チート持ちの闇
んの野郎、いい腕してやがった。
危なかったぁ。
「ミラ、そっちも終わったか?」
「こっちは終わったのじゃ。何の手応えもなくて残念だったのじゃ」
「じゃあ、霧を晴らすからな。一応警戒はしておいてくれよ」
《送風》 ふわーー 『人間大扇風機』~
「お疲れ様、ミラ。ケガはないか?」
「おお、そこにおったのか。お疲れ様なのじゃ。わしなら、かすり傷ひとつないのじゃ。おぬしも大丈夫そうじゃの。流石なのじゃ。
それにしても目眩ましからの霧とは、なかなか厄介じゃのう。分かっておらねば、一瞬どころか、しばらく隙を与えてしまいそうなのじゃ。
それに、何じゃこの魔法の数は? 所々に壁が転がっておるわ、人の形をした壁まであるわ、その上、攻撃までしておったのじゃ。本当におぬしは規格外過ぎて面白いのう。わしは、絶対におぬしと敵対したくはないのじゃ」
「ははは。ありがとう。褒め言葉として受け取っておくよ。子供達を逃がすのが最優先で、あまり考える時間もなかったからね。危険だけど、こうするのが一番かなと思っただけだよ。実際、かなり際どかったしね。この壁がなかったら、何発か直撃してたと思うしね」
防御壁は、こういう時のために、アイテムボックスに入れてあった物を出していっただけ。地面と〈融合〉させていないから、途中でガサガサ木にぶつかったり、ゴンゴン倒れたりして、いい囮になってくれてたけどね。グッジョブだ。
〈防御壁〉と混ぜて〈エフェクト土〉で前半分だけの〈石像〉も作ったんだよね。オイラの抜け殻半身バージョン。
ただ一直線に突撃するなんて怖すぎるから、壁を盾代わりにして進路をズラしながら攻撃していったという訳です。忍法《変わり身の術》ってね。早速登録したよ。
★《変わり身の術》〈エフェクト土〉の半身バージョン
〈石像〉を抜け殻のように前半分、後半分それぞれに展開可能
※〈エフェクト土〉自身に〈土〉を纏い、土像と化す
〈強化〉して石像にもなれる
俺の石像だから、もちろん等身大。霧の中だから、パッと見じゃあ分からないと思うよ? 〈ステルス〉の効果も少しはあるだろうし。
そのお陰か、見事に砕け散ったよ。
オイラの身代わり、ありがとう。本体を狙われてたら……。当たりどころが悪ければ逝っちゃってたかもよ? 至近距離だったのもあるけど、『雷無双』前の〈防御壁〉なら、耐えられなかったということだ。
偶々かもしれないけど、運が良かったんだね。こんな霧の中だから、運が悪ければ俺の方が先に被弾していた。相手が逃げ腰になってたのもあるかもしれないけどね。
これこそ、日頃の行いが返ってきたんだよ?
おおー、怖。
「パブロ達は無事に逃げられたみたいだね。良かったよ。それにしても、これは惨いな。子供達がいなくて良かったね」
「おお、凄まじい威力なのじ。顔が吹っ飛んでおるのじゃ」
おう。言葉にされると、その通りなんだけど。至近距離から拳大の銃撃受けたら、頭って吹っ飛ぶのか? まあ深く考えるのは止めよう。苦しまずに逝けたと思っておこう。
これまで、どれくらい非道な事をしてきたか分からないけど、人を経験値として見てるような奴だ。それなりの事はしてきたのだろう。言動が常習犯っぽかったし。確実に俺を殺る気できてたからね。冥福なんて祈ってやらないよ。
死ねば改心できるとか、死後の事は知らないけど、やってきた事への償いはして然るべきだと考えるタイプなんだよね、俺は。
「ミラの方も惨いと思うよ。腹に穴開いてるじゃん。結構苦しかったと思うよ? これは」
「ふん。こ奴らなど、楽に逝かせる必要もないのじゃ。見るのじゃ。これは『隷属の首輪』じゃ。恐らくこ奴らは奴隷狩りじゃ。まったく。胸クソが悪くなるのじゃ」
「ほんとだね。これだけの数があるってことは、常習犯で間違いなさそうだ。ミラの言う通り、俺も胸クソ悪くなる。以前知り合った子が、これと同じ物をはめられていたからね。他人事じゃないな」
殺してしまったという罪悪感より、撲滅させてやるっていう感情の方が強い。チート持ちだからこうなったとは思わない。元々の性格とか、そうさせてしまった環境もあったかもしれない。
こんな残酷な亡骸を見ても、怒りが込み上げる。
許せない。こいつらのやってきた事は、人の命を、尊厳を踏みにじる行為だ。
戦闘が終わり、冷静になろうとしても、込み上げてきた怒りが収まらない。怒りと共に涙が頬を伝った。
泣きたくて泣いたんじゃない。俺の感情を抑えてくれる、浄化の涙だ。身体が俺を守ろうとしてくれているんだ。壊れてしまわないように。
前を向こう。
やれる事をやる。そう決めたはずだ。
* *
どれどれ。
こっちにやってきたチート持ちで、散々しでかしてきたんだから、何かいい物持ってそうだけどな。
初めてのドロップ品が宝箱じゃなくて、遺品回収とはね。
俺らしいのか?
指輪が1つ、もう1人は指輪持ちじゃなかったみたいだな。どういう違いがあるんだ? また謎が増えたぞ?
