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奴隷商館 またですか



 朝


 雨ではないが、曇り空。いよいよ雨が降りますか?


 なぜかオイラのベッドには、……


 誰もいないよ? いたら怖いよね? そういうのは見えないよ? 霊感とかないからね? 今のところはね?


 昨日は少し飲み過ぎたけど、二日酔いになる程でもない。いいお酒が飲めた。やっぱり人生には、お酒はあった方が楽しめる。俺はそう思う。お酒は、人生に彩りを与えてくれる嗜好(しこう)品だ。飲んでも飲まれるな。その通り。


 そこまで量を飲んでも楽しめないからね。気持ち悪くなっちゃうし。それはダメ。ひと仕事やり終えた達成感、気の合う仲間との楽しいひと時、おいしい食事、そんな中で飲める酒は、言うことなし。また飲むぞ! でも、あんな『仕事』はしたくない。


 トイレの中で、じっと大人しくしているお仕事です。時給は100万エーン。やりますか? やりませんか? はい。やると思います。どこで募集してますか?



 恒例(こうれい)の、朝の妄想のお時間がやって参りました。取り出しましたのは、『隷属の首輪』と各種魔石。赤、青、黒を1つずつ。ジャッジメントでいただいた物でございます。


 魔石のランクが、緑→赤→青→黒と順番に上がって行くのであります。それは、俺の指輪も同じだと思われます。さてさて、奴隷制度にも、ランク? 違いがございます。首輪に付けられた魔石の色で種別が変わるんだそうです。


『緑』は、『契約奴隷』。年数、借金返済などの条件を満たせば解放される奴隷になります。

『赤』は、『犯罪奴隷』。終身の強制労働、戦闘奴隷にもなります。


 さて、ここで問題です。では、その上のランクの『青』や『黒』を使ったら、どんな奴隷になるのでしょうか? 早押しで。どうぞ!


 オイラ、朝から目がスッキリ。頭が冴えまくり。二度寝なんてできないね。『犯罪奴隷』よりもヤバい契約って? 何が考えられる? そこで閃いてしまった訳です。《エフェクト光》ピカッとな。誰もいないから、雰囲気だけでも楽しまないとね。真っ黒な発想だから……。


 やっぱり、これって、『絶対服従奴隷』とか『強制服従奴隷』みたいな感じなんじゃないかな? 命令には逆らえず、本人の意志に関わらず従ってしまう的な。強制的に行動を起こさせる的な。これ絶対ヤバいよね。


 更にその上って? 何がある? もはや人形になってしまうとか? 意志を持たない操り人形? はっ。もしかして、モンスターにも使えるとか? 使役系? 魔物使いになっちゃうの? 意志を持たない生物に対しても使える首輪? うおー。

 

 セバイスさんに聞いてみようかな。でもなぁ。怖いよなぁ。これって、ヤバい奴隷契約に使えるモノですか? って、殺させそうだわ。俺の体の方ががヤバい。


 朝から冷や汗かいたわ。こんな妄想タイムはイヤだ。



  * *



「みんな、おはよう」


 こういう気分を転換させるには、笑顔が一番。みんなに分けて貰おう。


「おはようございます。今日は、あいにくの曇り空ですが、どうしますか? この町を出るのは、まだ厳しいかもしれません。ウチの人も、アリーまでも二日酔いでダウンしています。ごめんなさい。迷惑ばかり掛けてしまって……。情けないです」


「ははは。そうなんだ。2人とも二日酔いって、アリーは、初めてのお酒だったんだから仕方がないとしても、パブロもなの? そんなに飲んでなかったと思うんだけど?」


「はい。ごめんなさい。久しぶりのお酒で、しかも娘と初めて一緒に飲んだものですから、少々、舞い上がっていたようです。今までは、こんな事なかったんですけど……」


「そっか。なら仕方がないのかな? これまでの疲れが出たのかもしれないしね。今日は、ゆっくり休養する事にしようか。これからの事を考えても、体力、気力共に回復させておかないとね」


「はい。ありがとうございます。そうしていただけると助かります。流石に、今の状態では、旅にも支障が出るかもしれませんので……」


「うん。じゃあ、そうしようか。ミラも、こっちに来ていないみたいだし、二日酔いでダウンしてるのかもしれないね。はは。

 じゃあ、これからの事についても、また落ち着いてから話そうか。大事な話だからね。そんな状態で話しても、シンドいと思うから」


「はい。本当にすいません。お気遣いありがとうございます」



 みんなに笑顔を分けて貰うつもりが、まさかです。まあ、仕方がないか。俺も経験がない訳じゃないし。ホント辛いんだよね。


 モヤモヤと渦巻く気持ち悪さ。ガンガンじんじん響く頭。口が渇くのに、起き上がるのも辛い。もう二度と飲むもんか! 何度そう思った事か。うん。2桁で収まるか? 微妙だな。それでも繰り返してしまう意思の弱さ。()()()()()とは、よく言ったものでして。記憶の片隅に、苦~い思い出が……



