弁解の余地はありませんか?
どうしてそうなった。
俺って何?
あれれ~~? 現実逃避の時間だよ~~?
「ちょっと待ったぁ~~!」
おおっとぉ、ここでタビトからも手が上がったぞぉ~~
こういうのは、早く対処するのが一番だ。時間が経てば経つほど、誤解の溝は広がっていき、埋まらなくなってしまうと聞いた。
『効いてよね。早めのパブロ』
これはセーフだぁ。ふー。漢字が違ってたぁ。
『聞いたよね? 早めにパブロ!』
「盛り上がってるところ、悪いんだけど、ちょっといいかな?
なんか俺の思考と、この現状が一致してないんだけど、確認させてもらっていいか? 多分これは、ここにいる皆にとっても大事な話だから、しっかり聞いておいてくれるかな。パブロもルイも」
「なんじゃなんじゃ。どうしたと言うのじゃ。こんなにおめでたいというのに」
「そうですよ、タビトさん。どうしたんですか? 私達もしっかり聞いてましたよ?」
「あなた、タビトさんは、これからの事をしっかり聞いておいて欲しいという事なんですよ。きっと」
「はい。しっかり聞きます。どうしたんですか?」
「「聞くー!」」
負けちゃダメだ、負けちゃダメだ、負けちゃダメだ。
ここが正念場。ヘタすりゃ、俺の人生が大きく変わってしまうぞ。やるんだ、やるんだ俺!
「あのさ、大事な事だから、1つ1つ確認していくよ?
まずは順番に、パブロ達ね。
家族みんなで俺に忠誠を誓うって、初めて聞いたんだけど、犬人族ってそんな感じなの? 確かに家族みんなの命を救ったのは事実だけど、それだけで忠誠を誓うって事になるの? 全員なの? みんなはそれでいいのかな?」
「はい。犬人族がみな、そういう習性がある訳ではありません。みんなで話し合って出した結論です。何の問題もありませんよ。何か誤解があるかもしれませんので、説明しておきますね。
私達の言う『忠誠を誓う』と言うのは、絶対の服従を誓うというような、重苦しいものではなく、特定の対象に対して尊敬し、その意志に合わせて献身を尽くす。という感じでしょうか。この場合は、私達がタビトさんに対して尽くしていくという事です。
騎士が国や主君に捧げるモノとは違って、もう少し柔らかい感じかもしれません。ですから、そんなに重苦しく考えてないで下さい。タビトさんも、そういう重たいのは望んでいないと思いますので、私達からのタビトさんに対する誠意だと思って下さい」
「はい。その通りです。私達家族は、タビトさんの負担にはならないように努力しながら、タビトさんの進む方向に最大限の誠意で応えて行きたいと思っています。
まだまだ足手まといな私達ですが、お役に立ちたいという思いでいます。だからといって、そんなに重たく考えないで下さいね。それは私達も望んでいませんから」
「私は……、絶対服従でも大丈夫ですよ? そのぉ、タビトさんさえ良ければですけど……」
「「大丈夫ー!」」
「そうなんだ。みんなそういう意見なんだね。確かに俺は、ちょっと重たく考えてたかもしれない。やっぱり、ちゃんと確認しないとダメだね。大切な事だった。
俺は、上下関係とかあまり得意じゃないから、忠誠を誓うとかじゃなくて、お互いに相手を思いやりながら過ごしていければいいかなって思うよ。
恩を返すとかは気にしなくていいし、俺は、俺のできる事をしただけだからね。そんなに評価が高過ぎるのも、何だか怖いんだよ? 大した人間じゃないからね? まだまだ不完全、失敗ばかりで、日々努力の毎日なんだよ? あんまり持ち上げ過ぎると、簡単に落ちちゃうからね。その辺にしといてね。出来れば、これまでのように接していきたいんだ。偉そうにするキャラでもないしね。分かるでしょ?」
「そういう人だと思っていましたから、大丈夫ですよ。タビトさんの好きなように接してください。私達も変わりません。ずっと忠誠を誓っていきます。ははは」
「そうですよ、タビトさん。私達は何も変わりません。私達の事は気になさらず、お好きに接して下さればいいのです」
「はい。私を好きにして下さい。……タビトさんさえ良ければですけど……」
「「好きにしてー!」」
さっきから、アリーの言動がおかしいぞ? なんか暴走してるんですけど?
そんな事言ってると、またミラが暴走しちゃうぞ?
