国境の町 オデルローザ 変革の波
あの後、みんなもいろいろ考えて、行動を起こすようになった。
ミラは、警備担当として、町の巡回。問題点を探し、報告してもらうことになった。また、食の問題も担当。
何をするにも、お金は必要になる。それが町の運営となれば、尚更だ。なので、みんなが笑顔になって、税を増やすにはどうすればいいか。ただ税率を上げるだの、別の税を増やすだの、そんな無能な事はしないのだよ。オイラは歴史から反省するのだ。
なんてね。ただ、詳しいことは知らないからね。手っ取り早く、町の産業を活性化させ、みんなが潤う仕組みを作りたいだけ。改革には、町の人、1人1人の協力と、血と汗と涙が必要なのであります。
という事で、ミラには、得意の『食』の分野を担当してもらい、現状を知る事に。ま、いろいろ食べて、感想を聞かせてねってヤツ。ミラにとっては天職だ。仕事でいろいろ食べられて、その感想を報告するだけ。何も難しくない。はずだ。ちゃんと覚えておいてよ? 何処で何を食べたかくらいはね。
アリーは、得意分野の開発中。戦闘は不得意だから置いといて、それならばと、花嫁修業を開始した。え? そっち?
みんながそれぞれに方向性を見つけ、頑張っているのだから、自分は、そのみんなの面倒を見られるように頑張るんだと努力している。うん。間違ってはないから、いいと思うよ。もう結婚前提なんだね。誰も否定しないからって、笑顔が凄いんですけど。うん。凄く可愛いと思ってしまった。
はっ。こうやって周りを固められていくのか。うん。悪くないけど、俺から言う事だからね。着々と進行させてかないでよ? 俺に断られたらどうするの? 大丈夫? まあ、そんな事はしないと思うけどさ。何が起こるか分からないのも、世の常なんだよ? うん。その覚悟があるならいいや。頑張って温かい環境を整えていって欲しい。
食事は大事だからね。うん。オイラ好き嫌いなく、よく食べるけど、拘りもそんなに無いつもりだけど、変なチャレンジだけはしないでね? ゲテモノとか、出所不明の食材とかは勘弁してね。普通においしく食べられるのが一番なんだよ? それを続けていくのが難しいんだから。気負わず、笑顔でいてくれればいいからね。よろしくね。
パブロとルイは、何でも、それなりにこなせるらしい。警備体制の事や、政治に関しても知識があり、いろいろアドバイスしてくれている。俺の常識が通じない所もあるからね。サポートしてもらえると、本当にありがたい。
人事に関する事や、書類関連もイケるみたいだね。マジで、あなた達も何者ですか? 戦争から逃げてきたんだよね? 深く聞かなかったけど、知識や礼儀もあるから、それなりの地位のある? あった? 方達なのでしょうか? オイラ分かんなーい。
もう、全部任せても良さそうなんですけどー。オイラ要る? 要らないかもしれないよ? どうしましょう。適当に偉そうな事言っておいて、ただ見てるだけってさ。
見ーてーるーだーけー! ってなんかあったよな? 何だっけ?
あっ、そうだ。カタログ作ろう。町の標準化。規格化をしてやれば、何かと便利だし、差別化もできる。みんなが使うような物なんかは、規格化して統一してやれば、いろんな無駄が省ける。税収は簡単には増やせないから、削減できる事をしていけばいい。意外と色んな所で無駄はあるからね。報告書なんかも、書式を統一するだけで随分楽になる。これこそ『テンプレ』だ。
はっ。自ら『テンプレ』を発生させてしまったか。オイラも成長したもんだ。うんうん。
折角、『国境の町』なんだから、宣伝すれば外からの人の流れが増えるかも。全部のお店の一押し商品なんかをまとめてやって、カタログにしちゃえば、いい宣伝にもなる。町の外にも持って行ってもらえれば、勝手に宣伝してくれるよね。定期発行のフリーペーパーだ。
やれるか? いや。まだ無理だな。課題が多すぎるし、そんな技術は今の所なさそうだしな。そもそも、まだ内側も固まってないのに、人を呼び込んでちゃダメダメ。余計に混乱するわ。
うん。今後の検討材料にしよう。
そうそう。双子のジャックとレックスは、特訓が進んでいるみたい。俺を驚かせるんだって、張り切って『共感覚』を磨いているらしい。ほう。それは楽しみが1つ増えましたな。
ここは魔法の在る世界。いろんな能力、スキルがある。そう言った意味では、この共感覚も磨き易いのかもしれない。そういうモノが在る。そう意識するだけで、下地のある者にとっては、簡単に手に入れられるのかもしれないな。なんて素敵な世界ざましょう。
なのに、なのに何故。オイラの筋肉はポコッと盛り上がらないのだろうか。筋トレも、毎日欠かさずやってるのに、良質なタンパク質も、しっかり取ってるのに。何故なんだー。誰か、オイラにフルコミットして欲しい。
あれれ~~? オイラ何してたんだっけ?
