冒険の始まり!
新たな小説です!アドベンチャー×アドベンチャーと同じく冒険物!
どうぞごゆっくり!
「これですよ」
髭を生やしたスーツ姿の男が、何かを抱き抱えていた。
それは長い金髪に赤いリボン、水色のドレスを着ており、パッチリした青い目の、小さなフランス人形。
デフォルメされたような小さな体で、可愛らしい造形の人形。
人形職人が作った、素晴らしい出来の人形だった。
茶髪の少女に手渡される人形。少女の近くには、微笑ましく見つめる優しそうな母親。
人形がまさに少女の手に渡されそうになった…その時!
フランス人形の足が勝手に動き、少女の手を蹴飛ばす!
「きゃああああ!!!」
叫ぶ少女は人形を手放す。
人形は木製の床に着地し、店の自動ドアへ向かう。
そして、はっきりとアカンベーをした。
人形はドアを抜け、外の世界へと飛び出した。
「ひゃほー外だー!」
店に閉じ込められていたフランス人形は、長年の夢だった日の光についに当たったのだ。
歩くフランス人形。
その噂はたちまち町中に広がった。
町のモニターテレビが歩く人形が映された防犯カメラの映像を表示し、町の人々はたちまち釘付けに。
「さすがにフェイクだろ」
「どう見ても本物だぞ?」
様々な意見が飛び交うなか、フランス人形は建物の裏に隠れながら進んでいた。
「これが町かー」
フランス人形は町の景色を楽しみながら歩いていた。
彼女は歩くフランス人形、店ではリリの名前で呼ばれていた。
何で歩けるのか、何で生きてるのか。
今までそれを隠しながら、人形屋で何年も過ごしてきたのだ。
最初は店の人形の一つとして並べられるのは悪くはなかった。
だが、魂が宿った人形であった彼女は段々その生活に嫌気が差してくるのに気づいたのだ。
自分はただの人形ではないのに、何でただの物品として扱われる?
店員の前で危うく表情を歪ませてしまいそうになった事も、多々あった。
一生このまま店に飾られたまま生きていくのか。
そう考えていた矢先に、ついに外へ抜け出るチャンスがやって来たのだ。
「私は人形じゃない。自由に生きていきたい!」
店に来る客たちを見てきた彼女には、その気持ちが羨ましくて仕方なかった。
そして今、彼女は自分のやりたい事を思い思いにやっているのだ。
マンホールの上で回ったり、ゴミ箱にのぼったり…。
「たのしー!!」
リリは建物の裏で遊びに夢中になる。
「ん?」
リリの視界が薄暗くなった。
「いた!フランス人形だ!」
リリが振り替えると、そこには沢山の通行人たちがリリを見下ろしていた。
手を伸ばしてくる人々。
リリは絶対に捕まるものかとウサギのように跳ね上がり、凄い速度で逃げていく。
だが、人形と人間では一歩の一股が違う。
いくら速くてもこのままでは追い付かれてしまう!
息をきらしながら辿り着いた先には、公園があった。
丁度いい茂みがある。
「あそこに隠れよう!」
リリは茂みに飛び込む。
思った以上に葉っぱが硬くて痛かったが、文句をいってる場合ではない。
人間たちはリリを諦めそうにない。
網や棒を持ってあちこち歩き回っている。
リリは茂みに隠れたまま、ため息をつく。
「はあ…もし私が人間ならな…こんな事には」
「人間になりたいの?」
不思議な声が聞こえてきた。
見つかった!驚いてリリは身をうずめるが、そんなリリの目の前に降りてきたのは不思議な光の玉だった。
玉は女神のような声を発する。
「初めまして。怖がる事はないわよ。私は妖精」
「妖精?」
リリは妖精など信じていなかった。
…が、動く人形があるのだから妖精がいても何も不思議ではない事には気付かなかった。
妖精はリリの顔の前に寄り、更に輝く。
「リリ。自由になりたいのよね?なら、私が願いを叶えてあげるわ」
「ほんと!?」
ビー玉のような目を輝かせるリリ。だが妖精は少し言いにくそうに答えた。
「…でもねリリ。貴女に一つお願いがあるの。私が妖精なのにこんな姿なのは、ある悪魔に力を封じられてるからなのよ」
つまりこの妖精は、光の姿が本来の姿ではないという事だ。頷くリリに、妖精はある頼みをした。
「リリ。貴女自分が何者なのか気づいてないみたいだけど、その悪魔に会って私の封印を解けば、自分が何なのかが分かる。同時に私を助けてくれたら、貴女の願いを一つ叶えてあげる」
リリの表情はたちまち明るくなった。
…黒髪でリリと同じ身長の少女が、木のかげから怪しく見つめているとは知らずに…。