国境の町 オデルローザ 逆風の余波
『験者の石』は、領主さんが持って来てくれたみたい。いろいろとひっくるめた報酬だとさ。ありがとう? ジャッジメントの件? 奴隷狩りの件? 地下施設の件? 全部だって。そいつは、どうも。じゃあ今後とも、支払いの心配はなさそうですな、ダンナ。よろしく頼みますぜ。へっへっへっ。
この地方の領主さん。名前は『ガルーマ・ザッヒン』。まだ若いのに大変ですね。町長に裏切られるなんて。拠点となる町まで敵軍を引き入れる作戦。見事ですな。ん? どこかで聞いた事あるぞ? ちょっと違うか。うん。まあいいや。
丁度、領主さんが来てたから、対応が早くできて助かったみたい。通常なら、上に報告して返答を待ち、それから現場を動かしていくんだからね。その間をすっ飛ばす事ができるから。『鶴の一声』って凄いね。権力者による強制的な命令によって、どんどん対策が練られ、実行されていく。間近で見られて良かった。いい経験させていただきました。
これなら武力衝突もなくて済むかもしれないね。まあ1週間もあれば、こちらの準備は整うだろうし、何より、まだ向こうの軍隊の姿を見ていない。向こうにしてみれば、町長の手引きによって、ただ町に入るだけだったはずだからね。国境が閉ざされ、それなりの軍勢で牽制してやれば、よもや戦争にはならないと思うんだけど。甘いかな? もしも、向こうが端から戦闘する気でいるのなら、そんなの関係ねぇってオッパッピーするかもしれないけど、どうなんだろうね。町長によって衛兵の数が減らされてると思っていたら、それも有るのかもしれないな。
だから、壁の上に大軍を並べて威嚇してやるんだけど、やっぱり、もう一押しくらいは欲しいよね。折角【青の特殊奴隷】が居るんだから。それなりに働いてもらうのがいいと思います。
お互いに宣戦布告もしていない状況で、こちらから攻撃してしまうのはマズいとしても、やりようはある。相手に軍隊進行の口実を与えずに、諦めさせる方法。
少数精鋭による先制攻撃で粉砕してしまう。
思わぬ天災で、物理的にも進行出来なくさせる。
町長との悪巧みがバレた事を伝え、作戦失敗を分からせてやる。
もういっその事、今後の火種は消し去っておくべきと判断し、全面戦争を始めてしまう。
さあ、どれを選びますか? 早押しです。なんて脳内妄想している内に、対策が練られていくではありせんか。やりますね、ガルーマさん。伊達に、この地方の領主はやっていないという事ですな。うん。素晴らしい。平和主義者のようです。
やはり、【青の首輪】を着けた元町長を、国境の向こうに強制送還? 国流し? 難しいなぁ。まだ自国民だし、向こうは島じゃないし、流しもしないし。うーん。悩ましい。
まあ、どうせ向こうの国に行くつもりだったんだから、『首輪付き強制送還』でいいんじゃないかな。そこ、拘る所じゃないしね。『作戦 大失敗!』って書いたプラカードでも持たせて、歩かせて行けばいいんじゃね? 3日後に爆発する何かを所持させておくとか? これ以上、こちらの情報を漏洩されないように、文字通りの口封じ。言葉を喋れなくしておけば、十分かもしれないね。2度とこの国に反旗を翻さないように命令しておけばバッチリ? 甘い? うん。それくらいでいいみたい。
そうと決まれば即実行。着々と準備が進んでいきます。さようなら、町長さん。いや元町長さん。死なずに済んで良かったね。思いはいろいろ有るだろうけど、俺達を巻き込んじゃダメだからね。
あんたの敗因は、たった1つだ。元町長。
たった1つのシンプルな答えだよ。
『あんたは、オイラ達を巻き込んだ』
なんてね。偶々。偶然だ。偶々、俺達がこの町にきて、偶々、アリーが街中で絡まれて、偶々、オイラがジャッジメントを壊滅させて、偶々、いろんな不正が発覚して、その止めが町長の裏切りだ。 ん? 偶々だよな? ? まあ、いいか。何かもう1つ、忘れているような気が……。
元町長さんが言ってた。なぜ裏切ったのかって。
「坊やだからだよ!」
ちなみに、元町長さんの名前は『アズナブール』さん。特に意味は無いからね? また復活してくるかもよ? 何度でも?
今回は、偶々、事前に発覚したから良かったけど、マジで戦争の切っ掛けになっていたかもしれない。これまた、功労賞? 敢闘賞? 勲章モノだって。
そんなー。褒めても何も出ませんぜ、ダンナ。地下施設の使用料も、これ以上の値引きは勘弁して下せぇ。へへへ。
えっ? 他の町でも地下施設を作って欲しいって?
