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サクッと読める短編!

辛さの刺激で炎が燃える!〜スパイスでもののけ討伐するんだ!〜

作者: キハ

「おお!俺の大好きなカレーだぜ!」


 そう、志士ししくんは喜んで言うと、ガツガツとカレーを食べ始めた。


「やっぱかほっちの料理はうめーな!」


「……ありがとう」


 思わず、褒められて顔が赤くなってしまうわたし。

 そうやって素直に美味しそうに食べてくれる志士くんに感謝する。


 志士くん。

 わたしの幼なじみで、一応彼氏です。

 志士くんは夏休みも、こうやってわたしの家に遊びに来てくれる。

 本当に、嬉しくてありがたくて、楽しい。


 そしてわたしの作った料理を美味しそうに食べるとこも好き。


「……ごちそーさん!うまかったぜ!」


「……はやっ」


 もう、志士くんは食べ終わっていた。

 やっぱり志士くんは食べるのが速い。だけど、それは美味しかったからで。


「じゃー、オレちょっとパトってくるわ!昼飯、サンキューな」


 そう言って二カッと笑ってくれた。

 思わず、わたしはキュン、としてしまう。


 パトってくる。いわば、パトロール。

 志士くんは、ただの優しくてカッコいい男の子だけに見えるけど、実は重大な秘密があるんです。




* * *




「結局、かほっちもついてきたんだな」


「……だって、気になるもん」


「だって俺が戦うとこ前見ただろう?もう充分じゃねーの?」


「だって……またか、か、カッコいいとこ見たいんだもん」


「そう言われると照れるな……」


 そう言って志士くんは照れ隠しなのか下手な口笛を吹く。

 まあ、そんなとこも志士くんらしくて。


 志士くんとわたしが向かったのは廃墟のビル。

 今にでも不気味な感じが醸し出されていて、ホントはわたしは来るのが怖かったけど、志士くんのキメてるとこ見れるなら……って来たんだ。

 まだ昼なのに廃墟は暗い雰囲気。


「まあかほっちは大切な役目をやってくれるしな」


「まああれしか力になれないから」


 わたしができることはあれだけだから……。


 と、その時。


「こんにちは、果歩かほさん」


 近くで風音がしたかと思うとすっごく近くにらんさんがいた。


「うわあ、ビックリした……」


「驚かせてしまったかしら。すみませんでした」


 光沢を放つ黒髪を綺麗に後ろで結んでいるお姉さん、蘭さん。

 この人は、志士くんたちの戦いのバックアップをする人。


 それにしても、いきなり現れるからビックリした。

 忍者みたいなスピードで、しかも隠れるのも上手いから完全、くのいちぽいけど。


「らんっち。もののけはどこにいるんだ?」


「……ここだということは掴めていますが、いつ現れるかはまだ、分かってません」


 しかも、蘭さんは情報収集ができる。

 そんな特技が多い蘭さんは、わたしと同じ高校二年生だとは思えないほど。


 もののけ。


 いきなりこの地球に現れて、人に危害を与える得体のしれない化け物みたいな動物。


 今では自衛隊とかが処理してるんだけど、どーしても人民が住んでいるとこですぐに自衛隊が向かえない時に志士くんたちが対処するんだ。


 志士くんたちは、わたしみたいな普通の人にはない何か不思議な力を持っているんだよね。

 いわゆる、超能力的なカッコいい力を。

 それで、魔獣をバッサリやつけちゃうんだ。


「んじゃ、おびき出しだな!行くか!」


「……ああ、駄目です!火事になります!」


 志士くんが早速力を出そうと手をかざした瞬間、蘭さんに止められた。


「駄目か、ちっ」


「志士くんの力じゃ、火事になるに決まってるでしょ?ここは私にお任せ下さい」


 そう言って颯爽と蘭さんは飛び出した。


「……緑の炎!」


 次の瞬間、蘭さんの周辺で風が巻き起こり始めた。

 最初の頃は、この超能力的な力に驚いたけど、今は驚かない。慣れちゃったんだ。


 志士くんは赤の炎。これは、本来の火と同じ。

 蘭さんは緑の炎。これは、風のことを言う。


「ギャ」


 どこかで、悲鳴がした。

 しかも、もののけ特有の甲高い悲鳴が。


「……こっちだな」


 志士くんが声のした方を警戒している。

 蘭さんのおびき出しが、成功したのかな。

 蘭さんももののけのいる場所が分かったらしく、静かに音を立てず近寄っていく。


 廃墟のビルの中に蘭さんは入ろうとしてた。

 おそらく、そこにもののけがいるんだと思う。

 志士くんは、入ってもののけが逃げたら意味がないから静かに移動できる蘭さんに任してる。

 わたしは、志士くんたちみたいに力がない一般人だからあんまりもののけに近寄らないようにしてる。


「……!!」


 いきなり、蘭さんが急ブレーキをかけて止まった。

 廃墟ビルの入り口で止まった蘭さんは両手を突き出した!


