今後についての話し合い
無事にみんなで合流できた所で、移動しましょうかね。7人では通行の邪魔になる。
俺ってば、常識人。
こうして、ジャック誘拐事件は、両親の只の誤解だったという結果で終わった。まあ、何て慌てん坊さん。偶々が重なって不幸な妄想に発展したという、何とも締まりのまい結末だが、ケガもなく合流できたんだ、何よりだ。これを機に、より一層家族の絆が深まるといいね。
ジャックも反省しているのだろう。ギャン泣きしてるけど、それが親の愛情だ。俺は何も言わない。レックスまでつられて同じように泣いてるし。可哀想だな。共感覚のオン・オフも習得できるといいな。こりゃあ、特訓が必要だ。
さっきのレックスの要領の良さを見るに、遊びを交えていろいろ試していけば、何とかなりそうな気もするんだよな。いかにコツを掴むか。うーん、どうしようね。
この人数が落ち着ける場所に心当たりもないので、パブロ達が泊まっている宿にお邪魔することにした。ついでに俺とミラも、同じ宿でそれぞれに部屋を押さえた。これなら、一緒に出入りしても問題ないよね。不審者じゃないからね。デリバリーサービスなんて呼んでないし。呼ばないよ。無いからね。無いよね? 有るの? 有るのかな。調べる必要があるのか。これはまた、忙しくなりそうだ。
奴隷商のセバイスさんとの約束は3日後。みんなとの話し合いに、安心して平和に暮らせる町の情報収集、その進路設定と大忙しだ。
大部屋のパブロ達の部屋に集合して、これまでの話、これからの話をした。
とにかくパブロとルイの2人は、最初は謝りっぱなし。無事に合流できたんだから、こっちとしては別に何とも思ってないのにね。早とちりと、子供達に対する配慮が足りなかったと、しきりに反省していた。
その後は、ご恩を返していきたいと、そればっか。別にいいのにね。まあ、昨日の事もあるからね。いろいろ考えてしまうんだろう。そんなつもりで動いた訳じゃないし、見返りなんて期待して命までは懸けないから。俺がそうしたくてやっただけ。ミラもそうだった。恩を感じるなら、これからも、みんなで仲良くやっていってくれ。それだけだよ。
まあ、仕方がない面もある。町から町への大移動。移動と言っても徒歩だからね。ずっと街道を歩ける訳でもなく、整備もされていない。移動中は安全のために気を張り、食料の調達に動き周り、暗くなる前に家族で眠れる場所の確保、夜間の警戒。それに加えて子供の面倒をみてきたんだよ。凄い労力だと思う。頭が上がらないよ。
パブロ達は土魔法が使える訳でもないので、俺みたいに『シェルター』が作れる訳じゃない。安眠は大事だからね。安心できる寝床の確保。スッゴいシンドかったと思う。お疲れ様。
そんな人達に、子供の躾がなってない。なんて言えないよ。アリーなんて十分理解していると思うし、双子のジャックとレックスも、そのうち気付く時がくるはずだ。この両親の背中を見て過ごしてきたんだからね。
今回は、偶々。ようやく安心できる町に辿り着いて、ホッとしてた所に、おいしそうなニオイに釣られてしまったんだよね。子供に純粋な食欲を我慢させるのも難しいと思うよ?
はっ、もしかしてこれも『ジャンボシイタケ』の毒性なのか? 中毒症状? いや~~。それはない。みんな大丈夫なはずだから。確かにまた食べたいなーと思うくらいにはおいしかったけど、その程度だ。俺の体にも異常はないし。
あ、ミラがいた。ミラだけは別だった。すでに中毒症状と言っていいくらいの食べっぷりだ。隙さえあれば、思い出したように食べてたしな。もしかしたら、『食いしん坊属性持ち』を虜にさせる成分でも入っているのか?
