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殲滅戦



 さっさと櫓を《解放》し、ゴブリンの巣に向かう。ミラは、……ちゃんと付いて来てるな。よしよし。 


 オイラの得物はレイピア、名前はまだない。


 重くならない程度に《鋼の装備》(ほんとは石)を各部位に展開しつつ、《チャージ》も忘れない。


《身体強化》……からの《身体強化2倍》を発動させて具合を確かめる。…………ふむふむ。やはり違いがよく分からん。〈雷〉の効果は、ほんの微弱という事で間違いなさそうだ。〈光〉の効果で前よりは疲れにくくなってる訳だから、しばらく使ってないと違いは分からないかな。回復付きだしね。


 俺は違いの分かる男ではなかったということか、残念だ。


 ……えー。じゃあ、もうこれ一択でよくね? 2倍とか張り切って登録したけど、いらんよね? 1つでいいじゃん。俺反省。


 まだ見直したい所もあるからね、まあまた今度でいいや。それから、残念だけど《光学迷彩》はフレンドリーファイア、いわゆる誤爆が怖いから使わずに、《ステルス》発動。



 そろそろ警戒しながら近づきますかね。


「ミラ、そろそろゴブリンの巣が見えてくるはずだから、周りの警戒を強化してくれ。巡回してるヤツとかいるかもしれないからな。それから、まず俺がデカいの撃つから、その後で突撃な。頼むぞ」


「ん、おおっ。いきなり気配が薄くなったかと思えば、やはりそこにいたのか。ビックリさせるでないわ。何をやっておるんじゃ、まったく」


「おお、すまんすまん。戦闘前だから、気配を殺したんだ。言うの忘れてたわ」


「……まったく、おぬしというヤツは、とんでもないのう。姿は見えるのに気配が薄くなるなんて、初めて味わったのじゃ。恐ろしいヤツじゃ。これは本気を出してもワシが負けるかもしれんのう」


 そういう風に感じられるんだな。ふむ。使えそうだな。これで〈光学迷彩〉いれたら、オイラ無敵か? 相手にされなくなるから寂しいかな。まあ、弱点もあるしな。調子に乗っちゃあいかんぜよ。とか思ってるうちに、見えてきたぞ。



「ミラ、簡易的だけど建物らしき物が見えてきた。見通しのいい所まで移動するから、ついてきてくれ」


  *



《双眼鏡》見張りは……いないかな、巡回もしてないのか? 余裕なのかな。それとも、そこまでの知能がないのか。いや、警戒はしておこうかな。油断大敵、俺用心。



 ほうほう、まだ奥にもいそうだなぁ。こりゃあ30は軽く超えてるな……50からいか。建物内にどれだけいるかだけど最低でも50はいるな。人間は、…………いない、かな。



 ふー。この数は、焦点ズラして()ぎ払っても一撃では無理そうだぞ。


「ミラ、見えるか? 最低でも50はいる。建物内は分からないが、それなりにいるとみた方がいいと思う」


「ふむ。確かに多いのう。数えるのも面倒じゃ。やるならさっさとやるのじゃ」


「軽いなぁ。この数は面倒だぞ。油断すれば何が起こるか分からないからな。数は脅威(きょうい)だ、警戒は(おこた)らないようにしてくれ。それから、こういうのって、人が捕らわれてたりしないのかな?」


「何を言うておる。あやつらにそんな知能はないのじゃ。さっきも言うたが、会敵即殲滅(かいてきそくせんめつ)じゃ。やるかやられるか、それだけの相手じゃ。変にためらう方が危険なのじゃぞ」


「そうか。そうだったな。じゃあ遠慮なくやれるってわけだ。ここからなら攻撃入れらそうだから、しばらく後ろを頼む」


「ほう、ここから攻撃が届くのか? ワシでもこの距離は無理じゃぞ? おぬし本当に凄いのう。まあ、後ろは任せておくのじゃ、大魔法には時間がかかるからの。じっくり見せてもらうとするのじゃ」



 まあ、俺も初めて実戦で使う魔法だからな。恐らくいけると思うが、ダメなら〈石弾〉撃ちながら突撃して、〈放水砲〉で距離をとり、〈スラッシュ〉でトドメを刺すまでだ。


 仮に、どうしようもないヤバいのが現れたら〈閃光〉かまして、ミラ抱えて〈光学迷彩〉発動。様子を見つつ、現場を離脱って感じかな。他者を抱えた状態でうまく発動してくれるかは疑問が残るが、イメトレ完了。イメージしてトレーニングね。



