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仮面の男 君の名は?



 団長よ。(いなか)でお袋さんが泣いてるぞ? 全部話してラクになれ。かつ丼食べるか? 無いけどな。


 知ってる事は、何でも言っておきなさい。もしかしたら、その後の扱いが変わるかもよ? どうなるかは知らないけどさ。『犯罪奴隷』だし。


 オイラは、いろいろ貰っちゃったから、対応は優しくしてるんだよ? 苦しい思いをする前に、話してごらん。ほれ。




 基本的に、団長と副団長以外は、ただの雇われ要員。この町でクランを作るための人数合わせ。役職も、この人達が勝手に考えて、適当に割り振ってたらしい。それっぽく見せるためのモノ

で、何の意味もなかったみたい。ただ、見習いだけは本当で、新しく入ってきたばかりの下働きだとさ。



 フタを開けてみればこんなもの。アホ過ぎる奴らの集まりだったのは、あまり物事を考えずに、言う事をよく聞くから。使いやすかっただけ。金で雇っただけの集まり。


 雇われた方も、金のチカラでいい思いができた。『特攻隊』とか『精鋭部隊』とか言って、調子に乗ってやりたい放題。後始末は全部お金。戦闘経験豊富な元冒険者や、凄腕の傭兵といった者など1人もいなかった。ちょっと勘違いしてた野郎の集まり。『ジャッジメント』恐るべし。


 それでも、やりたい放題でいい思いをし、町の人達にも迷惑をかけ、奴隷狩りの片棒を(かつ)いだのだ。その償いは必要だろう。情状酌量(しゃくりょう)の余地があるのかどうか、判断するのは俺じゃない。どこかの誰かさんに任せましょう。


 闇には闇がある。闇は深い。

『隷属の首輪』をどうやって仕入れているのか。


 不定期にクランに人がやって来るらしい。そこで必要な数を伝えると、金を請求される。その金を支払うと首輪を渡される。という流れ。

 毎回やってくる人は変わるが、方法は変わらない。いつもニコニコ現金払いのみ。その売人は皆奴隷で、最低限の言葉しか話さず、どこから来て、どこに行くのかも分からないらしい。ヘタに探ると制裁が怖いため、それも出来なかった。ちなみに、


『隷属の首輪』1つで、50万エーン。

『主の腕輪』1つで、100万エーン。

 セット販売はしていないそうです。

 そんなのを、それぞれ『30』と『3』も仕入れてたんだから、現金が残ってるはずないわな。残念。ん? 残念でもないのか? 残りはオイラがいただいちゃうし。まあいいや。


 計算してみると、合計で1800万エーンだ。すげーよな。その金額も、支払い能力も。それ以上に儲かる訳だから、やっぱり止められないんだろうな。怖い怖い。


 闇の組織。簡単にはその足を掴ませない。姿すらも謎だ。その売人も奴隷。命令次第で情報も漏洩(ろうえい)しない。簡単に口封じもできる。こんな便利な仕組みはないだろうな。顧客が捕まろうと、関係ない。首輪が売れればそれでいい。

 悪の循環。悪が悪を広げ、続いていく。死ぬまで止められない流れがあるのかもしれない。


 コイツらは、トカゲの尻尾ですらない。本体とは全く関わりがない。切られても、痛くも(かゆ)くもない。そういう存在だ。ただ、道具を買ってくれる顧客を1つ失うだけだ。またすぐに次が見つかるだろう。金のチカラは恐ろしい。


 ここから、トカゲを探すのは難しいだろうな。残念だが、仕方がない。



 結局、町長と冒険者ギルドとの関係は微妙なモノだった。

 証拠が何もないのだから、どうしようもない。ある程度のトラブルは、金で便宜を図った事もあったようだが、奴隷狩りにまで加担するという事は無かったようだ。良かったね。奴隷落ちは(まぬが)れそうだよ。グレーゾーンってやつ?



 最後に1つ。と言いながらも2つ。

『ウロボロス』について。結論。知らない。刺青のマークも初見。反応なし。


『銃』という飛び道具を使う、黒髪黒目の人物について。結論。もしかしたら『スペード』の事かもしれない。銃が何かは知らないが、黒髪黒目の人物が『スペード』と名乗った。


 首輪を売った事があるらしい。どうやって知ったは不明だが、突然現れて、今すぐ必要だから売ってくれと言ってきた。事情もよく知っていたし、金を多く積まれたので、1度だけ売った事がある。その時は1人しかいなかった。


 身体の特徴を聞いてみたところ、多分、ミラに風穴を開けられた奴だと思われる。ここで繋がった訳だが、ここからが繋がらない。ここで終点だ。また次の(ほころ)びを探すしかない。



『スペード』って、あのトランプのマークだよな? いよいよ、世紀末設定がきたのか? ヒャッハーか?

 確か『剣』のマークだったよな。貴族階級、騎士、軍人。冬。夜間を表すのだとか。何だろね。これだけじゃ分からないや。でも、嫌な予感しかしない言葉だ。組織として考えるなら、他にもマークがある訳で、……まだまだいろいろと出てきそうで怖いです。特に『ジョーカー』なんて……、いや~~っ!