はうっ。そう言えば、ジャックにも食いしん坊属性持ちの才があるんだった。正に今、成長しようとしているのか? いかん。このままでは第2のミラが誕生してしまうではないか。これも注意しとかないと。
子供達は話に交ざる事もなく、大人しく聞いていた。
張本人のジャックは、目を赤くしながら反省中。釣られてレックスも反省中。優しいね。自分も悪かったと。ジャックがいなくなってしまった事に気付けなかったと、責任を感じて泣いていた。
同じ過ちを繰り返さないように、これを教訓として生きていけばいいんだよ。両親がどれだけ心配していたか、自分の行動のせいで、周りにどれだけの迷惑をかける事になったのか。しっか理解できたでしょ。それならいいと思うよ。若いときの失敗は、いい経験として糧となる。しっかり面倒を見てくれる存在が居るなら尚更だ。死んじゃうようなモノは勿論ダメだけど、反省し、次に繋げていけるのであれば、ガンガンやっていけばいい。
あ、両親の教育方針もあるから、一概には言えないね。大変な時期だからこそ、感情も大きく動きやすい。愛情を持って接すれば、間違った方向には行かないと思うけどね。アリーやこの2人の泣き顔を見ている限り、大丈夫。立派な人物になれると思うよ。だから、特訓も頑張ろうな。
*
『第1回これからを考える大人だけの全体会議』を始めます。
* *
ミラとジャックのお腹が鳴ったので、これにて『第一回これからを考える大人だけの全体会議』を終わります。
俺からは、森での戦闘の事。その際に『隷属の首輪』と、合計24,130,030エーンを手に入れた事。奴隷商館で首輪を渡し、現在調査中である事を話した。『奴隷狩り』の存在。組織と思われる事、その危険性も伝えておいた。他人事ではないからね。
ミラからは、俺の説明の補足と感想。特に強調されたのは、『ジャンボシイタケ』の素晴らしさについて。手軽でおいしく、食べ応えもある。森には手つかずで大量にあった。これは夢のような食材であると。
ある意味、正しいのかもしれない。場所によっては、食料不足の問題にも役立つかもしれないからね。あながち間違いではないけどさ。俺も『うまみ無双』考えたし。まあ、いいや。
パブロとルイからは、家族で逃走してからの事。久しぶりの町、久しぶりの宿でゆっくりできたと、また感謝。
肝心のこれからについて決まった事。
まず、手に入れた大金は、皆受け取る気はなく、俺が管理する事に。自由にしていいとのこと。
俺は、奴隷商との約束の3日後までは、町で情報収集。安心して平和に暮らせる場所を探すために、進むべき方向を決める。
『奴隷狩り』の情報は、まだこちらから集めたりしない。危険すぎるから。まずは、奴隷商の調べを待つ。動くのはそれを聞いてから。それを受けて、また打ち合わせをする。
ミラは、自分の村の方向が分からないので、とりあえず俺と同行する。というか、ずっと一緒に付いてくるらしい。何か意味が違ってくる気がするんだけど、気のせいか? 確か前にも宣言されてたような? 『奴隷狩り』の件もあるからなのかな? 殲滅させる協力をすると。心強い仲間ができるのはありがたいからね。感謝と共に了承した。
パブロ一家は、俺達に同行し、家族で安心して平和に暮らせる場所を探していきたいと。おそらく、それは同じ場所だから。価値観も理解できたし、あらゆる面で信頼できる存在として見ている。今は恩を受けてばかりで足手まといになっているが、自分達を好きに使って欲しい。斥候として、戦闘員として。子供達はまだ小さいが、できる事もある。これからもある。是非お願いしますと。
『奴隷狩り』については、許せないとは思うが、子供達もいるので、危険な事には関わりたくないというのが本音。ただ、俺達と協力して出来ることがあるのなら、やってもいいと。一度襲われた身としては、また次もあるかもしれない。危険はどこにいても同じ。それなら志を同じくした者と一緒にいた方がいいかもしれないと。家族で話し合ったそうだ。
旅をしていく以上、危険はつきまとう。あんなチート持ちなんて、そうそういないと思うけど、気持ちも分かる。1人じゃ無理でも、人手があれば対策が取れるかもしれない。それが、俺とミラなら間違いないのではないかと。
勿論、みんなに危険な場所に突撃させる事なんてしないよ。そんなアホなこと、もしもやるなら俺がやる。考えるのは、たぶん俺だから。責任を持って実行するつもりだ。
ま、そんな事やりたくないから、もっといい案を考えたいけどね。迷探偵もいるんだから、大丈夫だろう。それも含め、『奴隷狩り』については極秘事項。どこに『耳』があるか分からないからね。捕まえた奴隷の売買をしていたかもしれない町に滞在しているんだから、警戒は必要です。
『壁にミミック、商事にメアリー』
壁には擬態したヤバいモンスター、ミミックが潜んでいるかもしれないから警戒を怠るな。商い事には、ブラッディメアリーっていう怖い女の人が影を潜めて監視しているから気を付けなさい。っていう諺があるくらいだからね。
どこで誰が聞いているか分からないから、秘密は漏れやすい事を理解して気を付けましょうねって意味だったか?
それを少しだけ短縮したのが『壁に耳あり障子に目あり』だったっけ?
それすら看破して、勝ち誇って叫んだのが、
『壁に耳あり、笑止なりメアリー』だっけ?
