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奴隷商館 突入



「ミラ、あそこに奴隷商館があるぞ。ちょっと行ってみるか?」



 奴隷狩りがいたのだから、近くの町に奴隷商館があってもおかしくはない。運搬も最小限で済むから合理的だしな。いや、逆か。国境の町という大きい所だからこそ、奴隷商館があり、それに都合いいヤツらが近くにいたのか。


 ここに奴隷狩りに加担している奴がいる可能性もあるが、どうだろうか? いないと祈りたい。国の認可、監督は甘いものじゃないらしいからな。それこそ、奴隷にされかねない。イヤだよね。奴隷商人から奴隷に落とされるって。売る側から、売られる側へ。おお、こわっ。


 それに、王都では一度訪れたことはあったが、応接室で話をしただけで、中を見ていない。首輪の件もあるし、参考までに値段とか、どんな感じになってるとか、見ておくのも悪くないかもしれない。



「ん。なんじゃ。もう乗り込むの気なのか? 腹ごしらえはバッチリじゃから、わしならいつでも大丈夫じゃぞ」


 えー、いきなり戦うつもりなの? さすが戦闘民族。先に聞いといてよかったよ。


「いや、戦いに行く訳じゃなくて、社会見学? 奴隷の値段とか知らないし、どんな感じなのかなぁってね。話ができそうなら、『奴隷狩り』とか『隷属の首輪』の事も聞けるかもしれないしね」


「なんじゃ、そういう事じゃったか。わしも詳しい事は分からんから、それもいいかもしれんのじゃ」


「よし、じゃあ、早速行ってみようか。資金もあるし、一応、奴隷を買いに来ましたって感じで行くからね。そこん所、合わせてくれよ。よろしくな」


「あい、分かったのじゃ。任せておくのじゃ」


 王都での、奴隷商館の対応が少々気に(さわ)ったから、それなりの事には覚悟しておこうかな。どうだろうな、ここは。 


 またしても、ドキドキだ。


 ドキドキ体験は、脳を活性化させるから、決して悪いもんじゃないんだよ?


 ホントだよ?


  *



「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 店のドアを開けると、全身黒の執事服、パリッとアイロンのかかった白のカッターシャツに身を包んだ上品なおじ様が出迎えてくれた。王都と比べると、やけに丁寧(ていねい)な応対だ。これだけでも圧倒されそうな雰囲気だ。


 やっぱりこれが普通だよな? 奴隷の売買なんて、それなりのお金が動く訳だから、一見(いちげん)の客だろうと、VIP対応しておけば間違いない。うん。俺ってば常識人。



「こんにちは。旅に連れて行ける体力があって、索敵のできる能力がある者を探しています。ここに来るのは初めてなので、よろしくお願いしますよ」


 実際には奴隷を買うつもりはないのだが、今後の事を想定して、それっぽっい感じで聞いてみた。


「そうでしたか。ご来店ありがとうございます。ご案内致しますので、こちらにお越しください」


 先導されるままに進んでいくと、広い応接室に通された。

 ソファーに座ると、流れるように紅茶セットがテーブルに置かれた。なんか、心をくすぐられる対応だ。こういう上品な感じは慣れないな。お高くとまっちゃうっていうの? 調子に乗っちゃうよ? 場違い感ありありなんだよね。金持ちの行き着く先はこんな感じなのだろうか。オイラには、無縁だな。緊張しちゃって疲れるよ。



「それで、ご予算はいかほどでございましょうか?」


「あ、はい。それなりに用意はして来たのですが、こちらでの相場も分かりません。その辺りも含めて教えていただけると、助かります」



 それはそれは丁寧に教えてくれたよ。凄いね。サービス精神っていうの? ホスピタリティ? こちらの理解度を確かめながらも、失礼にならないように気を遣い、時間をかけて説明してくれるんだよ。知識の有無だけじゃなく、経験からくる思いやり、心からのおもてなしってやつを感じた。


 一流の接客を体験させていただきました。ありがとうございます。


 前にも聞いた、奴隷制度の基礎知識から、一般的な値段から種族による違いや特徴、過去の例まで。勉強になりました。授業料払いましょうか、と言たくなるような内容でした。


 こりゃあ、金があれば、ちょっと高くても買っちゃうかもね。接客技術こそ最高の商品とはよく言ったものだ。あ、俺談ね。



 実際に見せてもらってはいないが、今、ここで買える安い『契約奴隷』でも200万。借金の返済が終われば解放されるため、旅に連れて行くには難しい。


 条件を満たし、戦闘になる事も考慮に入れると、最低でも1,000万の『犯罪奴隷』。お勧めは1,500万の獣人だとか。うん。高いね。人の命の値段としては、安いのか? 事情は分からないが、してきた犯罪を考えればどうなのかな? 価値観は人それぞれだからな。俺には比較もできない難しい問題だ。



 お金も2300万以上は残ってるし、試しに見せてもらおうかと思ったけど、止めといた。ミラも興味なさそうだったし、話の途中で寝てたよね? 俺も、こういうパターンを考慮すると、何だかかんだあって、買ってしまう事になりそうだから止めた。


 ビビッときたとか? 運命の出逢いとか? ないない。オイラ『鑑定』使えないし。奴隷なんて、いらないし。いらないよ。ホントだよ?


