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俺達の行方



 あれっ? 誰だっけ? この化粧のぶ厚い人。


 人? 生きてるよね? 表情が動かないから、分かんないや。はは。


 ね。ここまでの化粧は止めようねって話だったかな? コミュニケーションにも支障をきたしてるからね?



 領主のガルーマさんの秘書? お世話係? だそうです。今後の事を打ち合わせ。



 ガルーマ領主管轄の町を巡る旅。いや、仕事。

 主要な町は全部で4つ。ここ、『国境の町 オデルローザ』。他に、『獣人の町 ダッカル』『中央の町 アシャズ』『食材の町 デフーリン』があるらしい。


 地図も手配してくれて、どこから回ってもいいように、予め話は通しておいてくれるらしい。まあ、何て親切なんでしょう。ありがたい。変に期日を決められている訳じゃないし、馬車の準備や、掛かるであろう経費も前払いしてくれるんだって。何か待遇が良すぎて怖いんですけど。


 裏はないよね? オイラ悪い事してないよ? 何か恨まれちゃった? おかしいなぁ。オデルローザの人達は、みんな良い顔してたと思ったんだけど、オイラの気のせいか。怖い怖い。でも首輪着けてるから、何とかなるでしょ。うん。気にしちゃダメだ。



 どこから回るって? そんな愚問を。もふっとした方々がオイラを待っているのですぞ。『獣耳の町』に決まってるでしょうが。ふふふ。あ、『獣人の町 ダッカル』だった。脳内変換が激しいぞ。願望が入るとこうなるのか。期待値が高すぎるからな。うん。早く行こう。待たせちゃ可哀想だ。



 作った施設の保守・点検もあるからね。全ての町を定期的に回る必要もある。オイラ、結構忙しくなると思うんだよね。これってヤバくね? 働き過ぎて過労死コース? ずっと町を巡り続けるなんてイヤだよ? 最低でも、1年に1回くらいにしておきたいな。うん。しっかり〈強化〉しておこう。そうしよう。


 で、土魔法使いが育ってくれたら、はい、お仕舞いって感じでどうかな。うん。いいね。いいよ。そうしよう。たまに町を巡るのは、変化を楽しめたりして面白そうだけど、義務になっちゃうと辛いかな?



 順番が逆になるけど、早めに各町を回っちゃって、それから自分達の場所作りに取り掛かろう。そっちがメインだからね。中途半端に仕上げてから出掛けるより、先に、目の前の仕事を片付けちゃった方がいい気がする。


 決して、獣耳の誘惑に負けたからじゃないからね。うん。早速、岩山の拠点に戻って、もふっと相談しよう。



  * *



『第22回これからを考える大人だけの全体会議』


 もう22回にもなったんだね。感慨深いよ。会議という名の報告会。もうこれで止めにしよう。俺しか言ってないし。みんな何とも思ってないだろうしね。回数を覚えておくのも、地味に大変なんだよ? あはは。『会議』って付けとけば、それっぽっく聞こえるから、あら不思議。魔法の言葉です。《スルー》と同じだ。見逃して欲しい。



 はい。決まった事。


 領主さんからの依頼を早めに片付け、この岩山に帰ってくる。期間は、およそ1か月弱。町への移動に希望の施設作り、少し休んでまた移動。これを残りの3つの町で行う。まあ、それくらいは掛かるだろう。何事もなければね?


 この岩山周辺の本格的な整備は、その後で行う事にする。パブロとルイの整備計画も落ち着いて立てられるし、丁度いい期間なのかもしれない。



 行くのは、俺、ミラ、アリーの3人。2人とも、当然のように同行を主張。


 ミラは、「わしが一緒に行くのは当然なのじゃ。正妻じゃからの。それに、おぬしを1人で行かせたら何が起こるか分からんのじゃ。サポート役は、わしに任せるのじゃ」


 アリーは、「はいっ! 私もご一緒します。長旅には、お世話役も必要です! 2番目の私にお任せ下さい」


 うん。1人での長旅もツライものがあるからね。同行してくれるのは有り難いんだけど、正妻とか2番目とか、そこは関係ないからね? 同行の理由がそこなの? 3人くらいの方が身軽に動けそうだからいいんだけどさ。流石に全員で行くのも大変そうだし。まあ、いいか。


