表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/47

奴隷商館 再び



 ちゅん、ちゅん、ちゅん



 もちろん意味はない。今日も、宿の窓から朝日が射し込んでいる。良い天気だ。連続晴天日数更新中。本当に大丈夫か?


 昨日も楽しい夕食の後、まったり団欒(だんらん)し、それぞれの部屋で眠った。ご期待に添えるような進展など、まだない。『宣誓』した通りだ。


 朝の妄想はうまい!


 これだけは変わらない。それに、気持ちを切り替えて、いろいろ検証できるいい時間だ。眠ってる間に脳がいい仕事してくれてるからね。発想が(さわ)やか? 疲れてないからやる気が違う? うん。いいモノだ。


 心配していた夜襲はなかったようだ。防御壁には傷1つなかった。うん。いい仕事しましたね! これで、宿でも安心・安全に眠れる環境を整えられそうだ。


 宿の関係者には、キッチリ話を通しておかないと大変な事になりそうだけど、その辺はきちんと対応していけばいいからね。迷惑がかからない程度に自衛するだけだから、問題ないだろう。ちゃんと片付けるし、傷も付けないからね。うん。オイラは悪くない。


 まあ、いくらアイツらがアホと言えども、さすがに事を起こした、その日の夜っていうのは、まだ準備ができていなかったのだろう。やれやれだけど、もしかしたら、今夜辺りが怪しいかのもしれない。そっちの対策も考えとかないとな。


 さてと。今日は奴隷商館に行ってきますかね。



  * *



「いらっしゃいませ。おや? お約束は確か明日だったはずではありませんか? 何かございましたでしょうか? 本日はどのようなご用件でしょうか?」


 店のドアを開けると、前回と同じ、『ザ・執事』というパリッパリッの服装に身を包んだ上品なおじ様『セバイス』さんが出迎えてくれた。相変わらず(すき)のない身のこなしと存在感。凄い人だと思うよ。やっぱり『せばすちゃん』のがいいと思う。まだ言わない。もう少し?


「はい。すいません。こちらの事情で申し訳ありませんが、街でトラブルに巻き込まれてしまいまして、報告しておいた方がいいと判断したので(うかが)いました。少しお時間よろしいですか?」


 ありのままを伝える予定だ。ウソを言っても仕方がないからね。


「そうでしたか。その様子ですと、時間を取った方が良さそうですね。分かりました。こちらにお越しください」


 おう。なんて思慮深い人なんだ。俺の雰囲気から察したとでもいうのか? これこそ『忖度(そんたく)』だぞ?



 先導されるままに進んでいくと、前回と同じ広い応接室に通された。今回は客ではないため、紅茶セットは出てこないかと思いきや、出てきちゃいました。


 まいっちんぐ


 ソファーに座ると、流れるように紅茶セットがテーブルに置かれた。やはりこういう上品な感じは慣れないな。紅茶は、香りがたって凄くおいしいんだけどね。



「それで、どうなさいましたか? 街でトラブルに巻き込まれたとか。それはどのようなものでございましょうか?」


 昨日のトラブルについて、話しをした。冒険者ギルドでの事、門番での事も合わせて話をしてみた。


 すると、何という事でしょう。みるみる反応が変化していくではありませんか。え? お怒りですか? 俺? オイラ悪い人じゃないよ? ホントだよ?


 セバイスさんのお怒りは、冒険者ギルドと、町長に向けてのもの。『第6クラン ジャッジメント』の悪行は前から行われ、問題視されてきた。にも(かかわ)らず、まだ解決に至っていない。その不甲斐なさと、もしかしたらという、疑念から。


 たかだか20名という小規模の組織に何をやっているのか。戦闘力には戦闘力で、金には金のチカラで押し潰せばいい。そんな悪名高いクランに、この町で大きい顔をされるコトには本当に頭にきているようだ。


