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その名は 迷探偵ミラ!



 こういう緊急時こそ、落ち着くのが一番だ。冷静に判断していかなければ、逆に対応が遅くなる。パブロにルイも、自分の子供だから、冷静でいられる訳がない。それは仕方がない。こちらが冷静に判断しなければ。


「パブロ、ルイ。まずは落ち着こう。俺達も協力するからな。焦る気持ちも分かるけど、ここは少し冷静になって、その時の事をもう一度、詳しく話してくれ」


「そうなのじゃ。わしも協力するのじゃ。まずは落ち着くのじゃ」


 さっきは、早口で説明されたけど、肝心な事は聞けていない。今まで走り回って捜していたのだろう、息遣いも荒い。ここで一休み入れて、冷静になってもらおう。まずは水でも飲んで、落ち着きなさいな。アイテムボックスからコップを2つ取り出し、《飲料水》を入れて2人に渡す。


「あ、は、はい。ありがとうございます。いただきます」

「ありがとうございます。私もいただきます」



 この2人が能力全開で捜したのに見つからないという事は、ニオイが辿れないどこかにいるか、もう近くにはいないという事だ。

 町の出入り口を手分けして捜すのがいいのか? 俺じゃあ、ニオイで判別できないぞ。警察とかの当局の機関はないのか? 門番に聞いてみるのもいいかもな? もうやってるか?


 水を一気に飲み干し、呼吸を整える2人。サービスだ。もう一杯ずつ飲むがいい。《飲料水》《癒やしの光》入り特製回復飲料水だよ。

 ポワァーン


「はー。うまい。ありがとうございます」

「凄い。疲れが癒されていくようです」


 そうだろ、そうだろ。これも売り出し予定だよ?

『回復ウォーター』ちょっとだけ体力が回復するよ? するはずだよ? したでしょ? 実感したでしょ? 無料なのは、今回だけですからね、特別サービスですよ?


 何でやねん!



 ようやく落ち着いて話し始める2人。

 冷静になれば、見えてなかったものも、思い出し、気付く事がある。まだそんなに時間も経っていないのだから、命に別状はないと思いたい。


「そう言えば……」



 俺からの質問は、

(さら)われた』と言っていたが、狙われるような心当たりがあるのかどうか。こまでにもそういうことがあったのか。怪しい人物がウロウロしていなかったか。


 町に来てから、ジャックに変わった様子はなかったか。久しぶりに町に来たのだ。何か興味を引かれたモノがあったのかもしれない。


 近くにいればニオイで気付けるのか。家族だから、それなりにニオイには自信があると思うが、どれくらいの範囲で本人と判別できるのか。だ。



 心当たりは、無いこともないが、ここまで離れているのだから、それはないと断言。怪しい人物も見かけていないし、接触もされていないはず。

 そう言えば、やたらと屋台や飲食店を見ていたと。

 風向きにもよるが、何となくの雰囲気なら、ヒトブロック離れていても気付けるかも。とのことだった。


 心当たりが無いこともないって、何だろうな。言いたくなければ聞かないが、断言しているのだから、今はいいだろう。信じるしかないしな。


「ミラ。ミラはどう思う? 何か気になった事はあるか? 本当に攫われたと思う?」


「……そうじゃのう。断定はできんのじゃが、まだそう時間も経っておらんのじゃろう? 今の話からすると、案外、まだ街中をウロツいておるかもしれんのじゃ」


「あ、やっぱりそう思う? 俺もそんな感じがしてたんだ。同じく根拠はないけどね」


「えっ、それじゃあ、まだこの町のどこかにいる可能性が高いということですか?」


「はい。それはどういう事でしょうか? これだけ捜しても見つからなかったんです。もう町の外に連れ出されたのかと思っていました」


「そうだよね。心配なのはわかるけど、冷静に考えると、こんな街中で、こんな明るい時間帯に人攫いなんてする? ってこと。


 いくらジャックが小さいからといっても、全く気付かれずに連れ去られるとは考えにくいんだよね。抵抗はすると思うし、人目も多い。誰かしらは不穏な動きに気付くと思うんだよね。