 何か、新婚旅行とか言って張り切ってますけど、まだ結婚してないからね? 言ったら、婚前旅行だよ? はっ。まただ。またどこかで肯定している俺がいる。オイラのスルースキルまでも《スルー》してくるとは、恐るべし。これが数のチカラなのか。ジャックとレックスまで加わってるから、1対6なんだよな。そりゃあ、勝てないか。


 まあ、負けもいいか。勝ち負けじゃないし。そんなに言ってくれるのって有り難いよね。うん。ありがとう。この旅で、俺もケジメをつけないとな。うん。そうしよう。



 パブロ、ルイ、ジャック、レックスはお留守番。周辺の再調査と、今後の計画を立てるとの事だ。この拠点の周辺も、もう少し整えておくらしい。


 パブロとルイからは、仲間がいたら、これを渡して欲しいと手紙を預かった。『場所作り』について書いてあるそうだ。困ってる仲間がいたら連れてきて欲しいそうだ。まあ、いれば考えるけど、そんなにいないと思うよ? 馬車もあるから、数人くらいなら何とかなるのかな。一応、2人からのお願いとして聞いておく事にした。


『岩山獣耳ランド』『獣耳の楽園』『もふもふ王国』。夢は広がる。そう。『獣耳は正義』だ。間違いない。




 まずは、『ダッカル』へ向かう。獣耳の町が俺を待っているからだ。そう。仕方がない事なのだ。


 一応の予定としては、『獣人の町ダッカル』でもふもふを堪能し、交易の要である『中央の町アシャズ』では、情報収集と、いろんな種族とこんにちは。


『中央の町アシャズ』には、エルフとかドワーフとか、結構普通に暮らしてるらしい。交易が盛んな事もあり、店を構えたり、何代にも渡り生活もしているそうだ。これは、回る順番を考え直したくなる話だが、悩ましい。どっちを取るべきか。



  * *



 効率を考えて、当初の予定通り『獣耳の町』から回る事にした。決まるまでに時間が掛かったのは、気のせいだ。順番は大事だからね。馬車での移動も楽じゃない。効率的に回らないと、余計に時間が掛かってしまう事になる。うん。効率を重視した結果の順番だ。


 決して『ドワーフとの酒作り』と『獣耳』を天秤に掛けた結果じゃない。おっと、『獣人の町ダッカル』だったね。町の名前も変えちゃえばいいのに。『もふっとタウン ダッカル』。いいんじゃない? オイラ達も、そこで暮らそうかな? いや。この目で見てからだ。折角『町を1つ作っていい権利』があるんだ。慌てる必要はない。


 何なら、その町の近くに俺達の町を作ってもいいんだし、問題がありそうなら、希望者には引っ越してもらえばいい。もふっと限定で。


 うん。夢は広がるね。妄想だっつーの。《スルー》



 話が逸れた。何だっけ?

 まわる順番だ。最後が『食材の町デフーリン』。ここでは、その名前の通り、いろんな食材が手には入るらしいから、遠慮なく仕入れまくって帰路に就く。大体こんな感じの予定だ。



 そう言えば、ミラの村はどこにあるのかな? この国である事は間違いないと思うけど。迷子の迷子のミラさんや、アナタのお家はどこですか? 訪問する約束はしてるのに、場所が分からないってどうなのさ。


 村の近くに行けば分かるって、やっぱり匂うのかな? 香ばしいのかな? こんがり焼けた匂い好きだからなぁ。もしかしたら、この領地内にあるかもしれないから、気に掛けておかないとな。楽しみと不安が入り混じった複雑な感情だけど、ミラがいい村だと言うからには、自慢の品でもあるのだろう。単に、『質より量』『うまさより重さ』『値段より大きさ』は止めて欲しいけど、出てきてから、いや、行ってからのお楽しみかな。覚悟だけはしておこう。