 くそー。こういう時こそ鑑定無双なのに。




 話を聞き終え、今回は購入しない事を伝えた。


 何か申し訳ない気持ちになるのは、日本人だから? 何かしてもらって、こちらから何もしないというのは、少し気が引ける。


 コンビニでトイレを使わせてもらって、何も買わずに店を出られないタイプ。いや。店員の態度が悪い店だと、そのまま出ちゃうな。でも、今回は、一流の接客だったからな。


 うん。やっぱり何も無しじゃ、気が引ける。俺ってば根っからの日本人だからね。善良な一般市民でした。



 という事で、奴隷狩りから拝借(はいしゃく)した『隷属の首輪』を見せてみる事にした。



『隷属の首輪』こんな不思議な物体があって、オイラが何もしない。なんて事はないのじゃ。いろいろ調べたよ? 朝の心地良い妄想の後にね。


 チカラ技だよ? 困った時の〈雷〉さんだー!



〈チャージ〉してある分の30%でぶっ壊れちゃったよ。えへ。


 25%を超えたら、パシッと音がして、28%でヒビが入り、30%で砕け散った。オイラの野望と共にな。ふっ。


 何とかコントロール出来ないもんかな? って思たのが最初。

 何らかの魔法による制御がされているはずでしょ、こういうのって。魔道具ってやつ。どうせ、世に出しちゃいけなさそうなブツだし、1つ2つくらい大丈夫でしょってね。


 俺にそんな繊細で器用なコントロールなど出来る訳もなく、何の感覚も伝わってこなかったね。


 でも、〈チャージ10%スラッシュ〉でゴブリンさん一撃必殺だったからね。この首輪、ゴブリンさんより強かったんだよ。やるね。普通のゴブリンさん相手なら威力を落として5%でも十分そうだったのにね。


 まあ、これは『主の腕輪』と『登録』されていない『色無し』の状態だから、実際に『登録』されてしまえば、『色』が入って強度も上がるのかもしれない。単に『首輪』としての強度だからね。やろうと思えば、誰にでも壊せるのかもしれないし。


 実験は、盛大に失敗に終わった。後悔はしていない。あ~あ、やっちゃった。とも思わなかった。ま、こんなもんでしょ。って感じで、冷静に判断できた。物がモノだけに、何の感慨(かんがい)()かなかったね。




「この町に来る途中で、こんな物を拾ったのですが、これって、その『隷属の首輪』ですよね?」


 壊れてしまっている。いや、俺が壊した破片状態の首輪と、手をつけていない首輪を袋から出し、テーブルに置いた。


「……どこでこれを?」


「近くの森で、キノコを採取している時に見つけました。周りに人はいなかったので、とりあえず持ってきたのですが、こちらの物ですか?」


 破片を不思議そうに見ながらも、壊れていな首輪を確かめる。


「『色なし』の状態では確かめようがないのですが、この破片も『色なし』のようですね。調べてみる必要がありますので、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


「はい。勿論です。私は拾っただけですので、持ち主が分かれば、お返ししようと思っているだけですから」


「分かりました。ありがとうございます。少し調べて参ります。このままお待ちいただくか、日を改めてさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 まあ、そうだよな。こういうのは、すぐには分からないよな。俺のせいだけど、1つはバラバラの破片になっちゃってるし。でも、手持ちの首輪の数の管理はしてるはずだよな? それならすぐに調べられるのか?


 ミラは……、どうでもよさそうだな。早く終わらせたいのか? ずっと大人しくしてるけど、退屈な話しだろうからな。


「時間がかかるようでした、日を改めます。もしも数が足らなくて困っているようでしたら、そのままお返しします。私には必要のない物ですので」


「そうですか。お気遣いありがとうございます。では、少し調べたいと思いますので、日を改めさせて下さい。

 念のために、この首輪を見つけた時の状況をもう少し詳しく伺ってもよろしいでしょうか?」


 おおよその方向と、距離、街道から少し入った場所だった事。周りには争った跡などなく、普通に落ちていた事。首輪が砕けていることに疑問を持ったが、そもそもどういう物かも分からないので、そのまま拾って持ってきた事などを伝えた。



『隷属の首輪』は、物がモノだけに、通常であればしっかり管理されており、普通に落ちている事など考えられない。また、それなりの強度があるにも(かか)わらず、こんな状態になっている事も珍しいと、受け答えの中で普通に話してくれた。


 誠意には誠意をもって応えるという事だろうか。そこまで話さなくてもいいよね? 奴隷商の落ち度って事だよね? ここの商館は関わっていないという潔白の証なのかな。実は巻きこむ気満々とか? 何にせよ、今回の件はかなりよろしくない事態のため、事件性の有無も含めて調べてみるとの事だった。



 俺ってば悪い人? 探りを入れる訳でもないが、全部正直に話をする気にはなれなかった。もしかしたらがあるからね。

 信用して話をした途端、口封じのためにサクッとヤラレちゃうとかね。国の、奴隷商の恥だと考えられて闇に(ほうむ)られるとか、笑えないよ?