 街中で人が攫われそうになった。しかも、夜襲するとまで言われているのだ。受付で処理できる案件でないのは分かる。だが、ギルド長不在で対処しないという体制にも問題があるし、他のクランを護衛に雇うことを勧められるなど、言語道断。自分達の問題までも商売にしようというのかと怒り心頭。


 やはりギルドもおかしいと、ますます疑念を強める事となった。最終的には自己責任という、及び腰の対応にもお怒りです。いつの間にそんな組織になり果ててしまったのかと。町の住民達の不安を考えれば、全員奴隷落ちしてもおかしくない案件ですぞとヒートアップ。さすがにそこまでではないでしょうに。


 だから、俺が訪れた理由については理解を示してくれた。場合によっては、この町をすぐにも出ていく事になりかねないからね。さすがです。理解が早くて助かります。俺が考えたような事は、セバイスさんにも思う節があったらしく、何か考え込んでしまった。


 オイラ達、夜襲を受けるかもしれないんですけど、大丈夫?


 町の防衛体制も、だんだんお粗末になっており、巡回している衛兵を見なくなってきた事には、セバイスさんも同意。税金ばかり上がっているのに、その金はどこにいっているのか。


 町の警備・取締り・監視等をするはずの衛兵が、まるでやる気のない対応。チカラになってくれそうもないなど、一体どうしてしまったのか。そういうトラブルを未然に防ぐのも衛兵の仕事だ。町長は何を考えているのか。場合によっては、それなりの制裁を受けてもらう事になりますぞと、大変お怒りであります。



 オイラのフラグが盛大に回収されそうな展開になりそうです。はあ。『金こそ全て』、金のチカラで揉み消している。この町は早く出ていくべきだという俺の考えは、正しかったという事だ。うん。お逃げだね。



 自己責任というなら、あっちも自己責任。この町は出て行くと決めたからには、クランだろうと、ギルドだろうと、衛兵だろうと関係ない。やる事やってからお逃げします。と考えていた事を伝えると、大笑いされた。


 え。笑い方、怖いんですけど。まさに大声を張り上げての大笑い。止めて下さいな。これも、一流の接客というやつなのだろうか。こんな体験したくないよ? 怖いんだよ?



 大笑いをピタリと止め、セバイスさんが話し出した。


 まず、先日俺が渡した『隷属の首輪』について。出所は分からないが、考えられるのは、やはり『奴隷狩り』。しかも、その拠点の1つがこの町にある可能性が高く、闇の組織があるか、とあるクランが怪しいと思っていた。


 柄も悪く評判もイマイチ。金遣いは荒いが、支払いはしっかりしているので、微妙な感じだった。商売している以上、お客様は神様。買わない客より、金を使う客。そう考える店も少なくないのが実情だ。


 金が正義なのか。違うだろっ!

 ち・が・う・だ・ろっ! ぎゃ~~。



 俺からの確認は、もし、許可を持つ者以外が『隷属の首輪』を所持していたら、それだけで罪になるのか。


 答えは『否』。厳重に監視された専門の製造所があり、そこから『モノ』は運ばれてくるため、所持しているだけでは罪にならない。ただ、厳重に管理されているので、関係者以外が手にする事はまずない。今回みたいに、落ちてること事自体が謎。考えられるとすれば、輸送時に襲撃でもあったか、他国からの悪(だく)みなのか。


 使われている首輪は、奴隷用の物で、どこの国でも同じようなものを使っている。奴隷制度に反対の国もある。それがきっかけで戦争になった事もあるが、結局、一番犠牲(ぎせい)になるのは、守りたい対象でもある奴隷だ、と気づいた他国が引いた形となった。しかし、所々で衝突、紛争は起きている。そういった中で、反対派の何者かが過去に手にした物が、こうして出てきたのかもしれない。


 型式や識別番号でも直接刻んで管理しておけばいいのにな。『主の腕輪』と登録してしまえば、(ひも)付きになるので、『腕輪』か『首輪』の片方でもあれば、いろいろと分かる事もあるようだが、詳しい事は教えられない。許可を持つ者だけに分かるようになっていて、それを教える事は禁止されているそうだ。


