『第6クラン オデルローザのジャッジメント』
「おいっ! ウチの団員に何やってんだ!」
おっとぉ。団員が追加で登場ですか?
「何をと言われてもね。お宅は? どちら様で?」
「おうおうおう。てめー、ふざけてんのかぁ。俺達を知らなねぇだとぉ。名前を知らねぇなら、しっかり教えてやるよぉ! その体になぁっ!」
「俺達を知らねーだと。バカな奴だ。お前達は余所者だな。いい気になるなよ。俺達はこの町でも武闘派で有名なクラン『ジャッジメント』だ。少数精鋭、総数20名の戦闘集団、成り上がり者だ!」
「ふんっ。俺達は、金のチカラで成り上がったクランだ。金こそ全て。金で全てをねじ伏せる! てめーも今から痛い目に合わせてやるぜ」
おう。チンピラが3人も追加で現れたよ。いきなり俺に言葉遣いでダメージを与えてくるとは。やるじゃないか。
間違ってる所は、スルーでいいかな。『成り上がり者』って、自分で言っちゃっていいの? そんなに偉そうに言うような言葉じゃないと思うよ? 謙虚な気持ちを忘れない為に言ってんのかな? いい人なの? それに『少数精鋭』『総数20名』って、どうなの? 何となく意味が分からないんだけど。はっ。それが作戦か?
でも、その後の言葉はヒドイよね。金が全てってさ。そりゃあ、そうなんだろうけど、往来の人目がある中で、それ言っちゃうの? 大声で? その自信はどこからくるんだよ。
それにしても、聞きたい事をそっちから言ってくれるなんてな。ギルドで調べれば教えてくれるかもしれないけど、手間が省けたよ。こういう奴は咄嗟のウソはつけないタイプだからな。恐らく、知りうる限りでホントの事を言っているんだろう。アホや。ホンマもんのアホや。ありがとう。
要は、武力と金で成り上がった悪評で有名な『ジャッジメント』は、総数20名のクランです。という事ね。精鋭が何人いるか分からないのがミソだな。コイツらは外すから、残り16名の中に少し精鋭がいるという事だな。うん。多分そうだ。
「おいっ、大丈夫か? お前はまだ見習いじゃねぇか。何やってやがんだ。こんな奴らに舐められてんじゃねぇぞ」
「あ、は、はい。すいません。いきなりヤラレたもので……」
「おいっ。こいつにやられたんだな?」
「は、はいっ。こいつです。こいつにいきなり蹴られました」
「おお、なんだぁ、犬人族の女がいるじゃねぇか」
「おお。ホントだな。それも上玉じゃねぇか。なんだてめぇ。そいつを置いていくなら、少しは手加減してやってもいいぞ? あぁ?」
「そ、そうなんです。上玉の犬人族の女を見つけたんで、攫ってやろうかと思いまして……へへ」
「バッカ野郎! 街中でそんな事するんじゃねぇ。人目に付くだろうが! バカか! てめぇはっ!」ドカッ!
