反省したからと言ってもね
ただいまー
有無を言わさず、パブロ達の泊まっている大部屋に突撃です。
「おお。遅かったのじゃな。何か『テンプレ』でもあったかの?」
「あ、お帰りなさい。遅かったですね。お昼には戻ると思っていたので、心配してたんですよ? 何かあったんですか?」
当然のように、そこにいるミラ。当然のように、迎えてくれるアリー。ありがたい事です。ただいまと言って、その返しの言葉がある。それだけでも、何だか嬉しく感じる今日この頃です。
「あ、うん。ごめんね。テンプレは無かったんだけど、いろいろあり過ぎてね。夕食取りながら話すけど、心配かけたみたいだね。でも、まあ、何とかなったから大丈夫だよ」
「そうか、またいろいろあったのじゃな。おぬしの行く所には必ず何かが起こるのじゃ。難儀なことなのじゃ。やはり、わしも一緒に行けば良かったのじゃ」
「そうなんですね。でも大丈夫なら良かったです。さあ、夕食にしましょう。もう準備もできていますよ」
「はは。ありがとう。じゃあ食べようか。みんなにも説明しないといけないからね」
*
『第4回これからを考える大人だけの全体会議』を始めます。議題は『今日の報告』と『俺の反省』。
奴隷商館から、『ジャッジメント』の拠点での事、戦利品、後始末、勝手に動いてごめんなさい。以上。
反応は、やはり似たようなものだった。
奴隷商のセバイスさんに渡した『隷属の首輪』について。
出所は不明。どこの国でも同じようなものを使っているし、奴隷制度に反対の国もあるから、いろんな思惑が絡んでいて予想は立て難い。ただ、『奴隷狩り』の存在がある事は間違いない。
しかも、その拠点の1つがこの町にある可能性が高く、闇の組織があるかもしれない。今回の『ジャッジメント』は、『奴隷狩り』の単独実行犯みたいなもので、闇の組織とは関係もなければ、尻尾でもない。
これは、セバイスさんには、まだ話していなかったが、その闇の組織として考えられるのが、この前、森で襲ってきた連中が属するモノ。『ウロボロス』の刺青。これが関係しているのではないかと思っている。『スペード』。そう名乗ったと言っていたから、それもその組織と関係しているはず。みんなも注意しておいてほしい。『トランプ』『カード』『スペード』『ダイヤ』『クラブ』『ハート』『ジョーカー』等の言葉には要注意。
今回の件は、『隷属の首輪』が絡んできた事によって、本来なら大事件。国が動く話。下手をすれば、この町で大規模な戦闘になる可能性があった。それを未然に防いだのだ。本来なら喜ぶべき事なのだが、微妙だ。自分達は何もやっていないのだから。
はい。ごめんなさい。オイラが悪うございました。反省はしていますが、後悔はしていません。誰も危険な目に遭わずに済んだから。確かに俺は1人で無茶したけど、そこまで危険な事はやってないよ? ん? やってないよな。金目の物はいただいちゃったけど。えへへ。
犯罪だよ? 本来ならね。でもセバイスさんも了承済み。このクランの拠点にあったモノを、オイラが今回の報酬としていただいてもいい事にしてもらった。成功報酬ってヤツだね。これが、所謂、事後処理だ。後で、事の辻褄を合わせていく。生き残った者に許される常套手段。こういう事を繰り返し、歴史は作られていく。
いやーん。
ていうか、目を瞑ってもらったと言えばいいのか? 本来、奴隷落ちした人の財産は、その奴隷を購入した『主』のモノとなる。ま、基本的には奴隷商だね。でも、今回はオイラがその役割を担った訳だから、当然その対価は支払われるべきだ。
でも、その全てを調査して算出するのも面倒だし、時間も掛かるから、既にオイラが回収してある品で手を打ってもらった。20人もいれば、その犯罪奴隷としての代金も、いい売り上げになるからね。セバイスさんにとっても悪い条件ではなかったはずだ。オイラ達は、早くこの町を出て行きたいと言っていたからね。
