7/26-飛び込み、抱きつき、危険、いいね?
それはまるで、流星のような
ーーーータックルでした。
酷い目にあった。
舌を噛む、背中を強打する、後頭部はぶつけるし意識も飛ぶ。
仲間に殺されるとか笑えない。
起きた時、スーにはめちゃくちゃ謝られた。
なんか今日はスーに謝られてばかりな気がするけど気にしない。
すぐに許しちゃうあたり、僕がスーに甘すぎることが露見してる。
いやでも仕方ないよね。
可愛い妹みたいな子が泣いてるのに、さらにそこから怒るとか一部のドSにしかできないでしょ。
僕にできるのは頭なでなでとか、抱きしめて落ち着かせるくらいだよ。
そんなわけで現在、スーをあの手この手で落ち着かせた所だよ。
「スー、もう大丈夫?」
「……うん、……ごめんね。」
いつまでも床に座ってるわけにもいかないから立ち上がった僕とスーだけど、スーが僕の腕に抱きついたまま離れなくなった。
「もう謝るのは禁止って言ったでしょ?」
「……ん、……ありがと。」
「やっぱり、笑ってる顔の方がかわいいよ。」
「あぅぅ……、みーちゃん〜……。」
なんてことを言いながら、僕の左腕を抱きしめてるスーの頭を右手でなでなですると、スーは恥ずかしそうに身を捩った。
そういう反応をされるともっとしたくなるのが人の本能だよね?
「そろそろいいか?」
「仲睦まじいようで何よりですが、私たちからも話が。」
「どうしたの?」
「…………うぅ。」
鈴火と桜が、真面目な顔で話しかけてきた。
なんか大事な話っぽいからスーの頭から手を離すと、スーが残念そうな声を出す。
「…………。」すっ…なでなで
「んぅぅ〜〜……。」
なので再びスーの頭に手を戻して撫でると、顔を上げてふにゃっとした笑顔を見せてくれる。
いやごめんてお願いだからそんな目で見ないで?
「それで話って?」
「そのまま続けるのか……いやまあいい。森でのことだ。」
「別に僕が死んだことは鈴火たちの所為じゃないけど……?」
そもそも焦って盾を投げた僕が悪いんだし、鈴火たちが気にすることじゃないんだけどなぁ……。
「いやそれもあるが、そうじゃなくてな。…森に入る前、囮になる、などと言っておいて、結局リラに囮をさせてしまった。すまなかった。」
「私も、死ななければ良いなどと考えが浅かったです。ごめんなさい。」
「それこそ気にしなくても良いんだけど。あの状況じゃあれがベストな作戦だったし、森の中のことはどうやら異常事態だったみたいだからね。」
盾を持ってる僕が殿になるのは当然で、それが一番効率的なのは疑いようもない。
森に入ったのだって別に浅い考えな訳じゃない。
経験を積むには必要なことだったし、ただ運が悪かっただけで、予想のしようもない。
オグマの言っていた多くても20匹が普段通りの数なら、僕たちは何の問題もなく森を通り抜けていた。
「異常事態、だと?まさか………」
「フォレストウルフの数のことですか?」
「そう、どうも大氾濫ってやつの予兆かもしれないって話だよ。……2人とも擦り傷だらけだね、魔法陣起動、『継続治癒』。」
2人ともあのフォレストウルフの数の異常性には疑問を持っていたようで、すぐに内容を言い当てる。
よくよく見ると、腕や顔に小さな傷が多かったから、2人に魔法を使う。
スーには傷一つなかった。ナイス鈴火、よく守った。
それからオグマに聞いた話を3人に伝える。
「……なふほど、それは良いことを聞いたな。」
「ふふっ♪意外と早くこの屈辱を晴らせそうですね。」
「顔やばいよ?」
「…………こわい。」
大氾濫のことを聞いた2人はめちゃくちゃ凶悪な顔で笑った。
まだ可能性の段階だって説明したんだけどなぁ……。
それだけ敗走させられたのが悔しかったのかな?
「さて、じゃあオグマに討伐証明部位渡そうか。」
話もひと段落ついたから、インベントリから討伐証明部位の尻尾を取り出す。
「時間もそろそろまずいな。」
「早く済ませましょう。」
「ん、…………ついでに宿も聞こう。」
宿?……やばっ忘れてた。
ログアウトしてもアバターはログアウトした場所に残るから、街中で落ちるなら家を持つか宿を取るかしなきゃいけないんだった。
鈴火たちがオグマに渡したのを確認してから宿屋についてオグマに聞く。
「まだ部屋残ってそうな宿屋ってありそうかな?」
「ありますよ。おすすめはここです、"自由の宿"という宿屋です。」
……あるんだ。
オグマがすっと紙を渡してくる。
あらかじめ準備してた?もしかしていつ誰に宿のことを聞かれても良いように常備してる?
いやまあいいか。
「この宿屋なら確実に部屋が空いてるの?」
「いえ、どの宿屋も部屋は空いてると思いますよ?」
「んん?それはまた、何か理由が?」
傭兵の人たちもみんな家持ちなのかな?
いやでもそんなに稼げるものなの?
ベテランならともかく、新人の傭兵には家買うのは難しいんじゃないかな。
「根本的に宿を使う人が少ないんですよ。」
「みんな家持ちってこと?」
「いえ、まずこの国は傭兵の数が少ないんですよ、これはポーション類や装備の類の物価が高いからですね。他にも他国に比べて危険地帯も多いので旅人や商人の数も限られています。」
「あーなるほど、つまり宿屋を利用する職の人があまりいないのか。」
物価が高い?
どうりでテントとか買ったらポーション買えないわけだ。
多分他の国より数倍は高いよね。
そりゃ傭兵少ないわけだ。
そして傭兵が少ないから魔物数も多く危険度が高いから旅も行商も難しいと。
宿屋の部屋が空いてるのも納得だね。
でもそれなら宿屋はどうやって生計立ててるんだろ。
「宿屋の人ってそれで儲けでるの?」
「いえ、ほとんどの宿屋は副業ですよ。本職は料理人で一階に食堂を作ってレストランを開いている人が、国からの要請で宿屋を開いています。」
国からの要請?
従ってるってことは補助金とか出てるんだろうね。
じゃなきゃメリットとかないだろうし。
「……はい。集計が終わりました、討伐数37匹を確認。……報酬の銀貨3枚、大銅貨7枚になります。」
「ありがと、明日の解体の件よろしくね。」
「はい。それではまた。」
オグマとの話が終わり、振り返って組合の外へ向かう。
んーなんか忘れてる気分。なんかあったっけ?
「今回も楽させてもらったよ、ありがとう。」
「ありがとうございます、外交担当様?」
「……ご苦労であった。」
「………………またやってしまった!!」
次はやらせるって言ったのに!!
周囲の反応
「おい、あの子動かなくなったぞ」
「やばいんじゃないか!?」
「傭兵のみなさまの中に、治癒系の魔法を使える方はいらっしゃいませんかー!?」
「リラ!?しっかりしろリラ!!」
「あ……あぁ、わたし……わたし……。」
「大丈夫、大丈夫ですよ、まだ死んでませんから、落ち着いてください、スー。」
「はぁ、……私が使いましょう。……魔法陣起動、『天瘉』、…さて、あとは安静にしておけば起きますよ。」
「おお!出血が収まってるぞ。」
「さすが元"最高位傭兵"だな。」
「あのレベルの治癒魔法、"魔拳"の名は伊達じゃないな。」