「うっ。すいません。ついぃ。俺も早く正団員になりたくて……」
「あぁ? それで焦って、街中で手を出したってことかぁ!」
「ひぃっ、す、すいませんでしたっ!」
「チッ! バカ野郎が! 町から出るまで待ちやがれっ!」
「まったくだ、バカ野郎が! せめて夜まで待てねぇのかっ!」
あかん。コイツら真っ黒だったわ。
お前ら、俺達は犯罪してます宣言を大声でしてんだよ? バカバカ言ってるけど、お前らもだからな。お前らも揃ってバカなんだよ。
人攫いのクランか? 全部で20人。多いな。簡単にはいかんだろうな。ギルドに登録してる訳だから、この証言でパクれないかな? イヤ。金で全てねじ伏せるって言ってたわ。評判が悪いなら、何かしらの対策はしてるはずなのに、こうやってのさばってるって事は……、あかん。やるしかないな。
「ミラ、アリー。これはテンプレじゃないからな。ヤバそうなクランの団員だし、頭もヤバそうだから、逃げる準備だけはしておいてくれ」
「あい、分かったのじゃ。アリーの事は、わしに任せておくのじゃ」
「はい。ありがとうございます。ほんとヤバそうです。また、私が狙われたんですね。はあ。いつでも逃げられますから、合わせます」
「アリー。気にするな。こんな奴らの言う事に動揺しちゃダメだ。ミラ、頼んだぞ。宿で合流しよう。分かってると思うけど、追っ手には気をつけてね」
「任せるのじゃ」
「はい」
「おう。てめー。今日のところは見逃してやる。今度会ったらただじゃおかねぇからな。覚えとけ!」
「アニキ、見習いがヤラレてるのにいいんですか?」
「そうですよ。ここであの男をやっちまって、あの犬人族の女と、小せえ女も攫っていきましょうぜ」
「そうですよ。2人ともいい金になりますよ。俺の手柄になりますよね?」
「ばっきゃーろー! ここでやってどうするんだ。また真っ昼間から面倒事起こすつもりか? こんなに人がいりゃあ、面倒なのはコッチなんだよ! 後でやるんだよ。後で。いいから、黙って付いて来いっ!」
「「ひぃぃっ」」
「すいませんでしたっ! 流石ですアニキ! 後で襲うんですねっ! 一旦引いて油断させて、夜襲かけるんですね!」
「おおっ、流石アニキ! 頭いいぜぇ。俺はアニキについていくぜ!」
「「おお!」」
は? だめだ。コイツら。ここで戦闘になるかと思いきや、救いようがないアホや。全部教えてくれるんだね。スゲーな。ひと味ちがうな。このクラン。これでこの町でデカい顔していられるって? そっちのが怖いわ。どうなってるんだこの町は。『国境の町』というだけあって、いろんなのがいるのかな。まあ、とりあえずひと息つけそうだ。
「分かったら黙ってろ! あいつらの顔をよく覚えとけよ! 行くぞ!」
「「「はい。アニキ!」」」
ひゅ~~
俺の冴えない時のスベリより、冷たい空気が流れたぞ?
「ふー。とりあえず行ったな。何事もなくて良かったよ」
「ふん。あんな奴等など、ここでヤってしまえば良かったのじゃ。面倒事が後回しになっただけなのじゃ」
「あのぉ。ありがとうございました。私が狙わてしまったばっかりに……」
「何を言っておる。わしも狙われたじゃろうが。アリーのせいではないのじゃ。気に病むでない」
「そうだぞ、アリー。犬人族だからってだけで狙われた訳じゃないと思うよ。街中だからって俺も油断してた。ごめんな。ミラもアリーも可愛いから目に付いて狙われちゃったんだよ? 自分に自信を持てばいいよ。何かあったら俺達が守るからね」
「おお。おぬし、嬉しい事を言ってくれるのじゃ。わしも可愛いのか? はははは。いいのう、いいのう。あ奴らのお陰で良い事を聞けたのじゃ! はははは。嬉しいのう」
「そんな、可愛いだなんて、……もうっ。恥ずかしいです。でも嬉しいです。私、狙われて良かったです! そのお陰で、タビトさんから可愛いって言われました! ふふふ」
「あー。なんか、照れるね。でも、ホントにそう思ってるからね。前にも言ったけど、2人とも俺には勿体ないくらいだよ? だから、あんな奴らに屈しないで、自信を持ってね」
「何を言っておる。おぬしこそ、いい男なのじゃぞ? おぬしこそ、自信をもつのじゃ。わしが言っておるのだから、間違いないのじゃ」
「はい。そうです。タビトさんこそ、いい男です。もっと自信を持って下さい」