 ()()()()()()アン。昔、スパゲッティのナポリタンは、普通にイタリア料理だと思ってたんだよね。地名が付いてる訳だから、疑問も持たずに、そう思ってた。そうしたら、勝ち誇ったようにして笑われた。別に自慢するような事じゃないと思うんだけど、感じが悪かったっていう記憶だけは、今でも残ってる。


 や~、そんな事も知らなかったのかぁ。はっはっはぁ。ってね。みんなの前で。ナポリタンは、日本発祥の料理で、日本式西洋料理、洋食なんだって。で、それがどうしたの? 教えてくれてありがとう。


 そういう奴に限って、見かけの知識だけ。上品ぶって、スプーンの上でパスタをクルクル回して食べてたね。本場のイタリアでは、スプーンを使うのは、フォーク1本で上手にパスタを食べられない子供だけ。


 まっ、恥ずかしい。特にマナー違反でもないし、日本での事だから、食べやすいように食べてもいいと思うよ。箸で食べる店もあるくらいだからね。思うけどさ、そういう事言うのなら、キチンとフォークを使えるように練習しような。箸と一緒だぞ。ま、何も言わなかったけどね。感じ悪かったから。本当に恥ずかしいのはどっちなのか。そのうち知る事になるだろう。いや。こういう奴は、自分の行いは(かえり)みないのか。ふん。



 はっ。俺は、二日酔いでもないのに、なぜこんなブラックな記憶が? 恐るべし、若気の至り。しっかり封印しておこう。


 今日は晴れてないからか? 曇り空が俺を? 気を付けよう。



 さて、じゃあ今日は、何をしようかな。昨日、頂戴した本棚の整理と、それで読書ってのも捨てがたいけど、ジャックとレックスの共感覚の訓練に付き合おうかな。でもな、俺の部屋は、3人じゃちょっと狭いしな。あっちの部屋でやるのは、二日酔いの2人に悪いからなぁ。やっぱり読書かな。


  * *



 約束は守るもの。今日は、約束の期日です。オイラは奴隷商館に居ます。


 折角、手に入れた本が沢山あるんだから、本棚の整理をして、読書でもしようかと思っていたら、来客がありました。『第2クラン オデルローザの暁』副団長、『シャギ』さんが宿屋にやってきた。


 俺は、ちゃんと名前覚えてたからね。ショットガンで脅されなかったよ。『俺の名前を言ってみろ』なんて言わせる訳がない。ヘルメットも被ってないからね。間違える訳がない。


 俺の嫌いな、イケメン筋肉君。ただの無い物ねだりなんだけどね。オイラにもその筋肉を、ちょっとでいいから分けて欲しい。



 セバイスさんからの遣いだそうだ。報告を入れてくれた。あの後、『ジャッジメント』がどうなったのか。結論。みんなそのまま奴隷落ち。犯罪奴隷として扱われるそうだ。


 団長は、『ブツ』の購入先に関連した情報を聞き出すために、取り調べを受けているそうだが、言っても犯罪奴隷。首輪のチカラで聞き取るだけの簡単な一問一答大会。ホント便利な道具です。今のところ、俺が聞き出した以上の情報は出ていない模様。


 副団長を除けば、活きのいい体力自慢の集まりだった訳で。厄介者も片付いての大盤振る舞い。大量出血大サービスだ。さあさあ、買っていきな! 安いよ安いよっ!


 安く見積もっても、1人500万として、掛ける20人だ。もう『億』いっちゃうんだね。体は問題なさそうだから、よく働くと思うよ。頭は残念だけど。なかなかいい売り上げになると思われます。なんたって、戦闘にも使える『犯罪奴隷』だからね。いくら大安売りとはいえ、1人500万じゃ利かんわな。恐らく倍はいく。


 オイラの受け取った報酬なんて、それに比べたら安いモンだ。うん。だから、見逃してね? 仮に気付いてたとしても。そこはスルーでお願いします。


 それと、この町を出る前に、一度商館に来て欲しいとの事。何でしょう。オイラは、別にもう会わなくてもいいんだけどな。でも、そういう訳にはいかないのか? いろいろ教えて貰ったし、便宜も図ってくれたからな。サクッと行って、サクッと出発しちゃう事にしよう。


  *  *



 オイラ、物凄い勘違いしてたみたい。もう、ナポリタン級の勘違い。『緑』の『契約奴隷』でも、『害意』判定で『即死』に至るのかと思ってたんだけど、そうではないらしい。勿論、『害意』判定で『激痛』が走るなど、それなりの『制限』はあるが、あくまでも、『緑』の場合は、『契約』重視なんだそうだ。


 口約束でも書面でもなく、『首輪』を使った実行力のある『契約』なんだって。契約を果たせないと、最悪、『犯罪奴隷』に落ちる事になるから、双方にとってもメリットのある契約なんだとさ。


『契約主』は、『奴隷商』。主に借金を抱えた人がやってきて『約束』を結ぶ。まとまったお金が必要になり、しっかり働いて返しますから、すぐに用立てて下さいと。その状況や、金額に応じて、『年数』『返済方法』などの条件を『設定』し、それを満たせば解放される仕組み。