理解が早くて助かりますぜ、ダンナ。まさか、オイラのアイテムボックスに『主の腕輪』『隷属の首輪』が入ってる事を知ってたりしないよね? ね? 止めてよね。そういう能力とかあったら、怖いんですけど。他者の持ち物丸見えですよって。こわっ。でもいいなぁ。それ。オイラも欲しいわ。あったらいいね。
今後も、『隷属の首輪』には注意して欲しい。知識があれば、誰にでも『強制的隷属化』が出来てしまうから。
『主の腕輪』と、本来なら奴隷商預かりのはずの『色無し』の『隷属の首輪』。この2つがあれば、魔石をはめ、魔力を同時に流してやるだけで、『強制的に隷属化』が完了してしまう。
この先、どこかで『色無し』を見掛けるかもしれない。それがあるという事は、『対』とするべき『主の腕輪』が近くにある可能性が高い。要注意だ。即お逃げだ。この知識が有るのと無いのとでは、危機回避に大きな違いが出る。これは、みんな知っておかなければならない重要な事だ。
それから、これもいい機会だから『エコー』の事を話しておいた。経緯は分からないが、不幸にも『奴隷狩り』に遭ってしまい、『隷属の首輪』をはめられていた子供がいた事を。
たまたま街で出会い、なぜか教会からの依頼という形で、その子を『王都』の奴隷商館まで連れて行く事になり、そのまま教会で『首輪』をはずしてもらえた事。
これも理由は分からないが、『主の腕輪』との『対』の登録がされておらず、『隷属の首輪』をはめられただけの状態で、その子の身体には何の問題もなく、『隷属化』まではされていなかった事。そしてセバイスさんから、今でも教会で元気にしていると教わった事まで話した。
みんな、俺がまた変な事に巻き込まれないか心配しているみたいだったが、もう終わった事だからね? 大丈夫だと思うよ? 実は女の子だったなんて言えなかったけどさ。やましい事なんて何もないし、嫌われてはいなかったはずだよ? そうだよね? そうであって欲しいけど。分からない。話もできなかったからね。元気でいてくれてるなら、それでいいと思う。うん。
セバイスさんから聞いた『機密事項』について。みんなに教えるべきかどうか迷ったが、やはり、話すことにした。もう仲間だと思っているし、隠してもしょうがない。それに、セバイスさんも言っていた。『この知識を役に立て、不幸な人を、1人でも多く救って下さい』と。
1人よりは2人、2人よりは多い方がいい。信頼できる仲間にならば、伝えておくべきだろうと判断した。もしかしたらこの先で、この知識が役に立つかもしれないから。危険な事をする訳じゃない。知識として知っているだけでも、心持ちが変わってくる。助けられるかもしれない。対策が立てられるかもしれない。それが大きいから。
『三人寄れば文殊の知恵』だ。凡人のオイラ達でも、3人で集まって相談すれば、それなりに良い知恵が出せるかもしれない。オイラ達は大人が5人もいるのだ。それ処ではない。
もうくっちゃくちゃ。いや。食っちゃ食っちゃでよく食べる。主にミラ。作戦なら任せておくのじゃと言いながら、何でもありだからね。うん。知ってた。よく食べて、よく寝て、何でもチカラで解決。拳で語っちゃう『ちみっ子』だよ? 違った。最近はまた称号が追加されたんだった。
『基礎生活能力のない方向音痴の脳筋ちみっババ食いしん坊属性持ち実は武闘家魔法使いのはずが実は27歳本人談ホントは最低でも127歳なんでしょ?』ふー。どこまで行くんだ? そして何処へ向かっているんだろう。謎だ。
オイラが、こっそり『主の腕輪』『隷属の首輪』をいただいた事も話した。もちろん成功報酬として受け取ったとね。嘘じゃないし。ちょっと受け取る前の、言葉のニュアンスが複雑だっただけだし。そうだよ。そういうもんだ。だからいいのだ。アホばっかのパパなのだ。れれれのれだよ。
そんな目で見なくてもいいでしょうに。役に立つ時が必ず来ると思うよ? 使えそうでしょ? もう試したし。オイラ命令とかもしちゃったし。何なら、これを装着されてしまっても、ぶっ壊せるし。問題ないんだよ。そう、これはいい物だ。これだけ在れば、あと10年は戦えると思うけど、誰にも届けるつもりはないからね?