 一瞬で風が巻き起こり、風が刃と化す。

 その時、甲高いもののけの悲鳴がまた聞こえた。


「……っ。逃げられた」


 もののけが、今どこにいるのかは分からない。ただ、蘭さんを警戒してビルの中に隠れてしまったんだろう。


 次こそは、と蘭さんが廃墟ビルに足を踏み入れた。

 志士くんとわたしも一緒に入る。


 中には、朽ちた看板らが落ちていた。

 そして、ボロボロな階段。あんなの登ったら絶対落ちるよね。それほどボロボロ。


 実に不気味な廃墟らしい、廃墟……。


 そんな暗い廃墟の中、人影があった。


「……よっ、志士」


 この声。すっごく久しぶりに聞いた。


「よお……辛太」


 志士くんはうげえと顔をしかめた。

 そんな嫌な顔を隠そうとしない志士くんに対して、辛太くんはクスリと笑う。


「何でいつも嫌そうな顔するんだ?」


「オレ、お前のこと嫌いだから」


 辛太くんも、志士くんたちのような力を持っている。

 そのため、共闘することも多いんだけど、志士くんと辛太くんが仲良くしてるとこをわたしは見たことがない。


 志士くん曰く、

 いつもキメたがるやつでいけすかない野郎、らしい。


 まあ辛太くんは華麗に攻撃を心がけているのか、志士くんみたいに何も考えずに突撃というのはない、けど、そんなのもいいんじゃないかな、とは思う。

 志士くんは、何も考えずに突撃するのが多いけど、それはそれで志士くんらしいし。

 まあ二人がなぜ仲良くならないのかはわたしも疑問なんだけどね。


「おお、果歩。久しぶりだな」


「久しぶりです」


「あと、蘭も」


「そうですね。と言う前に、ここに来たもののけを退治しているので手伝って下さい」


「……それ、もうやっつけた」


 辛太くんは、近くの足元を指さした。

 暗くてよく見えなかったけど、目をこらせばもののけらしきものがぐたりと横たわっている。


「氷の礫で即死。こんな簡単な退治、久しぶりだな」


「……っ、お前がやったのかよ……」


 せっかく、もののけが退治されたのに、志士くんは苦虫を噛み潰したような嫌な顔をしてる。


「退治、ありがとうございます」


 蘭さんが丁寧にお礼を言う。それに対して、志士くんは何も言わない。

 ただ睨みつけてるだけ。

 あーもう、なんで辛太くんのこと認めないんだろー。


「せっかく、俺が倒したのになんでいつもお前はそうやって睨んでくるんだ?」


 辛太くんの問いにも答えず志士くんはそっぽを向く。

 そんな二人に、蘭さんが声をかけた。


「……何気に不穏な気配が漂ってるんですけど。気を引き締めて下さい」


「了解。確かに、俺も何か嫌な予感がする」


「だよな、雑魚すぎるやつで終わる訳なさそうだし」


 戦いに参加していないわたしでも、それはなんとなく感じる。

 今までのもののけは結構手強くてこのチームプレイでやっと倒せる程が多かった。

 けど、今は辛太くんの氷だけで退治はさすがに何かあるような気がする。


 と、みんなが警戒した時──。


「!?」


 豪快な笑い声が響いた。

 この声。もしかして……。

 そんな疑問を裏付けするかのように階段を下りてくる人影がある。


「うむ。なんとも、まあ勘の良い子達だわい」


 あんなボロボロで今にでも壊れそうな階段を難なく下りてくる姿。 

 下りきって、わたしたちの方を向いた時、疑問は確信に変わった。


「Mr.エム」


 蘭さんがそっと呟く。


 本名は知らない。Mr.エムと名乗っているから。

 おじいさんのような老体のような姿だけどかなりこの人は強い。

 もののけに命を吹き込む謎の人。


「わーはっはっは。そこまで警戒せんでいいじゃろ。今しても遅いのだし」


 エムは何やら呪文のような意味不明の長過ぎる言葉を唱え始めた。


