森の戦い
動くフランス人形、リリが出会った封印されし妖精は、ある悪魔に封印されていた。
「あの悪魔…ディマーラはこの町から北に進んだ先にある山に潜んでる。リリ、不思議な人形である貴女にディマーラを倒す事をお願いしに来たの」
悪魔退治を持ちかけられたリリは、ワクワクで胸が一杯になる。
無機質な体に宿る熱い心は、リリを頷かせた。
「…分かった!妖精さん、願いを叶えてくれるんだよね?ディマーラってやつを倒してあげるよ!」
妖精は嬉しそうに上下に動いた。
「リリ、道案内なら任せて。こっちへ!」
妖精が茂みから出たのを見て、リリも迷いなく飛び出した!
「右!左!そこを真っ直ぐ!」
妖精の誘導で道路の車や通行人の靴を横目に、小さなリリは猛烈な速さで駆け抜けた。
次第に見えてきたのは木々が生い茂る森だった。
「あの森よ。貴女の旅路のスタートは!」
妖精の一言と共にリリは森へ飛び込んだ!
「ここが森か…!」
リリは森の土の道を突き進む。左右には緑の草や赤い花が、リリを見下ろしていた。
もし人間になったら、ここの草たちより背が高くなる。
お花を積んで、花冠も作れるかもしれない…。
リリは早速人間になる事への期待に、胸を踊らせていた。
「リリ、危ない!」
リリの耳に飛び込んできた妖精の声と、何かが羽ばたく羽音!
上を見ると、紫の蝙蝠が目を黄色く光らせながら向かってきていた!
リリは急いで後ずさり、蝙蝠の急降下を避ける!
周囲の草が揺れるなか、蝙蝠は口をきいた。
「人形娘のくせしてやるじゃねえか?」
困惑するリリに、妖精が早口で説明した。
「ディマーラはかなりの悪魔。こいつは『バットト』というモンスターで、ディマーラの手下よ!」
手下がいるのか!?
リリは思ってた以上の冒険に出てしまったのかもしれない。
ちょっと遠くの山へ歩いていくだけと思いきや、こんな化け物に会うだなんて!
バットトは笑いながら更に急降下してくる!
「妖精さん何とかしてー!」
「落ち着いてリリ!貴女の小さな体を利用するのよ!」
ますます困惑するリリ。
バットトの口の中の牙が輝き、リリに向かってくる。
「その綺麗な目をくりぬいてやるよ!」
何て恐ろしいことを。
リリはたまらず飛び上がり、せめてバットトの背後をとろうとした!
「あれっ?」
何かに尻餅をついた。
それは、バットトの背中…リリは何と、敵の背中にのってしまったのだ!
焦るリリだが何より焦ったのはバットトだ。
「こ、こら!降りろ降りろ!」
バサバサと飛び回るバットトにしがみついて離れないリリ。
焦りに焦り、バットトは方向感覚を無くして目を回す。
そして…
「うわあああああ!!!」
バットトは近くの木に、頭をぶつけてしまった!
目を回しながら気絶したバットト…。
そして木にしがみつくリリ…。勝ってしまった。
「凄いわリリ!」
「い、いや…こいつが勝手にやられたんだけど」
まあ勝てた事には変わりない…。
それにしても…これからもこうした連中が襲ってくるようだった。
リリは頭の後ろの赤いリボンを結び直し、気を引き締める。
「リリ。私がついてるわ」
妖精はリリに近づき、温かい光を浴びせた。
「むぬ…厄介なやつが現れたものだ」
二人を紫の水晶玉で監視していた者がいた。
顔に蝙蝠の羽を模した仮面、黒い鎧を身に纏い、鋭い爪のついた籠手を持つ男が、灰色の怪しい部屋で二人の様子を見ていたのだ。
その目は青く不気味に輝いていた。
「ディマーラ様!!バットトがやられました!」
部屋に骸骨の騎士が入ってくる。悪魔ディマーラは腕を組んで目を瞑る。
「仕方あるまい。バットトを助けてくるのだ。あのリリという人形を、何としてでもここへ近づかせるな」
ディマーラは部屋の隅にある、ガラスケースのような物に入った宝石を見た。
宝石は桃色の輝きを放っている。
「あの妖精に…何としてもこの魂を返す訳にはいかぬ」