いかん。また現実逃避をしてしまった。
そう。これからについての事が決まったと思ったら、変な方向に話が行きだしたんだよね。そうだった。
パブロ達が、家族で俺に忠誠を誓うと言い出した。
この短期間に2度も命を救われた。食でも助けられ、今回の件でもまた迷惑をかけてしまった。恩を返すどころか、恥の上乗せをしてしまったし、勉強もさせてもらった。強さと知識、優しさも兼ね備えた人格者。更に、子供達へ接する態度もひと味違う教育者。そう俺の事を判断していると。
それを聞いたミラが大暴走。
「何を言っておるのじゃ。わしの方が先に命を救われておるのじゃ。食べ物もずっと与えられっ放し、住むところもずっと提供され迷惑もかけっ放し、強さは、一緒に何度も戦っておるわしが一番理解しておるのじゃ。絶対に敵対したくないのじゃ。それに優しさなんて、会ってからずっと感じておるのじゃ。それに、わしはタビトに『おぬしに一生付いて行くのじゃ!』と前から伝えておるのじゃ。一途な気持ちなら負けんのじゃーー!」
俺って何者なの? 何その高評価。怖いんですけど。
犬人族さん達ってそんな感じなの? 確かに命を救った覚えはあるけど、忠誠を誓っちゃうの? いいの? 家族みんなって? パブロだけならまだしも、全員なの?
うん。みんな同じ意見らしい。なんの疑問もなく納得していると。あらそうですか。どうしましょう。
それに、ミラ。それってもう告白なの? 愛してます宣言? いよいよ誤解じゃ済まないよ? あれれ~~? ミラって、
本名『ミラーダリューカーマオガルド4世』
どこで切るののか分からないくらい長い名前だったよね? ミラーダでも、カーさんでもマオさんでも好きに呼んでくれとか言ってたし。
『基礎生活能力のない方向音痴の脳筋ちみっババ食いしん坊属性持ち実は武闘家魔法使い』だったよね? ちゃんと覚えてるよ、だんだん長くなっていったからね。
勝手にババ認定してたけど、違うのかな?
あれれ~~?
今更聞けないぞ? ところでミラさんや、お歳はいかほどで? 無理だ。俺には無理だ。
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理~!
ウリィ~~!
はぁ。ちょっと検討させてもらおう。こんなの初めてだぞ。
こんなオイラには、即答は無理だ。
しかも最後で、また腹が鳴るとは、さすがです。やはり、食欲か。俺を食料を運んできてくれる便利なお兄さんくらいにしか思ってないのか? いや、そんな事はないよな、あそこまで皆の前で言ってるし。ジャックまで同じタイミングで腹を鳴らすなんて、シンクロだよ。『食いしん坊属性』によるシンクロニシティだ。三つ子に進化するのか? はっ、レックスまでそちらに引き込まれるのか? ほっといたら、共感覚でそのスキルを身に付けてしまいそうだぞ。いかん。気をつけねば。
「わ、わたしもそう思います!」
アリーさんや。顔を真っ赤にして、……赤くなってるよな? 赤髪獣耳お姉ちゃんだから、ぱっと見、遠くからじゃわかり難いんだよ。
このタイミングで何を言い出すのかな? お腹が減ったって事でいいのかな? まさか俺に向けてないよな? どこに掛かる言葉なのかな? そう思うの『そう』ってどこ?
これも聞けないぞ? アリーさんや、お歳はいかほどで? お兄さんには難しい問題ですぞ。
ご両親も、双子ちゃんまでウンウン頷いているから、みんなお腹が減ったんだね。ずっと走りっぱなしだったからね。そうだよね。うん。そうしよう。
「じゃ、じゃあ、みんなで夕食にしようか! 今日はみんなお疲れ様パーティーだ。資金も獲得できたから、遠慮なく食べような」
ふー。取りあえずここは乗り切った。はずだ。
こんなモテモテタイムは何かの間違いだ。今までの人生でも味わった事がないぞ。ドキドキだ。逆に怖いわ。俺だよな? 俺ってこんなんだったっけ? 自分で自分が分からなくなってきたぞ。
それにしても、ナイスタイミングだったぞ、ミラ、ジャック。グッジョブだ!
「やったのじゃー! タビトの了承を貰ったのじゃー」
「やりました! お父さん、お母さん。私もタビトさんに受け入れていただきました!」
「「やったー! 僕達もだー!」」
「うん、うん。良かったねアリージャ。父さんは嬉しいよ!」
「はい。あなた。良かったですね。これで我が家も安泰です!」
「はい?」