表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/47

少尉ではありませんが 突貫します



 すぐに宿に戻った。


 いや。戻ろうとした。


 もう宿も突き止められてるかもしれないけど、警戒して、大回りした。ジグザグに歩いたり、立ち止まったり、急に振り返ったり、曲がり角で走ったり。


 迷子になった。やりすぎた。


 いろいろ考えながらやってたら、自分がどこにいるのか、分からなくなった。それじゃミラじゃん。広すぎるよ、国境の町。オデルローザだっけ?


 ダイっ嫌い!


 くそー。俺とした事が。尾行を警戒して、自分が()かれたよ。アホじゃん。俺。『ジャッジメント』の奴らのアホさ加減がうつったか? ダメじゃん。くっそー。ロクな事がない町だ。この苛立ちをどこにぶつけてや・ろ・う・か・な。天の神様の言う・と・お・り!


 はい! ここにします!


「わおっ! マジで? 『神様の言うとおり』がここなの?」


『第6クラン オデルローザのジャッジメント』

 扉の上部に立派なプレートを発見しました。金キラキンにさり気なくないよ? ギラギラだよ? 趣味わるっ。



 建物は、『第2クラン オデルローザの暁』と同じように頑丈そうな建物だ。恐らく、これも流行りなのだろう。


 ギルド会館よりも頑丈なんじゃないかと思わせるような、要塞っぷり。間違いない。同じ建築家だ。いや、同じ設計者だな。外観がそっくり。外壁の色は違うみたいだけど、壁が分厚くて、頑丈そうに見える。建て売りか?


 ここに20人しかいないのか? 贅沢(ぜいたく)な使い方だな。3階建て、部屋数もぱっと見で『10』じゃ利かないだろうな。地下もあるのかな? 凄いわ。


 やはり、金か。金があれば何でもできる。

 現金が一番、現金があれば何でもできる!


 現金ですかぁーー!


 闘魂注入されちゃうよ? 結構痛いんだよ? マジでくらくらきちゃうんだよ? 調子の悪い時は絶対にダメだよ?


 そんな事より、どうしよう。



 取りあえず、隠れよう。今見つかるのはヤバい。


 あっ、そうだ。ついでにスマホで撮影しておこう。後でみんなに見せておけば、近づかなくて済むよね。遠くからでもこの建物なら分かるから。俺ってば、冴えてるぅ。迷子だったくせに!


 そうと決まれば、周りを確認して……

《光学迷彩》《ステルス》発動!

 すぅ~っと空気にとけ込むような感情。勿論、オイラの妄想大爆発です。


 カメラのフラッシュを()かないように設定しとかないとな。いきなりピカッとなったら、はい。お仕舞い。すぐにバレて追いかけられるよね。危ない危ない。



 ついでに、ちょっと乗り込んじゃうか? 気付かれたら、それこそオイラ特製の〈閃光〉カマしてダッシュだな。アホばっかなら、気付くまでに時間も掛かるんじゃないかな。


 苛立ちのぶつけ所選択から神様に選ばれた訳だから、やっぱり神様の言うとおりにしてみよう。屋内での対人実験は初めてだからな。ドキドキが止まらないぞ。


 よし。行くぞう! 雪は降ってない。おう!


 おっ邪魔しま~~す。

 邪魔すんなら帰ってくれ。

 はーーい。って何でやねん!


 はい。1人ノリツッコミいっときました。


 扉も開けっ放しで、風通しもいいですね。エコだよ、エコ。金あるんだよね? あ。エアコンなんてある訳ないか。失礼しました。パシャっと音がしちゃうとマズいので、動画撮影に切り換えるでござるよ。にんにん。


 実況付き動画撮影でござる。


 勝手に入ってるからね。不法侵入は犯罪なんだよ。無許可撮影だからね。盗撮は犯罪なんだよ。コッチの世界ではどうなのかな?


 ふんふんふん。俺が飛ぶ。飛べないよ。

 順調、順調。誰もいません。


 この広さじゃ、20人で使ってたらそうなるか? みんなで一カ所に集まって、ドンチャン騒ぎしてたりしてね。


 アホは、高い所を好むから、みんな上かな?