「ありがとう。みんなの気持ちは分かったよ。重く考えなくてもいいなら、まだ大丈夫かな? 出来れば、これまでと同じように対等に接して欲しいから、俺はこれかも変わらないつもりだからね。それで良ければ、よろしくね」
「はい。ありがとうございます。それで十分です」
「はい。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
「はい! 一生付いて行きます」
「「行くー!」」
「あのさ、さっきからアリーの言動がなんかおかしいんだけど、大丈夫なのかな?」
「はい? 何か問題でも? アリーは自慢の娘です。こんないい娘はいませんよ?」
「そうですよ、タビトさん。私達が育てた自慢の娘なんですからね。幸せにしてやってくださいね」
「お父さん、お母さん。ありがとう。私、……幸せになるね!」
「「なるー!」」
「こら。お前達とは意味が違うから。ややこしくなるから、少し大人しくしていなさい」
「そうですよ。今はお姉ちゃんの大事な話をしているのですよ。少し大人しくしていてね」
「もうっ。お父さんもお母さんも。恥ずかしいんだからね」
「「はーい!」」
勝手に盛り上がってますね。危険だね。この空気。
「ちょっと待ったぁ~~!」
おおっとぉ、ここでもタビトが手を上げたぞぉ~~
何かおかしい方向に結論が出てる気がするんだが?
これは、修正が利くのか?
「アリー? どうしてそうなるのかな? 俺が何かした? 話してくれるなら、分かるように説明してくれないかな?」
「……はい。
私は、タビトさんに命を救っていただきました。優しく介抱していただきました。住むところだって、食事だってそうです。それだけでも忠誠を誓う相手なんです。それに、…………ぽっ。
私、決めてたんです!
私のピンチに運命の人が現れて、悪いヤツらを退治してくれるんです。それで私をお姫様抱っこして、家まで連れ戻してくれるんです。そんな人が現れたら、それが私の運命の人なんだって。
そうなんです。もうピッタリだったんです。間違いないんです。タビトさんだったんです。私の運命の人は!
……そんなの夢物語だって分かってたのに、現実に現れてしまったんです。それに私、物凄く暖かい気持ちになったんです。ずっと見てました。短い間だったけど、夢じゃないんだって。やっぱりこの人なんだって思えるようになりました。
だから勇気を出して言葉にしたんです。
その……、ミラさんの言葉に乗っかる形になっちゃいましたけど……
私じゃ、ダメなんでしょうか? 何か足りないんでしょうか? まだ幼く見えるかも知れませんが、これでももう成人しています。自分の責任は、自分で取れます。私もタビトさんに一生付いて行きたいです」
うわー。マジだ。これ。マジのやつだ。
これって、いろいろ誤解がないか?
『夢物語』って、毒キノコにヤラレそうになってたのは確かだから、これが『私のピンチ』に当たると。
『悪いヤツら』は、毒キノコ? 2人のチート持ち? 確かに両方とも『退治』したな。〈殺菌〉で毒を抜いたし、1人は頭吹き飛ばしたな。
『お姫様抱っこして、家まで連れ戻す』ってのは、倒れてた所から、岩山の住みかまで運んだ時の事か? あれ起きてたのか? ぼんやりとでも意識はあったってことか。
あれ? 全部当てはまるな?
あれれ~~?
スゲーな。俺。当てはまるって言えば、当てはまるし。運命の人って言われれば、そうかもしれないな。
あれ? 詰んでるな。
「よく言ったのじゃ。さすがわしが見込んだだけの事はあるのじゃ。おぬしの思いの強さはよく分かったのじゃ。
わしの方がまだ、思いは強いがの。
よし。いいじゃろう。わしも認めるのじゃ。これからも一緒に付いて行くのじゃ。よろしくなのじゃ。じゃが正妻はわしじゃからな。これは順番じゃ。わしの方が早かったらからの。これは譲れんのじゃ」
「は、はい! ありがとうございます。ミラさん。これからも、よろしくお願いします。私は順番には拘りませんので、ミラさんが正妻で大丈夫です。タビトさんに一生付いて行ければ、それだけで幸せですから」
「あい、分かったのじゃ。よろしくなのじゃ。じゃが、順番は大事じゃぞ? これからも増えるかもしれんのじゃ。そこはしっかりしておかねば、いらん揉め事になりかねんからの。おぬしは2番目という事にしておけばいいのじゃ」
「はい。分かりました。さすがです、ミラさん。先の事まで考えておられるなんて。そうですよね、まだまだ増える可能性もありますからね。しっかりしなきゃです。ふふふ」
おーーーい。お茶飲む?
何を勝手に話を進めるのじゃ。もう確定事項になってるじゃん。俺の意思は? 聞かなくていいの? 何なのこの世界、これが常識なの? また俺が非常識?
「ねーねー。ミラさんや。何を勝手に話を進めているのかな? 盛り上がってる所で悪いけど、俺は許可してないよ? 何でそうなるの?」
横走りしちゃうよ?
