豊海、キツネを追う
豊海は馬を走らせた。商人から聞いた道を、ただひらすら南へ。それは豊海の故郷へと続く道だった。あんなに苦労して都へと行って来た道を、今は飛ぶような速さで引き返す。そのことにも気づかず、豊海は夢中で走った。ただひたすらキツネに追いつきたい。その一心だった。
どれくらい走っただろう。夜が終わり、東の空に光が差した。走らせすぎたせいか、馬にも疲れが見える。豊海もまぶたがひどく重い。一度休むことにした。
馬を止め、鼻を澄ます。幸いなことに、水場が近いことを知った。豊海は馬を引き連れて、馬に水を飲ませた。豊海は弓矢で鳥を狩って食事を済ませた。
ひと心地してから、豊海はこれからについて考えた。道のままに走り続けたが、それらしい女には出会わなかった。女の足では、そう遠くには行けないだろう。そろそろ見つけてもおかしくない頃だ。それとも見落としたのだろうか?
疲れのせいか、不安ばかりが循環する。豊海は一度考えるのをやめた。川のせせらぎに目をやると、心が癒される。まぶたも下がる。まどろんでいると、キツネとのこれまで旅路がぼんやりと浮かんできた。川のせせらぎと懐かしい日々に、豊海は身を委ねた。
都までの旅で、キツネに耳と鼻を習ったものである。あの頃は苦労したが、今では使いこなせている。しかし、目については上手くできない。化け物を見たせいで妖気は見られるようになったが、未来や遠くは未だ見れた試しがない。もし今、未来を見ることができたら、キツネを見つけ出せるだろうに。
豊海は目を閉じたまま、心を澄ませた。キツネの形を思い描き、神経を集中させる。何かが見えるようで見えない。眼球がキリキリ痛む。豊海は耐えた。どうせなら限界まで頑張ろう。
すると不思議な心地がした。女だ。女が歩いている。見えるのは背中だけだが、まさしくキツネだ。その背中から遠ざかるように、ずっとずっと距離が生まれ、道をまるで後ろ走りにするように、背景がどんどん前方に飛んでいく。そして景色が豊海の意識と重なった時、豊海はハッと目を覚ました。今見えた光景は、まるでこれから豊海が辿る道のりのようだ。
はたして豊海は眠っていたのだろうか。都合のいい夢のようだが、しっかり覚えている。日はとっくに天頂を超えていた。豊海は急いで馬に飛び乗った。十分休めたようで、馬はまたキビキビ走った。今見た限りだと、夕暮れ前にはキツネに会えるだろう。豊海は急ぐ気持ちを抑え、でも迅速に馬を走らせた。




