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セバイスさん監修 覚醒



「な、何ですかこれは!」


 おう。何か叫んでいらっしゃいますよ。怖いよ。オイラ、デリケートなんだよ。さっきトイレ行ったのに……


「何故、ジャッジメントのメンバーが全員揃って『隷属の首輪』をはめているんですかぁ! 何故こんな事が! タビトさん。貴方はいったい何をしたのですか! これは、しっかり分かるように説明していただきますよ!」


 お、おう。もう1回トイレ行きたいなぁ。ダメかな? 大惨事になる前に!


「ははは。分かってますよ。落ち着いて下さい。セバイスさんらしくないですよ? 少し休憩にしましょう。私も流石に疲れました」


「はっ、確かにそうでした。私とした事が、つい大きな声を上げてしまいました。これは失礼いたしました。お詫び致します」


「いえ。突然そんなの見せられたら、誰でも驚きますよ。セバイスさんの意外な一面を見られたので、良しとしましょうか」


「ふー。まったく貴方というお方は……。敵いませんな。これは一本取られたようです。ふっ。はぁっはっはっはっ!」


  * *



 無事トイレを済ませ、食堂に戻ると、セバイスさんが紅茶をいれてくれていた。


 本当に絵になるね。こういう光景をそう言うんだろうね。うん。また勉強になった。



「ありがとうございます。いただきますね」


「はい。どうぞ、これで落ち着いて話ができますな」


 ははは。悪い事してないのに、緊張するね。やっぱり怖いわ。この人。ちゃんと納得するまで説明するから、そんなに怖い目で見ないでね。折角トイレ行ってきたのに、紅茶飲んでるから、また台無しになっちゃうよ? いいの? 俺がイヤだ。


  * *



「では、後のことは、よろしくお願いします。私は何も見ていなかった。何も聞いていなかった。そうですね?」


「はぁっ、はっはっはっ! 面白い! 実に面白い! やはり、私の後継者は、貴方しかいないようです!」


「今は勘弁して下さい。みんなで安心して平和に暮らせる場所を探していますから。何かを考えられるようになるのは、その後ですよ」


「そうですか。先の事を考えるには、まだ時間がかかるという事ですな。ふむ。では、これは年寄りからの(つたな)い助言と思って聞いて下さい。


 今、『みんなで安心して平和に暮らせる場所を探している』とおっしゃいましたね。


 果たして『みんなで安心して平和に暮らせる場所』とは、さて、『探すモノ』なのでしょうか? 『探して見つかるモノ』なのでしょうか?


 もしかしたら、どこかに在るのかもしれません。しかし、『探していく』より、『みんなで作っていく』方が、より現実味があるとは思いませんか? まあ、もしかしたら、薄々感じておられたかもしれませんがね。はっはっはっ。


 タビトさん。その辺の所を、よーく、みんなで話してみる必要があると思いますよ?」


「…………」


 言葉がすぐには出なかった。確かに薄々感じていた。どこに行けば在るんだ? 本当に在るのか? と。衝撃だ。言われてようやく気付く。そんなモノは理想でしかない。人それぞれに理想はある。理想の形も違う。当然の事だ。


 俺が理想と感じる場所なんて、俺1人のモノでしかない。みんながそう感じるか? いや、違うはずだ。同じ方向ではあっても、厳密には違いがある。


『みんなで安心して平和に暮らせる場所』


 安心の定義も、平和の定義も皆違う。場所だってそうだ。これまで生きてきた環境で、大きく左右される問題だ。


 食べられるだけで安心出来る人もいれば、量より質、おいしくなければ、安心できない人もいる。不安になるのだ。無くなりはしないかと。質が落ちれば、生きていくために量を求める。やがて、その量が無くなれば飢える事になる。そういう連鎖を思い、不安になるのだ。これは、豊かさを知った人に表れる特徴だ。