『緑』の所有主である『奴隷商』は、奴隷の生活の面倒を見る必要がある。身の安全を確保し、その行動に責任を負う。その代わりに、それぞれの能力に合わせた仕事をさせていく事になる。そしてそれは、『約束』が果たされるまで続いていく。


『約束』が守られない場合、条件を変更し、再設定したりするのだが、それでも難しい場合には、『犯罪奴隷』に落ちる事になる。そして『扱い』が変わる。『なんでもあり』になるからだ。だから、そうならない為にも、必死で働くし、早く『解放』されるように頑張るらしい。


 契約内容も、そこまで酷いものにはならないようだが、例外もある。緊急時や、戦争などによって発生する様々な問題。それに絡んでくると、もう酷い。ほぼ『犯罪奴隷』確定の契約もあったりするらしい。あまり関わりたくない問題だ。



『契約奴隷』は、『使う方』にとって、それなりに人気があるそうだ。それは、安心して『使用』できるから。何かあれば、『契約主』である『奴隷商』によって『補償』されるからだ。『約束』は必ず守られる。その安心感から、少々お高くとも、需要はあるらしい。確かにいい『契約』なのかもしれない。みんなメリットがあるようにも思える。


『奴隷商』の負担が大きいと言えば、そうかもしれないが、儲けもあるし、銀行業みたいなものだ。国の支援もある。取りっぱぐれも、ほぼ無いんじゃないかな。『首輪』のお陰でね。事故とか、大きなトラブルがなければ、そんなに悪くないと思う。


 イメージの問題はあるかもしれないけど、やってる事は、ここだけ見れば真っ当だ。


 金集めの為に、金融派生商品を次々に生み出して、その手数料を抜いてくような(こす)い業界とは違うと思うよ。ちゃんと自分の体張ってるし。

 他者の金を動かすだけでやっていこうなんて、考えが甘過ぎる。破綻を隠すために、また要らないモノを生み出して……。自分達の『金』しか見ていない。ちゃんと『人』を見て、倍返しして欲しい。何のための仕事なの? 要るの。それ?



『買った人』は、期間の定めがあるとはいえ、その間は安心して使える。奴隷商人のお墨付き。しかも補償まである。なんなら、『解放』後に雇い入れる事もできる。


『契約奴隷』本人は、そうなってしまったのだから、頼れる人がいなかったのだろう。それでも、奴隷商によって最低限の生活の面倒は見てもらえ、身の安全も確保されるのだ。有り難い話だと思う。その上で、仕事の斡旋(あっせん)までしてくれるのだから、必死になって働くのは、もっともな事だと思う。


 関係者の安全確保のためにも、『首輪』くらいは着けられても、仕方がないのかも知れない。人は人を裏切る。環境によっても変わっていく。これは、歴史が証明してきた事だ。だからこそ生まれた制度なのかもしれない。


 名前こそ奴隷と言われ、首輪も着けるのだが、やり様はある。名前は、別に本名でも偽名でも使って、呼んでもらえばいいのだし、首輪も服やアクセサリーで隠す事もできる。

『解放』してもらえる可能性も、『契約』として、ちゃんと用意されているのだから、それでも『約束』が果たせないのなら、厳しいかもしれないが、『犯罪奴隷』に落ちるのも仕方がないのかもしれない。



 ここは、魔法の在る世界だ。元の世界とは歴史が違うのだろうが、ここまで過ごしてきたが、人間の本質は変わってないような気がする。だからこそ、いかに上手く魔法を活用し、運用していくか。こちらの世界では、ひと味違った『奴隷制度』が根付いているのかもしれない。


 元の世界では、宗教観も関係していたり、労働力確保の為だったり、単に物品を強奪する為だったり、今では考えられないような規模で、残酷な事が行われてきたという史実もある。人間とは、いかに業の深い生き物なのか。ここでは違うと思いたい。



 思うに、『口約束』の何と意味のない事か。こりゃあ、オイラも、この世界での『契約奴隷』には賛成派かもしれないな。嘘つき撲滅キャンペーンとか組みたいわ。


 絶対返すから。ちょっと貸して。もう少しだけ待って下さいとか。必ず幸せにします。アナタだけです。これで絶対に大丈夫です。治ります。痩せます。


 使える使える。『首輪』着けてから言ってみてね? そういうセリフを平気で言うような奴らには、全員に着けてやりたい。それが『嘘』なら、しっかり対価を支払ってもらいますよ? 『奴隷』となって償ってね。いいね。いいよ。もう1本はめとく?


 あ、でも、そういう奴らだと『奴隷商』も嫌がって、そういう人の補償はできませんって、『契約』自体を『拒否』されちゃうかもしれないね。はは。


 でも大丈夫だよ? オイラには、『強制奴隷契約』がありますから! 残念っ!! しゃがじゃーーん。


 嘘つき野郎ども、メッタ斬り!!



 ふー。いい汗かいた。



 

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