『第2クラン オデルローザの暁』
そう言えば、住宅を建てると言えば、こんな『おとぎ話』があったな。
『四匹のゴブリンさん』(俺解釈付き)
昔々、ある世界にママゴブリンさんと、四匹の子供ゴブリンさんが住んでいました。ママゴブリンさんはシングルマザー。若い頃に調子に乗ってブイブイ、グギャグギャ言わせてやってきた結果こうなった。
四匹の子供達はすくすく成長し、当然のように生活苦に。子供達は食べる量がハンパなく、もう無理っと育児放棄。独り立ちさせるという名目で、四匹を外の世界に放り出す。
これで食料問題は解決し、ママゴブリンさんは独りになり、ゆっくりと今後の事を考えられるようになりましたとさ。めでたしめでたし?
これは、食は生きてく上で欠かせない重要なモノです。食料は大切に、感謝を忘れずに頂きましょう。という教えと、人生設計は計画的に。若い時のツケは必ず支払う事になるから、調子に乗り過ぎてはいけません。誰も助けてくれなくなりますよ。という因果応報を伝える深~い話。
次
長男は、『わら』で家を建てるが、突然現れた狼が、わらの家を簡単に吹き飛ばし、長男を食べてしまう。とても臭いゴブリンさんを襲ってまで食べる狼がいるんだね。これは、何が起こっても不思議じゃないから気を付けなさい。という注意喚起のお話。
二男は、『木の枝』で家を建てるが、やはり突然現れた狼によって簡単に吹き飛ばされ、食べられてしまう。これは、もう少しだったね。やはり知識は大事だ。もしもこれが『木』で建てられた家だったらどうだったか。
「わらの家」は『揺れ』には強いが『風』には弱い。
「レンガの家」は『風』には強いが『揺れ』には弱い。
「木の家」は『揺れ』にも『風』も強く、しっかり構造計算されていれば、台風や地震といった自然災害にも強い家が建てられたのだ。二男は、実は目の付け所は良かったという事だ。これは、身に沁みて教育の必要性を訴える話。
三男は、『レンガ』で家を建てようとするが、やはり突然現れた狼によって為すすべもなく食べられてしまう。これは、家を建てるなら工期と人工も考えて場所選びをしないと、大変な事になりますよという何とも現実的な話。1人の限界、仲間の重要性を暗に示している。
四男は、『レンガ』で家を建てた。何とか完成させた。狼はいくら頑張ってもレンガの家を吹き飛ばすことはできなかった。狼はいろいろ企むが、四男はその裏をかき、返り討ちにしてしまう。最終的には、煮えたぎる鍋に飛び込んできた狼を、そのまま料理して、おいしく頂きました。四男は、その後も順風満帆に暮らしていきましたとさ。めでたしめでたし。
これは、ゴブリンにも知能があり、油断していると痛い目に合うぞという警告。そもそもレンガで家を建てられるような変異種には気を付けなさい。観察眼も養いなさいという事。油断大敵、火の用心、注意一秒怪我一生。格言だらけのお話。
締め括りとして、そもそも襲ってくるような狼を野放しにしてはいけない。討伐隊は被害が大きくなる前に、早めに出すのが一番だ。ゴブリンさんを甘く見てはいけない。1匹でもこれだ、集団になれば尚怖い。
もの作りには、手間ひまかけた方が面白いモノができる。より安全になモノになるかもしれないし、いざという時に役に立つかもしれない。諦めずにコツコツ取り組む人の方が、大きな結果を残せるチャンスがある。という事を大きく訴えていた。こんな感じの絵本だったかな。
確か、更に続編もあって、
『無計画ママゴブリンさんのそれから』
『やっぱりママゴブリンさんは無計画だった』
『無計画ママゴブリンさんの末路』
『四男ゴブリンさん家を買う』
『四男ゴブリンさん進化する』
『四男ゴブリンさん王になる』
『ゴブリンさんでも分かる森の狼対策マニュアル』なんて物まであったかな。
頑丈そうな建物内を見て、またしてもアホな事を思い出してたら、声をかけられた。
「うちのクランに何か用かい? うちのクランは今、人員の募集はしてないんだ。依頼なら冒険者ギルドで受け付けてるからな、そっちで頼むぜ。指名依頼もできるから、『オデルローザの暁』をよろしくな!」
人懐っこい笑顔の日焼けが似合うイケメン。体格はがっしりとしていて、無駄な筋肉などなしますさそうにスラッとしている。ひと目でも分かる。こいつはデキる。いや、強い。
鎧を着たら分からないだろうが、今は着崩した普段着だろうか、それでも格好良く見えてしまうのは、イケメンならではのスキルだ。俺は嫌いだ。俺にはない、『筋肉』を持っているから。毎日筋トレしてるというのに、一向に上腕二頭筋にポコッと力こぶが出てこない。
てやんでぇ、ばーろぉ、ちくしょう。
えっ。ここには俺達しかいないから、俺達に言ってくれてるんだよな。
「はあ。そうなんですね。ご丁寧にどうも」
「何を言っておるのじゃ。わしらはクランなどに用はないのじゃ」
