冒険者ギルドへGO!
「すっかり遅くなったけど、じゃあ、みんなで夕食にしよう! 今日はみんなお疲れ様パーティーだ。軍資金も獲得できたから、遠慮なく食べてくれよ!」
「そうなのじゃ! 今日はお祝いなのじゃ! 食べ放題なのじゃ~~!」
「はい。今日はおめでたい日になりました。沢山食べるとしましょう」
「そうですね。今日はパートナー仮契約のお祝いです。沢山食べましょうね」
「はい。ありがとうございます。今日は記念日です。沢山食べますよ」
「「たくさん食べるー!」」
すっかり遅くなったのに、みんな元気だな。
年齢を確認し合ったといって、何が変わる訳でもない。気にしないと言っていたのは、みんな本当のようだ。まあ、俺もだけどね。
お祝い事になってるし、『パートナー仮契約』とか言ってるし。前向き過ぎるよ。こうやって外堀を埋められていくのか?
別に逃げる気はないけど、逃げないよ? ホントだよ? ……ミラの年齢聞いたからって、何も変わらないよ。思ってた通りだし。俺も年齢なんて関係ないと思ってるし。寿命も違えば、適齢期も変わるからね。いいんじゃね?
今更だけど、2人とも元気で、可愛いと思ってたし。タイプは違うけどね。性格も、戦闘スタイルも、笑顔も、食べっぷりも、身長も、言葉遣いも、獣耳も……おっと。
十人十色。千差万別。種族も違うけど、そんなの気にならないね。
価値観も、考え方も、好みも、何だって違っても構わない。そこに思いがあって、お互いに分かり合おうとすれば何とかなるものだ。あ、でもやっぱり『人』がいい。モンスターとかはイヤだし、生理的に受け付けないのもイヤだな。うん。それに最低でも言葉は通じる知能は欲しいかな。
これ以上はもういいけどね。2人もいれば凄い事。俺モテ過ぎ。人生の春がやってきた? すぐ真冬? そうかもね。謙虚に生きるのだ。まだ結論は出していないから、これからどう転ぶかも分からないし。すぐに本物の王子様が現れて、オイラ成敗されちゃうかもよ?
ぐわっ。フラグなのか?
ビールを飲みたい気持ちを我慢して、みんなで食卓を囲んだ。今お酒なんて飲んだら、カンパ~イ! とかってお祝い事の雰囲気に、物凄い拍車をかけちゃう気がするし、ねこれ以上、自ら既成事実を積み上げたくはない。
別にイヤだからという事ではなく、今はそんな気にならないというだけ。こんな中途半端な状況で、浮かれてそんな事してる場合じゃないと思うからね。
勢いは大事だと思うけど、今じゃない。奴隷狩り問題もあるし、やはり、尚更みんなが安心して平和に暮らせる場所を探したい。それからでもいいんじゃないかな。ヘタレなオイラはそう思うのです。
大部屋だけあって、それなりに広いのだが、さすがにこの人数が囲んで座れるテーブルはない。そんな時にも便利なのがアイテムボックス。部屋のベッドや家具を全部収納していまい、俺の持ってる大テーブルと椅子を代わりに取り出すだけだけど。
これくらい余裕で入りますますよ? まだまだいけそうです。パブロもルイもアイテムボックス持ちらしいが、今も食料がそれなりについて入っているため、この家具を1人で全部入れるのは無理みたい。
へー。そんな感じなんだね。基本的には、容量の決まった規格品を購入するだけで、『強化』できたりはしないみたいだ。この『指輪』が特殊な物なんだと理解した。やはり、これだけでも『指輪持ち』=『チート持ち』で間違いないみたい。
いやはや、これからも思い知らされる事が増えそうです。ありがたい事だけど、どうなんだろうね。みんなは俺の事を受け入れてくれてるけど、『規格外』『指輪持ち』って敬遠されないのかな?