 この情景、何回か見た。

 みんなもそれに気づいたのか、はっとした顔になる。

 蘭さんは、すぐさま攻撃できるように身をどこかに忍ばせてるし。


 わたしもちゃんとバックアップできて、怪我しない位置にいくべきなんだけど……あの、ここ逃げ場なくて。


「かほっち!危ない!」


 な、何!?

 とっさに志士くんがわたしの方に飛んできた何かを炎で焼く。

 おそらく、もののけが飛んできたのね。


 だけど、エムはまだ余裕な顔をしている。

 何でだろ……ってあれは……!


「量が……半端ないな……」


 辛太くんもその光景を見て絶句した。

 エムの後ろに大型犬のような形のもののけがたくさんいる、ざっと見て10匹。

 しかも、牙が出ている。すっごく尖ってるし。あれがたくさんいるとか……。


「赤の炎!」


 すぐさま志士くんが炎を放った。

 だけど、エムが作ったバリアの膜によってもののけたちには届かない。


「……っ!」


 その時、どこからか強風が吹いた。

 たぶん、身を潜ませている蘭さん。

 風は刃となり、エム周辺で巻き起こっている。さすが、蘭さん!


「うむ?なんだ、こんなものか」


 しかしエムは微動だにせずに何かを放った。

 その瞬間、「うっ」とうめき声が上がる。蘭さん……!


「儂の近くで攻撃しようなんて甘すぎなんじゃ。もっと気配を消してからこい!」


「……っああああ!?」


 ズサっと床に倒れ込んだ蘭さんに向かってエムはまた何か放つ。

 その瞬間、蘭さんは苦しそうに声をあげた。


 エムが、見えない波動で攻撃してくることは知っている。

 たぶん、今蘭さんはその波動を受けてるんだと思う。しかも、床の上で。

 波動の「圧力」の方が正しいのかも。


 さすがに、これはヤバい。

 動けるのは辛太くんと志士くんの二人だけ。

 エムだけでも厄介で強いのに、後ろには目を光らせているもののけたちがいる。

 さすがに、不利すぎる。


「もう面倒じゃ!よし、お前ら根絶やしにしてくるのだぞ!」


 エムは波動を解除すると後ろのもののけたちに叫ぶ。

 蘭さんは床に倒れて動かない。たぶん、気絶してる……。


 そんな最悪状況の中、もののけたちが一斉にこっちに駆けてくる!


「赤の炎!」


「青の炎!」


 火と氷。志士くんと辛太くんがそれぞれ攻撃を放つ。

 それでも、もののけたちは速度を緩めず近づいてくる。


「ヤバい!果歩!バックアップを頼んだ!」


「かほっち、おねがいな!」


「分かったー!」


 思い切りわたしは叫ぶ。


 本当は怖い。けど、今までもこんな目にあってきた。

 それに、志士くんたちがいる。だから、きっと大丈夫だって信じてるんだ。

 わたしは、志士くんたちの力に少しでもなれるように、バックアップをするだけ!


「こうするのは癪だけどな。志士、行くか!」


「ああ。やるしかねえよな」


 わたしがバックアップの準備をしている間、志士くんと辛太くんはとある攻撃の合図をしている。


 志士くんの手に炎が灯り、辛太くんの手に氷が現れる。

 そっと、二つの力を合わせて──。


「「爆発!」」


 火と氷。敵対する力がぶつかり合うと、水蒸気爆発を起こすらしい。

 大きな音と共に爆発が起こり、近くにいたもののけたちはもの見事に吹き飛ばされてる。


 まあエムは無傷っぽいけど。


「よしっ!」


 バックアップ準備完了。

 わたしはお菓子のようなチップスを二人に投げる。


「お、サンキューな!」


「ありがとう」


 そして、二人は口にそれを放り込む。

 と──。


「うわ、かれぇー!」


「い、いつ食べても辛すぎる!」


 辛さに悶える二人。

 まあ、わたしの全力をかけたスパイススナックだからね!