* * *
翌日
今オイラは、衛兵の詰め所を地下に作成中。
町の出入り口は、東西南北に4か所。それぞれに同じモノをとの依頼を受ける。何なら地下で繋げちゃう? 流石にそれは広すぎるか。何なら、いっその事、地下に町を作っちゃう?
『国境の町 オデルローザ』の地下だから、『国境の町の地下 モグルローザ』って? ローザが潜るんだよ。じゃあ、ローザがオデルって? 何してるの?
《スルー》
冗談無しで、洞窟風呂いっとく? 地下の有効活用だよ? 気持ちいいよぉ。露天風呂とは違った風情があるからね。天候関係ないし、魔法があるからメンテナンスも楽でしょ?
ぼんやりとした薄明かりの中でのお風呂だよ? 普通の室内のお風呂でも、電気消してロウソクの灯りで入って見れば、その良さが分かるはず。それより、もっと乙だからね。シーンとした雰囲気も洞窟風呂の良い所。ね? いっとく? 今なら、出血大サービス。血を流すのはイヤだから、お金を頂戴な。
火と水魔法の使い手は結構多いって聞いてるから、運営も問題ないでしょ? 何なら魔石でも管理出来るらしいし。やってみたら? いい名物になるかもよ? 酸素の方も問題ないからね? 意味は良く分からなくてもいいから、安心安全設計の洞窟風呂だよ? 通気孔や換気口で空気の流れは生み出せるし、風魔法もあるでしょ? 問題ないからね?
王都の銭湯には負けるけど、こっちは風情で勝負だよ。天井を高くすれば、開放感も出せるし、逆に天井を低くしてやっても面白いと思うよ。探検してるみたいだし、水位を調整してやれば、アスレチックみたいに出来るかもよ? 広いんだし。有効活用っていうの? 流石にそれは、やり過ぎか? 俺反省。
反省ついでに、地下の極秘施設を作ってる時に、サクッと実験しておいた。休憩は必要だよ? 休憩中なら、妄想タイムに使っても問題ないからね? あ、作ってるのは極秘施設じゃなくて、衛兵の詰め所だった。えへ。
しっかり壁を強化してあるから、もしも、仮に、万が一にも、億が一にも、何か起きても大丈夫だと思うよ? ちょっと、やっぱり、それなりに、ドキドキが止まらないほど緊張したけど、やってみた。同じ後悔なら、やってしまってからしたい。
はい。どん! 《MP注入》
デリケートなオイラは、一番ランクの低い『緑』の魔石で実験します。あくまでも、危険回避のための安全対策です。
〈MPドレイン〉で、ジャッジメントの皆さんから提供していただいた、貴重なMPを使います。□貯蔵庫に貯まった分で、少しずつ手のひらから注入していきます。じわ~っと、何かが流れていくような感覚は分かるけど、それがどれくらいの量なのか、よく分からない。まあ、試していくしかない。
緑の魔石が一段と強く光り、それ以上は注入が出来なくなった。残念。魔石毎に容量が決まっていて、それ以上は貯められないって事でしょ? 多分?
魔石のランクと同じように、MPを注入していくと、緑→赤→青→黒と順番に色が変わって行ってくれれば良かったのに。そうすれば、ランクの高い魔石が作り放題だったのにな。
楽してお金は稼げないか。納得。でも、魔石には容量があって、〈MP注入〉で補充してやる事ができるって分かったからね。これから使えそうだ。生活以外でも、戦闘で使える魔石もあるらしいから、1つ買ってしまえば、後はオイラがMPを補充してやれば、また使える訳でしょ? 無限ループだ。
あ。その為には、〈MPドレイン〉させてらもらえる貴重な存在を探さないとな。厄介だな。簡単にはいかなそうだしな。俺ならイヤだし。ちゅーーっと、MPを吸い出されるなんて気持ち悪いからね。
まあ、ジャッジメントの皆さんで試した時は、少しダルいって言ってただけだったし、また見つけよう。できればMPたくさん持ってる人を。いないかな? 現れないかな? 今すぐに。
ミラは? 魔人族とのハーフだから、魔力も人よりは多いって言ってたし、どうだろう? 今度聞いてみよ。
やってくうちに調子に乗るのが、オイラの悪い癖。勿論、良い意味で。地下にあったら便利だなぁと思うモノを想像し、作ってみた。というより、空間を確保して、こんなのいかが? と提案してみただけね。食料備蓄庫。避難場所。研究施設。訓練所。地下農場。噴水広場。公園。簡易宿泊施設。使うか使わないかは、あなた達次第です。
結局、いろいろやり過ぎて、施設が完成するまで数日かかる事になった。ほぼ俺の責任。思ってた以上にサクサクと進むもんだから、拡張させ過ぎた。反省はしていない。みんな喜んでたからね。そうだよね? 良かったよね? 目を逸らさないでね?