 まあ、そういう危険な能力があるなら別だけどね。それに、狙われるような心当たりはないんでしょ?」


「そうじゃぞ。わしもそう思うのじゃ。あながち、腹が減って屋台の周りをウロツいておるのじゃ。わしでもニオイに釣られてしまったからの」


 うん。確かにあれは凄かった。あっちもこっちも、釣られっ放し。釣られすぎ。釣り放題だ。屋台なら、煙もニオイも結構出してたから、それに紛れてしまってたのかもしれない。


 パブロやルイには、その感覚はわからないだろうからね。屋台なんかは目にもしていなかったのかも。子供目線は特殊だから、よっぽど大人が気を付けてても迷子は発生するからね。


 森の中ならいざ知らず、ここは『国境の町』。それなりに人もいれば、屋台も多い。これまでの経験から、そういう所に目が向かなかったんだろうね。


 そうと決まった訳じゃないけど、あまり悲観的に考えても仕方がない。もう宿に戻っているかもよ? 流石にそれはないかな?



「まずは、落ち着いてアリーとレックスが待ってる宿に戻ろうか。ジャックと同じ目線で捜してもらうのも、いいと思うんだ。俺とミラもいるし、手分けして捜そう。その後、2人には町の出入り口を片っ端から行ってもらって、ニオイが外にいってないか確認してもらうよ。大変だろうけど頑張ってね」


 冷静になり、俺たちの話にも納得できたのか、大人しく指示に従ってくれた。うん。いいね。こういう場合、取り乱してもいい事ないかかね。


  *



 程なくして宿屋に到着。家族で合流してこれまでの報告をする2人。子供の方が、状況を理解していないのか、いたって冷静だった。(たくま)しく育ったものですな。


「アリー、ジャックはこれまでにも1人でどこかにフラッと行っちゃう事とかあったか?」


「うーん。ないこともなかったです。興味があると、すぐにそっちにのめり込んじゃうので……」


「そうか。ありがとう、アリー。ジャックにはそういうクセがあるんだね。

 じゃあ次はレックス。ジャックとの繋がったような感覚はあるのかな? 共感覚っていうんだけど、分かり易いのは、痛みとか、恐怖とかの感情かな。今ジャックが痛い思いをしているとか、怖がっているとか、そういう思いを感じないかな?」


「うーん。よく分かんないけど、言ってる事はなんとなく、分かる? ……かな? この前、レックスが転んだ時に、僕も足がなんか痛いような気がしたんだ。そういう事?」


「そうだよ。そういう感覚だ。凄いなー、レックスは。それを理解できるだけでも凄い事なんだぞ」


 2人とも、いい情報をありがとう。しっかり頭を撫でてあげるからね。獣耳だからじゃないよ。ホントだよ? いい子だからだよ? 俺は、褒めて伸ばすタイプなんだよ。しっかり態度で示さないとね。


 うーん。いい感じだ。モ……



「じゃあ、レックス。今はどう? 何かイヤな感じがするのかな? それとも楽しそうな感じがする?」


「うーん。今はそういうのはないかな? 何か探してるみたいだよ?」


 おう。そんな事まで分かっちゃうの? スゲー。いいなー、それ。


 もう目醒めちゃってるじゃん。

 ゆー。やるねー。



「ありがとう。レックス。それは一番欲しい情報だよ。役に立つ能力だから、今後も2人で意識して鍛えていくといいよ。凄い事ができるようになるかもよ。


 というわけだ、みんなで手分けして街中を捜すぞ。特にニオイの出てる所は要チェックだ。ミラ、頼んだぞ。おいしそうなニオイのする所を重点的に頼む」


「ほう。またわしの出番なのじゃな。いいじゃろう、いいじゃろう。任せておくのじゃ」


「まさか、そんな事が……」


「私でも知らなかったわ。そんな感覚がこの子達にあっただなんて……」


「話は後だ。おそらく2人とも裏路地を中心に捜してたんでしょ? 俺でもそうしてたかもしれないから、気にしないでよ。その時は、正しい判断だったかもしれないよ。突然子供がいなくなれば焦っちゃうからね。


