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百合物語


 前回の話しとは全く脈絡もない思念を漂せて頂くと、人生は小説でいうところのプロットもストーリーも定まっていない即興演劇のようなものだ。

 プロットとは大まかな枠組みで、ストーリーとはそのプロットに沿った具体的な出来事の流れのこと。要は、日本昔話の『桃太郎』という作品において、「桃太郎が鬼退治する」という大まかな枠組みがプロットだとすると、「川から流れた桃をお婆さんが家に持ち帰って、それを切ったら桃太郎が出てきて、その後、大きくなって猿や雉などを連れて鬼退治に行く」という具体的な出来事の流れがストーリーのことだ。

 だが、人生にはそんなプロットやストーリーなどあるはずがない。だって、産まれたこと自体が自らの選んだ選択ではないし、人類76億人という未知の変数が私利私欲で蠢く社会の中で、誰が自分の人生を全て計画して生きることができるというのだろうか?そんなものは神しかいないし、いや、その神ですらも自らの意思なんてものは湧いて出てくる湯水のように偶発的な産物であろう。

 さて、なんで記念すべき第二話目になって、この小説の世界観をぶち壊すような言動をその主人公であるアタシが冒頭からツラツラと呟いてるかというと、アタシはこの「毒舌JKによるサブカル日常小説」なるプロットの元、いい歳した社会不適合者の成人男性が現実逃避のために書き連ねたかもしれない思い付きの即興小説のような虚構をぶち壊したかったからかもしれない。まるで映画の『トゥルーマン・ショー』の主人公のように世界の裏側を暴いてみたかったのだろう。

 というのも、今、アタシは告白されているのだ。それも女に。


 「・・・はい?」


 「あなたのことが好きです!!毎日、お茶漬け作って下さい!!」


 お茶漬けでいいのか。なら楽だなあ。ああ、でもそりゃ勿論、インスタントじゃダメだよね。

いや、違う、話はそういうことじゃない。なんでアタシは今、社会へのモラトリアムと社会への画一化がせめぎ合う青春の学び場、a.k.a、学校、へ登校中の坂道で告白されているのだろうか。それも、同級生のあんまり話したことのない目元が完全に髪で隠れているオカッパヘアーの地味子に。


 「いや、アンタのこと知らんし、ムリ」


 「なら、付き合って私のことを知ってください!!」


 いや、メンタル鬼強か。その攻めの姿勢は現代の承認欲求で右往左往する若者にしては見上げた根性である。どれ、話を聞いてみようじゃないか。


 「分かった。じゃあ、アタシのことが好きな理由をいってみろ」


 「なんかその社会に心底、絶望し切っているにもかかわらず、上手い具合に適応しているオッサンっぽいところがお父さんみたいで好きなんです!!」


 何だコイツ。アタシの崇高な性格を見抜いているところは評価するが、それは詰まるところ、ファザコンを拗らせて、アタシへと抱く疑似的な父親への親近感を恋愛感情と勘違いしているイタイ恋心と一緒じゃないか。


 「却下」


 「な、なんでですか!!」


 「アンタみたいなのはパパ活をしていればいい。それする勇気がないからって、手身近な女で妥協するな。どうせ付き合っても、高校卒業する頃には黒歴史となって別れてる。アタシは全部見えてる。大抵アンタみたいなのは父親との関係が拗れてて、その寂しさを埋め合わせたいがために、自分の抱いた親近感を恋愛感情と誤解しているだけの痛いメンヘラ女と何も変わらないのだ」


 アタシは容赦なくバッサリと切り捨てる。別名、人間伐採。環境破壊ならぬ、人間破壊を善しとする。

 

 「そうやっていってくれるのも、アタシに心残りが残らないようにして、振ってくれる優しさがあってこそですよね?」


 「そうっちゃそうだけど、じゃあさっきのアタシの毒舌が本心ではないかといえば本心だ。散れ」


 「ちょ、ちょっと、リンネちゃん、そんなんじゃ可哀想だよ」


 西園寺は申し訳なさそうにアタシをなだめてくる。だが、この女は内心、この非日常な光景に心底楽しそうにしているのが分かる。もう、目が爛々と輝いてるもん。

 一方、告白してきた女は下を俯いてしまっている。その長髪で隠れて、今、どんな表情をしているかは皆目見当が付かない。


 「・・・き」


 「は?」


 「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」


 その女は壊れていた。こんな分かりやすいメンヘラこの世界にいるのかってくらい、まるで真っ黒のサムネしたメンヘラの裏垢で呟きそうな文字羅列攻撃を仕掛けてきた。

 アタシは彼女に歩み寄ると、頭をポンと叩いた。

 

 「なんですかこれ、アタシと結婚してくれないんでしょ?」


 「いや、なんか目覚まし時計と同じ原理で、頭叩けば収まるかなって」

 

 「好き」


 もう分け分からない。好きがインフレしてる。アタシも一介の女子高生、同性に好かれることは名誉ではあるが、先はない。第一、女が女を好きって言って許されるのは、若さゆえだ。


 「ちょっとー、リンネちゃんと結婚するのはアタシだよ???」


 西園寺は負けじと再びアタシに抱き着いてきた。うわなんだこの茶番劇。周りの登校中の男女がスゴイ引きながら私たちを避けてそそくさと学校へと続く坂道を登校して行っている。後で噂になるのかと思うと恥ずかしい。


 「あの、こういうノリ、中学校で卒業した方がいいよ」 


 「えー、リンネちゃん、ホントつれなーーーい。でもそういうところが好きーーー」


 「私は本気」


 なんだこれ。気が付けば、私の人生のプロットが「毒舌JKの百合な日常」へと変動しつつある。こんな展開、元社畜リーマンの転生ものの小説でない限り需要がないじゃないか。神は飢えているのだろうか。百合に。


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