国境の町 オデルローザの爆買い
「いらねー」
どんだけ『隷属の首輪』持ってんだよ。15個だよ。さっきの奴のと合わせたら、30個も持ってたよ。どうしようね、これ。
でもこれって、隷属の首輪『一式』になってないんだよね。できなかったのかな? 敢えてしない理由があるのか? わざわざ収納数を使ってまで何が? うーん。謎だらけだ。
持ってるだけで、俺が犯罪者っぽくない?
でも、捨ててくのも、マズそうだから、一応オイラのアイテムボックスの『□物置』に収納してある。表示は『隷属の首輪×30』。信頼できる権力者とか、チカラのある組織とかに丸投げしたい気分になるよ。まったく。誤解されなきゃいいけど。
この指輪だけど、名前は元『認証の指輪』。持ち主が死んでしまえば、普通に『簡易アイテムボックス』としては使えるんだな。便利だし、これはなかなかの拾い物なのか? 名前が刻んである訳じゃないし、デザインも、どこにでもありそうなシンプルなものだ。元の持ち主までは特定できないはずだよな? 売ってしまうより、活用した方がいい気がする。
俺の指輪では表示されている、『状態』や、『機能』『性能』といった項目らしきモノは無くなってるから、拾った者が新たに能力を得られるという事はない。と。
そりゃそうか、他者の指輪で、能力が強化されたり、追加されたりしたら、指輪持ち同士の殺し合いが始まってもおかしくない。そんな仕様の指輪なら……、もう装備しちゃってるし、拒否権はない訳でして……、どれくらいの人数が生存してるのか分からないけど、『簡易アイテムボックス』としては優秀な指輪だからな……、金に困ったヤツがいたら、俺、襲われるのか?
いやいやいや、そんな簡単に判別できないだろうから、無差別連続殺人事件とか起こしちゃうヤツでもなければ、心配いらないかな。でも、しでかしまくってるチート持ちなら、やりかねないのか?
いかん。キリがない。
大事な検証中だった。
この指輪のアイテムボックスとしての性能は、最大上限数の分母が『20』だから、強化されたのは1回。
俺のアイテムボックスの分母は『30』になってるから、この法則が当てはまるのならば、俺の指輪は2回強化された事になる。思い当たる節があるから、多分あの光がそうなんだろう。
詳しくは、『シリーズ第2部』『どこだか世界で、無理せず探していこう』『第3話 ツインドライヴ・マグネットコーティング』を参照
最初の指輪がシルバーで、上限10
強化1回で指輪が緑色に、上限20
強化2回で指輪が赤色に、上限30
という事になる。確認も、答え合わせも出来ないのが辛いが、この流れでいくと、まだ強化できる可能性が高い。何たって、アイテムボックスに『簡易』が付いたままだから。
『簡易アイテムボックス強化版』
強化1回で名前は『簡易』のまま
強化2回で名前は『簡易』のままだが、最後に『強化版』が付いて、『□項目』が追加され、収納量と使い易さが増して、より便利になった。
どこまで強化できるのか分からないが、出来るのなら、強化はしていきたい。生活がより快適になり、チート持ち対策にも有効な『装備』になるはずだから。これからは、指輪を見かけたら『色』も注意して見るようにしようかな。参考までにね。
この中に銃が入ってないって事は、チート能力で作り出したって事だろうな。弾とか一式で入ってれば、しばらく銃無双できたかもしれないのに。残念だ。
ホントは、銃があったら、護身用として子供達にどうかと思ったんだけど、よく考えたら危ないからね。無くても良かったよ。
それにしても、荷物が少な過ぎる。
てことは、普通に考えると、拠点が近くにあって、ひと狩り行こうぜ! って感じで繰り出してきたって所かな。でなければ、もう少し食料とか、持ち歩くよね? 俺の常識は非常識?
「食料に罪はないのじゃ。わしがいただくのじゃ」
保存食一式(3日分)は、ミラがおいしくいただきました。保存食なんだから、すぐに食べなくてもいいのにね。戦闘したから腹が減ってたんだな、と納得しておいた。
ちなみに、財布の中身にはまた驚いた。どんだけ稼いでんだって話。やっぱり悪い事は儲かるのかな?
労働力の搾取は、一度手を出すと止められないからね。時間、体、精神、お金。やり方次第で気付かないうちに……
キャーーッ!!
それはまた、別の機会に?