 出発の準備をしながら、アイテムボックスの整理もしておこう。沢山ありすぎて、随分ほったらかしだったからな。特に本棚の整理。本好きの俺が、こっちに来てから1冊も読んでないんだから、環境って大事だね。まあ、手元に本もなかったし、仮にあったとしても、本を読んでるような時間と余裕もなかったんだけど。


 美術品は、どうしようかな。まあいいや。よく分からないし、何なら岩山施設に飾ってもいい。また考えよう。でも売ったら幾らになるのか、どこかで鑑定してもらおうかな。



 本棚の中には、この世界の歴史書がいくつかあった。こういう物は、書いた人の立場によって内容自体が違ってたりもするから怖いんだよな。何でも鵜呑(うの)みにすると、ロクな事にならない。


 国を救った英雄も、敵対国からすれば、残虐非道な殺戮(さつりく)者、悪魔とか言われてたりもする。侵略した側、された側、受け止め方が違うのは当然だ。何でも書いてある通り、そのままを受け取っちゃダメだ。言論統制なんて当たり前。主義主張は時の権力者の意向次第だ。出版物に影響が及ばないなんて有り得ない。


 それは、今も昔も変わらない。世界が違っても一緒かもしれない。知らず知らずの内に情報は制限され、都合の良い情報だけが広がるようにコントロールされていたりする。


 ネットが当たり前の時代ですら、それは行われていた。怖い怖い。だから、情報は、受け取り手の意識次第で価値が大きく変わる。



 歴史書では、何があったかのか、結果どうなったのか、それだけ分かれば十分だ。勝ち組の情報は、それなりに盛ってあると考えておけばいい。戦争の結果なんて、辛勝も大勝に変わる。だから、戦争が起こって、どちらが勝った事になっているのか、それだけでもいいかもしれない。


 まあ、俺の受け止め方だから、勿論、賛否両論あるだろうけどね。この世界で何があり、どうなったのか、魔法の在る世界の歴史、興味深いが、じっくり読む気にはなれないな。やはり戦争の歴史だ。どこの世界でも、人間のやる事は一緒なんだろうか。科学も魔法も同じ方向に向かっているのだろうか。


 1つの発明が文明を生み、発展させる。それはやがて戦いに利用され、人の命を奪うモノに変わっていく。便利なモノ、役立つモノ。それが凶悪な刃となるなんて、そんなはずじゃなかったのに。人は同じ過ちを繰り返す。


 歴史書を読むと悲しくなるのは俺だけだろうか。うん。違う未来を作りたい。みんなが安心して平和に暮らせる場所。小さいけど、そこから始めよう。それしかできないから、出来る事をしよう。そう感じさせてくれる良い本だった。



 本は、知識を与えてくれる。作者の意図とは違ったカタチであろうとも、後世の役に立つのなら、それは良書だと思う。本にも一期一会がある。どんな本に出会ってきたかで、その人の意識は変わるし、少なからず言動にも影響を与えているものだ。


 だから本屋の行くのは楽しかった。偶然の出会い、発見の宝庫だからだ。探す喜び、見つける感動。まさに知のワンダーランド。ネットは便利だったけど、インスピレーションを磨くという点でいえば、やはり本屋に軍配が上がる。やはり、五感を多く使って行動する方が、感性はより磨かれていくと思う。


 あの空気感。懐かしいな。トイレに行きたくなる、あのインクの匂い。いろんな説があったけど、俺は、リラックスしながらも、どこか知識欲をそそられる、あの環境がそうさせていると思っていた。安心感は大事だからね。


 さてと、トイレ行こ。



 団長の趣味と思われる小説。英雄(たん)、悲劇に喜劇、お(とぎ)話まであったね。俺の覚えてた『ゴブリンさんシリーズ』は、残念ながら1冊もなかった。おかしいなぁ。結構みんな知ってる物語なのにな。ああいった深い、為になる本でしっかり学ばなかったから、あんな事になっちゃったんだな。ジャッジメントの末路。うん。本て大事。もっと読もう。