 今はいいや。情報収集はここまでだ。

 という事で、コイツらはここまで。ご退場いただこう。



「ハウス!」

 通じる訳ないか。ここがコイツらの家だし。俺反省。


「お前達、全員食堂で待機だ。次の指示があるまでは喋るなよ。では、行け!」


 ザッザッザッ。まるで行進だ。いやドナドナだ。揺られて行くよ。19人。こうして見ると、それなりの集団だったんだな。


 何とか無事に乗り切れたかな。

「ふー。やれやれだ」




 結局、俺の存在には気付いているものの、声の方向を向くだけで、移動してしまえば、居場所の特定は出来ていなかった。実験は、大成功。嬉しい悲鳴です。きゃ~~!


 ここまで凄いと、オイラ()()()()かねないぞ? ふふふ。嘘冗談。イタズラぐらいにしか使わないよ? ホントだよ? ふふふ。信じられるかな?


〈光学迷彩〉〈ステルス〉。こっちの世界の人達には、絶大な威力を見せる事だろう。元の世界のチート持ちには、効果が薄れるはずだ。知識として知っていれば、対応もできる。初見必殺。次はない。そんな感じで考えておこう。調子には乗らないよ。みんなを守ために使うんだ。そう誓う。早く宿屋に帰りたい。




 まだかな、まだかなー。奴隷商の、セバイスさんまだかなー。


 これは分からないはずだ。ふふ。



 ジャッジメントのメンバーには、ここでは顔見せしていない。町で絡んできた4人には見られてるけどね。声で気付いたかな? 気付いてないだろうなあ? アホだったし。


 ようやくやってきてくれました。セバイスさん。お疲れ様です。お忙しい中、突然すいませんでした。


 セバイスさん登場。マジ格好いい。

 いつもの全身黒の執事服、パリッパリッの白のカッターシャツに身を包んだ上品なおじ様。なぜか今回、仮面付き。えー。

そっちで攻めてくるの? それタキシードだったら、タキシードを着た仮面の人だよ?



 お前は、ちゃんとお使い出来たんだね。偉いぞ。ちょっと心配してたんだけどな。やればできる子だったんだな。アホだけど。うん、うん。よくやった。これからは、奴隷として、しっかり生きていきなさい。これが先生からの最後の言葉です。


「よし。お前は食堂で待機だ。次の指示があるまでは喋るなよ。では、行け!」



 一応、物陰に移動して〈光学迷彩〉〈ステルス〉解除。



「お疲れ様です。セバイスさん。お忙しい中、突然呼び出してすいません」


「ん? 私は見ての通り、仮面の男。なぜ私がセバイスだと?」


 え~。それで変装してるつもり? 冗談だよね? そりゃあ、分かるでしょ。そんな格好で、強そうな人なんて、この町ではあなたしか思い当たりませんよ?


「私がセバイスさんを呼んで来るように頼んだんですよ? それで来てくれたんですから、セバイスさんしかいないですよ? 私の知り合いは、この町では、アナタしかいないですからね」


「ふむ。確かにそうでしたな。これは失礼しました。お恥ずかしい所をお見せしました。実のところ、私がここに居る事自体が異例の事でして、顔を見せては訪問できなかったのですよ。奴隷商の支配人が、今問題になっているクランの拠点にやってくる。これだけでも誤解を招きかねませんからな」


「それもそうでしたね。ごめんなさい。考えが浅はかでした。もっと気を遣うべきでしたね」


「いやいや。いいのですよ。奴隷を使ってまで呼び出しをさせたのです。何か面白い事が待っているのですよね?」


 さすが、セバイスさん。何でもお見通しですか? くっそー。少しくらい驚いた所を見たいよな。


「今から特殊な魔法をお見せしますが、口外無用でお願いします。セバイスさんの事は信じていますので、大丈夫だと思いますが、面白いモノが見れますよ。どうしますか?」


 待ってる間に、ちゃんと録画映像の編集もしたよ。オイラ、そういう事は忘れないよ? 捕まりたくはないからね。オイラはデリケートなんです。小心者とも言うけどね。



「ほう。奴隷商相手に『口外無用』を言いますか。

 ふっ、はぁっ、はっはっはっ! 面白い。実に面白い。やはり貴方は面白い人だ。いいでしょう。お約束しましょう。これからの事は口外無用としましょう。それで、私に何を見せていただけるのでしょうか?」


 アイテムボックスからスマホ取り出し、手のひらに乗せ、俺のユニーク魔法として、それらしく振る舞った。まあ、この人くらいの知識と経験があれば、何かしら不審には思うだろうが、気にしない。気にしたら負けだ。


「ポチッとな!」

 再生開始だ。見よ。オイラの活躍を! あ、映ってる訳ないや。俺が撮ってたし。自撮り禁止だったし。仲間と思われたくないからね。


「おおーー! 何だこれは! この手のひらの中で人が動いているでないですか。それに、ここから声まで聞こえてくるではないですか。何という事だ。こんな事ができるなんて……。確かにこれは口外無用でしょうな。納得しました」