まあ、とりあえず、明日の朝日は拝めそうだから良かったね。はは。ん? 今から襲撃は起きないよな? フラグじゃないぞ。止めてくれよ。……今夜も寝る前に『防御壁』出しておこう。うん。安眠のためだ。
それから、今後に備えて、資金をパブロにも渡しておいた。これからも何が起こるか分からないからね。手持ちの資金には余裕をみておいた方がいい。最初は断られたが、アリーのためだよ? の一言で了承。受け取ってくれた。家族愛ってヤツですな。うん。微笑ましい。
『ジャッジメント』からいただいたモノだけど。出所は関係ないよね。綺麗な金も穢い金も、金には関係ない。そう。ないのだよ。昨日使ったお金が数倍になって帰ってきてくれたんだよ? あ、約25倍くらいか? ははは。お帰り。また出て行ってもちゃんと帰ってくるんだよ? あなた達のお家はここだからね。ふふふ。ふふ。
本当に夜襲の計画があった事には、皆ショックを受けていた。
それよりも、動く映像の方ににショックを受けていたかもしれない。オイラのスマホ映像。もちろん編集あり。
こういう物が使えると説明した。これがあったから、潜入して、映像を残そうとしたんだよと話すと、みんな納得。凄いねって。え? それだけ? セバイスさんの方がもっと驚いてくれたんだけど? もう感覚がおかしい? 何が起こっても仕方がない。だって規格外だからって。
うーん。どうでしょう。どうなんだろうか、この反応。喜ぶべき? がっかりするべき? 微妙であります。オイラのポジションが『規格外』認定で固まっております。ふー。
それでも、まさか、宿まで特定されているとは思わなかったらしく、ショックは受けていた。信用出来るもの、出来ないもの。選別は大変そうだ。ま、そうだと思うよ。実際、襲撃されてたら、怪我だけじゃ済まなかったと思うし、オイラだけヤラレちゃう計画だったからね。ふん。
この宿のオーナーやっちゃう? 俺たち金で売られちゃったんだよね。結果としては未遂で終わったけど、情報を売られた事に変わりはない。クレームをつけてもいいレベルだと思う。クレーマー。山登りをする人は、クライマー。落ち込んでたアホ達は、暗いなー。
オイラの反省。そもそも、ジャッジメント殲滅作戦は、情報を分析して、対策を考えてから行うとしていたにも拘らず、ちょいと偵察のつもりが、全員奴隷落ち。もう殲滅と言ってもいい結果に終わった。何やってんねん。
物凄く怒られるかと思ったけど、大丈夫だった。その代わり、もの凄く呆れられたけど。うん。ごめんなさい。今後、同じような事を繰り返さないよう、注意して過ごしていきたいと考えておりますが、約束はできません。だって、しょうがないじゃないか。
もう最終回とかいいながら、どんどんスペシャルでやっていくんだから。止められないよ? 多分、逝っちゃうまでは続くと思うよ? オイラもあっちもね。もう見れないかもしれないけどさ。
ま、やってしまったんだから仕方がない。魔法の検証は必要でしょ? 丁度いいシチュエーションが目の前に現れたら、試しちゃうよね? つい試しちゃうんだよ。ミラがつい魔が差して、アリーの食料食べちゃったのと同じくらいの事だと思うよ。
はっ! 同じようなレベルになってきたという事か? うん。何かごめん。もう少しだけ控えるように鋭意努力していくよう検討はさせてもらうよ。一度持ち帰らせてもらうけどね。
まあ、また同じような場面に遭遇したら、1人でも動いちゃうと思うんだけどね。みんなには出来るだけ危険な目に遭って欲しくないから。はは。
* *
とりあえず、街中での人攫い騒動から始まった今回の事件は、無事解決できたかな。殲滅させちゃった訳だし。恐らく、セバイスさんによって、今頃厳しい尋問が行われていると思うけど、オイラにはもう関係無いね! 気分一転、お祝いしましょう。宣言通り、お酒を解禁します。
乾杯ーー!!
長かった。ビール大好き人だからね。オイラ。いやぁ。うまい。冷えたビールもうまい。この1杯のために生きてるね。と言っても過言じゃない。それくらい好きな飲み物であります。だから、絶対作ってやる。俺好みの、おいしいビールを!
ビール王に、オイラはならなくていい! 趣味の範囲でいいから、いろいろ作っていきたい。それだけだ!
えっ? みんなお酒飲めるの? 今まで我慢してきたんだ。俺もそうだからね。じゃあ、この感動をみんなで味わおうか。やったね。お酒は楽しく、楽しいメンバーで、楽しめる範囲で飲むのが最高なんだよね。
うんうん。みんなも、そうだよね?
うんうん。ミラは、お酒も強いんだね。
うんうん。パブロとルイは、お酒も上品に飲むんだね。
うんうん? アリーさんや? もしかして、お酒は初めてなのかな? え? それなのに、ミラのペースに合わせて飲んでちゃマズいんじゃないかな? お父さんとお母さんも一緒にいるから大丈夫だって?
こらこら。もうフラフラになってきてるでしょ? え? まだまだ? じゃあ、あんまりくっ付いてこないでね? 飲みにくいんだよ? それに、みんな見てるよ? これこれミラさんや? あなたは酔ってないんでしょ? え? アリーの真似? 別に見られても減るもんじゃないし、みんな公認だから構わないって?
パブロもルイも、微笑ましくこちらを見てるだけで何も注意しないんだね? えーー! 問題ないって? まあ、いいけどさ。イヤじゃないし。でも楽しく飲みたいんだよ? もう少しゆっくり飲みましょうね。久しぶりなんだからさ。味わって飲みたいんだよ、オイラは。
はいはい。よしよし。
はやっ! もう寝ちゃったよ? 2人とも疲れていたんだね。何だかんだ言って、心配させちゃったからね。ごめんね。そしてありがとう。いい夢見ろよ!
乾杯!!