あ、大丈夫だって。知ってるって。
「何を今更言っておるのじゃ。おぬしが規格外でチート持ちと言われる存在である事くらい、すぐに分かったのじゃ。わしにかかれば一発なのじゃ」
「はい。規格外なのは理解しておりました。発想が特殊な事も、悪意がないことも、それ以上に理解しておりますので、ご安心下さい」
「はい。そうですよ。しっかり理解しておりますので、何の問題もありません。これからも、良くしてやって下さい」
「規格外なのは、悪い事ではありません。私にとっては運命の人に代わりはありませんので……」
「「規格外ー!」」
くっ。魔法が使えるようになって、確かにいろいろ出来るようになった。前の世界では考えられないことも、今では当たり前のようになってきている。魔法の検証は楽しいし、ドップリはまってしまって危険ではあるが、まさかこの段階で『規格外』認定されるとは思っていなかった。
近くに比較となるモノがなかったのもあるが、やっちまったのか? でも、『生活魔法』だよ? 俺の中では、まだまだ進化する要素があると思っているのに、何かがおかしいぞ。
いろいろ使えて便利な生活魔法。やったね。って感じだよ? まだまだ便利になります。期待しててねって感じで、バンバン新しい事を取り入れていく気でいるんだよ?
うーん。周りとの調和も大切だからな。少し控え気味でいこうかな? でもな、ヤバいチート持ちと敵対した時の事を考えると、そんな事は言ってられないからな。
この前の戦闘だって、運が良かっただけで、少し位置がズレてたら、クリティカルヒット食らってたかもしれないし。やはり後悔はしたくないからね。これまでのようにガンガンいこうぜ! ってことで検証はやっていこう。うん。そうだよ。俺には守るべきモノが沢山あるんだからね。
いや~~。恥ずかしい。でも、そういうことだ。守りたいと思える人達がいる。守るためにはチカラも必要だ。忘れちゃいけなかったね。『生活魔法王に、オイラはなる!』
* * *
ちゅん、ちゅん、ちゅん
もちろん、意味はない。
宿の窓から朝日が射し込んでいる。
今日もいい天気だ。雨は降らないのか? 大丈夫か水問題。
昨日は、楽しい夕食後、まったり団欒し、それぞれの部屋で眠った。ご期待に添えるような進展などないし、まださせない。
『宣誓! オイラは、みんなで安心して平和に暮らしていけるようになるまでは、誰とも一線を越えない事を誓います』
一線が何処にあるかは知らないよ。いつの間にか消えてるかもしれないし、消されてるかもしれないよ? ホントだよ? 不可抗力もあるからね? ふー。よし、これくらいでいいだろう。しっかり一線は引いておいたぞ。……どっちに向けてかは内緒だよ。
朝の妄想はうまい!
これは、いいモノだ。これでオイラは、あと10年は戦える!
