エルたんの説明会
「あの、そろそろお話を進めさせていただいてもよろしいでしょうか?」
じーっとこの素晴らしい景色を頭に刻みつけていると、静寂に耐えきれなかったのか、エアリエル改めエルたんが困惑した表情でこちらを見つめている。
「ちょっと待ってください。せめて後5分!!!!!」
「えぇ…」
もちろん即答して断ったが、なんだろう…地味に引かれている気がする。
結局、彼女は何かを察したのか、翼で体を隠してしまった。解せぬ。
「それでは、改めて現状とダンジョンマスターについての説明、チュートリアルを行わせていただきます。」
「あ、話した内容をまとめたいので、紙とペンください。」
どこからか取りだされたメモ帳と高級感漂うボールペンをお礼を言いながら受け取る。…何故か某あおだぬきの姿がチラついてムカついた。
とりあえず、クッソ長い現状の話を紙にまとめてみると────
①この星の創造神は、神界では主に軍記ものが人気の売れっ子作家で、その功績で地球の管理を任された。
②その後、地球で実際に起こった戦争を元に書いた小説をどんどん発 表し、どんどん有名になったらしいが、最近は大きな戦争がほとんど起こらず、スランプ気味だとか。
③そして、創造神は他の世界にあるダンジョンシステムを導入することで、ダンジョンマスターvs人間の戦争を起こすことになったらしい。
④しかし、神は直接世界に介入することができないので、適当に選んだ現地人にシステムを開始させることになった。
⑤選ばれた男(笑)である俺がダンジョンシステムを開始させるキーに触れたことで無事にシステムが起動し、偶然素質があった俺もダンジョンマスターにされた。←今ココ
は?自分勝手すぎでは?ま、そりゃぁ俺ただのか弱いニートだから長い物には巻かれろ精神で納得するけどさ。他人のことなんて別にどーでもいいし。
…それは別として、やっぱ創造神はいつか絶対1発殴ってやる。
え、妹?
あいつに心配するなんてお門違いだぞ。
…片手でりんご握りつぶしちゃうぞ系JKだからな。
◇
「次に、ダンジョンマスターについて説明させていただきます。」
え、まだ続くのかよ…まとめんのって大変なんだからな。それに、よく見るとカンペをガン見していた。
また懐かしの校長の話並に長い説明を要約すると────
①ダンジョンマスターは、自身のもう一つの心臓でもあるコアを守りながら、人類を倒すことで得られるDPを使ってダンジョンを成長させていく。
②人類側は、ダンジョンマスターが生み出すモンスターを倒すことで得られる経験値で自身を強化しながらダンジョンを踏破していく。
なお、最も経験値がもらえるのはダンジョンマスターの殺害である。
前提条件として、
①一ヶ月後、システムが本格的に起動する際、地球に存在するありとあらゆる地下資源が消滅する。
つまり、今までの生活を続けるためには、人類はダンジョンに潜り、資源を獲得しなければならないということだ。しかも、エゲつないことに、地下資源がなくなった元凶はダンジョンマスターという濡れ衣のオマケつきである。
②ダンジョンマスターになった人々は、人類側からの記憶から消去される。
…まぁ、簡単に言っちゃうと、人類が死にもの狂いで殺しにかかってくる。俺でもわかっちゃうよ?というかそこまでする?
笑顔で話し続けるエルたんの説明を要約しながら、俺は、顔が引きつっていくのを感じた。
◇
「前提知識はこのくらいで、ダンジョンマスターについて説明しましょう。」
今、地味に妹が俺のことを忘れてしまうと気づいて落ち込んでいるんですが?また説明?思わずジト目で見つめても、そのままスルーされる。それとエルたん、口調は丁寧だけど絶対俺のこと舐めてるよね…?
「まず、ダンジョンマスターの素質を持つ者たちは、ちょうど1月後に、自身のダンジョンに取り込まれ、1ヶ月のダンジョン準備期間だ与えられます。
準備期間内ならばいつでもダンジョンを地上につなぐことは可能ですが、つなぐ場所を選ぶのは早い者勝ちになるので、早めにダンジョンを開放することをおすすめします。
また、ダンジョンマスターの皆様には初期DPとして10000DP、準備期間中は一日100DPがもらえます。
準備期間中にダンジョンを開放してもしなくても、一日100DPは必ずもらえるので、ご安心ください。」
「俺の場合、二ヶ月ダンジョン準備期間があるんだろ?例えばだけど今すぐダンジョン開放はできないの?」
俺が質問すると、少し驚いた様子だったが、しっかりと答えてくれた。
「すいません…こちらの事情で早くても一ヶ月後でお願いします。」
にしても、別にそこまで驚かなくても良いだろ。たしかにやる気なさそうに見えるだろうけど、こっちは命がかかってんだから…
にしてもこの準備期間はかなり大きいな…今日は8月1日だからほかのダンジョンマスターよりも3100DPも得をすることになる。1DPがどのくらいの価値があるかは分からないが、少ないということもないはず。塵も積もればなんとやらだな。
「また、DPは人類を殺す、人類の滞在時間そして、アイテムの還元などでも獲得出来ます。」
「ま、予想通りだなー。」
すると、エルたんが少し戸惑いながら聞いてくる。
「あの、ウツツさんは人を殺すことは怖くないんですか?いくら死に物狂いで殺しに来たとしても、一応同族ですよ?」
「え?別に何とも思わないけど。」
こんな考えが間違っていることなんて、知っている。でも、俺は妹以外の人間は嫌いだ。別に自分から殺したいほどではないけれども、そっちから来るなら話は変わってくる。
「そ、そうですか。」
エルたんの顔がひきっつていた。
危ない危ない、思わず殺意が表情にでてしまった。
「だ、だいたい、このくらいですかね。後はチュートリアルで実践しながらのほうが良いでしょう。」
エルたんがまた新しいカンペを取り出す。…え、まだ続くの???