現状確認から治療開始前まで
あくまで手術を受けた側からの話であり、医術関係の専門家ではないため、一部間違っていたり勘違いした認識も含めて、歯列矯正と顎の手術について体験したことを記したいと思う。
書き残しておきたいと思った理由は、忘れてしまうにはなんだかもったいないな、と感じたから。
あとついでに何でもいいから文章を書きたい気分になったから。
本話では治療前から手術前まで、次話に手術と入院生活、最後の次々話に退院後と現在に至るまでの構成にする予定。
と思ったが書いている途中で文量がかさんだため分け方はテキトーになる模様。
まず、歯列矯正を始めたきっかけ、のさらに前の状態から。
前歯で物を噛み切れない感覚、というものはどの程度理解や想像されるものなのだろうか。
自分の場合は物心ついた頃から歯の並びが悪く「噛み切る」という動作が非常に苦手だった。というかほぼ出来なかった。
具体例を挙げるなら、イカ、レタスを噛み切れないのはもちろん、干瓢巻、肉類もダメであった。
試してはいないが、おそらく自分の舌ベラを噛み切ることも出来なかったであろう。
これらを食べる場合は奥歯ですり潰すように切らなければいけなかったため、大きい形そのまま口の奥まで入れて食べる姿から「食い意地が貼っている」とからかわれ悲しい思いをした小学生ごろの記憶がある。
と書いた後で、長い間歯並びについて「なんだか嫌だけどまぁいっか」程度でさほど深刻に考えていなかったと述べても説得力が無いが、まぁテキトーに考えていたのは確かである。
具体的に治そうと思い立ったのは、仕事を始めて数年経ったころ。歯が痛くなったのが契機となる。
虫歯かなにかかと思って歯医者に行ってみたところ、ストレスによる食いしばりと歯並びの悪さによる力の掛かり方の不均一さが合わさった結果だと診断された。
歯磨きを怠ったといった、過ちを犯したわけでもないのに歯が痛い。
しかも常に鈍く痛む。作業の合間、寝る前、その他意識が何にも向いていない空白の時に気になる。
これには何故か無性に腹が立った。
今すぐ何かしよう、何かしなければという気になった。
何についてもそれほど積極的な行動を起こさない性格であったのにである。
今思えば、ストレスに対する八つ当たりのような何かであったと言える気がするが、とにかく歯医者から勧められた矯正歯科を早速訪ねることにした。
その矯正歯科は駅の近くで比較的新しい、とはいえギリギリ平成に入ってから建てられた感じのビルに入っており、おじいちゃんと言っていい年齢の主治医が切り盛りしている。
最初は治療の準備段階、状態確認である。
この文を書いている時からずいぶん前になるため詳細な順番や、一度に行ったかどうか覚えていないが、写真やレントゲン、歯型を取った。
あと顎の筋肉か神経かを調べるために電極を付けて測定していたが、詳細が分からなかったので割愛する。
写真は正面、右側面、左側面、上顎、下顎。このうち上下顎を撮影する際に口の横幅とおおよそ同じ幅の鏡を口に押し込まれるのだが、これがなかなかつらい。鼻で呼吸することを意識しないとえずく。
どんなにつらくても、撮影が終わらないと抜いてくれないので、撮影しやすいよう意識して頭部全体を動かさないようにするのがコツである。効果があるか不明だが。
レントゲンも正面と側面で撮影するのだが、この撮影時に気づいたことがある。
それは「頭部形状の基準」とはどこか、である。
仕事上図面を引いたりする人間であったため、形状を語る上で基準が無ければ始まらないことを重々承知しているがゆえに、体の基準について考えてみたら妙に納得というか、そんな発想を今まで思い描いたことがなく新鮮な気持ちになったのを妙にはっきりと覚えている。
一般的にはどこなのか知らないが、今回の撮影では耳と耳を結ぶ線が基準となり、左右中心はその直線の中
点だった。