 でも、今は早くジャックを見つけてあげよう。迷子になって泣いてるこもしれないし、下手したら、本当に攫われちゃうかもしれないからね」



 パブロとルイはそれぞれに宿から左右に展開。俺とレックス。ミラとアリーでコンビを組んで宿の正面と裏手から展開することにした。俺達よりも子供達の方が鼻が利くからね。


 さあ、誰が一番に見つけられるかな。お願いだから、攫われたなんて、止めてくれよ。



「よし。じゃあ、レックス。レックスの能力を鍛えるつもりでやっていこうか。難しく考えなくていいからな。なんとなくジャックの事を考えて、ジャックなら今どうしているか、どうしたいかをレックスが思い付いてやればいいんだ。分かるかな~? 当てられるかな~?」


「うん。分かった。やってみる! ジャックならねー、今ならねー、うーん。うーん……」


 ゆっくり歩きながら、大人しく見守ってやるのがいいのかな? ぶっちゃけ、双子の感覚なんて分からないし……。これで能力が発揮されたら凄いよね。



 オイラ、双子専門特殊能力開発機構とか立ち上げちゃう? コンサルティングは得意だよ。


 口八丁手八丁。最終的な責任は自分にないし。適当にどこかから拾ってきた数字並べておけば、それっぽく見えるし。それっぽい事例とかならいくらでもネットで拾えたし。後は権威付けに会社名とか医者とか胡散臭(うさんくさ)い研究者、他の国とかの話をしておけば、ほらこの通り。信じる者の出来上がり。(わら)にもすがる思いの者ならイチコロだ。あとは、それっぽく軌道修正と段階を追って目標を設定していってやれば……、上顧客の完成です。


 長い付き合いになりやすぜ、ダンナ。



 いや。今回はそんなつもりはないからね。ホントだよ。少しでも能力が伸ばせれば、チカラになる。必ず役に立つ。そう思うから、お金なんて請求しないしね。俺ができる事をやってるだけだ。


 ホントに自信があるなら、顧客からの自己申告。オール成功報酬にすればいいのにね。着手金とか、途中の経費とか。チャンチャラおかしいよね。他者の土俵(どひょう)で何やってんの! 弾幕薄いぞってね。オヤジにもぶたれたことないのに!


 ホントに余裕のある者が、その知識と経験を活かし、善意で、手数料くらいの手間賃でやるべき事だ。商売だからって? 責任もとらないクセに、ぼったくんな!


 いかんな。まだ酒を飲めなくなってしまった反動だな。



 どうかな? ずっとブツブツ言ってるだけだけど。


「レックス? 大丈夫か? こういうのは、あんまり考え過ぎてもダメなんだぞ。もっとリラックスして、ジャックの事を考えてみてごらん。まずは、笑顔のジャックがいいかな」


「ん。分かった。そうしてみる」


 俺も屋台を中心に捜しているけど、人も多いからな。姿が隠れてしまうから、子供だとなかなか見つけかれないぞ。


「あーっ! 何か喜んでるー!」 


 お、もう見つかったのか? それとも何か目的のモノでも見つけたか?


「レックス、ジャックはどっちの方向にいるか分かるか? 何となくでいいぞ?」


「うーん。……あっちかな?」

 自信なさげに指を指す。


「オッケー。じゃあ、当たってるか、確かめに行ってみようか? どうだろうな。当たってるといいな?」


「うん。行ってみるー」



 手を繋ぎ、早足でその方向を目指す。




「やったね、レックス! 大当たりだ。その能力を2人で高めていけば、これからもきっと役立つから、相談しながらいろいろ試してごらん」


「やったー! 当たったー。うん。いろいろやってみるね。ありがとうタビトー」


 よしよし。しっかりご褒美だ。俺にとってもね?

 褒めることは大切なのだよ、明智君。



「なんじゃ。遅かったのう。わしらの勝ちなのじゃ。ふん」


 おおっと、別に勝負はしてなかったと思うんだけどな。まあいいや。こっちも褒めておかないとな。ドヤ顔してるし……


 確かに、この中でおいしそうなニオイを辿らせたら、一番だろうな。まさか、ホントにそのニオイで見つかったのか?