奴隷の売買は、それだけ金になるという事だ。労働力の搾取なんて、生温いもんじゃない。命の売買と変わらない扱いもあると聞いたから。人身売買。そこに人権などなく、モノとしての扱いを受ける。
奴隷制度が、この国では認められている以上、それに異を唱えるつもりはない。俺は支配者ではないからね。
労働力として、犯罪者への罰として、やむを得ない事情もあるのだろう。合理的だと思う事もある。どこの国でも同じような事は行われてきたのだから。世界が変わっても、人の本質は変わらないという事だろうか。
この国を敵に回すような事はしないし、できない。そんな器じゃないからね。嫌なら出て行けばいい。それだけだから。
でも、いま直面しているのは、『奴隷狩り』だ。さすがにこれは、国としても許されるべきモノではないはずだ。制度を整え、許可を得た専門の所でないと、売買できないと聞いている。
おそらく、制度のスキを突いた、悪意ある者達による犯罪だ。
強制的に奴隷にされるなんて、自分がもしそうなったとしたら、死にたくなるくらいの思いをする事だろう。悔しくてたまらないが、首輪のせいで反抗もできない。生き地獄。それは人として生きていると言えるのか? ……腹が立ってきた。
やはり、撲滅せねば!
全くもってけしからん! 先生が没収します!
ちゃり~ん。
5,630,030エーン、入りました~。
さっきのヤツのヘソクリよりは少ないが、恐らくコイツは『いい金になるぜ。ハッハー!』って言ってたから、刹那主義的な思考で、金を使ってたんだろうね。中途半端な世紀末仕様だったし。
ありがたく、今後の軍資金にさせてもらいましよう。悪党を討伐するための資金としては、足らないと思うけどね。
「お金に罪はないのじゃ。俺がいただくのじゃ~」
実際には、ほぼ食費で消えるのかな?
怖い思いをさせちゃったから、パブロ達にも還元しないとね。
2人分合わせて
24,130,300エーン
あざーっす!
* *
国境の町『オデルローザ』
俺達が辿り着く頃には、国境の壁に日が沈みかけていた。
国境の壁が、ずーーーーーっと続いていた。
よく作ったね。何年かかったの?
戦争とか心配になるよね。こんなん見たら。
フラグじゃないからね。
町に辿り着いてすぐに宿を押さえた。暗くなる前には何とかなった。拘りはないからね。
建物は古すぎず、奇をてらわない落ち着いた外観。壁が厚く、音が響かないよう家具にまで気を遣うスタッフがいて、細やかな気配りのできる受け付けもいる。風呂があって、トイレはセパレートで。ベッドはふかふかで、枕は選びたいな。食事は落ち着いてゆっくり食べられたら、多少の味の悪さには目を瞑る。客層は、団体客とかいて、うるさくなければ、それでいいんだよ。
でも、やはり値段次第だ。結局は費用対効果。支払った額に対して、自分の価値観が高いと感じるか、ぼったくられたと感じてしまうか。
いろんな経験をしてしまうほど、この価値観の判断基準が複雑になり、ややこしくさせる。何も知らなければ、何でも初体験。値段なんて後回し。
逆に経験が増えれば増えるほど、初体験は減り、評価は厳しくなっていく。以前の体験と比較してしまうからね。
性格もあるけど、どっちがいいんだろうね。
いろんな経験をして、それを糧にして他者にも優しくできるっていうのが理想なのかな。俺はまだまだだ。
自分に優しく、他者には厳しい。
うわ。最低……
基準はこれくらい。勿論冗談。
安心して寝られる環境であれば、十分です。ワガママは言いません。長期で連泊する訳でもないから、値段の交渉なんてしませんよ。大人しく1人部屋を2つ押さえました。
ようやく町に着いたよ。思えば長かった。アホな思い付きから森の中を直進して…………
もうやらない。
パブロフ達を捜すのは明日にした。
もう疲れたよ、何だかとても眠いんだぁ。パトラッシュぅ
グー
* * *
天使さんに連れて行かれる事もなく、無事、心地良い朝を迎えた。宿のベッドで目覚めるのなんて、いつ以来だろうか。
『王都ファーダム』を出て以来だから、7日ぶり。
人として、まっとうな社会生活を送っているという意味では、ホッと安心できる宿泊なのだが、安全に、よりグッスリ眠れるという意味では、シェルターの方に軍配が上がる。
俺主観。
『快適安眠できる宿』として、営業してみようかな?
受け入れられそうだよな? 外界と隔離された静かで落ち着ける宿。
安眠を約束され、大きな風呂で癒される宿。
食事は、元毒有り食材をふんだんに使って、他所では味わえない、斬新な料理を。
いけそうだよな? 俺なら真っ先に選んじゃうかもな。
宿泊代はいくらに設定しようかな?
