第一話 成人の儀
いつも村の皆と勉強会をしている教会で今俺は『成人の儀』を受けていた。
「創造神クレアーテ様、彼の者に祝福を……」
白に青の法衣を着た村の司祭様がそう告げる。
いつもは法衣ではなくどちらかと言うと俺達と同じような、村人のような服装だけど成人の儀の時だけは違うようだ。
俺の目の前で両手を使い木でできたコップから聖水を取り、俺の頭に被せ、祈りを捧げる。
冷たい!!!
声を上げそうになったけど、こらえる。
これが終わったら晴れて俺も大人なんだ!
やっと町へ行き、冒険者になれる!
そう思い、ちょっとした冷たさをこらえ小麦色の組んでいた両手を祈りのポーズから解き儀式を終えた。
★
ポーズを解き終え、周りを見渡すといつもと同じ教会なのにどこか神聖な雰囲気を感じた。
こういう儀式だからそう見えるのか、本当に神様が祝福してくれているのかは分からない。
お世辞にも綺麗とは言い難い石造り内装に風を通すための窓。石でできた女性の姿をしているクレアーテ様の像が一つ。そして村の子供達が勉強するための木製机に椅子が少々。
窓からは光が入り、明かりを作っているがいつもと違い今日は強烈に光が射しこんでいる。
「アンデリック君、お疲れ様。これで今日から君は一人の大人だ。クレアーテ様に……そして親御さんに恥じない人生を歩むことを祈っているよ」
「ありがとう! 司祭のおっちゃん!!!」
「お、お、おっちゃん……俺はまだ二十代なんだけど……」
少しショック気味な、金髪ショートの司祭様。
歳のわりに老けて見えるのが難点な人だ。だけど子供の面倒見がいいせいか村の女性陣には人気者なのは彼は知らない。敬遠なクレア教の教徒である彼は毎日の礼拝に掃除、村の手伝いに子供達に勉強を教えたりとかなり忙しい日常を送っている。そのおかげかこの村の人達は皆文字や数字の読み書きができるという、農村にしては異常な村だ。それに加え、彼が使える魔法を教えてくれたりする。おかげで俺も生活魔法と初級魔法くらいは使えるようになった。
司祭様々である。
俺が心の中で感謝を述べている間に司祭様は復活し、教会の奥へ行き、違う部屋に行った。
何をしてるんだ? と思っていると、そこから一枚のカードの様な物を手に持ちやってくる。
「これはクレア教の教会が発行する身分証になります。アンデリック君は……村を出ていくんでしょう? 」
「……村を出ていくと思います。親の了解をもらえたら、ですけど……」
顔を落とし、少し自信なさげに答えた。
親が村に残れと言うのは目に見えている。だけどそれじゃダメなんだ。
「まぁ、村を出ていくにしろ、村に残るにしろこのカードは役に立つと思いますよ。それに村の大人は持っているし、なにより身分証になるからね」
もし了解を得れなかった時の事も考えてくれているんだろう、少しこちらにウィンクをして青く光るカードを渡してくれた。
そういうところがおじさん臭いんだ、という言葉を飲み込み目を落とす。
カードには僕の名前が書かれている。後はクレア教の信者であることを示す会員番号の様なものも書かれているが基本的に質素な感じだ。
「これからも創造神クレアーテ様の導きがあらんことを」
そう言う司祭様の言葉を背に受けながら俺は木でできた教会の入り口の扉を開け家に戻っていった。
★
俺はいつもの勉強会に行く道を通り、木でできた大きめの家——実家を目の前にした。
少し話さないといけない事があるので気を引き締め、その扉を開ける。
「あら、成人の儀は終わったのね」
「アンデリック、ようやくこれでお前も大人の仲間入りだ」
二人の声が俺にかかる。
目の前には俺と同じ小麦色の肌をした、茶色い髪と瞳をした男性と女性——つまり両親がいた。それに加え……
「お、終わったのか? て、言っても普通だっただろ? 」
「今日も司祭様は凛々しかったの? ……また勉強会に顔を出しに行こうかしら」
「いやいや、少しいつもと違って清潔な感じがしたぞ? 俺の時は」
父さんや母さんと同じ瞳の色と髪をした男二人と女一人が口々に言う。
兄さんと姉さんだ。
兄さん達はすでに父さんの畑仕事を手伝っているからか筋骨隆々だ。と言っても俺も手伝っていたからそれなりに力はあるけど。
姉さんはいつもは母さんの手伝いをしているからか少し肌の色が白い。
そして……
「兄ちゃん! 兄ちゃん! 成人の儀って何? 」
「ばか! そのくらい知っときなさいよ! じょ、常識でしょ! 」
「……知らないに一票」
下の妹や弟達が俺が体験したことについて聞こうとする。
背が低く、服を引っ張り、俺の注意を引こうとしている。
弟達が大声を出したせいか、そこまで広くない木でできた家の端で赤ん坊達が泣きだした。
それを聞いて姉さんや妹達が駆け足で、赤ん坊達をあやしに行った。
この混沌とした状況で一人俺は頭を抱え、うずくまる。
「兄ちゃん、どうしたの? お腹痛いの? 」
我が弟がそう言ってくれるが、違うのだ。
「大丈夫だ」とだけ答え、顔を上げ両親を見上げ、こういった。
「少し、話したいことがあるんだけど」
俺の戦いはこれからだ!
★
俺は今農具が置いてある小屋に来ていた。
そこで三人が顔を見合わせ、誰かが口を開くのを待つ。
「それで話したいこととは? 」
緊張した雰囲気の中、そう切り出したのは父さんだ。
いつもは温和そうな顔をしているが、今回に限っては鋭い目つきでこちらを見ている。
だが、引き下がるわけにはいかない!
「俺、村を出て冒険者になろうと思うんだ……」
「ならん!!! 息子をむざむざと死地へ向かわせる親がどこにいる! 」
「そうよ! 冒険者には危険が一杯よ! 」
顔を赤くして、そう怒鳴る。
これまでにないくらい怒っているのが分かる。
だけど、俺が行かないといけないんだ!
「これだけじゃ食っていけない!!! 」
俺も負けず劣らずににらみ返し、怒鳴る。
その言葉に「うぐっ! 」と詰まるのが分かった。
何故、俺が冒険者になりたいと言い出したのか。
それは兄妹の異常なまでの多さだ。
他の家に比べて大きいはずの我が家。なのに物凄く狭く感じる部屋。領主様から借りている農地も比較的大きい方だ。収入も比較的良いはずなのだが……。
この家の問題点があるのならば恐らく子供の多さだろう。
そしてそのおかげで家計が火の車になっているのを俺は知っている。
「大体、この姉妹兄弟の多さは異常だ! ご近所さんを見てみろ! おかしいだろ!!! 」
「そ、それは……子供は……コウノトリさんが運んでくれるものだから……」
「そんな言い訳が通じる年齢じゃないの知ってるよね! それにまた子供ができたんじゃない? お母さん!!! 」
そう言うと目をキョロキョロさせ「え、えーっと」と狼狽える。
父さんも少し顔を赤らめ、ながら気まずい感じになっている。
「誰かが出稼ぎに行かないとじり貧になのわかってるよね!!! 兄さん達は家を継ぐから出ていけないにしても、誰かが行かないといけないでしょ!!! 」
父さんが気まずそうに口に手を当て「こほん……しかし」と言おうとした瞬間、小屋の扉がガバッと開きしわがれた、しかし張りのある声が聞こえてきた。
「さっきの話! 聞かせてもらったぞ!!! 」
「「「じ、じいちゃん (お父さん) ?!!! 」」」
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