さてと。今日は何からしましょうかね。
*
忘れる前に、冒険者ギルドで魔石の売却をすることにした。
4日ほど前に、ミラとゴブリンさんの巣を殲滅させた時のモノ。
魔石は全部で64個。そのうちの1つが最後にミラが見つけた少し大きい魔石で、上位種の物かもしれない魔石だ。さて、いくらになりますかな。
『リーレイの町』では、確か『持ち込み単価』で、1つ2500エーン。ここ『国境の町オデルローザ』ではいかほどに? こういうドキドキも楽しいよね。別にお金に困っている訳じゃないから、安すぎるなら売る必要もない。ちょっと強気にいけるんだよね。ふふふ。
皆で朝食を済ませ、それぞれの行動の確認を取る事にした。
俺は予定通り、冒険者ギルドで魔石の売却をしに行く旨を伝えると、ミラとアリーも同行したいと言ってきた。まあ、ミラには一緒に行く約束をしてたし、売れたお金を還元する予定だったからね。
アリーもたまには両親と離れて行動するのも新鮮かもしれない。俺とミラがいれば、よっぽどの事でもない限り大丈夫だろう。街中だしね。両親の了解も得て、3人で冒険者ギルドへ行く事になった。アリーは初めての事らしく、楽しみにしている。
双子のジャックとレックスは、昨日の反省と、俺から指導のあった『共感覚』の特訓をするらしく、このまま宿にこもるそうだ。是非とも頑張ってほしい。スッゲー使えるようになるといいな。
いろいろアドバイスもしてやりたいけど、自分達だけで試行錯誤しながらやっていく事も大切だ。他者に言われた事しかやらないのではなく、成功も失敗も両方繰り返しながら、楽しんで検証するのがいいと思う。考えるというクセは、早めに付けた方が何かとお得だ。
何で? 何で? もいい傾向。興味が湧いてきた証拠だからね。興味が有った方が覚えも早いし、よく伸びる。一緒になって考えてやれれば尚良しだ。お互いに成長できる。だから、特訓とか教育とかって楽しいんだよね。『差』を実感できるから。
知識は人を変える。知識は大事。知ろうとする意欲はもっと大事。見える景色が変わるから。見なくていい景色もあるけど、見といて損はない。見てから判断しても遅くはない。小さなキッカケで、人は簡単に変われる。変わってしまう。より良い方向に知識を役立ててほしい。
だから、俺も今度一緒に検証しようかな。ふふ。いいね。こういうのも。優しくなれる気がする。
そういえば、『始まりの町』と違って、もうテンプレ発生の抑制は利いていないから、いつ起きてもおかしくないんだった。危ねぇ。やっちまうところだったよ。『おうおう、兄ちゃんよぉ。可愛いのを2人も連れやがってぇ……』とか始まるんだったよ。
まだ、セーフだ。説明しとこう。ミラがぶっ飛ばしちゃうかもしれないし、アリーも、怖がらせちゃいけないからな。うん。事前打合せ大事。
「2人ともちょっといいかな? 大事な打合せがあった。これから冒険者ギルドに行くんだけど、そこで大概テンプートなイベントが発生するんだ。『テンプレ』って言うんだけどね。
初めて訪れる者とか、初心者っぽい者とかに向けての、現地人からの洗礼って言うのかな? あまりいい意味じゃないけど、お決まりの展開から、パターンがあって、ちょっと面倒くさいんだ。絡まれたり、変にチョッカイかけられたりするしね。
まあ、対応は俺がするから、怖がらすに、『ああ、これがテンプレね。あなたも大変ですね?』って感じで、一歩引いた目で見ててくれればいいからね。
いい? これから『テンプレ』が起こりやすいけど、こういうモノなんだねって感じで、俺に任せてね。それで、慌てず、騒がず、冷めた目で観察しててね。よろしくね?」
「またおぬしは、面白いことを言い出すのじゃな。まったく。退屈せんで済むのじゃ。『テンプレ』じゃな。あい、分かったのじゃ。手を出さずに、楽しんで見ておるのじゃ」
「はい。『テンプレ』ですね。覚えましたよ。面倒な出来事が起こるって感じでいいですか? 大人しく勉強させてもらいます」
「ははは。2人とも、グッジョブだ。そんな感じで大丈夫だから、楽しんでよね。あ、でも、何事も起こらない場合もあるからね。あんまり期待し過ぎちゃダメだよ?」
よし。これくらいでいいだろう。待ってろよ。冒険者ギルド。楽しみにしてるからな?
* *
「………で、どういったご用件で?」
さすが百戦錬磨の冒険者ギルドの受付嬢。応対も早い。
テンプレが起こらず、おかしいなと周りを見回していると、受付嬢から声が掛かった。そして微妙な空気が……。やはり俺のせいか。
「なんじゃ。何も起こらんではないか、つまらんのう」
「はい。なんか残念です。でも仕方がないです。次に期待します」
お、おう。それぞれの意見をありがとう。オイラはスルースキル持ち。ここは、そのままにさせてもらうよ?