まあ、安全第一で施工したからね。〈強化〉しまくりで、間取りも、使い易さを考慮して変更したりもしたし。なんて親切な業者さん? 施設完成引き渡し後に、間取りの変更なんてする? しないよね。普通そんなん出来ないし。魔法のチカラがなければ、やりません。計画にない施設なんて、誰が作るかってーの。アホや。オイラもアホやった。もうジャッジメント無くなっちゃったしなぁ。今のオイラなら、入れて貰えたかもしれないなぁ。入らないないけどね。
うん。『生活魔法』って素晴らしい。土魔法の使い手さんも、感動してたよ? そんな使い方初めて見たと。
ん? これが俺の常識だからね。あなた達が俺に合わせてね? これからは、このやり方がここの標準です。いや、そんなの、この規模で、この早さで出来ないって?
あらそう? 奥様。おだてても何も出ませんことよ? 首輪はめとくか? 秘密にしといてね? よろしくね?
50人の衛兵が寛いで生活できる空間。『衛兵洞窟寮』『衛兵洞窟待機所』。好きに呼んでね。バス・トイレ付き。階層も分けたから、交代制勤務でも気にしなくて大丈夫だからね。中の備品は、自分達で運んでね。大変だと思うけど。それを4か所に。
一般にも開放予定の巨大浴場。『洞窟風呂』。
男女それぞれに、詰め込めば100人は収容可能。脱衣所から個室まで、気を遣って用意してみました。身分を気にせず、ゆっくり入浴して下さい。
勿論、休憩スペースもあって、ドリンク販売もする予定ですよ? 準備が整えば、飲食店もオープニングさせます。『洞窟食堂』。人の確保が大変そうです。オイラは悪くないからね? ゆっくりやって行けばいいのでは? 急いでも大変なだけだし、いい事ないよ? 過労死しちゃったら意味ないからね? 癒やしの空間で過労死なんて笑えないから。止めて下さい。
結局、『洞窟食料備蓄庫』『洞窟避難場所』『洞窟簡易宿泊施設』はそのまま稼働させていく方向で。研究施設、訓練所、地下農場、噴水広場、公園は保留だそうだ。一気に広げて過ぎ。追い付かないという事らしい。
そりゃあ、そうか。やり過ぎ注意報発令しました。この辺にしておきます。もう地下都市のレベルになってきちゃうからね。それはそれで問題になりそうだからね。うん。ストップだ。
ミラ発案の、『食』の問題。『量が足らない』。それは、自分だけじゃね? そりゃあ、一部の人には足りないかもしれないけどさ。え? 1度やってみれば分かるって? 大食い専門店? 質より量を重視して、どれだけ食べるか選べるようにしろって?
じゃあ、チャレンジ企画やってみる? 大盛、特盛り、超大盛りデラックス。それとは別にチャレンジ盛り。40分以内に食べきったら、御代はいただきませんってヤツ。盛り上がると思うけど、失敗したら結構高くつくよ? いいの? 今すぐチャレンジさせろって?
これは、まだ企画中。お店の人達と相談してみれば? うん。ルイにお願いして、一緒に行ってもらえばいいよ? うん。頑張ってね。夕食の心配はしなくていいから、しっかり食べといで。はいはい。行ってらっしゃい。
まだ、話もしてないのに、もう食べる気満々だし。流石です。食いしん坊属性発動しました。お店の人達の無事を祈ります。
パブロとルイのお陰で、事務方の混乱も少なく、順調に計画を進めているようだ。凄いよね。俺は、案として話しただけなのに。いろいろ質問はされるけど、こっちの常識に変換して臨機応変に対応する。これはもう、事件です。この人達、多分プロだわ。そういう仕事も過去にしていたのかもしれない。手際が良すぎる。
でも、この町の為にはなってるし、今後、俺達の場所でもそのチカラは存分に発揮されるんだろうな。うん。ありがとう。よろしくね? オイラ要らなくない? え? そういう問題じゃないって? うん。よく分からないけど、ありがとう? これからも、よろしくね?
ジャックとレックスは、着実に成長しているらしい。双子として、素質のあった『共感覚』。まだ俺には教えてくれないから、どうなっているかも分からない。期待もあるけど、変な方向に進化させてないかの方が心配なんだけど、大丈夫だよね? 途中経過の報告が欲しいなぁ。ダメかなぁ。
俺からすれば、魔法も超能力も大して変わらないからな。不思議なチカラという意味で。どんな方向にいってもおかしくないと思っておかないと、言い出しっぺの俺としては責任を感じてしまう訳でして。知覚共有とか、テレパシー的な感じで進んでいただけるといいのかなぁ、なんて思っちゃったりなんかしちゃったりして。
数時間後、ニコニコ笑顔のミラに、〈MPドレイン〉のお願いをしてみたところ、
「なんじゃ、そんなことか。わしなら、腹が膨れておれば何の問題もないのじゃ。好きに持っていけばいいのじゃ」
だそうです。やっぱりハーフだから、魔力も多いんだね。しかも、食べれば回復って、ある意味チートかもね? ミラさんや。ありがとね。有効活用していくから、これからもよろしくお願いします。