「ここからが見て欲しい所です。よく聞いていて下さい」


 食堂での1コマ。オイラの食事が終わった所から。『ジャッジメント』のメンバー勢揃いで話している所の一部始終。

 俺達が泊まっている宿を襲撃する宣言から、打ち合わせの内容まで、自分たちで報告してくれている光景。証拠としては申し分ないでしょう。いかがですか? 全員映ってますよ。


 それから、地下室での1コマ。これは撮り直しをしたからね。テイク3までいったね。『主の腕輪』『隷属の首輪』の数を調整しておりました。全部貰っちゃマズいかな、とか、いやいや、どうせ出所の知れないモノなんだから大丈夫じゃね? とかやったなぁ。結局、アイツら全員にはめちゃったからね。その分の数だけを金庫に入れ直してOKが出たね。


 うん。撮影って大変。その編集はもっと大変。都合のいいように調整しないといけないからね。裏方さんが一番大変だと思う。舞台の上の人だけにスポットライトが当たるけど、縁の下の力持ち。そういう人にこそ、称賛を送るべきだ。でもそうなると、もう縁の下じゃなくなるから悩ましいよね。縁の下はいつまでも縁の下。深いねぇ。座布団1枚やっとくれ。


 編集次第で、物事は何とでも見せられる。面白くもできるし、つまらなくする事も可能だ。音声や、効果音なんて追加したら、もうやりたい放題。怖いよぉ。編集の腕次第で、番組なんて何とでもなっちゃうよ? だから生放送は貴重なんだよね。価値があるし、主役の腕も必要になる。編集されたテレビドラマと舞台の生演技。より深く感銘を受けるのはどっちだろうね。


 音楽もそうだ。加工されまくって作られたCDと、ライブ演奏。違いが分かる男じゃなくても分かるレベルだよね。うーん。いいこと言い過ぎた。座布団全部持って行って。



 映像もここまで、いかがでしたか? スマホはそれらしく収納しちゃいます。


「これが、ここでの出来事です。襲撃の証拠と、地下室の金庫に『主の腕輪』『隷属の首輪』が保管されていた証拠です。いかがですか?」


「……まさか、ここまでとは。もう驚きを通り越して、言葉が出てきません。私もまだまだのようです。その『魔法』も凄まじいモノですが、それは『口外無用』の秘密事項なのでしょう? これ以上の事は聞かない方が良さそうですな」


「はい。お気遣い、ありがとうございます。そうしてもらえると助かります。私にも『秘密』はありますので」


「ふっ。はぁっ、はっはっはっ! やはり、貴方は面白い。いいでしょう。その話は、ここまでにしておきましょう。またの機会にお願いしますよ。

 コホン

 そうですか。やはり、ここだった訳ですね。思った通りでした。『ジャッジメント』。ここが、『奴隷狩り』をしていた拠点だった訳ですね。これだけの証拠があれば、もう逃げられないでしょう。お手柄ですよ、タビトさん。そして、ありがとうございます。私達がやらなければならない仕事を任せてしまったようです。心から感謝致します」


「ははは。またの機会はないと思いますよ? これで準備が整えば、この町から出発しますからね? それに、セバイスさんからの情報のお陰です。夜襲を受ける前に対処出来て良かったですから、貸し借り無しって事でお願いします」


「ふふふ。それは分かりませんよ。世の中、何が起こるか分からないのが常です。覚えておいて下さい。

 それにしても、貸し借り無しですか。先ほどの証拠だけでも、勲章ものですぞ? 宜しいのですか?」


「はい。そんな物は要りませんからね。間違っても私の名前は出さないで下さいね。お願いしますよ。冗談ではないですから。勘弁して下さい」


「はぁっ、はっはっはっ! そんなに要らないモノですか? 勲章が? はっはっはっ! 流石、私が後継者にと見込んだだけのことはあるお方です。はぁっ、はっはっはっ!」


 何も、そこまで笑わなくてもいいのにね。まあ、さっき『ポチッとな!』で、セバイスさんの驚きの表情が見れたからね。良しとしておきましょう。それに、上級者の『コホン』転換も体験できたからね。いい経験をさせていただきましたよ。ふん。


「その代わりといっては何ですが、コレを差し上げます」


「ん? これは『主の腕輪』ですね? 登録もされているようですが、…………まさか!」


 オレの方を、ガバッと音がするくらいの勢いで見た後に、スッと優雅に向きを変え、しかも素早く、さっきのお使い帰りの奴隷を行かせた食堂に向かって行った。


 勝てる気がしない。なぜか単純にそう思ってしまった。

 力、スピード、知力、品格、どれを取っても俺以上。

 間違いない。絶対に敵対しちゃダメな人だ。


 そう言えば、ミラも似たような事をよく俺に言ってたけど、こういう感じだったのかな?


 うわ。こわっ。



 良かった。


『せばすちゃん』に改名しませんか?


 なんて言わなくて……



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