「じゃあ、頼んだぞ。『我が身を守り賜え』《ソーラーレイ》!」


 右手を挙げ、人差し指を天に伸ばす。



 …………やっぱそうだ、撃つまでに時間かかるのが感覚で分かる。こうなるのか。こりゃあ、1人じゃ無理だな。良かったよミラがいて。


 キュイーンって感じで、ジワジワ暖かい何かが()まってくる感覚が手に。


 まだだ、まだ貯まらんよ。新しく作った魔法の力、見せてやる!


 何となく両手を上に向けたくなった。


 みんなの光、俺に分けてくれ! 


 ……あっ、貯まるのが早くなった気がする。えー。そういう仕様なのー。いいけどさー。


 照準は中心の建物に合わせるか……


 まだか、もうちょい、……


 3、2、1、よしきた。


「よし! いくぞっ! 俺は不可能を可能にする男だ!

《ソーラーレイ》()ーーい!」


 キラッ、ッピカッ


 人差し指を目標の建物に向けると、頭上から光の筋が、 


 ジュワッ、ボッ、ボッーー、ブワー!


 あっという間に建物を燃やし尽くす。そのまま指を右に動かすと、光の筋も右に移動する。


 ジュワッ、ジュワッ、ジュワッ、ボッボッボッ


 ゆっくり腕を動かすと、次々と掘っ建て小屋が燃え上がる。それに巻き込まれて緑色の物体も消えていく。


「うわー、えげつねー」


 ……あっ、ここまでか。エネルギーの枯渇(こかつ)を感じた。


 6~7割はいけたか。


 火災発生中、大火災発生中。放火犯は俺。



「な、なんじゃあの魔法はっ! あの威力もそうだが、初めてみる魔法じゃ! おぬし、何者なのじゃ!」


 あ、またやっちまった。またエフェクト忘れた。俺ってやつは……、せっかくの見せ場だったのに、反省もしたのに、寝る間も惜しんで登録したのに……


 ガックリうなだれる俺に、ミラが(あき)れて声をかける。


「おぬし大丈夫か? シンドイならしばらくそこで休んでおれ。周りに敵はおらんようじゃし、あとはワシがやってくるのじゃ。出番がないのは面白くないのじゃ」


 おう、気遣いがありがたいのか辛いのか。出番が欲しいなら、差し上げましょうかね。暴れたいみたいだし。


「ああ、ありがとう。大丈夫だ。じゃあ俺は援護に回るから、ミラは好きに暴れてくれていいぞ。後ろとサポートは任せてくれ」


 嬉しそうに笑って走っていくちみっ子。いや脳筋ちみババ。


 さて、お手並み拝見といきますか。


  *



「とりゃー」ドゴーン!


「すげー」


 燃え盛る火をバックに、ますは跳び蹴りから入ったよこの人。魔法使いじゃないの? 初撃は蹴りなの? 普通は遠距離攻撃続けるか、魔法で攻撃入れてから突撃するんじゃないの?


 おう。職業は武闘家だったのか。あ、ちっちゃいから跳んでんのね。納得。


 にしても動きが流れるようで、踊っているみたいだ。蝶のように舞い、蜂のように刺す。足技多いけどさ、このババ。



 あ、なんかゴニョゴニョ言って、魔法使った。


 ドッバーン!


「うげぇ」


 なーんだ、使えるじゃん火魔法。なかなか使わないから疑問だったけど、バーン! って爆ぜたから、爆発系か? 打撃からの魔法ね。スキを作らない連続攻撃だな。いいねぇ、俺も使お。よし、いただき。



 念のため、ミラに向けて《送風》しといてあげよう。どこまで効果がいくか分からんけど、多分ないよりはマシなはず。火の手が凄いからね。俺のせいだけど。


 ゴブリンさん達がかわいそうとは思わないけど、圧倒的だよ、この人。強い。闘い慣れてる感じ。視野も広いし、動きに(よど)みがない。これが闘いか。要所要所に魔法を入れて、スキがない。


 こりゃあ、動かれたら厄介(やっかい)この上ない相手だな。(とら)えられるかどうか、あのスピードをどうするか、って所かな。まあ、戦いたくない相手だわ。近接戦闘なんて痛いの間違いないし。そもそも戦うつもりもないけどね。考察って大事でしょ?