「赤の辛炎(しんえん)!」


「青の氷辛(ひょうえん)!」


 まあネーミングがなんとも二人らしくて微笑ましい。


「ひえ〜口の中がまだ痛い……」


「……辛すぎる……」


 とかグチグチ二人は言いながら両手を突き出した。

 辛い、辛い、と言いながら力を放出。


 ──そう、辛いという刺激(・・)を原動にして力を放つ!


 辛炎。

 氷辛。


 二人の力が振り絞られる。


 志士くんの両手からは今までとは比べ物にならないものの炎が放たれる。

 炎の風、みたいな勢いと量で。

 もののけたちを跡形もなく焼き払う紅蓮の炎。

 うわ、カッコいい!


 辛太くんは両手から氷が一直線にピシッと伸びていた。

 まるで、長い長い氷の剣みたいに。

 それは、もののけたちの体をまとめて口刺しにしている。


 二人とも威力がハンパない……。


「な、なぬ……!?」


 それを見たエムも少しだけ顔を引きつらせた。


「退散じゃぁ……!!」


 もう、エムが作り出したもののけは全滅。

 分が悪い、と悟ったエムは逃げようとした。


「逃さないぜ」


「逃すわけがない」


 志士くんと辛太くんの声がハモり、再び炎と氷がエムを襲う。

 しかし、エムは見えないバリアを張り無傷のまま。

 エムは意外と手強い。今日も仕留められないかもしれない。


「わーはははは!今日はここでさらばじゃ!」


 手下を消されたのは少し痛手かもしれないが、エムは自分に手を出せないと知ると高笑いして去ろうとした。


 ……去ろうと、した。


「……な、ぬ!?」


「油断禁物。敵に背を向けてはならぬ」


 エムが、ガクリと膝をついた。

 しかも、脇腹から紫色のモヤが吹き出ている。


「あ、正体はもののけだったんですね」


 エムの前には黒髪の影。あ、蘭さんだ。

 きっと気絶したのから意識が戻ったんだろう、良かった。


 エムは苦悶の表情で地に両手をついている。

 ちなみに、もののけは傷つくと紫色のモヤが出てくるんだ。


 蘭さんはエムを見下ろしている。その瞳は、今までで一番冷たい。

 目が座ってる。こ、こわ!

 さっきの油断禁物〜とかの武士語みたいの?は実は蘭さんの素なんだけど、たまにチラ見えすることがあるのは気にしないでおく。


「私はスパイスなしでも行きます!……緑炎(りょくえん)!」


 蘭さんの声と共に暴風が吹き荒れる。


「……ぐああ!」


 エムは顔をぐちゃぐちゃにしながら紫色のモヤに包まれた。


 モヤが晴れた時、エムの姿は消えており──。


「やっとMr.エムを討伐できましたね」


「ああ、そうだな」


「かほっちのおかげだぜ!らんっちのやつは実力だけどな!」


 と、三人は笑顔を浮かべた。


 ……わたしの特性スパイスお菓子で、みんなパワーアップしちゃうんだよね〜。

 今のところ、蘭さんだけはそれに頼ってないけど。


 まあ志士くんたちのもののけ退治とわたしのバックアップの活躍はまだ続く!

「やっぱかほっちのスパイスお菓子は上手いぜ!」


「それってさ……味わってないと思うんだけど……力の原動力、として?」


「いや、おれはかほっちの料理が好きだ!」


「……(反応に困る)あ、ありがとう」


「おいおい、そこイチャつくなよ」


「うるさいなあ、辛太は」


「まあ果歩さんと志士くんの仲は今日にはじまったわけではないですし」


「あ、らんっちまで……」


「このっ、羨ましいぞ、彼女持ち。果歩はお前に釣り合わないぞ?」


「辛太に言われたくねえ……」


 そんな四人のもののけ退治はまだまだ続く!(予定)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「スパイス祭り」から拝読させていただきました。 アクションの描写が迫力あります。 香辛料を活かした異能力の世界観がしっかりしていて魅力的です。 続編が読みたいです。
[良い点] 辛いものでパワーアップ! スパイスにはその力がありますもんね。 もののけ退治のストーリー、面白かったです。 ( *´艸`)
[一言] メチャクチャ面白いです!! 是非とも連載してほしいです!!( ´∀` ) というかこういう秘密組織が人外倒すような話好きなのよさ( ´∀` )
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