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一攫千金の大仕事




「よし、じゃあ〈火葬〉するから、ちょっと離れててくれよ。ん?」



 ミラにヤラレた()()持ちが光り出した。


 え? オイラ、〈エフェクト光〉なんて使ってないよ? 使う訳ないじゃん。こんな所で。さすがにTPOは(わきま)えてるよ?


 今のは相応しい服装って事じゃないよ。

 Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)に合わせた行動って意味ね。



 ふわ~~ん


 しばらくして光が収まり静寂が訪れる。


「え? 何なの?」

「……?」


 フワッ!


「おおっ! 何だぁ!」

「な、何なのじゃぁ!」


 辺り一面に首輪持ちの私物と思われるモノが広がった。


 これが、アイテムボックス『開放』なのか?


 所有者が亡くなって、しばらくすると自動で開放されるの? 勝手にぶちまけられちゃうのね。気をつけよう。恥ずかしいモノとか入れちゃダメだな。うん。良かった。事前に知れて。

 

 ありがとう。首輪持ち君!


 これは貴重な情報でした。あ、でも変なモノは入れてないからね。まだ入れてなかったから。もう入れないよ。ホントだよ。



 パッと見渡しても、戦利品ゲットだぜぇ! と叫びたくなるような物などなく、


「うっわー。こうなるんだね? ミラも気をつけような」


「そ、そうじゃな。わしも初めて見たのじゃ。これは気をつける必要があるのじゃ。うん。気をつけるのじゃ」


 ミラにとっても貴重な情報のようでした。


 やっぱりミラも持ってるんだね。バッグは持っていないから、アイテムボックスなんだろうな。指輪とかの装飾品は身に付けていないから、俺みたいに指輪の機能とかじゃなくて、能力としてのアイテムボックスなんだろうな。

 何を入れてるんだろう。気になるな。食料以外でだよ? 入ってるのかな?


 あれ? じゃあ、ミラもチート持ち?


 え~っ、それはないでしょ。あるのか?


『基礎生活能力のない方向音痴の脳筋ちみっババ食いしん坊属性持ち実は武闘家魔法使い』だよ? 


 久しぶり。よく覚えてたよな。まだまだ知らない事だらけだ。まあ、アイテムボックス持ってるからって、チート持ち認定は、ちと早計な結論だな。うん。要検証だな。




「ミラ、何か欲しい物があったら、持っていっていいぞ」

「うん? ……特にはないのじゃ。珍しい食べ物とかあれば良かったんじゃが、何もなさそうなのじゃ。残念なのじゃ」


 うん、そうだね。食料あったら良かったのにね。残念だ。



 趣味ではないと思いたいが、拷問(ごうもん)道具と思われる痛そうなモノがワラワラと……


 こいつは、こっちのチートだったのか?


 大道具から小道具まで、どうやって使うんだろうね? って首を(かし)げたくなるモノだらけ。子供達がいなくて、本当に良かったよ。


 こりゃあ、こんなヤツに捕まったりしたら……、ゾッとするわ! 考えたくもない。痛いのはイヤだ。



 全力で焼却処分決定です。

 



 首輪持ちのアイテムボックスが『開放』されたのだから、『指輪持ち』のアイテムボックスも『開放』されるのかと思いきや、何の反応もない。


 2人の死亡推定時刻にも、そんなに開きはなかったはずだから、そろそろ何かしらの反応があっても良さそうなものなのに、何もない。うんともすんとも言いませんぜ、ダンナ。


 いつまでも待ってる訳にもいかないから、そろそろお片付けしないとな。


 普通のアイテムボックスと、指輪のアイテムボックスとは、何かが違うという事か、そもそも、この指輪にはアイテムボックスの機能が付いていない。という事だろうか?


 残念だが、仕方がない。



「じゃあ、使えなさそうなモノは一緒に〈火葬〉しちゃうからな」

「あい、分かったのじゃ。おぬしに任せるのじゃ」



「……そう言えば、現金持ってないのかな? 財布はどこだ?」


 銀行なんてあったっけ? 貨幣(かへい)は普通に流通してるけど、銀行みたいな金融(きんゆう)機関がなければ、キャッシュカードなんてあるはずないよな?