『色無し』の状態の『隷属の首輪』に記しを刻む事については、おお、それは素晴らしい発想だ。と逆に感謝された。なんだそれ。勝手に首輪をいじるのは禁止されているので、今の案を書面にして提案してみるらしい。どうぞ、ご自由に。()えてそうしてるのかもしれないし、関わってもロクな事がなさそうだから『権利』なんていりませんぜ、ダンナ。


 その代わり無事に帰してね。


 という事で、話が変な方向に行ったが、それはいつもの事。こんな事くらいでメゲないんだからね。おえ。



『奴隷狩り』に関しては、ここの商館は無関係。『シロ』らしいよ? 自分で言ってもねぇ。それは俺が判断する事でしょ?


 俺が持ってる28個の首輪については、やっぱり内緒にしておいた。罪じゃないなら、持っててもいいんじゃないかな? 見つかったら、また拾ったって言っておけばいいしね。ダメかなぁ。買ってくれるなら売ってもいいけど。


 げへへ、ダンナいくらで引き取ってくれやすか?

 って、ギルティ! 有罪だ。何を今更。隠し通す。いつかこの魔道具を解明してやる。じっちゃんばっちゃんの名前は何だっけ? オイラの名に懸けて!


 で、これからどうしやすか、ダンナ。もう帰っていいっすか? え? ダメらしい。もう少し話がしたいそうだ。



 え~~。乗りかかった船だから、調査にも協力して欲しいとか。勝手に船に乗せないでね。落とし物を善意で届けた、ただの一般人だよ? 偽善じゃないよ? ホントだよ?


 あ、持ってる首輪全部出してなかったわ。ははは。


 で、何をしろと? 報酬はいかほどで? 成功報酬は当然出るんですよね?


『第6クラン ジャッジメント』。『奴隷狩り』に関して一番怪しいと思われるヤバいクラン。


 やっぱりね。


 奴隷商館支配人セバイスさん。あなた、何者? 『ジャッジメント』に関する情報が出てくる出てくる。出てきたぞ? で、何をしろと? え? 何もしなくていい? ありがとう。それじゃ!


 何ていい人、セバイスさん。間違いなく、俺達は襲われる。どこの宿に泊まっているかなんて、すぐに分かってしまうらしい。それくらいの情報なら、金で何とでもなるからね。確かにそうだ。夜までに迎撃態勢を整えるか、この町を出るか。どちらにせよ、奴らに関しての情報は、知っておいて損はない。



 恥ずかしい話だが、俺が持ち込んだ『隷属の首輪』は、本来なら大事件。国が動く話。だが、この町の現状がこんなだから、セバイスさんは、この場を離れられない。国の当局に書面を送るので精一杯。『ジャッジメント』の情報は、何かの役に立てればとの、せめてもの心遣い。


 泣けるねぇ。ありがとうございます。


 だが、もしも奴らが『黒』だった場合には、下手をすればこの町で大規模な戦闘になる可能性がある。金で取り込まれている人、組織の規模にもよるが、もしかしたら、町長の首が物理的に飛ぶような事態にもなりかねない。


 だからこそ、『主の腕輪』には注意して欲しいと。知識があれば、誰にでも『えせ奴隷契約』が出来てしまうらしい。


『主の腕輪』と、奴隷商預かりのはずの『色無し』の『隷属の首輪』。この2つがあれば、魔石をはめ、魔力を同時に流してやるだけで、『強制的に隷属化』が完了してしまう。だから、くれぐれも気を付けろと。


『色無し』が単独で落ちていたという事は、『対』とするべき『主の腕輪』も持っているはず。追い込まれた奴らなら、なんでもやりかねない。『強制的隷属化』。悪人がやりそうな手段の1つ。


 あれれ~~? それって、俺にもできるのかな?

 やってみよう! おーっ!