「あ、すいませんでした。建物が立派だったので、凄いなぁって思って見てただけなんです。ごめんなさい」
「おっ、なんだ、そうだったのか。こっちこそ勘違いして悪かったな。3人でお揃いのネックレスとは、いい趣味してるねぇ。同じパーティーかい?」
あ、そうだった。ネックレスを着けてもらったままで、服の内側に入れてなかった。慣れてないから、そのままにしてたよ。装備の上になってるから、そりゃ目立つよね。
てゆうか、2人ともネックレスそのままですよ? そういうモノなのか? 戦闘する訳でもないから、いいのか? 街中だからな。うん。そういうモノなのだろう。俺はファッションには疎いからな。勉強になります。
「おお、おぬし、目の付け所がいいではないか。そうじゃ、わし達はパーティーであり、パートナーなのじゃ。いいじゃろう。これはお揃いで買ったばかりなのじゃぞ。ふん」
「はい。そうなんです! パーティーでもありますし、パートナーでもあるんです。これはその証です。ふふん」
これはこれは、ご機嫌麗しいようで何よりです。……俺の出番がない。
「おっ、なんだい。やるじゃないか、兄さん。こんな綺麗所を2人も連れて、羨ましいぜ。まったく」
「おお、おお、おぬし。目の付け所だけでなく、見る目もあるとはの。気に入ったのじゃ。このクランは『オデルローザの暁』といったかの? しっかり覚えたのじゃ。何かあれば、真っ先に指名するのじゃ。うむうむ」
「きやー! 綺麗所なんて。そんな煽てても何も出てきませんよ? でも私もちゃんと覚えましたから。『オデルローザの暁』ですよね。もうバッチリです」
「お、おう。そうかい。ありがとうな、姉ちゃん達。俺も覚えとくから、何かあったら、指名してくれよな。俺の名前は『シャギ』。ここのクランの副団長をしている。よろしくな」
「わしはミラじゃ。こちらころよろしくなのじゃ」
「よろしくお願いします。私はアリーです」
何か3人で盛り上がって、握手までしてるけど?
何をお願いするのかな?
みんな笑顔で手を振って別れた。
俺は? 名乗ってもないよ? そんな感じの立ち位置なのかな。オイラ。まあいいけどさ。
「いやぁ、話の分かるいいクランじゃったのじゃ」
「はい。そうですね。いいクランさんでした」
2人ともウキウキで話してるけど、『クラン』は名前じなないからね。『シャギ』さんだよ。副団長の名前。濁点をもう1つ付けると、悪役だよ? 大丈夫? 次に会った時に『クラン』なんて呼ぶと、『俺の名前を言ってみろ』とか凄んで言われちゃうよ? ショットガンとか突きつけられちゃうよ? 危ないよ? いいの? 銃なら貸せるよ?
はあ。疲れた。お腹休めの散歩のはずが、俺だけ余計に疲れたよ。
これがテンプレだったのか? 何が?
はあ。座りたい。
*
「はあ~。ようやく座れたよ」
しばらく歩いて噴水広場を発見、いち早くベンチを確保したオイラでした。
「何を年寄りみたいな事を言っておるのじゃ。まったく、これぐらいで情けないのじゃ。らしくないのじゃ」
「そうですよ。らしくないですよ。いつもなら、平気な顔してるのに、どうしたんですか?」
え~。買い物が疲れたとか、口が裂けても言えないし、魔石の臨時収入がすっからかんになって気分がいいとか、イケメンの筋肉見てに嫉妬してたとも言えないし、悩ましいぞ。
「あれだけ食べたら、さすがに疲れるよ。今は体が消化中。お腹がいっぱいのままで活動すると、余計に疲れるんだよ。2人とも大丈夫なの?」
「何を言っておるのじゃ。あれくらいの量で情けない。わしなら、まだいけるのじゃ。おっ。丁度いい所でいいニオイがしてきたのじゃ」
「へー。そうなんですね。食べた後は大人しくしてなさいって言われた事がありますけど、そう言う意味もあったんですね。私はまだ大丈夫ですよ。もう食べられませんけど。へへ」
「ミラさんや。屋台で買い食いするつもりなら、ついでに飲み物買ってきてくれないかな? リンゴジュースとか、グループジュースとかでいいから。はい。これ財布。ミラ達のお小遣い用だから、そのまま持ってていいよ」
「おお。さすがなのじゃ。話が分かるのじゃ。さすがわしが惚れただけの事はあるのじゃ。では、ちょっと行ってくるのじゃ」
「あ、ミラさん。待って下さい。私も行きます。タビトさん、私も飲み物買っていいですか?」
「あ、うん。いいよ。好きなの買っておいで。そのお金は、2人で自由に使っていいからね。ゆー達、自由にジュース買っちゃいなよ。ゴメン。今のは忘れて。お金が無くなったら言ってね。無駄遣いはダメだけど、できる範囲で補充はするからね」
「はい。ありがとうございます。では、行ってきます」
2人ともスルースキルを持っているんだね。助かったよ。
やっぱり疲れた。
*
「きやー!」
「モグモグモグ。ん。なんじゃ。おぬし! 何をやっておるのじゃ!」
おいおい。次は何だ? 《双眼鏡》
おう。絡まれてるのかな?