 中には、食よりも安全に暮らせる場所こそ、安心をもたらすという人もいる。大勢の人がいるから安心できる。仕事があるから安心。家族がいるから、友達がいるから、1人じゃないから、……


 挙げていったらキリがない。平和とは? 場所とは? そんなモノなど探せる訳がない。そう。在るかもしれないけど、1つでは無いんだ。1つでは無いモノを探そうとしていた。理想を求めて探し続けるだけの旅。終わり無き旅。何を考えていたんだ、俺は…………



 そうだ。自分たちで作っていくしかないんだ。誰かに与えられたモノではなく、自分たちでそういう場所を作っていけばいいんだ。与えられたモノでは、安心出来ないはずだ。いつか不安になる。不安に感じていると、気付いてしまう。これまでがそうだったから。少しでもみんなの理想に近づけられるように、1からでいいんだ。そうだ。そうだったんだ!



 ようやく目が覚めた気がする。ありがとうセバイスさん。



「ありがとうございます。セバイスさん。言葉にされると、胸に響きます。スッキリしました。ようやく見えるようになってきたようです。これは、あなたのお陰です。感謝致します」


 こんな晴れやかな気分は、いつ以来だろう。出口のない迷路に光が灯ったようだ。困難も多いはずだ。1からだからね。でも、それでいい。彷徨い続けるだけの虚しい旅じゃない。みんなで作っていけるんだ。俺はやれる。完成させる必要なんてない。そこに向かって、ただ進んで行けばいいんだ。


「ふっ。はぁっ、はっはっはっ! 目つきが、顔付きまでが変わりましたな。何やら響くモノがあったようですな。年寄りからの拙い助言も、偶には役に立つようです。はぁっ、はっはっはっ! 今日はまた、一段と愉快ですな。まったく貴方は面白い。いい経験もさせていただきました。それでは、そうですね。私からは、もう1つだけ…………」



  * *



 上機嫌のセバイスさんが教えてくれた。

 やはり、1つだけと言いながらも、1つだけじゃなかったよ?


 いいんですか、それは奴隷商人だけの極秘事項なんですよね? 俺は奴隷商人なんてやりませんよ? 言いましたよね? まだ狙ってるんですか? 後継者として。止めて下さい。勝てる気がしませんけど、断固拒否します。


「だが断る!!」


 流石のセバイスさんですら、この言葉の前では無力だったようだ。ようやく諦めて帰って行った。後ろ姿も格好いい。あんな後ろ姿が出来るような、違いの分かる男になりたいと思った今日この頃です。


 腕白でもいい、(たくま)しく育っていきますよ。

 ハンバーグ食べたい!




~セバイスさん監修、奴隷制度の基礎知識~


 奴隷商人のはめている『腕輪』は、特別製。『主の腕輪』の上位に位置する物。『奴隷商の腕輪』と言うらしい。


『奴隷契約』に関わる全てを(つかさど)る物凄く大事な物。これがないと、登録・解放、条件の設定・変更が出来ない。『奴隷商の腕輪』を装着した者だけに許された『契約』だ。


 通常は、『奴隷商の腕輪』から『主の腕輪』『隷属の首輪』に魔力が流され、紐付けられる。これにより、その後の管理が可能になるという仕組み。


 その後に、『主の腕輪』『隷属の首輪』の間で魔力を流して『対』の契約書が結ばれる。これが俗に言う『奴隷契約』。


『えせ奴隷契約』『強制的隷属化』『強制奴隷契約』。俺が〈魔力供給〉として登録した魔法は、この手順の最初を省いて行われるもの。これこそ、『奴隷制度』の抜け穴だ。登録を辿れないから足が付かない。誰も管理できないのだ。


 契約できるのは、赤の魔石を使った『犯罪奴隷』だけとなる。

それも、できるのは『登録』だけで、『奴隷商の腕輪』がなければ、『解放』はできない。ただ奴隷を作っていくだけだ。しかも強制的に。自分達で『解放』しようとするのなら、『破壊』するしかないのだが、やはりそんなに甘いモノではない。契約が完了してしまうと、強度が増すらしい。魔石と魔法の相乗効果で、物理耐性、魔法耐性共に増大する。