やはり、冒険者ギルドでは、絡んでくるようなヤツはいないのか? 立派な組織ですこと。ほほほ。ギルド員への教育もしっかりとしているのでしょう。ま、そんな余裕もないし、そんな無駄な時間があれば、働いてるわな。そうだった、そうだった。
国境の町オデルローザのギルド員。オデギル員。
それなりの人数もいるし、リーレイの町にはなかった『クラン』があるらしい。何で分かるかって? 張り紙がしてあるからだよ? 掲示板に。ほう。それはそれは。そっちのテンプレか?
「魔石の買い取りをお願いしたいのですが」
受け付けの人が2人。笑顔で応対してくれた。
「ありがとうございます。それでしたら、あちらの奥にあるカウンターまでお願いします」
見やすい場所にちゃんと掲示板があったね。入ってきてすぐに、周りを見回してただろ、何を見てたの? って感じ?
「ありがとう」軽くお礼を述べて奥に向かう。
フロアには人がほとんどいない。掃除のおばちゃま達が、テーブルを拭いたり、窓ガラスを拭いたりしているくらいだ。静かなものだ。こりゃあ、テンプレも起きないわな。ギルド員も、それっぽい冒険者もいないし。
自分を慰めつつ、買い取りカウンターへ。
「魔石の買い取りをお願いしたいのてすが」
「ありがとうございます。では、ギルド証と買い取り希望の魔石をこちらにお願いします」
笑顔でトレーを差し出してくる。
「登録はしていません。これが魔石です」
大袋を1つカウンターに置く。
赤い魔石。ゴブリンさん×63、大ゴブリンさん?×1。
「よろしいのですか? ギルド員でないと、買い取り金額が引かれてしまうのですが」
「はい。その辺りの事は理解しているつもりです。差がある事も知っています。どれくらいの差があるかは、ギルドによっても違うのですよね? 正直その金額を確かめようとも思ってます」
「はい。その通りです。そういう事でしたら、査定しますので、しぱらくお待ちいただけますか?」
番号の書いた木札を受け取り、待ち合いのベンチへ腰かける。
ここのギルド員さん達は、働き者なんだろうか。それとも、クランとやらに集まっているのか?
テンプレがやってこなかった事に、安堵感と、少しのがっかり感が入り混じり、妙な気分になっていた。
ミラとアリーは、仲良く見学中。まあ、1人で来るには、ちょっとハードル高いかな? 男の俺でも緊張したからね。成人したてのアリーからすれば、珍しくもあり、なかなか体験できない所だろうね。パブロ達は冒険者登録もしていないって言ってたから。
そんななこと考えてたら、番号を呼ばれた。
「こちらが買い取り金額の明細になります。お確かめください」
やはり礼儀正しいな。冒険者ギルドは、どこでもこうなんだろう。流石としか言いようがないな。世界標準にして欲しいもんだ。
ま、これが差別化か? うん。なかなかこのレベルは難しいかもね。教育体制がしっかりしてないといけないし、本人の資質とやる気も大きいよね。結構給料もいいのかな? こういう買い取りでも、ちゃんと歩合なんかもあったりしてね。
さてさて、いくらになったでしょうか?
□買取明細書□
種類 数 単価 持込 小計
ゴブリン魔石 63 3000 2500 157,500
ゴブリン中魔石 1 4000 3500 3,500
―――――――――――――――――――――――
合計 64 161,000
えっ。持ち込み単価、リーレイの町と同じじゃん。なーんだ。違いを期待したのに。高くても安くてもね。それが違いの分かる男?
少し大きかったのは、『中魔石』なんだね。たいしたヤツじゃなかったってことか。姿も見てないから、何とも判断できなかったからね。焼けちゃってたし。
じゃあ、持っててもしょうがないし、売ってしまいましょうかね。使い道も知らないし。
「じゃあ、それでお願いします」
「はい。ありがとうございます。では、こちらが161,000エーンになります。お確かめ下さい」
「……はい。大丈夫です。ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。またのご利用お待ちしております」