 冒険者ギルドのカードは、『身分証』にはなるけど、そんな便利な機能があるなんて聞いてなかったしな。もしかしたら、商業ギルドのカードなら、キャッシュレス機能とかあるのかも? そんな詳しい話まではできなかったしな。


 こいつら、買い物とかどうやってしてたんだ? 現金がなきゃ、買い物できない世界じゃないのか? ツケが利くのか? もしかして、超セレブで執事が全部やってくれてたとか? 悪の組織特有の何かがあったのかもな。


 俺なら、最低でも少しの現金は持ち歩かないと、落ち着かないけどな。まあいいか。



 でも、それらしい身分証とかは、持ってなさそうだ。


「ミラ、身分証になるような物とか、お金とか見当たらないんだけど、どう思う?」


「何じゃ、そんな物を探しておったのじゃな。

 そもそも身分証なんて物は、皆が持っておる物でもないのじゃ。こやつらにとっては、その刺青が身分証みたいなものじゃろうに。

 金目の物は、そうじゃのう。……わしなら、この辺りに……ほれ、あったのじゃ」



 すげー。名探偵ミラだ。


 確かに犯罪者が身分証なんて持ってないか。持ってたとしても、偽造(ぎぞう)されたモノとかかな。それならあったとしても意味ないな。納得だ。


 それにしても、今の早業は何なんだ。パッと全体を見渡して対象物を特定し、更にそこから隠し場所まで探し当てるなんて。物凄い嗅覚だな。ピカイチだ。食べ物じゃないのに、おかしいな? 思考の傾向が同じレベルだったのか?


 一番大物の、何に使うか分からない大道具? の裏側に、ヘソクリを隠すように、箱が(くく)り付けてあった。それ、必要になって出す時に大変じゃね? って感じだったよ。


 このヘソクリを探し当てる能力は、俺にはないな。どうしても、使い易さを優先してしまうからな。こういう所に隠すっていう発想が出てこない。うん、うん。いい仕事してくれました。


 ただの、()探偵じゃなかったんだね。


 ご褒美に、これで沢山食べさせてあげましょう。


 どれどれ?




「おおお。マジかぁ」

 ついつい大声出してしまった。


「どうしたのじゃ、大声出して」


「あ、ごめん。これ見てみて」


「ん?……おおー! こんなに隠しておったのか。見たこともない硬貨もあるのじゃ。これはお金なのかの?」


 そうだね。白金貨(百万)まであるね。小さい町では使えないって聞いたから、ミラの村では流通してなくても不思議じゃないか。

 それにしても、こいつ貯め込んでたな。堅実に貯金するタイプだったようだ。これだけあれば、真面目に生きていけただろうに。

 あ、それができないから、そっちの世界に行っちゃった訳か。そもそも金には興味がなかったのかもね。こういったヤバい道具以外には……。



「これは白金貨。これ1つで金貨10枚分で、百万エーンだ」


「な、なんじゃとー! そんな大金なのか、この硬貨は! こやつ、そんな金をどうやって……」


「そりゃあ、奴隷を売ってたんでしょ。自分達で仕入れてね。それが『奴隷狩り』っていうんじゃないの? これだけ金になるなら、止められないし、もう引き返せないのかもね。


 でも、燃やさなくて良かったよ。いつもそのまま埋めちゃうから、気付かなかったかもしれないしね。よかったね、ミラ。これでおいしい物が沢山食べられるよ」


「おおー!! そうじゃな、そうなのじゃ。沢山食べるのじゃ!! もう食べ放題なのじゃー!」



 興奮したミラを放置して、手早く後片付け。

 ……は、できないな。



 もう大変。やったのほぼ俺だけど。

 俺に〈木〉魔法が使えればいいんだけどなぁ。


〈鋼弾〉(大)の威力がありすぎて、そこら中穴だらけ。森のお手入れ、間伐(かんばつ)っていうレベルじゃ済まない惨状(さんじょう)。ごめんなさい。


 なぎ倒されたモノは、()き火や簡易的な家具の木材として有効活用させていただきます。アイテムボックスの『□物置』って、まだまだ入りそうなんですけど、なんでだろ? 想像以上に容量が大きいみたいだ。嬉しい事だけどね。


 謝罪の念とともに、アイテムボックスに収納して回った。




 木を切り倒す道具も、魔法もない。あたたたたぁ~っなんて力技も使えないので、中途半端にダメージを与えてしまったモノは、痕跡(こんせき)を残さないように燃やし尽くす事にした。ごめんなさい。


 オイラの不得意な分野だと認識させられた。



 2人の亡骸(なきがら)は、その場で灰にしてやった。穴を深く掘って埋め立て完了。


 いただいた分はしっかり仕事します。パッと見ても分からないように、広範囲で周りの土となじませる。プロじゃなきゃ気付かないよ。いるなら教えて欲しいけどね。いろいろ聞きたいし。



 すっかり整った広場ができました。不自然だよな? 森の真ん中にこんなキレイに(なら)された広場だなんて……


 キャンプ場? 集団野営場? として活躍してくれる事を祈ろう。あとは、年月が解決してくれるはず。



 18,500,000エーン。


『土木環境緊急特別調整作業及び大規模野営広場整備代金』として、確かにいただきました。


 領収書は出しません。



  *  *



 複雑な気分で街道を進む。



 戦闘後の高揚感、一歩間違えたら被弾していたという安堵(あんど)感、人を殺したという罪悪感、それよりも強い奴隷狩りを狩ってやるという強い思い、アイテムボックス開放の驚き、いい事知ったという満足感、変な道具を変な感じで見てしまったという微妙な感情、思わぬ大金を手に入れた達成感、町までどれくらいかかるのかという焦燥(しょうそう)感、いろいろありすぎて早く眠りたいという疲労感、その前に早く風呂に入りたいという願望。