 でも使用人とかいないのか? いるもんじゃないのかな? 分かんないけど、こんな広い建物、管理・維持していくだけでも、大変な事だよ? あんなアホ共にできる? 疑問だね。


 あ、まさか、今夜の襲撃の計画でも練ってるのか? くっそー。そうだったら、潰してやる。今度こそ『くっころ』だ。転ばすだけじゃ済まさないからな。マジで、ひと突きしちゃうからな。俺はヤル時はヤル男だ。


 でも、その前に。折角だから、いろいろ貰っておきましょう。こんな奴らには勿体ない物だらけだ。


 ふんふんふん 俺が撮る

 廊下の周りに お宝並ぶよ

 ふんふんふん 俺が盗る


 不法侵入から、侵入盗になりましたよ。まだ昼間だし、建物に人がいるから『居空き』だよ? 家人が何かしてる隙に建物に侵入して、金品を盗む。これが『居空き』。ちなみに、これが夜の就寝時なら『忍込み』で、家人が留守なら『空き巣』だね。


 特に『居空き』『忍び込み』は、見つかっちゃうと、「居直り強盗」になる可能性もある恐ろしい手口なんだよね。気を付けようね。俺。


 鉢合わせすると、突然の事で動揺し、抵抗もしにくい。大声を上げれば、逃げてくれるパターンと、身体に重大な危険が及ぶパターンもあるからね。そもそも、建物に入れさせちゃあダメなんだよね。うん。うん。


 家に居る、居ないに関わらず防犯対策は必至だ。何があっても自己責任。命を助けてくれるのは、誰だろね? 警察や警備員も、すぐには来てくれない。助けてくれないよ?


 特に警備会社の警備員。『25分ルール』というものがあって、『異常を知らせるセンサーが発報されてから25分以内(地域によっては30分以内)で現場に到着すること』となっている。警備契約先で盗難被害が発生しても、25分以内に警備員が現地に到着していれば、原則として警備会社の過失とはなりません。つまり、責任は無いということ。


 25分もあれば、何ができるかな? カップラーメンなら、何杯食べられるかな? そうだな、ミラならそのままでもイケそうだから、『10』じゃ足りないかな? うん。楽勝かもね。でもお湯が沸くまでの時間もあるからな。正確に割り出すのは、ちょっと悩ましいぞ?


 しかも、警備員が現場に到着してからする事は、まず、『確認』する事。異常があれば、そこで警察に通報する。泥棒? 捕まえてくれないよ? 火事? 消してくれないよ? そこで消防に通報する。そういうお仕事です。


 警備員は警察の逮捕術を元にした護身術を学ぶけど、不審者をやっつけくれないよ? あくまでも、正当防衛用の護身術。警備員だって、自分の命が大事だよ? 他者のために、命を懸けて戦える? いくら払ってるの? 金が全てなの?


 だから、自己責任。自分で何とかしなきゃだよ?


 勿論、警備員が必要無いと言っている訳ではないからね。誤解しちゃダメだよ。要は使い方。

『緊急時の代理対処要員』として考えよう。何かあった時に、自分の代わりに現場に駆けつけて、異常がないかを確認してくれる人。そこで異常があれば、何かしらの対処をしてくれる人。巡回や保守もやってくれる人。ね。便利でしょ? 費用対効果を考えて、うまく活用しましょう。


 間違っても、これでもう安心。泥棒なんて怖くない。なんて思ったらダメなんだからね? まあ、気の持ちようなんだけど、最低限、少しの間の外出でも油断せず、必ず戸締まりして、鍵をかけましょう!



 あれ? 何の話をしているんだっけ?


 いかんいかん。ずっと黙ってると、緊張感もあるから、妄想が広がっていく。これはもう病気かも?



 あれ? これって、自分で自分の犯行の様子を撮影してるよね? あかん。後で編集しとかないとな。捕まるわ。俺。忘れずにやっておこう。



 たららら~~~ん。

 やっぱりあった。地下室です。迷わずGO!だ。


 おじゃまパジャマ

 ほんと鍵はかけようね? あれだけ力説したのに。何やってんの? また殴られちゃうよ? オヤジにもぶたれた事ないのにって。なっちゃうよ?


 今のところ、全部の扉、開いちゃうよ。大丈夫なのか、こいつら。少数の精鋭は頭が回るんじゃないのか? 罠も仕掛けもないし。何か出てこいよ。


 俺の〈光学迷彩〉〈ステルス〉の検証にもならないぞ?