「何を往生際の悪い事を言っておるのじゃ。アリーも成人しておるのじゃし、本人の意思も、両親の了承もあるのじゃ。何の問題もなかろうに。年齢なんぞ全く関係ないのじゃ。
それとも何か、わしも、アリーもおぬしにとっては魅力のない存在という事かの? これだけの女を前に、これだけの事を言わせておいて、何が問題なのじゃ。言うてみい」
おう。まあ、そうだね。その通りだね。俺ってば、こういうの初体験だし。いきなりの告白が2人からで、しかもいきなり一生付いて行きます宣言って、スッゴいハードル高くない? 棒高跳びクラスだよね。もっとか。うーん。宇宙船クラス? 大気圏突入するレベルじゃね? 燃え尽きるよ。灰になっちゃうよ。燃えカスすら残らないよ。は~~。
「いやね。問題がある訳じゃないんだ。短い間だったけど、見てきた限り2人とも魅力的だし、ありがたいと思うよ。こんな俺でいいのかって、信じられないくらいだ。
俺はこういうのは初めてだから、どうすれいいのか分からないっていうのが本音なんだ。はは。
でもね、こういうのは、すぐに決められる問題じゃないんだ。俺にとっても、2人にとっても大切な事だからね。これからもっとお互いを知って、分かり合っていきたいと思うんだ。そんなに急ぐ必要はないよね。
これから、安心して平和に暮らせる場所的を探しに行くでしょ。見つけるまでも、見つけてからも大変だし、いろんな苦労もあると思う。そういう経験を一緒にしながら、お互いを見つめていく時間は必要だと思うんだ。
それでもお互いに今の気持ちが変わらなければ、俺の方からお願いするよ。女性の方から言われるのはちょっとね。俺にもプライドがあるから、そこは譲れないかな。
それでも良ければ、よろしく。ミラ。アリー」
2人に向けて両手を差し出す。
何か照れくさいなぁ。今までいろいろあり過ぎたけど、こういうご褒美があるなら、この先も頑張れるのかな。2人ともまだ会ったばかりだけど、これも何かの『縁』だから、急がずに大切に育んで行きたいな。幸せな事です。正直、嬉しいです。
「ふん。うまい事を言って誤魔化しおって。難しく考えんでも、問題がなければ、それで良かろうに。全く格好つけおって。
じゃが、確かに急ぐ必要もないからの。こういうのは初めてじゃったか。それなら仕方がないかもしれんのじゃ。わしもじゃからな。その気持ちは分からんでもないのじゃ。
それに、わしもどうかしておったのじゃ。おぬしを取られてしまうかもしれんと思ったからの。少し反省するのじゃ。
じゃが、わしの考えは伝えたのじゃ。わしの気持ちは変わらんから、いつでも待っておるのじゃ」
俺の右手を握り返すミラ。
「はい。私も頭に血が上ってしまって……その、ごめんなさい。
運命の出会いで、こんなに素敵な人だったので、つい……。私も初めてでしたから……。
私も、迷惑をかけるつもりはありません。負担になりたくもありません。でも私の気持ちも変わりません。いつまでも待っています。よろしくお願いします」
俺の左手を握り返すアリー。
「ありがとう。ミラ。アリー。これからもよろしくな」
みんなに見守られ、和やかな空気に包まれる。
エフェクトか? ここは〈エフェクト光〉か?
止めよう。これ以上やっちゃいけない気がする。
また1つどころか3つくらい、大人の階段を登った気がする。いや、今回のは『昇った』のか?
この際だ、聞いちゃお。このタイミングを逃すと、もう聞けない気がする。
「ところで、年齢は全く関係ないって言ってたけど、アリーもそうなの? そういうのは気にしないのかな?」
「え? あ、はい。私は気にしません。タビトさんが何歳だろうと、この気持ちは変わりません」
「なんじゃ。おぬしは気にするタイプなのか?」
「ん? いや。全然気にしないタイプだよ? アリーからすると、だいぶ年が離れちゃうから、大丈夫なのかなぁって思っただけだ」
「え? そうなんですか? タビトさんって、そんなに年上なんですか? 私はこれでも成人したてなんですよ」
「ん? 気になる? じゃあ、みんなで教え合おうか?」
「それならわしも参加するのじゃ。わしも全然気にしないタイプじゃが、教え合うというなら参加するのじゃ」
「じゃあ、せーので言うよ? いいか?」
「「「せーの!」」」
きゃ~~~っ!!
なぜか全員参加。
タビト ●●歳
ミラ 27歳
茶髪獣耳父 パブロ 35歳
赤髪獣耳母 ルイ 32歳
赤髪お姉ちゃん アリー 16歳
双子の茶髪長男 ジャック 8歳
双子の茶髪二男 レックス 8歳
※みんなには伝えたが、タビトの年齢はまだ内緒。
ミラの年齢は、あくまでも本人談。俺は少なくとも『100』は足りないのではないかと思っている。もちろん、笑顔でスルー。大人の対応です。