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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第三章 バジルの出会いと王都の出会い
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第八十八話 vs セレスティナ

水球乱舞(ウォーター・ダンス)

「うぉっ! 」


 セレスティナの()き通った角が少し光ったかと思うと本がパラパラと(めく)られ、一ページが立つように真ん中で止まる。

 すると彼女の周りに十を超える水球が現れ、俺に向かってきた。

 なんだ、あれ! 本が魔杖(まじょう)役割(やくわり)をしてるのか!

 分析しながらも身体強化をかけた体で水球をギリギリで回避する。


 ズドン!!!


 地面に衝突(しょうとつ)した水球は大きな音を立て、破裂(はれつ)し、大穴(おおあな)を開けている。


「ちょっ! これは洒落(しゃれ)にならない」

「このくらいの緊迫感(きんぱくかん)が無いと普通の戦闘になってしまいますので。ではっ! 」

「うぉっ! 」


 俺は(せま)りくる大量の水を避けながら移動する。

 どこか安全なところは……と考えようとするといつもの感覚(かんかく)(おそ)われた。

 後ろから水球が(おそ)ってくる未来だ。

 後ろを見ずに体を(ひね)り、地面に転がり込む。


 ズドン!!!


 間一髪(かんいっぱつ)背後(はいご)からの攻撃を回避できたのだが。

 あ、あぶなっ!!!

 冷や汗を流しながらセレスティナの方を向き、聞く。


「さっきのどうやって?! 」

(たん)なる魔力操作で避けられた水球を戻して攻撃させただけです。しかし完全に不意(ふい)()けたと思ったのですが。本当に先読みが? いえ、まだ戦闘の(かん)と言う可能性も捨てきれませんね。それに魔力感知で感知して回避した可能性も……」

「ちょ、ちょっとまっ!!! 」

「ではどんどんといきますよ! 」


 更に角が(かがや)きを増し、本が(めく)れ、ページが止まる。


多重氷槍(アイシクル・ランス)

「やめてぇぇぇぇ!!! 」


 次々(つぎつぎ)多種多様(たしゅたよう)な魔法が飛び()い俺を攻撃してきた。

 時々(ときどき)観戦(かんせん)していた種族の輪(サークル)面々(めんめん)にまで魔法が飛び、全力(ぜんりょく)(みんな)逃げる。

 周りに甚大(じんだい)被害(ひがい)を与えながらもセレスティナの暴走は続いたのであった。


 ★


「コホン。検証(けんしょう)の結果、『先読み』なる異能(いのう)(みと)めます」

「ありがとうよ」


 俺の『先読み』を(みと)めるセレスティナにジト目を送る俺。

 ボロボロになった俺は最終的に魔力欠乏(けつぼう)一歩手前まで魔法を避けに避けまくった。

 が、最後で俺の様子に気が付いたケイロンが少し不機嫌そうに仲介(ちゅうかい)に入り最悪の事態を避けることが出来た。

 止めてくれたので文句(もんく)は言えないが、せめてもう少し早く仲介(ちゅうかい)に来てほしかった。


「ですがまだ不十分な気がします」


 それを聞き全員が彼女に「まだやるのか」と言う目を向けた。

 ぼこぼこになった裏庭(うらにわ)にぼろぼろな俺。流石(さすが)にこれ以上は無理だ。

 (くわ)えて明日くらいは依頼に行きたい。金銭的な意味も含めて。

 (けっ)して彼女から逃げるためじゃない!


「なのでワタクシも冒険者登録しようと思います」

「「「え?!!! 」」」


 キリっとした目で全体(ぜんたい)を見るセレスティナに全員が驚く。

 そしてケイロンから注意の声が上がる。


「ちょ、それはまずいんじゃ?! 」

「そうだよ。貴族令嬢が冒険者なんて! 」

「ケイロンは人の事言えませんよね? 」

「うぐっ! 」


 ケイロンがセレスティナの言葉で撃沈(げきちん)した。

 確かにケイロンは人の事言えないが、これから王子様の誕生(たんじょう)パーティーがあるんじゃなかったのか?