 ……牢屋があった。一家に一台? 一牢屋? ってあるモノなのか? そんな世界はイヤだ。誰もいないけど、ここに奴隷を閉じ込めたりしてるんだろうな。汚いなぁ。臭いし。


 ようやく鍵のかかった金庫を発見。重厚感たっぷり。ビクともしない。これは運べないな。何が入ってるのかな? 鍵とレバーしかついてない、単純な仕様だけど、


 ガチャガチャ、ガッチャンッ!


 アホや。やっぱり少数の精鋭もアホだわ。


 ん。『隷属の首輪』ゲットしましたー。

 ……8、10……面倒だ。良い子は残さずいただきますよ。大きくなれないからね?


 在庫は『28』だったから、差し引きすると、『30』あった事になるな。アイテムボックスまじ便利。数える必要ないからね。


『□物置 隷属の首輪×58』


 あと、これは? 何だろ? 『首輪』とセットになってるって事は、これが『主の腕輪』なのか? あ、収納すれば分かるんだった。ほいっと。


『□物置 主の腕輪』


 やっぱりそうだ。あと2つある。うわー。ラッキー。これでオイラにも『えせ奴隷契約』できちゃうよ? ご丁寧に『赤魔石』まで置いてあるよ。しっかり『首輪』と同じ数の『30』。


 ありがとう。やはりこれは『神様の言うとおり』だったか。来て良かった。侵入(はい)ってよかった。たまには侵入もいいもんだ。でもさ、『赤』ばっかで『緑』がないんだけど。(はな)から『犯罪奴隷』にしかするつもりがないって事? ホント悪質だわ。腹が立ってきたぞ。背番号は『8』なのか? いかんぞ。


 でも、これで、理不尽な犯罪に悲しむ人が、少しは減るはずだ。これは、オイラのモノだ。お前らのモノは俺のモノ。俺のモノは俺のモノだ! 俺も歌は下手くそだからな! ふん。



 げっ。なんじゃ、こりゃあ! 腹から血は出てないよ? 撃たれてないからね? さっきいただいてきたモノ。廊下の周りに飾られてたから、さぞ値の張る美術品かと思ったのに。


『□物置

 素人が描いたよく分からない絵画×2 

 物凄く価値のある絵画×2

 素人がつくった変な皿×4

 一見高く見えるけど、実は安いただの壺×2』


 ゴミばっかじゃんか! 金あるんでしょ! (だま)されたっ! くっそー。簡単に騙されるオイラもオイラだな。建物の雰囲気だけで、高そうに感じちゃうんだからな。やれやれだ。一応いただいておくけどさ。違いの分かる男には、まだまだ程遠い今日この頃です。


 くっそー。もうこれ、魔石を(あらかじ)め、はめとけばいいんじゃないのかな? ダメなのか? グッと押し込んで、よしっ。……おお。これが『犯罪奴隷』用の『隷属の首輪』か。なんか格好良く見えなくもないぞ? 俺の価値観なんてその程度だな。やれやれ。


 これを見ちゃうと、試してみたくなるのが、オイラの悪いクセ。確か、首輪を対象者に付けた状態で、『首輪』の魔石に片手を添え、もう片方の手に『腕輪』を持って、両方の手に魔力を流してやればよかったんだよな。


『機密事項』って言っても、一度見てしまえば誰にでも分かっちゃう事だよね。あ。別に魔力を流すところを見せなければいいだけか。魔力を流した奴隷商人と、『対』として登録させた腕輪をつけた人には逆らえないんだから、奴隷を買ったお客には、ただ、腕輪を渡せば済む話だ。裏でこっそり登録だけ済ませせておけばいいんだね。


 しかも、通常であれば、登録されていない『色無し』の『隷属の首輪』は、厳重に管理され、奴隷商預かりになっているべき物。善良な一般市民には縁のない物だからな。うんうん。納得だ。



『強制的隷属化』がどんなモノか、その身をもって味わわせてやる! 思い知るがいい。


 誰か来ないかな?



