘導しようとしたらセレスティナも一緒に行くと言い出した。だがそれを断るレストさん。セレスティナも顔には出さないが思い当たる節があるのかこれ以上何も言わなかった。
俺もなんで? と思ったがどうも常習犯のようだ。
しかたない。ついて行くか。
こうして一旦俺はボロボロになった裏庭を離れた。
★
レストさんについて行き裏庭から離れ俺の部屋に。
そこには昨日ルゥと呼ばれていた猫耳獣人メイドとレストさんそして騎士が二人ついて来た。昨日と同じく獣人メイドは白と黒のスタンピードメイド服に、軽装だが上等そうなスケイルアーマーを着ていた。よくよく考えれば昨日初めて執事や騎士を見たことになるんだよな、と感慨深くなりながらも気分は憲兵の詰め所に行く犯罪者である。
誰が率先して尋問を受けるだろうか、と思いながらもレストさんの指示通りに椅子に座る。因みに他の人は立ったままだ。
「この度は申し訳ありません」
「え? 」
何を聞かれるのだろう、まさか処罰を受けるんじゃ! とドキドキしていたらいきなり謝られた。
どういうことだ?
「実は先ほどのやり取りを見ておりました」
「お嬢様の悪癖が出たようで」
「なまじ強い力を持ち、興味のままに突っ込むお嬢様を止めることは我々でも一筋縄ではいかない」
「よってお嬢様が落ち着くのを見計らっていました」
理由を聞くと見ていて止めなかったことに対する謝罪との事。
頼むから早く止めてくれ。
武器を持たない状態で回避し続けるのもきついんだから。
「で、アンデリック様は冒険者との事。ここで一つ依頼があるのですが」
少し目を光らせこちらを見るレストさん。
嫌な予感しかしない。
言わないでくれ! 貴族家からの依頼なんて断ることなんてできないんだから言わないでくれ!
「先ほどお嬢様は冒険者になるとおっしゃいました。ならばなるでしょう。冒険者に」
「……止めないんですか? 俺は『ケイロン』と言う前例があるから貴族の冒険者というものに抵抗感がないのですが、貴族家とてはまずいのでは? 」
むしろ止めてくれ。今からダッシュで裏庭に行って止めてくれ!!!
心の中で叫びながら嘆願する。
「止めても無駄でしょう。『なる』と言えば必ず『なる』という御方なので」
「我々としても止めたい気持ちで一杯なのですが」
「今まで何度も失敗しておりまして。恐らく今回も止めた所で無駄だと思われます」
使用人側の言葉で俺は希望を捨てた。そしてボロボロと最初のセレスティナのイメージが崩れていく瞬間でもあった。
思った以上にお転婆だった。
ケイロンもそうだが貴族家の令嬢はお転婆が基本なのか?
レストさんが変わらぬ――諦めたかような表情でこちらを見て口を開く。
「このままだと王子殿下の誕生パーティーにケイロン嬢と一緒に『急病』を発病しかねません」
「これだけは阻止しないと、です」
「なので王都までの護衛を受けていただけませんか? 」
俺に拒否権があるはずもなく、初めての護衛依頼はアクアディア子爵家令嬢の護衛依頼となるのであった。
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