7/26-"日常"
アウトよりのセーフということでお願いします。
食卓に、静寂が訪れた。
少し前に拍を迎え、いつものテーブルに案内し、二人とも席についた。
拍はしばらく何も言わず、視線を下げて眉を寄せ、困った顔をした後、おもむろに口を開いた。
「…………うどん、か。」
「……正確にはざるうどん、だよ。」
今晩の献立!!
ざるうどん!厚揚げ!
以上!!
圧倒的手抜き!!
ログアウトしたのが18時前、いつも拍が晩ご飯を食べに来るのは18時20分ごろ。
その間の時間じゃこれが限界だったよ。
「いやそこは問題じゃない。」
拍が視線を上げて、僕と目を合わせる。
「ですよね……。」
はい、ごめんなさい。
僕がゲームにかまけてたことが問題です。
拍と一緒にご飯を食べるのはもうずっと前からで、そもそも拍にご飯を一緒に食べることを求めたのは僕だ。
なのに、拍からアルターテイルをもらったのに、僕の不注意で拍に迷惑をかけてる。
「ごめん、……明日からはちゃんとご飯作るよ。」
「そうしてくれ、私は望天の手作り料理が食べたい。」
明日からはログイン時間をちゃんと決めよう。
明日の朝は、拍の好きな僕の料理をちゃんと作ろう。
「それにしても……」
晩ごはん?晩うどん?を食べ終えたあと、お茶を飲みながら食休みしている時に拍がしみじみと何か呟く。
「どうしたの?」
ふっと顔を緩め、優しく僕を見つめる拍。
さっきまでの無表情との対比でちょっとドキドキする……いや気のせい気のせい、僕がこの程度で動揺するわけない。
「アルターテイル、楽しかったんだなと思ってな。」
「うぐっ!……その節はご迷惑を……。」
それに触れられると謝るしかできないんですけど……。
僕の不注意が原因だから文句言えない。
「いや、そうじゃなくてな……、嬉しいんだよ。」
「嬉しい……って、何に対してさ?」
手抜きのご飯が嬉しい、わけないよね。
んー…………分からん。
「望天が、私のプレゼントしたアルターテイルで、時間を忘れるくらい楽しんでくれた……それが嬉しいんだよ。」
ここで微笑むのは反則でしょ、頭バグるかと思った。
心臓うるさい、気のせいって事にしておきたいんだからもうちょっと静かにしててよ。
「…………めちゃくちゃ楽しいよ。拍には、感謝してる。」
いつも、感謝してる。
女になって、顔も名前も知らない人しかいない場所に移されて、拍が来るまでの一年間はこの部屋で独りぼっちだった。
いろいろ教えてくれる人は来てたけど、その人が帰ったあとの静けさが、僕が独りなことをこれでもかと突きつけてくるようだった。
でもそんな毎日を拍が変えてくれた。
拍が隣に引っ越してきて、外に出る時はついてきてくれて、何かあったら守ってくれた。
拍だけは僕と普通に話してくれたし、頼めばご飯だって一緒に食べてくれた。
拍が僕と関わってくれたから、僕も周りと関わろうと思えた。
すーや凛、咲鳴と出会えたのも、拍が僕と出会ってくれたから。
「僕だけもらってばっかだね。これまでのこと、返し切れるかなぁ」
「私はもう貰ってるよ、私が一番欲しかったものを。」
俯いて言葉を洩らす僕の頭に何が乗った感触がする。
顔を上げると、拍がテーブル越しに手を伸ばしているのが目に入った。
「お前が、望天が私に"日常"をくれたんだ。私の"日常"になってくれたことが、すごく嬉しかったんだよ。」
「にち、じょう…………」
それは随分と前にした、互いを縛る約束。
拍は僕を"ひとり"にしないこと、僕は拍にとって"日常"でいること、二人で結んだ契約。
二人とも相手に依存してることを承知の上で、それでも求めた繋がり。
「だから、返し切れないとかは考えるな。私はもう、たくさん貰ってる。」
僕の頭をぐりぐりと強めに撫でながら喋る拍。
考えるな、なんて無理な話だ。
会話をするたびに、触れ合うたびにいつも頭をよぎる。
だけど、もし……もしも拍になにかを返せてるなら、ちょっとくらい甘えてもいいよね。
「さて、私はそろそろ……」
「待って。」
立ち上がろうとする拍の、僕の頭から離れようとしてる手を掴む。
少しだけ、ほんの少しだけだけど、まだ
「まだ、離れないで。もうちょっとだけでいいから、一緒にいて。」
「…………可愛いやつめ。」
僕も立ち上がり、拍の手を引いてソファーに向かう。
後ろは振り向かない、今顔を見られると死ぬ。
エアコンつけてるのに暑い、…………手汗大丈夫かな?出てないことを祈ろう。
「それで、どうして欲しいんだ?」
「……もっとそばに来て」
拍がもっと近寄ってきて、肩がくっつく。
拍が余裕そうなのがむかつく。
こっちは心臓がうるさいくらい鳴ってるのに。
「次はどうする?」
「ぎゅってして」
自分がひどく恥ずかしいことを言っている気がして、拍の顔を見れなくて俯き気味に言う。
「んんー!……っ!………」
拍が僕の肩を抱き寄せて、僕の顔が拍の胸に沈む。
心臓がもっとうるさくなった。
まるで二つに増えたような…………あれ?
息が苦しくなって顔を上げると、拍と目があった。
わかりにくいけど、ちょっと頬が赤い。
「拍も、ドキドキしてるんだ……。」
「……当たり前だ。」
拍も余裕なんてなかったんだ。
それが嬉しくて、ついつい僕の方からも手を伸ばして抱きついてしまう。
「ねえ」
拍の目を見る。
「なんだ?」
そこに浮かぶ夜空から目が離せない。
触れ合ってる場所から熱が伝わってきて、頭がぼーっとする。
ああやっぱり、僕は、拍のことが、す………
「……頭、撫でて。」
……ぎりぎりで正気に戻った、危ない危ない。
この状況でそんなこと言ったら止まれなくなっちゃうじゃん。
「これでいいか?」
拍の手が、今度は優しく僕の頭を撫でる。
それが心地よくて、部屋の冷たさと、拍の暖かさとが混ざって、だんだん……ねむく……なって…………
「……おやすみ、望天。」
私は、ベットで眠る最愛の人の、その頭を最後にそっとなでて部屋を去る。
この幸せな"日常"が、ずっと先の未来まで続いていますように。
…………柄じゃないな、こんなこと。
「お前は、私が守り続けるよ、これからもずっとな。」
こっちの方が私らしい。
主人公とは別人の視点ってまた難しいですね。
頻度とかも考えなきゃです。