「おお。さすがミラ。やっぱり名探偵だな。今回は迷わなかったのか?」


「何を言っておるのじゃ。負け惜しみなのじゃ。おいしそうなニオイで、わしが迷う訳がないのじゃ」


「はい。次から次に凄かったです。まだ食べられるのですね。さすがミラさんです」


 アリーにまで大食い認定もらってるし。さすが、ミラクオリティ。ていうか、捜しなが食べてたの? そっちがメインだったのか? そのついでに見つけちゃった的な? はあ、まだまだいけそうだよね。ツッコムのは止めとこう。


「そうか。良かったよ。よっ、流石ミラ! それで、ジャック。ケガとかはないか? どうしたんだ? 1人で行動するなんて、危ないだろうに。なにか事情があるなら、話してみな。俺は怒らないからな」


 おいしそうに何かを食べる続けるジャック。


「ん? どうしたの? 何かあったの?」


「あのぉ、ごめんなさい。ご心配おかけしました」

 申し訳なさそうに頭を下げる、赤髪獣耳お姉ちゃんのアリー。


「え? ケガがなければいいんだけど、事情が分かるの?」


「はい。あのぉ。どうも、あのキノコの味が忘れられなかったらしくて……、それで、ふらふら煙につられて歩いてたらしいんです。ごめんなさい」


 なんだ、そんな事か。食べ物のニオイに釣られて迷子とか。もうミラ2世認定でいいんじゃないかな。まったく。


 しかし、子供であの味に魅せられるとは。末恐ろしいな。ウマミが理解できる証拠だぞ。料理人を目指すのか? 大食いか? うーん。どっちだろ? あ、それで今食べてるのか。ミラからもらったな。たくさん持っていったからな。焼いたヤツ。


「いいんだよ。理由はどうでもね。こうして無事に合流できたんだ。良かったね。それより、お父さんとお母さんとも合流しないと。まだ心配して走り回ってると思うよ?」


「あ、ありがとうございます。でも、どうしましょうか?」


「そうじゃの。早く無事を知らせてやるのじゃ。でもまあ、ここで皆でキノコでも食べながらワイワイやっておれば、その方が見つけやすいじゃろうな」


「確かにそうかもね。さっきもキノコのニオイで気付いたって言ってたし、みんなのニオイも集まってれば、より気付きやすいかも。さっすがミラ。()えてるね!」


 サムズアップでグッジョブだ。


「そうじゃろう、そうじゃろう。またわしが役に立ったじゃろうに」

 嬉しそうにサムズアップで返すミラ。子供達も興味津々で見てるよ。これはしっかり説明しなければ。おれの務めだ。


 ミラに教えたように、このハンドサインの意味をみんなに説明した。面白そうに真似してみんなでやり合ってると、パブロとルイが現れた。


「ジャック! どうしたんだ! 心配したんだぞ!」

「ああ、ジャック! 無事で良かったわ!」



 家族っていいね。本気で心配して、精一杯行動して。心からの強い思いが無ければできないよ。


 そんな事が当たり前のようにできるのは、家族だからだ。他者にはそこまではできない。どうしても主観も入るし、打算もある。


 家族は、いつもは鬱陶(うっとう)しいけど、いざという時に頼れるのは家族だけだ。俺だけか?


 骨肉の争いをする家族もいるけど、それはまだ、どこかに余裕があるからだ。この世界では、そんな余裕はない。『死』が近いこの世界では、家族ほど貴重な存在はないだろうな。権力者を除いてね。



 こういう抱擁(ほうよう)は、ドラマじゃ再現できないね。



 あっ、鉄拳制裁付きだった……



~サムズアップ~


 じゃんけんグーの状態から、親指を立てた手の形。


 地域や人によっては、違う意味、悪い意味を持つ事もあるため、『俺専用』のハンドサインとして説明。


 声をかけられない時でも、このポーズで言いたい事を伝える。


『頼んだぞ、いいね、ありがとう、よくやった、頑張ったな、幸運を祈る、大丈夫だ、オッケー、じゃあな、いい仕事してますね』


 という感じで、賛成、同意、満足などの肯定的な意味を表す便利なポーズだから、覚えておいてくれと伝える。


◇◇◇◇◇


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