くっ、転ばせてやる。ようやくひと息付けたというのに。オイラの貴重な休憩時間を!
見せてやる。〈身体強化〉中の本気のダッシュを!
「てりゃあっ!」 ダンッ!
「とうっ!」 ドカッ!! 「ぐわぁっ!」
突然現れた俺に対処できずに、腹を抱えてうずくまる不審者? スゲーな。俺ってば、大したこと距離じゃなかったとは言え、これまでの俺じゃない気がする。スピードが上がってる?
「おい。大丈夫か? アリー」
「あ、はい。大丈夫です。いきなり腕を掴まれて、驚いてしまったんです」
「すまなかったのじゃ。わしが横にいながら、気付いてやれんかったのじゃ」
そりゃあ、両手に串モノ持ってちゃあ、初動が遅れるよね。しかもおやつタイムだったんだから、仕方ないと思うよ?
「無事なら良かったよ。で、こいつは何者?」
「分かりません。突然の事だったので……」
「そうじゃ。突然の事だったのじゃ」
「くっ、てめー。いきなり蹴りやがって。覚えてろよ!」
くっころしてやったというのに、元気だな。やっぱり転ばすだけじゃダメだったか。
ていうか、そんなテンプレ発言されて、俺が逃がす訳ないんだよ。
「あっそう。ふんっ!」ドカッ!!
「ぐぼっ!」
もう一発、今度はボディーブローだ。
顔はヤバいからな、ボディーやんな、ボディを。
「さてと、どうしたもんかね」
「おい。あいつ、『ジャッジメント』のメンバーじゃないか?」
「そうだよ。『ジャッジメント』の団員だ。見たことある」
「ヤバいよ、あれは。あいつら狙われるよ」
「第6はマズい」
「でも、関わると俺達まで狙われるぞ」
「早く向こうに行こうぜ」
「そうだな。行こうぜ」
おう。やっぱりヤバい奴だったのか。いきなり街中で人を攫おうなんてするヤツだ。ヤバいには違いないか。
アリーに手を出した時点で、敵認定だ。理由なんて聞くまでもない。ロクでもない奴に違いないからな。
一般市民の皆さんは、早めに逃げた方がいいだろうね。そんなにヤバいヤバい言ってるなら、悪人認定確定。ありがとう。疑う余地すら無くなったよ。
どれどれ。今度こそ。剥ぎ取りチャンスだ。何が出るかな、何が出るかな……
「おっ、ギルド証発見。じゃないな? これがクラン証なのか? ちゃんと持ち歩いてたんだな。よしよし。ん?
『団員証 第6クラン オデルローザのジャッジメント C』だってさ」
「ほう。クラン証じゃと? これがそうか。ふむふむ。初めて見たのじゃ。『第6クラン』とあるのじゃ。さっきのは『第2クラン』じゃったからな。という事は、どういう事なのじゃ?」
「あ、私知ってます。最初の番号は、登録された順に付けられてていて、第6だから、この町で6番目に登録されたクランっていう事のはずです。
それから、最後の『C』は、そのクランでの階級みたいなモノだそうです。ABCDまであって、『A』幹部、『B』正団員、『C』見習い、『D』その他。だったと思います」
「おお。よく知ってたね。ありがとう。俺も知らなかったから、助かるよ。そうか、こいつは『C』だから、『見習い』って事だね」
「ほう。そんな意味があったのじゃな。やるのう、おぬし。役に立ったのじゃ」
「へへ。ありがとうございます。お役に立てて嬉しいです。前にお父さんから聞いた事があったんです」
で、どうするかな。あとは……
「おいっ! ウチの団員に何やってんだ!」
おっとぉ。団員が追加で登場ですか?