 勿論、パブロ達のことも気になってるし、次の町がどんな所か分からないから、警戒感もある。とにかく、早く町に辿り着きたいのだ。そう。それが一番の感情だ。



 でもね、人間て簡単に死んじゃうんだね。


 チート持ちだろうと、命ある生命体。体を攻撃されれば、ダメージが入るし、脳を破壊されれば生命活動を終える事になる。


 いくら能力が高かろうと、他者ができない事を出来たとしても、病気にはなるし、年は取る。体も衰えるし、寿命はやってくる。


 生老病死は人の常

 四苦八苦していく存在


 生きているだけでもシンドイよ。身体の自由が利かなくなるのもシンドイし、痛みや苦しみに悩まされるのもシンドイ。死を思って不安になるのも、死を覚悟するのもそう。


 不老不死なんてチートな能力があったとしても、苦しみの種はなくならない。


 他者と関われば、別れや死別を経験することになる。全てが自分の思い通りになる訳でもない。無い物ねだりで、欲求が満たされなくなるかもしれない。そこから憎しみの感情が生まれ、負の連鎖が始まるかもしれない。




『生きるまで生きたらば、死ぬるでもあろうかとおもう』


 俺の好きな言葉。


 生きてる限り、人は時の中を経過していく。

 生老病死は、どこの世界に行って同じ。いつの時代も、これからも。


 人として生きている以上、死ぬのは仕方がない。ただ、その時に、後悔の感情で満たされたくはない。


『あ、もう死んじゃうみたいだね。今までありがとう』って感じで微笑(ほほえ)んで幕を下ろしたい。



 自分自身の言動を(わきま)えて、謙虚に生きていこうと思う今日この頃です。



  * *




 まだ終わらないよ? 残念でした。





 お願いだから、もう誰も倒れていないように。

 流行りなんて、すぐ(すた)るものだよ。


 ここは森じゃないからな、町へと続く幹線道路だから、人が倒れてちゃいけないよ? オイラの密かな願いです。



「そうだ、ミラ。俺が倒したヤツがはめてたこの『指輪』なんだけど、ミラが使うか? アイテムボックスになってるかもしれないぞ?」


「ん。なんじゃ。そんな指輪する訳なかろうに。殴るのに邪魔になるのじゃ。おぬしが(もら)っておけばよいのじゃ」


 いらない理由が殴るのに邪魔って、いいの? 女性としてはどうなの? もう興味も無くなったのか? 元からか? まあ元からだな。食べ物以外には興味なさそうだしね。



 まあいいや、ちょっとイヤだけど、〈洗浄〉しまくってはめてみようかな。コッチにはいいモノ入ってるかもしれないし。街道なら、危険性も少ないはずだからね。



 思わぬ大金を手にして、テンションが上がっちゃってるのか?

 まあ、いいか。ミラもいるし、やっみよう!



《洗浄》×5 ついでに、効果未確認の《浄化》もかけとこ。呪いの指輪とかになってたらイヤだし。未練があって、成仏してないかもしれないし?


 そういうのは信じたくない派だから……。怖い訳じゃないよ。ただ、夜中に1人でトイレに行きたくなくなったりとか、寝る前に照明を消す時に、ちょっとだけ躊躇(ちゅうちょ)しちゃって、消してからも、目を力強く(つむ)ってしまうってだけだから。


 サァーーー ピッ、ボワーーン


 これで大丈夫。精神的にね。


 どれどれ?


 あれ? 何も、起きないぞ?


 あれれ~~?

 ここは、ピカーとか、ポワーンとかくる流れじゃないのか?

甘いのか? じゃあ、ただの指輪ですか?


 え~、意味なーいじゃーん。



 あ、ヤッパリ指輪をくっつけないとダメなのか?

 何かヤダよなー。

 そうか、今の指輪を外して、こいつをはめればいいんじゃね?


 うん。そうしてみよう。




 あった。入ってた。



■簡易アイテムボックス(17/20)■


・保存食一式(3日分)

・隷属の首輪・隷属の首輪・隷属の首輪

・隷属の首輪・隷属の首輪・隷属の首輪

・隷属の首輪・隷属の首輪・隷属の首輪

・隷属の首輪・隷属の首輪・隷属の首輪

・隷属の首輪・隷属の首輪・隷属の首輪

・財布


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