 手元にサンプルが無かった為に、『強制奴隷契約』の成立した首輪で試した事はないが、通常の『奴隷契約』が成立した首輪では、『破壊』する事はまず無理。これは公式に発表されている事実らしい。奴隷となった者が、無駄な抵抗を考えなくする為の措置らしい。何とも合理的な考えですこと。


『手元にサンプルが無かった』なんて言われたら、試したくなるのがオイラの悪いクセ。ふふ。やってやりましよう。後でね。


 いつやるの?


 後でって、言ってるでしょ?



『条件の設定・変更』ができるのは、奴隷商人だけ。それには『奴隷商の腕輪』が必要。だからこその紐付け。厳格な基準を設け、運用されている。うまく活用すれば、双方にメリットのある契約ができる。奴隷制度もまんざら捨てたもんじゃない。そう考えるからこそ、まだ続いている制度だ。


 生活保護なんて制度は無いのだから。お金なんて貰えない。自分の事は自分で何とかするしかない。仕事を続けるか、お金を貯めておくか、家族を頼るか。その選択も自己責任。


 奴隷を買った『主』にしてみれば、『契約』で言動を縛ることが出来る。裏切りの心配がない。秘密も守られる。こんなにありがたい事はないだろう。その分、お高いのかもしれないが、それは価値観の違い。


 自分の価値観に合った値段の奴隷がいるのなら、どうだろう。人を雇うのもリスクは高い。教育をしていくのは同じだが、言われた事をしっかりこなす奴隷と、言われた事をしっかりやらないかもしれない労働者。手抜き、サボり、裏切り、情報漏洩、大丈夫だろうか? 奴隷には、まず、その心配がない。逆らえないのだから当然だ。そういう契約にすればいい。まあステキ。


 契約奴隷だろうと、解放後も、『秘密』は厳守されるのだそうだ。そういう契約ができるらしい。『奴隷商の腕輪』ハンパねぇ。オレも欲しいな。あ、いや。今の無し。奴隷商人には、なりたくないから、要らないや。


 強制労働といえども、最低限、人としての尊厳は守られているらしい。すぐに死なせるような事もしていない。それなら死刑で済むからね。手間暇かけて、金掛けて、わざわざ奴隷にするのだから、その分の働きはしてもらわないと、奴隷にする意味がない。程度にもよるが、労働時間の調整や、食事、睡眠も確保されているのが普通らしい。


 貴重な税金使って無駄金渡し続けるくらいなら、一カ所に集めて、できる範囲で労働はさせるべきだと思う。体が不自由だろうと、やれる事はある。座っていたって仕事はできる。寝ながらだって、話はできる。要は使い方。


 甘やかしたって負担が増えるだけ。それなら『契約』して、やれる事をやらせればいい。反抗なんてできないからね。それがイヤなら、自分の意志で選択すればいい。自ら動くか、他者の命令で動かされるか。それだけだ。


 本当に支援が必要かどうかなんて、この『契約』があれば一発だ。嘘はつけない。そういうズルい人種には、それなりの対価を払わせればいい。まあ、なんて素敵な契約でございましょう。嘘のない社会。底辺の人種は、これで管理出来る。


 為政者や経営者、上に立つ者からすれば、夢のような制度だね。簡単に止められる訳がないし、上手く回っているのなら、その必要もないのかもしれない。本当に支援が必要な人にだけ、適正な支援ができるかもしれないのだから。運用次第では、悪くはない制度だとも言えるのではないか。


 その対価が安いのなら、利用するよね。俺でもそう思うから。



 だがそれは、無理矢理じゃない。『強制奴隷契約』なんて(もっ)ての(ほか)だ。許せない。人の尊厳は、踏みにじってはならないものだ。条件の設定すら許されない。何の覚えもないのに、ある日突然『犯罪奴隷』の扱いを受けるのだ。それはダメだ。