「はははは。ありがとう。やっぱり照れるね。2人に言われると、凄く嬉しいよ。じゃあ、いつまでもここにいるのもなんだから、宿に戻って作戦会議しようか」
「ふん。そうじゃの。奴らには制裁を加える必要があるのじゃ。作戦なら、わしにまかせるのじゃ」
「はいっ。作戦会議、私も参加します。できる事があったら、なんでも言って下さい」
なんだかんだ言って、いい雰囲気になれたな。ああいう奴らも、役に立つ事があるんだな。うん。うん。気持ちを素直に伝えるのもいいものだな。ありがとうミラ。アリー。
* *
念のため、アホどもの尾行に警戒しつつ、大回りをして宿に戻った。
パブロとルイに事情を説明し、警戒レベルを上げてもらい、しばらく宿から出ないように提案した。
事情を理解した2人は、それを了承し、双子のジャックとレックスの共感覚の特訓に注力するとの事だった。この件が落ち着けば、俺も特訓に参加したいと伝え、作戦会議をする事にした。
『第2回これからを考える大人だけの全体会議』を始めます。参加者は俺、ミラ、アリー、パブロ、ルイの5名。議題は『第6クラン オデルローザのジャッジメント』の殲滅方法について
もう殲滅は確定。精鋭部隊がどれほどか分からないが、あんな奴らがブイブイいわしてる組織を放置したらダメだと思ったから。アリーに手を出した時点で殴り込みは確定。その後の言動により、殲滅へ格上げ。満場一致で決定。
先ずは、冒険者ギルドに今回の件を報告。金で買収されたギルド員がいるかも知れないので、要注意。できれば、『ジャッジメント』の情報も欲しいので、聞ける範囲で探ってみる。
その後、衛兵にも今回の件を報告。チカラになってくれそうなら、協力を仰ぐ。ここにも買収された者がいるかも知れないので、要注意。ここまでが俺の担当。
クランの拠点を見つけ、観察し、内情を探る。これは、まだ顔の割れていないパブロとルイに任せた。
こちらの居場所を見つけられないよう、行動には細心の注意を払う。街中を移動する際には、向こうの団員と出くわさないように注意し、簡単な変装をしておく。帽子、フード、あるならカチューシャとかだよね。簡単な事だけど、何もしないよりかは効果はあるでしょ。
バッタリ出会ってしまい、襲ってくるようなら、大声を上げて逃げる。その際に、一直線に宿に戻らず、近くの衛兵、ギルドに駆け込むか、ジグザグに走って撹乱させる。
殲滅の決行は、情報を分析して、対策を考えてから行う。以上。『第2回これからを考える大人だけの全体会議』を終わります。
善は急げだ。とりあえず、組織まで悪に染まっていない事を祈りつつ。俺は1人で冒険者ギルドに向かった。
* *
受付で今回の件を報告。
連れが『第6クラン ジャッジメント』の団員に街中で襲われ、攫われそうになった。軽いいざこざになったが、その場は引き上げ、夜襲すると言っていた。また、人をさらって金にしていると大声で言っていたと、できるだけそのままを話した。
これは受付で処理できる案件ではないので、ギルド長と話をするべきなのだが、今ちょうど外出中のため、報告しておくとなった。今夜襲撃されるかもしれないんですけど、大丈夫?
『ジャッジメント』は登録番号こそまだ新しいが、20名という小規模でありながら、戦闘力と金のチカラで実績を上げてきており、確かにこの町では大きい顔をしている。
トラブルも絶えず、各クランからも苦情、改善要求などが出ている。現在その協議中でもある。心配ならば、他のクランを護衛に雇うことを勧められるが、断った。
もしかしたら、それも狙いじゃないだろうな? 問題を起こす役と、守る役、解決する役目。そういう構図を作ろうとしている? んな訳ないか。考えすぎだな。ギルドとしては、一見おいしそうに見えるが、理念に反するし、そんな構造になってたら、市民も納得しないわな。
あれ? 俺達がここの市民じゃないからか? 余所者なら何でもありって? えー。そんなバカじゃないよな? えー。こわっ。
念のため、『クラン』とトラブルになった場合どうなるのかを聞いてみた。
最終的には自己責任。
当駐車場での事故・盗難等について、管理者は一切関知せず、その責任を負いません。的な? 当冒険者ギルド管轄地域で発生したトラブル等について、当方は一切の責任を負いません。なのか? 犯罪者集団だぞ? 冒険者ギルドもその一員って事になると思うんだけどいいの?