 俺なら、食べ物で釣って、意識を()らしてるうちに、お逃げだな。ふふふ、逃げるのも戦略のうちだ。ミラからなら、簡単に逃げられそうな気がする。うん、間違いない。方向音痴だし。



 これだけの災害現場だ。さすがに熱いかと思いきや、《全身空調》のおかげで俺快適。恐らく凄い臭いだと思うけど、俺感じなーい。これ売れないかな? いい仕事してますよ! さすがオイラの『生活魔法』。快適な環境を提供していただいております。ありがとう。


 外での検証は、効果ありって事でいいかな。でも戦闘してないからな、激しく動いたらどうなんだろうね? まだ要検証のようですな。



 おおっと。ミラさん終了ですか。


 すげーな、数もそれなりに残ってたはずだけど、俺一切手出ししてないよ? するまでもないというか、見つけると消えていく? 俺が周りを警戒していたとはいえ、スピードが違うのな。やはり闘いにおいて、素早さは重要ですな。また1つ賢くなったよ。百聞は一見に如かず。あんなの見せられたら、スピードを求めたくなるかもね。



 周りを確認するが動く物体はなし。炎の向こうは見えないから、逃げ出したのもいるかもしれないけど、安全確保は問題なさそうだ。


「お疲れ、ミラ。大丈夫そうだな」


「当たり前じゃ、この程度で傷など負わんのじゃ」


「そりゃあそうか、すげーカッコ良かったぞ。動きがハンパないな。魔法の使い所も参考になったし、ミラが強いっていうのも(うなず)けるよ。あ、信じてなかったわけじゃないからな、まさかミラが魔法と格闘を織り交ぜて闘うとは思ってなかったからな」


「ふん、そうじゃろそうじゃろ。まだこんなものではないのじゃ、本気を出したらもっと凄いのじゃぞ」


 嬉しいそうで何よりだ。

「分かったよ。さすがミラだ。ちょっと後片付けするから、こっちに来といてくれ」


 山火事になんかなったら、オイラ罪悪感で寝れなくなっちまうからね。消化活動は、基本の使命であります。はい。



《放火砲》×2 ドババババードッシャー

 両手を広げ、一気に放水。瞬く間に鎮火(ちんか)していく。これも凄い。消防団に配備したいくらいだね。間違いなく売れる。


  * *



 こりゃあ、〈火葬〉は要らないな。

 燃えた、燃え尽きたよ。


 あ、でも魔石だけは残るのな。不思議仕様。


 ゴブリンの魔石、確か『リーレイの町』の冒険者ギルドで、持ち込み価格1つ2500エーンだったかな。ばかにならないから、頑張って回収しとこー。


「ミラ、一応警戒しながら魔石の回収しておこう。売れば金になるから、食費の足しになる」


「あい、分かった。もちろんわしも協力するのじゃ」


 よく見れば所々黒くなってるな。攻撃は受けてないだろうけど、炎の熱と、ホコリかな。俺は汚れもなく、キレイサッパリしてるし、さすがにこのままなのもあれだな。


「ミラ、服が汚れてるから〈洗浄〉かけてもいいか? 必要なら軽く回復もしておくけど」


「おお、それは助かるのじゃ。ぜひ頼むのじゃ」


「じゃあ、失礼して、《洗浄》《癒やしの光》」

 サァー、ポワァーン


 うん。バッチリ。手をかざして近づけば、触れなくても他者にも発動してくれました。オイラの『生活魔法』グッジョブ!

 この2つは元からエフェクト付きだから、これ以上演出はいらないと。ちっ。


「よし、じゃあ回収するぞ」


「……ああ、ありがとうなのじゃ。服もキレイになったのじゃ、疲れもスッキリなのじゃ。おぬし、……いやもうよい。いちいち突っ込むのも疲れるのじゃ。せっかく回復してもらったのに、台無しになるところだったのじゃ」


 おい。突っ込みにそんなに体力使うのか? さっきあんなに飛び跳ねてましたよね? 回復が台無しって、突っ込みは、それと同じくらい疲れるってことですか? なんでやねん!


 ツッコんじゃだめだ、ツッコんじゃだめだ。

 俺はスルースキルを獲得したはずなんだ!

 口に出さなければ、ツッコミじゃない!