 でもその前に、金庫の中身を全ていただきます。


 ご馳走様でした。頑丈なロープ×30と、特大麻袋×30。縛って、被せて、運びましょう。って事だな。わざわざ金庫に入れる必要もないのに。アホや。折角だから、全部いただいて、活用させていただきましょう。

『予告はしてないけど、突発的に思い至り、オイラが全部いただきました』ってカードに書いて、空の金庫に置いておきたい気分だわ。でもな。オイラ3世でもないし、レオタードも着てないしなぁ。そもそも女じゃないし。


 それでもやっちゃう? やらないよね。足が付いちゃうじゃん。折角こっそりやってきたのに。それに、何て名乗るか考えるだけでも時間掛かっちゃうし、今は無理。これまでの苦労を台無しにはしません。


 おし。完了。それでは、上に参りま~す。

 閉まる扉にご注意下さい。



  *



「おい。なんか廊下がスッキリしてねねか?」

「ああ? 何言ってやがる。おお。確かにスッキリしてるな」

「おい。壁に掛けてあった絵画も、棚に飾ってあった皿や壺なんかも無くなってるぞ」

「そう言われてみれば、そうだな。無くなってるな」


「おお。確かにスッキリしていて見通しがいいな」

「誰かが掃除のために、片付けたんだろうぜ。掃除するとホコリが出るからな」

「そうか。そう言う事か。確かに、ホコリを被った皿や壺を、また磨き上げるのも面倒だからな。頭がいいじゃねえか」

「おお。そうだな。俺も今度の当番の時にはそうしよう」


「おい。そんな事より早く飯の支度をするぞ。もう腹減ったぜ」

「そうだな。飯のが先だな」

「全くだぜ。夜襲の打ち合わせなんて、適当でいいのによぉ」

「ホントだぜ。ただ宿に押し入ってぶん殴るだけなのになぁ」


「全くだ。向こうにはガキが4人もいるんだ。そいつを先に押さえちまえば、お仕舞いよ。簡単なもんだぜ」

「はんっ。それでも向こうには、全部で7人もいるんだ。油断はいけねえぜ」

「そうだな。油断はいけねえな。まあ、俺たち精鋭部隊の10人が全員で当たりゃあ、それでも楽勝だろうがな。ハッハー!」

「違えねぇ。俺たち精鋭部隊はこれまで負け知らずだ。金のチカラってのはスゲーよな」


「おい。いい加減に手を動かせ。遅くなると団長に叱られるぞ」

「「「へーい」」」




 アホや。やっぱりアホの集団だったわ。この4人が『少数の精鋭』の中の一部か。『精鋭部隊10人で全員』。昨日襲ってきた奴等が4人、あれは精鋭部隊じゃないよな? 『見習い』入ってたし。団長と副団長もいるだろうから、これで16人。あと4人くらいか、まだ分からないのは。『見習い』なのか、『その他』なのかだな。


 とすると、要注意なのは、団長、副団長と残りの不明な4人の計6人という事になるのか。だけど、この頭で『精鋭』とは、なかなかやってくれる『クラン』だな。奥が深いぞ。やはり金のチカラか。自分達でも理解しているようだから、尚更悪いな。


 しかも、夜襲の打ち合わせって、全員上の階に居たって事か。やはり夜襲は決行。今夜か? こっちの人数まで正確に把握してたからな。セバイスさんの言ってた通り、やはりこの手の情報は簡単に(つか)まれてしまう訳だな


 だけど、子供が4人て? やっぱミラか? ミラさんは子供扱いという訳ですか? 100歳超えてるのにな? 騙されちゃダメだよ? 調子に乗っちゃうよ? 本人には言えないけどさ。この前27歳って言ってたし。まあ、俺も騙されてるかもしれないけどさ。どっちに? 上? 下? そんなの言えねー。年齢は永遠の神秘なのです。特に女性にとってはな。ふー。疲れる。



 オイラ、今、普通に廊下の壁にもたれて立って居るんですけど……。誰も気付いてくれません。


 絵画に皿や壺の装飾品? 俺にとっては価値がない物の方が多かったけど、片付けたのは、オイラです。いだだいちゃったとも言うんですけど、オイラです。


 ちょっとドキドキしなが、ゆっくり手を振ってみたとです。やはり気付いてくれません。オイラです。折角だから、食堂まで付いて行く事にしたとです。それでも気付いてくれません。オイラです。オイラはこの先、どうすればいいのでしょうか。誰か教えて欲しいとです。


 オイラです、オイラです、オイラです……


 …………



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