もちろん、忠告、警告、処罰もあり、対応はしている。クランの解体、登録の抹消。場合によっては、奴隷落ちもあると。ホントかな? それならもうとっくに対処できてるはずだぞ? あの感じ、町の人達も困ってるようだったたし。
もしかして、ここのギルドも金で買収済みか? イヤになるな。冒険者ギルドなんて相手にしたくないぞ。流石に無理だわ。はあ。
仕方がない。こういうトラブルは証拠云々で何とでもなりそうだしな。ギルド職員とか、お偉いさんがその場で犯行を目撃でもしていなければ、チカラで揉み消せるのか。
くそ。『金こそ全て』。確かに間違ってないわ。
とりあえず報告は済ませ、巡回中の衛兵を捜しながら町の出入り口まで進む。門番でも同じだからね。
そう言えば、巡回している衛兵を見ないな? してるのか? 偶々か? なんか、ここでもイヤな予感。予算の削減とか、サボってるとか。前向きな想像ができない。これはフラグになる級のイメージだぞ。
門番さん、こんにちは。結局出入り口まで散歩できました。ありがとう?
門番さんに、今回の件を報告。
「そうか。分かった。報告感謝する」以上。それだけ?
チカラにはなってくれそうにないですな。
あかん。この町。早く出ていくべきだと思う。お逃げだ。
衛兵としては、確かに困った問題だが、現行犯でもなければ手出しできない。そういう指示も出ていないので動けないという事らしい。
雇われている以上、勝手な行動は出来ないから仕方ないのか。一応申し訳なさそうにしてたから、この衛兵さんにも、いろいろ思うところがあるようだ。積極的な協力は得られないと知れただけでも良しとしましょう。
自己責任というなら、あっちも自己責任。クランに所属していようが、冒険者ギルドがバックについているとか、関係無いね。この町は出て行くと決めたから。やる事やってからお逃げします。
勝手に決めちゃってるけど、しっかり報告はするからね。多分否定はされないと思うから。
さてさて。報告会といきましょう。
* *
宿で夕食を取りながらの、『第3回これからを考える大人だけの全体会議』が始まった。議題は『俺からの報告』。もう、ただの報告会でいいじゃんね。
*
お腹がいい感じになったので、以上。『第3回これからを考える大人だけの全体会議』が終わった。
みんなとの意見のすり合わせ、ほうれん草は栄養たっぷり。大事だよ? 報告、連絡、相談。
何をするにも、人の意見はそれぞれだから、食い違いが起きないようにする事は大切だ。特に今回は、大きなプロジェクトの前だから。みんなで納得できるように、意見の調整もしたい。
冒険者ギルドでの事、門番との会話、それぞれに報告し、意見を聞くが、やはり思いは同じ。
ダメだこりゃあ。次いってみよう! となりました。
ほらね。感性も似てるから、助かるよ。
という事で、明日は、『第6クラン ジャッジメント』について軽く調べ、お逃げの準備をする事になった。くれぐれも見つからないように。
さすがに、今夜の襲撃はないと思いたいが、警戒はしておく必要がある。各自要注意という事で。ま、オイラが後で小細工するけどね。ふふふ。
と言っても、部屋の出入り口を『防御壁』で塞いじゃうだけなんだけどね。何気に効果的だと思う。出入り口が壁になってるんだから、襲撃してきても入れないよ? しかも、床と『防御壁』を〈融合〉させてやるから、簡単には動かせないし、この壁を破るには、かなりの大仕事になるハズだからね。さすがにそこまでやられたら、誰でも気付くからね。
みんなにはちゃんと説明してあるから大丈夫。俺が少し早起きして、壁を撤去すればいいだけだ。
俺は、明日、約束には1日早いが、奴隷商を訪れてみる事にした。場合によっては、すぐにこの町を出たいから。約束は約束として守りたかったが、事情が変わってきた。何も告げずに町を出ていくなんて事は、できればしたくはない。礼儀として、顔を出して事情を説明会しておく事にした。
ミラとアリーも同行したいと言ってくれたが、守りも大切。それに俺1人の方が逃げやすいからと、今回は宿で警戒しながら待機し、ジャックとレックスの面倒を見てもらう事にした。
はい。お疲れ様。みんなおやすみ。