 ま、ジャッジメントの皆さんは、これまでの償いを、しっかり受けるがいい。自分達のしてきた事がどれほど理不尽だったかを、これから身をもって味わっていけばいい。もう味わってるか? これからだよな。オイラ大した事してないし。




 セバイスさんの見解では、『主の腕輪』『隷属の首輪』の製造後に、何らかの形で闇の手が入っている可能性がある。と思っている。これらは、誰でも簡単に作れる物ではないので、考えられるとすれば、そのタイミングが怪しいと。


 だが、管理も厳重にされているはずだから、本当はそれも疑わしい。もしかしたら、何かしらの『能力』『チート』が在るのかもしれない。


 こればかりは、分からないのだから、警戒するしかないのだが。出来る事と言えば、見つけ次第、逐一(ちくいち)『モノ』を回収していく事。そして殲滅だ。これを繰り返し数を減らしていく。そうしている内に、本体に辿り着けるのかもしれない。勿論、命の危険も大きい。やるかやらないかは、貴方次第です。



 奴隷商館のある町には、『奴隷狩り』がいる。それに関連した組織がある。そう考えて間違いなさそうだ。奴隷商館のある町の名前。おおよその距離や方向など、あくまでも、おおよそのモノとして地図を書いて教えてくれた。



 俺ってば、何か期待されているような……



 やりますよっ! やるけどね。あくまでもやれる範囲内で、ですからね。無理はしない。みんなを守りながらやる。それもしっかり伝えた。また、大きな声で大笑いされた。


 怖いですから! それに、バシバシ肩を叩かれると骨まで痛いんですけど! オイラ〈身体強化〉発動してますよ? 関係なさそうですね。痛いから。はっ。これが、覇気?


 痛いって! もう止めて!!



  *



 はぁ。さ、帰ろ。



 ふんふんふん ……

 ふふふふふん …………


 ふふふふ、ふふふふ、

 ふふふふ、ふふふふ、


 ピシッ


 ふんふんふん


 パキッ! ボロッ


 ふふふふふーん。


 はい。壊れましたー。最後まで()ちませんでしたー。オイラの鼻歌。提供は、はちのうた。ロケーションは、どこだかよく分からない世界での、宿への帰り道。友情出演による、本人演出付き。


 あーあ。末端価格50万エーンが、壊れちゃいました。

 壊しました。犯人はオイラです。


『強制奴隷契約』の成立した首輪での『破壊』実験。


 お見事! 朝の心地良い妄想の後じゃないけど、やってみた。勿論チカラ技だよ? いつもの〈雷〉さんだー!


 契約成立前の首輪は、〈チャージ〉してある分の30%でぶっ壊れちゃっけど、今回は流石と言うべきか、更に強度が増していた。これが魔石と魔法による相乗効果なのだろう。また勉強になった。


 55%を超えたら、ピシッと音がして、58%でパキッと音を立てて壊れた。末端価格50万エーンもね。


 契約成立の前後で、オイラの感覚に、違いがあったかどうかなんて分かる訳もなく。実験は終了。見事に強度の違いがあった事は立証された。


 いや、違う。俺のチカラ技で、理不尽な『強制奴隷契約』から『解放』してやれるという事が立証されたんだ。これは、凄い事だと思う。俺ってば、救世主になれるかもよ? 〈エフェクト光〉もあるからね? このための布石だったんだよ。きっとそうだ。ん? そうなの?


 これってさ、〈チャージ〉58%でしょ。まだ上げられるよね。って事は、…………いや。止めておこう。それはやっちゃいけない実験だ。『サンプル』もないし。やっちゃダメだ。やらないよ? ホントかな? 『サンプル』いないかなぁ。


 なんちゃって。


 フラグになってないからね。ふふふ。




 ただいまー




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