第八十七話 暴走令嬢
「と、いうわけでセレスティナさんです! 皆仲良くするようにね! 」
「いやいやいや、訳が分からん」
翌朝俺とケイロン、スミナとエルベルそして昨日やってきたセレスティナが『銀狼』の庭に集まっていた。
それぞれ食事が終わった後、急にケイロンから集合の声がかかり、ガルムさんに裏庭を借りてそこへ移動した。
裏庭へ行くとそこには昨日とは違う格好のセレスティナが待ち受けていた。
今日は青いフリル付きのミニスカに胸元が見える白い半袖シャツ。そして青いローブに黒のニートハイソックス、手には一冊の魔導書を持っていた。
昨日格好とはずいぶんと様変わりしてかなりラフである。
「ケイロン。詳しく、わかりやすく説明してくれ」
「それはワタクシの方から」
一歩前に出てシャッキっとした顔で俺をじーっと見つめる。
何故俺を見る?!
あの獲物を逃さんとする視線。こわっ!
「先日ケイロンからアンデリックには『大精霊の加護』が与えられていると聞きました」
すぐさま首をケイロンの方を見ると「ごめんね」と両手を合わせて舌を出し少し申し訳なさそうな表情をし首をちょこんと横に傾けショートポニテを揺らした。
あら可愛い! じゃない!!! 何重要なこと話してくれてんの!
話したところで何も起こらないと高をくくってた俺も俺だけど。
「そこで! 色々とお聞きしたいのです! 」
「あ~聞かれても多分答えられないと思いますよ? 」
「ワタクシとはケイロンと話すような口調で話しても構いません。それで答えられないとはどういうことでしょう」
目をギランギランに輝かせながらこっちを見て、聞いてくる。
何故に答えられないといって目を輝かせるんだ?!
普通諦めるか、失望するだろう。むしろしてくれ!
「トッキー……。昨日そこのエルベルが追いかけていたトッキーという『時の精霊』曰くまずどの系統かわからないらしい」
「ほう。そのようなことが」
「はい。で、実際何か出来るわけでもなくただ時の精霊に触れたり声が聞こえたり小精霊が視えたりするくらいで特別何かあるということは……」
「マーベラス!!! 」
「「「うぉ!!! 」」」
「ケイロンが言った通り、触れるのですね」
「え、ええ。逆に向こうも俺に触れるらしいですが」
「パーフェクト!!! 」
「「「ひぃ!!! 」」」
「通常触れない存在から触れてくるとは……まさにここに未知がっ!!! 」
彼女の問いに答えたつもりなんだが……どういうことだ。
セレスティナが悦に浸った顔でこちらを見ている。昨日の冷たい面影などどこにもない。
最初に精霊がいると伝えた時のエルベルを思い出し、再度彼女を見て見る。
……。うん、同類だ。
方向性は違うけど多分同類だ。関わってはいけない人種だ。二重の意味で。
「ケイロン。彼女をどうにかできないか? 」
「あの状態に入ったら無理だよ」
「やってみないとわからないだろ? 」
「無理だよ。何せ彼女は僕の幼馴染の一人なんだ。だからよく知ってる。未知や興味が湧いたことに一途なんだ。彼女は」
「龍人族は全員こんな感じなのか? 」
「いや、全然。僕が知っている限りだと、彼女だけだよ」
俺はケイロンに近寄り小声でどうにかならないか聞くがどうにもならないとの事。
スミナとエルベルの方を見るとあちらも彼女の行動にドン引きしながら珍しく小声で仲良く話していた。
「なぁあのお貴族様、セレスティナはおめぇに似てねぇか? 」
「ど、どこがだ! 」
「いや……もう全部だ」
「あそこまで酷くない! 」
スミナから珍しくエルベルに声をかけ、同意を求めた。
が、もちろんそれをエルベルが認めるはずもなく両手を振りながら違うと主張する。
それも虚しくどうやらエルベルとセレスティナは同一視されるようになったようだ。
セレスティナからすればエルベルと同一視されることの方が屈辱だと思うが、今の状態を見たら誰も何も言えないだろう。
「エルベル。お前を外から見るとあれ以上だからな」
「な! オレはあんなことになってるのか?! 」
「ああ。だから自重してくれ」
「断る! 精霊様に関しては俺の辞書に自重の二文字はない!!! 」
小声でエルベルに自重を促す。
反面教師にして欲しかったのだが、無理だったようだ。
さて、このまま放っておくわけにもいけないし「どうしたものか」と彼女の方を再度見た。
羽織っていたローブから腕を出し両腕を太陽にかざし何やら出会いに感謝し始めた。
ん? なんだ。腕が青白く光って……。
「あ……。ティナ、戻っておいで! 龍鱗が浮き始めてる! 」
「……あぁこの! この必然なる偶然に感謝を……え? 龍鱗? 」
ケイロンの『龍鱗』という言葉に反応して彼女の祈りは止まり、腕を見た。
少し目を瞑り集中すると綺麗な青い輝きが収まり普通の肌に戻る。
「綺麗な青だったのに……」
「え??? 」
おっといけない。つい本音が。
少し呆けたセレスティナとは別にケイロンからジト目が飛んできた。
……何かやらかしたか? こう、種族的に言ったらまずい事だったとか。
スミナからは何か意味深な目をしてこちらを見ていた。
え、何。分かってないのって俺だけ?
ちらっとエルベルを見た。いつも通りのエルベルだった。俺だけじゃないようだ。少し安心したがそれでも冷や汗を流しながら今の状況を変えるために口を開く。
「あ~さっきは系統が分からないって言ったんだが予想は出来てるんだ」
「……え。あぁ。どのような予想かお聞きしても? 」
「多分『時』の系統かなと。一先ずの元素精霊は違うようなんだ。後残るのは光と闇そして時だ」
「誰に加護をもらったかわからないのですか? 」
「全くだ。身に覚えがない。だからこうして予想してるんだが……能力的に『時』かなと」
「どういった能力なのですか!!! 」
グイっとこっちに体を近づけ聞いてくる。
何だこの甘い匂いは! ケイロンとはまた別の花の匂いだ……じゃなくてっ!
「落ち着いて、落ち着いて。どうどうどう……」
「ワタクシは馬ではございませんよ? 」
「悪かったって。で、今わかってるのは『先読み』だけだ。だから戦闘中じゃないと発動しないし、日常じゃわからない。そもそも今の今まで加護を受けたことに気付けなかったのはこの辺りにあるんじゃないか? 」
急かす彼女を落ち着かせ距離をとる。
そして能力と今までわからなかった原因を言い、納得させようとした。
が、その口から予期せぬ言葉が出てきた。
「成程。一理ありますね。ならばやりましょう! 」
「ふぇ? 」
「戦闘あるのみです! これより研究——観測を開始します!!! 」
そう言いセレスティナは本を俺に向けてきた。
これはめんどくさい流れになってきたな。
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