 そう思っていると執事のレストさんやメイドに騎士達がやってくるのが見えた。

 恐らく音を()いてやってきたのだろう。

 が、裏庭(うらにわ)の状態を見て何が起こったのか考えている。

 あそこまで頭を(ひね)り考えている様子を見ると、思い当たる(ふし)がいくつもあるのだろ。

 振り回される従者(じゅうしゃ)はつらそうだ。


「アンデリック様」


 俺の名前を呼びながらレストさんがこちらに近寄(ちかよ)ってくる。

 筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)なせいか威圧感(いあつかん)半端(はんぱ)ない。


「こちらでお話をお聞きしても? 」

「ワタクシも(まい)ります」

「お嬢様はダメです」

何故(なぜ)ですか」

誤魔化(ごまか)そうとするからです」


 レストさんが俺に話を聞くために誘導(ゆうどう)しようとしたらセレスティナも一緒に行くと言い出した。だがそれを(ことわ)るレストさん。セレスティナも顔には出さないが思い当たる(ふし)があるのかこれ以上何も言わなかった。

 俺もなんで? と思ったがどうも常習犯(じょうしゅうはん)のようだ。


 しかたない。ついて行くか。

 こうして一旦(いったん)俺はボロボロになった裏庭(うらにわ)を離れた。


 ★


 レストさんについて行き裏庭(うらにわ)から離れ俺の部屋に。

 そこには昨日ルゥと呼ばれていた猫耳獣人メイドとレストさんそして騎士が二人ついて来た。昨日と同じく獣人メイドは白と黒のスタンピードメイド服に、軽装(けいそう)だが上等(じょうひん)そうなスケイルアーマーを着ていた。よくよく考えれば昨日初めて執事や騎士を見たことになるんだよな、と感慨深(かんがいぶか)くなりながらも気分(きぶん)は憲兵の()(しょ)に行く犯罪者である。

 誰が率先(そっせん)して尋問(じんもん)を受けるだろうか、と思いながらもレストさんの指示通りに椅子に(すわ)る。(ちな)みに他の人は立ったままだ。


「この(たび)(もう)(わけ)ありません」

「え? 」


 何を聞かれるのだろう、まさか処罰を受けるんじゃ! とドキドキしていたらいきなり謝られた。

 どういうことだ?


「実は先ほどのやり取りを見ておりました」

「お嬢様の悪癖(あくへき)が出たようで」

「なまじ強い力を持ち、興味のままに()っ込むお嬢様を止めることは我々でも一筋縄(ひとすじなわ)ではいかない」

「よってお嬢様が落ち着くのを見計(みはか)らっていました」


 理由を聞くと見ていて止めなかったことに対する謝罪(しゃざい)との事。

 頼むから早く()めてくれ。

 武器を持たない状態で回避し続けるのもきついんだから。


「で、アンデリック様は冒険者との事。ここで一つ依頼があるのですが」


 少し目を光らせこちらを見るレストさん。

 嫌な予感(よかん)しかしない。

 言わないでくれ! 貴族家からの依頼なんて(ことわ)ることなんてできないんだから言わないでくれ!


「先ほどお嬢様は冒険者になるとおっしゃいました。ならばなるでしょう。冒険者に」

「……止めないんですか? 俺は『ケイロン』と言う前例(ぜんれい)があるから貴族の冒険者というものに抵抗感がないのですが、貴族家とてはまずいのでは? 」


 むしろ止めてくれ。今からダッシュで裏庭(うらにわ)に行って止めてくれ!!!

 心の中で(さけ)びながら嘆願(たんがん)する。


「止めても無駄(むだ)でしょう。『なる』と言えば(かなら)ず『なる』という御方(おかた)なので」

「我々としても止めたい気持ちで一杯(いっぱい)なのですが」

「今まで何度も失敗しておりまして。恐らく今回も止めた所で無駄(むだ)だと思われます」


 使用人側の言葉で俺は希望を()てた。そしてボロボロと最初のセレスティナのイメージが(くず)れていく瞬間(しゅんかん)でもあった。

 思った以上にお転婆(てんば)だった。

 ケイロンもそうだが貴族家の令嬢(れいじょう)はお転婆(てんば)基本(きほん)なのか?

 レストさんが変わらぬ――(あきら)めたかような表情でこちらを見て口を開く。


「このままだと王子殿下(でんか)誕生(たんじょう)パーティーにケイロン(じょう)と一緒に『急病(きゅうびょう)』を発病(はつびょう)しかねません」

「これだけは阻止(そし)しないと、です」

「なので王都までの護衛を受けていただけませんか? 」


 俺に拒否権(きょひけん)があるはずもなく、初めての護衛依頼はアクアディア子爵家令嬢(れいじょう)の護衛依頼となるのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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新しく始めた異世界転生ものになります!
ハズレ枠の転生貧乏貴族は武姫を継承し最強へ至る
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