あ、この国じゃダメだった。営業許可なんて下りないや。
「今日もいい天気だ」
妄想がうまい。
そういえば、まだ一度も雨に降られてないぞ? 大丈夫なのか? 水不足とかにならないのかな? 水源では土砂降りだったりして? これが魔法のある、こっちの世界の常識なのか?
* *
ミラと合流し朝食を済ませ、パブロ達を捜しながら買い出しに行く事にした。
国境の町というだけあって、それなりに大きい。食材はそれなりにあるが、調理済みの食料の確保もしたいから、街中を歩き回る事にした。新鮮な野菜や気に入った果物など、手当たり次第にに買っていった。食料不足でドキドキすろのは、もうイヤだ。金に糸目は付けないよ。沢山ゲットしたからね。今日は強気で攻めますよ。
今回は調味料も沢山買った。バーベキュー用にも必要だからね。塩、胡椒はもちろん。醤油もどき、味噌もどきも手に入った。味の違いは、恐らく熟成期間の差。作るの大変だからね。大量に買って、アイテムボックスに入れておけば、安心安全熟成ができるはず。ゆっくり時間経過しているからね。オイラのアイテムボックスは。
迷わず樽ごと買った。大人買いだ。初めてやったが、凄い達成感が味わえる。こんなに大きい物を、こんなに沢山買っちゃって大丈夫なんですか? それに、お金はあるんですか、お客さん? みたいな空気が流れる中、平然とした顔をして買っていくんだよ。内心はドキドキ祭り。貴重な体験をする事ができた。
ありがとう、悪い人。オイラの役に立ったよ。お金がね。お金に罪はないから、しっかり使って浄化してあげましょう。お金は循環させてこそ経済は回る。これは、皆のためになる立派な経済活動なのですよ。
お金も、自分と一緒に眠らせちゃうなんてナンセンス。誰も幸せにならないよ。俺が代わりに循環させてあげてるんだから、感謝してほいよね。恨んじゃダメだよ? 止めてよね。
値引き交渉は楽しかったなぁ。最後には、店主さん泣いてたけど、嬉しかったのか、悲しかったのか、どっちだろうね?
熟成の事とか、調理方法とか、健康にいい食材である事なんかを適当に教えてあげたからね。俺って優しいね。優しさの塊だよ。ここでも〈エフェクト土〉出しとく? 等身大の石像だよ?
うん。いらないね。
しないよ。恥ずかしいから。
しかも、買い物の高揚感でいい気分になってたら、酒屋を発見。あっちゃ~。見つけてしまいましたよ。このタイミングで。
うん。天啓だ。
お前は今まで良くやってきた。そろそ酒も解禁してもいいだろう。さあ、飲み給え。自分のお金でな。
妄想しながら調子に乗って、また樽買いを決行。ビールにワインを発見。
ビールは、常温だとイマイチだったけど、オイラにはアイテムボックスの『□冷蔵庫』があるからね。冷やせば、それなりおいしく飲めるはず。慣れればクセになりそうな味かもね。待望のビールだ。遠慮はしないよ? あるだけもってきなさい。いえ、売れるだけで結構です。もっと好きなのがあるかもしれないからね。
ワインは、高かったけど赤と白もあった。気分や食事に合わせて選んでもいいよね。贅沢だなぁ。こいつも熟成でおいしくなるだろうから、迷わず大量購入。
またやっちゃいました。これが爆買いってやつだね。
天啓もあったけど? これまでの我慢してきた反動もあるから、もうお酒は解禁だ。いろいろあったし、頑張って直進して来たんだ。自分へのご褒美も必要だ。死んじゃったら、もう飲めないからね。後悔はしたくないのだよ。明智くん。
ちょー気持ちいいーー! プールから上がって叫びたくなったよ。毎日が楽しくなりそうだ。飲んでも飲まれないよ? 節度を持って、他者に迷惑をかけない程度に嗜むモノです。
あれれ~~? 奴隷狩り対策費用のはずなのに、食費にしか使ってないよ? おかしいなぁ。
酒代も食費だよ? 娯楽費でも嗜好品でもあるけど、いいんだよ。ミラの食費に比べたら、かわいいもんだ。いや、変わらんな。この量は同レベルだわ。あれれ~~?
ミラに教えた通り、『腹が減っては戦ができぬ』。『酒が無くては人生楽しみが減る』ってね。仕方がないよね。
その後も、買い食い大会に、ミラが大忙し。
よく食べるし、元気だから、屋台の店主のウケもいい。オマケも貰えて、更に食べる。これの繰り返し。
資金はタップリあるからいいけどさ……、確かにおいしいからいいけどさ……
終わらないよ。これ。いつまで食べるの?
大食いチャンピオンになると、日頃のトレーニングも大変なのかもね。