 自分の身は自分で守らないと。疑わしきは、より警戒しとけってね。それに、1つ壊しちゃったのオイラだし。砕けた首輪の損害賠償(ばいしょう)を請求されてもイヤだからね。えへ。



 期待しちゃいけないけど、もしかしたら、俺達にとってもいい方向に進むかもしれない。

『奴隷狩り』の存在が明らかになり、討伐隊が組まれたりとか、芋づる式に悪事が暴かれていくとか。甘いかな? 逆に厄介事を持ち込んだとして、俺達が狙われちゃうのかな?



 ちぇっ、折角お酒も解禁して楽しめると思ったのに、まだまだ要警戒。酔っ払う訳にはいかないのかな。


 くっそー。オイラに与えられた天啓は?

 魂の叫びを返せー。


  *


 冷静に、静粛(せいしゅく)に。


 一番重要な事は、俺が安心して平和に暮らせる場所を探す事。そのためにも、確実に次に進む方向を決める事。


 この町にはしばらく留まって皆さんと話し合い、慎重に情報収集をしようと思っていたからね。奴隷商の調べを待つのも、何の問題もない。今後の事も落ち着いて考えた方がいいからね。


 ミラも食べ放題を満喫できるから丁度いいか。そういえば、ミラともこれからどうするのか、話し合わないといけなかったな。



 3日後に再度、奴隷商館を訪れる約束をした。

 挨拶(あいさつ)を交わし、商館を出る。

 名前は『セバイス』さん。セバスチャンでいいじゃん。ダメなの?


 言ってないよ?

 ここの支配人だった。偉い人でした。話が早くて助かります。



  * *




「タビトさん! ミラさん! ジャックが(さら)われました」


「は?」



 家族で街を散策していたら、いつの間にか姿が見えなくなっていた。

 ニオイである程度捜したが、途中で足取りが(つか)めなくなった。

 その途中で知ったニオイに気付き、こちらへやってきたと。



 何だそれ。あるの、そんな事が。街中ですよ? そんなに物騒な所なんですか、『国境の町』って。

 あれか? 国を(また)いじゃえば、なかなか追って行けないとか? 街道も整備されてるから、逃げやすいとか? (まさ)に泥棒の理論。



 どうやってオイラ達を見つけたのかって?


 ミラのニオイだそうだ。よく食べてるからね。香ばしいニオイがしたそうだ。『ジャンボシイタケ』の素焼きを、思い出した頃にはボリボリ食べてるからね。そりゃ、ニオうか。いや、香るのか。


 こんな所でも役に立つとは、恐るべし、『ジャンタケ』。


 そういえば、コレって、多分俺達しか食べてないからね。元毒キノコだし。いい目印として今後も活躍してくれる事だろう。


 ミラが食べ尽くさなければ。



 オイラからは、ニオイがしないらしい。なんでかって?


 そりゃあ、〈身体強化〉のお陰であると思われます。無味無臭。味はまだ食べたことがないから、分かんないかな。


 また、有用性が示された訳だ。やったね。



 んな事を言ってる場合じゃない。



 こういう時って、双子の共感覚とかってないのかな?



 ゆー、覚醒(かくせい)しちゃいなよ?





~奴隷制度について~


 国から認可を受けた奴隷商館でのみ売買可能。

 奴隷の登録・解放、条件の設定・変更は、国から資格を与え限られた者しかできない。


 奴隷は、『隷属魔法』により行動を制限される。

 敵意、害意だけでも〈注意〉により魔石が『点滅』し、継続すれば〈警告〉により魔石が発光し『痛み』を与えられる。最悪は〈処罰〉により「痛み」が増し、そのまま『死』までいく。害意ある行動は『即死』。

 契約違反や、大きな問題を起こした場合は、犯罪奴隷に落とされる。


 首輪に付けられた魔石の色で種別を表す。

【色】【種別】 【備考】

 赤 犯罪奴隷 終身の強制労働、

        戦闘奴隷にもなる 

 緑 契約奴隷 年数、借金返済などの条件を

        満たせば解放される

 無 奴隷商付 条件契約前の奴隷商の預かり

        という状態

 もう少し正確には、赤はえんじ色、緑は深緑


 所有主には『主の腕輪』、奴隷には『隷属の首輪』が装着され、登録される事で対となる。対の『首輪』に近づけると、お互いの『輪』がほんのり光って反応する。『腕輪』1つで複数の『首輪』と登録が可能。


『緑』の所有主は、奴隷の生活の面倒をみる必要がある。身の安全を確保し、その行動に責任を負う。奴隷にも人権はあり、な・ん・で・も・あ・り・ではない。場合によっては聞き取りが行われ、所有主が罰せられることもある。


 ただし、『赤』の犯罪奴隷は例外で、「物扱い」を受けてもよしとされている。


◇◇◇◇◇


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