どうやって定めるかというと、撮影機材に頭部の方向へて向け固定された棒が出ており、これを両耳に差し込むのである。
言葉だけで説明するのは難しいので何か似た物がないかと考えると、UFOキャッチャーが近いと思う。
景品に位置する場所に頭部が、キャッチャーが機器側である。
指定の位置に自らの頭部を設置、担当者の操作で左右から均等に棒が迫り痛くならない程度に深く棒を耳の中に差し込んで準備完了。撮影し棒を抜く操作をしてもらうまで待機。という流れである。
これがなかなか怖い。と感じる人がいそうだな、と冷静に見ていた。
やりたいことは見れば分かったので、言われたとおりに動くだけで嫌な感じは何もしなかった。
しかし歯の矯正とは多くが子供時代に行うため、理解出来ない子の場合は「耳に異物を入れる」という事を嫌がるのではないかなと考えていた覚えがある。
さらに、棒の移動はモーター駆動であるため、接近時には特有の回転音が聞こえるのも恐怖感に拍車をかけるのではないだろうか。
長々と書いたがここまで「正面からレントゲンを撮る」話である。
続いて側面へ移る。
別の機材へ移動、顎を乗せる形で機材に固定、レーザーによる測位で位置を確定し撮影開始。
開始するのだが、これもまた怖い。と思う人がいるであろう。
少し顎を突き出すような形のまま、板が顔の側面を一周するのである。
この「側面」とは耳のすぐ近く、数cmも離れておらず非常に近い。というか産毛が触れている。
こちらもまたモーター駆動であるため、特有の高周波を撒き散らしながら顔の周囲を一周する。
閉所恐怖症が強く出る人にはつらいんじゃないだろうか、と勝手に考えたりしていたものである。
以上が写真とレントゲンの話になるが、ここまでは経過観察時にも行うため治療全体を通して何回も行う。
次に型取りの話をする。
一度しか行わなかったので少し曖昧であるが、前歯部分の型、上顎の型、下顎の型の合計3回行ったと思う。
前歯部分の型は少し硬く赤っぽいゴムのような熱い物を、かなり強めに噛むことで型取りを。
上下顎はペースト状の白く冷たいつるつるした何かを口の中に盛り付け、歯のサイズに合った金属製の桶を乗せ、それを反対側の顎で押し付けることで型取りを行った。
この白いペーストが固まってから取り出すのだが、なかなか奇妙な感覚である。言葉で表現しようにもその表現力を持たないため一言でだけ現し終わりとしておく。スッキリする。
これで治療前の調査まで書き進めた。次はその結果と治療方針の決定である。
型から模型を作り、治療の方向性をまとめられる程度に期間が空いた後(たしか1ヶ月)、再び訪れ説明を受けた。
結論から先に書くと「手術前提の治療になるから、始めたら止められないのでやるなら覚悟してね。今ならまだ止められるよ。(意訳)」といった内容だった。
顔の正面と横方向から撮影したレントゲン写真から、骨の位置や歯の位置、顎の付け根などを元に幾何学的に寸法を割り出して標準的な数値からどれだけ乖離しているのか云々といった数値的な説明もあってありがたかったのだが、肝心なのは次の2点であった。
1.歯の矯正だけでは噛み合わせの修復は不可能、だから下顎の骨に外科的手術必須
2.下顎と上顎が横方向に大きくズレているため保険適用可能
どうやら骨ごと盛大に形が悪かったようである。
あまりにも悪いものだから、咀嚼困難という先天的障害とも言えるほどであるため、その治療という形で健康保険が通るとのことであった。
具体的には歯2本分以上横にズレがあると大抵通る、とか説明を受けたはずである(記憶曖昧)。
逆に受け口の症状は非常に難しく、前後にかなりのズレがあっても「美容のための矯正」になるため健康保険適用外になるらしい。
治療を続けるか否か。
ここで分かれるのだが、もともと何があっても治療しようと思っていたため、特に迷いもせず続けることにした。
続いて治療の話に移るのだが、切りがよいので次にしたいと思う。