マジか。いい案だと思います。単純に、土地の有効活用になるし、土地代かからないし、快適だし、優秀な土魔法使いが居れば、本当に地下都市構想も夢じゃないってね。
はい。だから、まずは土魔法使いの育成に励みましょう。メンテナンスも必要だからね。いくら居てもいいんだよ? 城壁も堅いのが出来やすぜ、ダンナ。住居にも使えるし、お買い得だと思いますぜ。
それからも話は続き、出発の挨拶のつもりが、どんどん引き留められる事に。
『奴隷狩り』『スペード』『ウロボロス』のマークの組織。
協力して欲しい事が山積みだそうだ。と言ってもねぇ。オイラ達も『安心して平和に暮らせる場所作り』に取りかかりたいんだよ? はうっ! 何ですと? それは任せろと? 土地も許可もいただけると? わぁおぅ。これは検討の余地有りってヤツですよ、ダンナ。
ついでに、自由に商売しても良いって権利もくれませんか? ダメぇ? いいでしょ、それくらい。安心して暮らす為には必要なモノだと思うんだよね。個人的にはさ。よっ! あんたが大将! 大統領!
商業ギルドが閉鎖的過ぎるのも、今後の経済にとっては決して良い事ばかりじゃないからね? 自由競争も、ある程度は必要だと思いますよ。勿論、一定の制限は必要だけど。そこまでアホな事するつもりは有りませんから。分を弁えて生きていきますので、何卒、よろしくお願い致します。
はい。返事をいただけるまで待ちますよ? 誰が直ぐに出発すると? そんな訳ありませんよ、ダンナ。では、王国の返事が得られるまでの間、この町の為に動きましょう。そうしましょう。うん。それがいい。いい案だ。
じゃあ、そんな感じで、お互いに相談する事に致しましょう。今日の所は一旦お開きで。でも、『場所』の許可は、もういただけたんですよね? 商売の方が問題なんですよね? 分かりました。そんなに広い土地じゃなくても大丈夫ですからね。安心して下さい。はいてますから。
何なら、追加で、この町の壁を補強しますからね? 守りなんて、いくら固めてもいいモノでしょ? だから、よろしくお願いしやすぜ、ダンナ。
よしっ。オイラは3つのシモベに相談だ!
* *
「ただいま。みんな、ちょっといいかな。出発の挨拶のつもりが、また違う方向に話がいっちゃってね。領主さんに、何かと依頼されたんだ。その代わりに、こっちも条件を出してみたんだけど、どう思うかな?
まず、他の町でも地下施設を作って欲しいんだって。この町で作ったようなヤツを希望してるみたいだね。
『奴隷狩り』の殲滅や、『スペード』『ウロボロス』のマークの組織の情報を探って報告する事。それは元々こっちもやる気はあったし、国の協力も得られるのなら、正直、有り難い。それは良い話だよね?
その代わりに、俺達が作ろうとしている、『安心して平和に暮らせる場所』を提供してくれるんだってさ。というか、こっちで場所を見つけて、そこに『町』を作っていいって許可をくれるんだって。開拓許可ってヤツなのかな? 俺の土魔法を見てるからね。簡単に出来ると思ってるのかもそれないね。普通なら、大規模事業だからね。
そのついでに、自由に商売しても良いって権利もくれるように、お願いしてみたんだけど、流石にそれは即答できずに、王国の許可が必要なんだって。商業ギルドとの関わりがあるから、難しい問題なのかもね。
今後の国の経済活性化には、ある程度の自由競争は必要だよって言ってみたんだけど、少し時間が欲しいんだって。まあ、当たり前だけどね。そんな事を、いち領主さんが即答したら怖いよね。
だから、取り敢えずは、その返事をもらえるまでは、この町で待とうかと思うんだけど、どうかな? 1週間はみて欲しいみたい。すぐに出発するつもりだったから、調子狂っちゃうと思うけど、どう思う?」
「まったく。おぬしは本当に忙しないのう。次から次へと、よくもまあ。まさか、ここの領主と会っておったとは。まあ、それも今更じゃの。
あい、分かったのじゃ。わしは特に反対する事もないのじゃ。こんなに早く『場所』の目処が立つとは思っておらんかったからの。それも、いいと思うのじゃ。領主の許しがあるのなら、その方がより安心出来るというものじゃ。悪い話ではないと思うのじゃ。
ただ、そうなると、戦いに巻き込まれるかもしれんのじゃ。その備えは考えておるのかの?」