 よし。……取り残しはないな。建物の残骸はどうしようか? もしかしたらがあるから、確認しておくか。どうせシャワー浴びたいと思ってるし。魔石は大事。無駄にしちゃだめだよね。大食らいがいるし……


 1エーンに笑う者は、5エーンに大笑いって言うしね。



「ミラ、また後で〈洗浄〉かけるから、念のために建物の残骸の下も確認するぞ。もしかしたら生き残りがいるかもしれないし、お宝があるかもしれないからな」


 あったとしても、多分消し炭だけどね。はは。


「あい、分かった。もちろんわしも協力するのじゃ」


  *



 ミラは全身真っ黒になりながら作業してくれたけど、うん。お宝はなし。その代わり、魔石をいくつかと、ちょっと大きめの魔石を1つ回収できた。ちょっと強いのがいたのかな? ミラの労力分は値が付くといいなぁ。申し訳ないし。


 え、俺? 魔石はいくつか回収できたけど、ほぼ汚れはついてないよ。何でだろうね? おいらデリケートだから、こまめな《洗浄》と《全身空調》のおかげかな。うん、ありがとう。俺。



「お疲れ様、お宝も、生き残りもなしだな。じゃあ《洗浄》」


「……ああ、ありがとうなのじゃ。これだけの魔石が回収できただけでも、探した甲斐(かい)があったのじゃ」


 ふー、殲滅するより、魔石を回収する方のがシンドイって……


「魔石は全部で64。そのうちの1つが最後にミラが見つけてくれた少し大きい魔石だ。これは上位種の物になるのか?」


「うむ、どうじゃろうのう。断定はできんが、大きさに違いがあるのじゃから、なにかしら別の魔物か、ゴブリンの上位種とみてもよさそうじゃのう」


「そうか、まあ、ギルドに持っていけば分かるかもな。とりあえず、俺が全部預かっといていいか? 売れたら山分けにするから、町に着いたら一緒にギルドに行こうか」


「何を言うておる。それはすべておぬしの物じゃ。わしは手助けをしたにすぎぬのじゃ。大方おぬしの大魔法で片付いておったし、それにずっと世話になりっぱなしじゃしの、わしには受け取れんのじゃ」


 まあいいか。こういう話は早めに終わらせるに限る。確かによく食べるからな。かといって、ゼロというのは俺がイヤだ。まあ、換金後に渡せばいいかな。食費分は軽く天引きしてね。わざわざ今言う必要もないからね。



「ミラの気持ちは分かった。その話は換金後に考えよう。さすがに疲れたし、昼食も兼ねて休憩しよう」


「そうじゃの。わしも動いたから腹が減ったのじゃ、早速昼食をお願いするのじゃ」


 はは。お約束の展開ですな。食いしん坊属性持ちだけに。よく食べるんだろうなぁ、結構動いてたし。町への目処(めど)がつけば、大盤振る舞いしてもいいけど、食料は大事にしときたいからな。悩ましい問題だ。



 まあ、飯食って、シャワーだな。




 さすがにこの場所で食事する気にもなれず、少し先に移動した。水浸しの上に、掘っ建て小屋であったであろう黒ずんだ残骸が、更に俺の食欲を遠ざける。やっちまった本人だからという訳でもなく、生理的に無理。


 ミラは平気らしい。この悲惨な光景よりも食欲が勝るらしい。その図太い神経は(うらや)ましくも思わない。オイラはデリケートなままでいい。



 食後のお風呂は断念し、急造の簡易シャワーで済ませた。風呂の誘惑もあったが、まだ昼だからと思い留まった。多分、今風呂に入るともう動かなくなると思うから。そういう年頃だし。


《洗浄》だけでは何かが足りない。オイラのワガママで、ミラは、しばし休憩。まあ、食べ物与えておけば何の問題もないんだけどね。さすが食いしん坊属性持ち。逆に喜ばれ、「ゆっくり浴びてくるのじゃ」と笑顔で見送られた。安定してます。


  * *



「お待たせ、おかげでスッキリしたよ。早速行きますか」


「そうか、それは何よりなのじゃ。まだ町は見えてなかったからの、早めに移動するのが正解なのじゃ」


 確かに、まだ町らしきものは見えなかったけど、《双眼鏡》で見たら、だいぶ先に街道らしきスジは発見できたんだよな。あそこまで行けば、また櫓の上からなら、何か見つかるかもしれないな。




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