 冗談でんがな。


 ふと、『エコー』の事を思い出した。正にこれ。間一髪セーフだったって事か? 不幸にも、『奴隷狩り』には遭ってしまったが、『隷属化』まではされていなかった。


 王都の奴隷商(いわ)く、『主の腕輪』との登録がされておらず、『隷属の首輪』をはめられただけの状態で、この子の身体にも何の問題もないと。


 良かったな、エコー。元気にしてるかなぁ。してるよね?

 うん。元気な笑顔が浮かんできたよ。



「セバイスさん。ありがとうございました。でも、こんな『機密事項』を、私なんかに教えても大丈夫なんですか? これって、関係者以外には教えてはいけないような話ですよね?」


「はっはっはっ。何を今更言っているのでしょうか。もう遅いですよ? あなたはもう、こちら側の人間です。この知識を役に立て、不幸な人を、()()1人でも多く救って下さい。それが出来る方だと、私も判断しました。

 それに、もしかしたら明日の朝日は(おが)めないかもしれないのですよ? なんの問題もありませんね。はあっはっはっはっはっ!」


 こわっ。やっぱり怖いわ、この人。そこまで考えての事なのか? 明日の朝日を拝めないかもしれないって。縁起でもない。


 でも、あれっ?


「えっ、()()って? もしかして、『エコー』の事を知っているのですか? 王都の奴隷商館から話が届いているのですか? え? どうして? エコーは元気でやっているのでしょうか?」


 突然の事で一気にまくし立ててしまった。らしくないな。でも、やっぱり俺が王都の奴隷商館に出入りした事を知っているようだぞ?


「この首輪を調べるにあたり、私もいろいろ調べました。まだ途中ではありますがね。王都での話は、前から聞いていました。タビトさん、アナタの事もね。心配はいりません。悪い事ではありませんから。

 さて、その『エコー』とやらが誰かは存じませんが、あなたが助けた『首輪』をしていた()()()の事なら、今でも教会で元気に過ごしているそうですよ。良かったですね」


「え? あ、はい。やはり、王都での事も知っていたのですね。その子も元気にしているなら良かったです。ありがとうございます」


「先日、その後の経過観察も兼ねて、担当者が教会に様子を見に行っていますから、間違いありませんよ。それにしても、また『色無し』を拾うなんて、よほど『縁』があるのでしょうなぁ。

 どうですか、この際こちらの道に進んでみるというのは? あなたなら、適性もありそうですし、能力も高そうです。やりがいもありますよ?」


「あ、いや。特に今のところ興味はないので、大丈夫です。お断りします。それより、『縁』があるとか言うのは止めて下さいね。セバイスさんが言うと、洒落(しゃれ)にならない気がしますから」


「そうですか。それは残念です。貴方には、私の後継者となっていただきたかったのですがね。まあ、仕方がありません。また気が変わりましたら、是非お訪ね下さい。では、ご武運をお祈りしております」


「はあ。ありがとうございます。別にまだ、戦うと決まった訳じゃないですからね?」


「はぁっはっはっは! 冗談も得意なようですね」



 ガシッと音が鳴りそうな力強い握手をして別れた。怖すぎる。あの力強さ。〈身体強化〉してなければ、骨までヤバかったぞ?



 そんな事よりも、エコーは元気でやってるんだな。良かったよ。あれれ~~? そう言えばまた怖い事言ってたな。セバイスさん。次に会う事があれば、言ってみよう。


『せばすちゃん』に改名しませんか? いや違った。

『あなたが助けた『首輪』をしていた()()()の事なら、……』

って、『女の子』?


 エコーって女の子だったの? うっそーん。

 分からなかった。


 俺、変な事言ってないし、やってないよな?

 怖くなってきたぞ?


 完全に男の子だと思って接してたからな。ヤバいかな? でもまあ、まだ子供だし。大丈夫でしょ? うん。忘れよう! こういう時こその、スルースキルだ。


 明日の朝日は拝めないかもしれないんだから、そんな事気にしててもしょうがない。うん。そうだね。あー。



 みんな元気にしてるかな?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