「ははは。そうだね。確かに、ちょっと忙しないかもね。
向こうの軍隊に関しては、元町長に責任を持って対処してもらう算段がついてるし、領主さんが既に兵を召集してるんだ。それに、俺が壁を補強して、戦闘意欲を無くすつもりでいるからね。もしかしたら、武力衝突もなくて済むかもしれないよ」
「おお。そうか。そこまで対策も練られておるのなら、安心できるかもしれんのじゃ。まあ、もし戦闘になったら、わしが暴れてやってもいいのじゃ。それはそれで楽しみなのじゃ」
「ははは。もし戦闘になるようなら、俺達は遠慮なしに逃げますからねって伝えてあるからね。残念だけど、戦いに加わる気はないからね? そこん所よろしくね」
「なんじゃ。つまらんのう。たまには戦闘もしておかんと体がナマってしまうのじゃ。まあ、それも仕方がないのじゃ。またモンスターでも見つけて狩りでもするのじゃ」
「ははは。うん。そうだね。その方がいいと思うよ? 出来れば食べられるヤツをお願いね」
「おお。そうじゃ。そうしよう。わしは狩りに行くとするのじゃ。今日は、焼き肉パーティーにするのじゃ」
「で。こんな感じなんだけど、みんなはどう思う?」
「私は、この前と同様、タビトさんに従います。そこまで考えられているのなら、安心できると思いますし、何かあってもタビトさんが側に居てくれるなら、それでいいです。それに、早く『場所』が見つかれば、それだけ一緒に居られる時間もできると思いますし、どこまでも付いて行きます」
「同意見です。全くあなたと言う人は。まさか、この短期間に、そこまでの話を領主と付けていたとは。全く驚きを通り越して、呆れるしかありません。もしかしたら、1番確実で、安全性な方法だったかもしれませんね。領主並びに王国の許可があるのなら、『場所』作りとしては、これ以上ないのかもしれません。
他の町でも地下施設を作ってほしいという依頼も、時間は掛かるかもしれませんが、対価も発生するのなら、悪い話ではないと思います。双方にとってもメリットがある、良い話だと思います」
「はい。その通りです。素晴らしい話だと思います。この短期間に、よくもまあ。相変わらずの規格外っぷりです。『場所』の御墨付きと、地下施設の作成、悪い条件ではないと思います。勿論、私達も協力します。最終判断は、タビトさんに任せます」
「「任せるー!」」
「そうか、ありがとう。俺と同じ考えでいいみたいだね。じゃあ、その方向で話を進めていくからね。途中で何か気付いたり、意見があったら、しっかり言って欲しい。遠慮はいらないからね。俺達は仲間であり、家族みたいなモンだから。よろしく頼むよ」
「おおっ。家族となっ! ようやくその気になったのじゃな! よしよし。良い事なのじゃ。やはり今日は、焼き肉パーティーなのじゃ!」
「えっと、ミラさんや。そう言うつもりで言った訳じゃなくてね? それだけ大事な仲間だから、遠慮しないで何でも言ってねって事だから」
「何を細かい事を言っておるのじゃ。要は家族みたいに接して欲しいという事なのじゃ。なら、それでいいのじゃ」
「はい。その通りです。嬉しいです。私達は、もう家族です。仲間です。それでいいと思います。今日はパーティーです!」
「おおっ。ようやく家族宣言していただけました。ずっと迷惑を掛けてばかりでしたから、今回は頑張った甲斐がありました。うん、うん。良かったな。アリー。父さんも嬉しいぞ。今日は、パーティーだ。ルイージャ。今日は、お酒解禁でいいかい?」
「はい。頑張った甲斐がありましたね、あなた。今日は、お酒解禁します。私も一緒に飲みます。アリー、良かったわね。しっかりタビトさんのお世話をしていきなさい。そして、幸せになるのよ」
「「パーティー!」」
あかん。またやってもうた。必殺の俺の常識は非常識攻撃だ。
言葉って難しいね。使い方、聞き取り方、感じ方、みんな違うんだから。いくら気を付けても、気を付けたつもりでも、相手がどう受け取るかは、相手次第。
うん。説明しても、もう遅い。この雰囲気。
もう何も言えねー。
まあ、悪くない。いや、嬉しい。また、落ち着いたら、ちゃんと話そう。俺の気持ちも。こうやって、一緒に歩いて行けるって嬉しいね。みんな、ありがとう。
今日は、焼き肉パーティーだ!
「よしっ! じゃあ、みんなで準備して、乾杯しよう!」