 でも、この辺の本は、すぐに読みたい感じじゃないし、少し落ち着いてからでもいいのかな。


 後は、『魔法の手引き書』。これは、結構価値のある物らしく、分厚くて読むのに骨が折れそうだ。読めば魔法が覚えられるとかの便利グッズじゃなくて、『理論』的なモノが書かれているらしい。


 パラパラめくってみたけど、『生活魔法』なる文字は見当たらなかった。残念です。まだ強化できるのか、コツはあるのか、他の人はどうなのか。何かヒントがあるかもしれないから、また読んでみる事にしよう。


 手を着けるには気合いが必要だけど、これは課題だね。少しずつでも読み進めよう。毎日の筋トレの後にでも時間を取ろうかな。ふふふ。筋肉コントロールの魔法とかないのかな? あ、〈身体強化〉があるから、そういう魔法はないのか。


 俺から見れば非常識な部分で、何か発見があるといいね。団長さん、ありがとう。大事に読ませてもらうからね。気にせず労働に励んでくれたまえ。『解放』される事はないと思うけど、心置きなく、これまでの悪行の対価を払って下さいな。



  * *



「よしっ! じゃあ、出発前の最後の夜だから、今日も乾杯しよう! 別にお酒じゃなくてもいいからね。みんな、いろいろとお疲れ様。


 パブロとルイには、ここの事を任せちゃうけど、決して無理はしないようにね。ジャックとレックスもいるんだから、安全第一で。何かあったら逃げちゃっていいからね?


 拠点も大事だけど、命の方がもっと大事だから。拠点はまた作ればいいけど、みんなの命は1つだ。掛け替えのないモノだから、よく覚えておいてね。頼んだよ。


 それから、ミラ。アリー。今までありがとう。そして、これからもよろしくね。2人が一緒に来てくれるから、楽しい旅になりそうだ。それなりに休憩も入れていくつもりだけど、辛かったり、休みたいと思ったら、遠慮せずに言って欲しい。みんなペースは違うからね。こっちも無理せず楽しみながら行こう。


 俺も初めての場所ばかりだから、迷惑掛けるかもしれない。その時は、また教えて欲しい。俺の常識はおかしいみたいだからね。頼りにしてるから、よろしくね。


 じゃあ、飲み過ぎには注意して、かんぱーい!」



「こちらこそ、ありがとうなのじゃ。おぬしのお陰で、わしの命は救われ、人生も大きく方向を変えたのじゃ。これからも、わしに任せておけば何の問題もないのじゃ。末永くよろしく頼むのじゃ。わしは、まだしばらく酒は飲まんのじゃが、乾杯なのじゃ!」



「はい。私もお酒は飲みませんが、乾杯です! ありがとうございます。楽しい旅に、実りある人生になりそうです。末永くよろしくお願いします!」



「この拠点の事はお任せ下さい。決して無理はせず、環境を整えて、お帰りをお待ちしております。1か月近くもあれば、町作りの計画も準備できていると思いますから。

 それよりも、アリーの事をよろしくお願いします。私達と離れて旅に出るのは、初めての事になります。成人したとは言え、まだまだ経験不足です。どうぞ長い目で見てやって下さい。

 今日も楽しいお酒が飲めそうです。私達の未来に! 乾杯!」



「お気遣いありがとうございます。その優しさがあるからこそ、アリーを安心して任せられます。どうぞ末永く、よろしくお願いします。

 この拠点の事は、心配せずとも大丈夫です。もしもの時の為に、食料の備蓄も、脱出口も隠してありますから。全てタビトさんのお陰です。私達は無理せず、出来る事をやっていきますので、ご安心下さい。

 帰って来た時にどうなっているか、楽しみです。ふふ。

 今日は私も飲みます。1人娘の旅立ちです。付き合って下さいね。私達の幸せに! 乾杯!」



「「かんぱーい!」」




「よーし。旅立ちのパーティーだ。飲み過ぎ、食べ過ぎには注意して、この時を楽しもう! みんな、笑顔をありがとう! そして、これからもよろしくね!!」




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