張り切って銃を出して喚いていたのが指輪持ちで、俺が木から落として、頭を吹き飛ばした奴ね。
指輪の色は、薄い緑色に見える。うーん。俺のとも違うなぁ。形は同じなのに、何だろな?
新たな能力をもう1つもらったのと、自分の能力を強化してもらったのの違いかな? 『試練の塔』に行くと、緑色で、『導きの祠』に行くと赤色なのか?
うーん、分からん。
もう確かめようがないしな。
銃もそのまま残っているから、魔法で作り出した訳じゃないのか? そのうち消えるのか? 弾がなければただの鉄の塊だからな。投擲には使えるか? 痛そうだけど、使わんな。一応回収しておこう。弾は? ……ないな。マジックバッグとか、アイテムボックスの中か?
そう言えば、指輪持ちが死ぬとどうなるのかな? 今更だけど、気になるぞ。能力とか指輪の中の物とか。指輪と共に消えちゃうとか、その場に巻き散らかされるとかにならないのかな? こんな奴の指輪は、はめたくないしなぁ。後回しだな。
装備もいらないし、売るのも足が付きそうで怖い。持ち物は全て収納していたのだろうな。戦闘には必要ないから当然と言えば当然だけど。くそう。初めての剥ぎ取りチャンスが指輪だけで、しかも、はめたくないから確認できないとは。
別に、追い剥ぎしてる訳じゃないけど、少しくらいのご褒美は欲しいよね。俺って欲張り?
くっ、転がしてやる。せめて、くっころだ。
仰向けに倒れていた体をひっくり返す。重たいなぁ。身体強化では補えない精神的負担が、体を重く感じさせる。
首の後ろに刺青発見。
こういうのによくあるパターンか? 秘密結社のノリか? 闇の組織の一員なのか? 益々厄介事が増えそうだが、これは貴重な情報になるぞ。久しぶりにスマホで写真撮っとこ。後で確認するのにも使えるはずだ。
イヤだけど、服も剥いで身体を確認。刺青は首の後ろの一カ所のみ。本来なら襟が邪魔して見えない位置にあった。
これは、『蛇』? おいおい一匹のウロボロスですか。
完全・永遠・不滅の象徴とされ、円形をなして自分の尾を飲み込んでいる蛇。
円形は、言い換えれば始めもなく終わりもない。永遠に自らを飲んで成長を繰り返す循環的な時の経過。原初的混沌。あらゆるモノを包含する一者を表す象徴。
マジですか。これはデカいヤマになるのかな。危険度感知センサーがビービー言ってる気がするぞ。お揃いのTシャツを作るノリでこんなモノ体に彫らないよな。
やれやれだ。
こういう事には慣れてないはずなんだけど、何でだろ? 気持ち悪くないとは言わないけど、吐き気がするほどじゃないぞ? 俺も精神的にイカレてきたか? いよいよヤバい奴らの仲間入りなのか?
あ、もしかして、常時発動中の〈身体強化〉がいい仕事してくれてるのかな? 分からないけど、〈癒やしの光〉かな? ありがとう。そう思って頑張って続けるよ。
もう一人、ミラによって腹に風穴を開けられた奴。左肩を下にして横たわり、事切れている。『鑑定』使ってた首輪持ち。因縁のある『隷属の首輪』だ。
……4、5、6と。俺を除いて全員にはめるつもりだったのか? 6つの首輪が散らばって落ちている。
どこに隠してたんだ? 鑑定以外の厄介な能力があったのかもしれないな。射程圏内に入ると、いきなり首に装着されてしまうとか? こわっ。今更だけど、発動されなくて良かったと思っておこう。
ミラにとっても、かなり不快なモノらしいからな、これは。原因究明に付き合ってくれるかな?
俺は、1人でもできる事をやるつもりだ。たかが知れてるけど、何もやらないよりは、何かしらの一手を。そういう流れだけでも作れたらいいと考えている。
でも1人より、2人。数は多い方が有り難い。チカラになるからね。勿論、信頼できて、強さと思いがなければダメだ。一緒には行動できない。危険度が高すぎる。何が起こるか分からないからね。半端な気持ちじゃ、足手まといになりかねない。
ミラなら大丈夫だと思うんだけどな。俺から頼んだり、無理強いはしないでおこう。こんな奴らがゴロゴロいるような組織なら、タダじゃ済まないだろうからね。今度こそ、傷を負う可能性も高い。今回は偶々森で遭遇しただけで、これからは仲間がヤラレた事で、警戒されるはずだ。より慎重に行動しないとな。
見るからに、アジア人だな。同郷なら仲間にとか言ってたっけ? 日本人なのか? 指輪がないということは、『鑑定』の能力は自分で身につけたのか? 修業でなんとかなるものだろうか。俺とは違った方法でコッチに来たとか?
くっそー。情報が得られないのは痛いが、しょうがない。こっちがダメージを受けるよりはマシだと思うし。話し合いなんて無理だったからな。
こいつも、どこからか銃を出してたからな。『鑑定』と『アイテムボックス』持ちなのか? でもそれだけで、あんなに強気にはなれないよなぁ。
俺なら無理だ。後方で鑑定結果を伝えるとか、荷物持ちくらいか。まあ、この能力だけで前線には行きたくないな。町で鑑定無双やってたいわ。やっぱり他にも能力があったんだろうな。
銃以外は何も身につけてないな。くそう。
また、くっころするか。くっ、転ばせるからな。
同じように首の後ろに刺青がある。仲間という事で間違いなさそうだ。どれくらいの規模の組織なのか、組織図とか作ってないかな? 期待しちゃうよ。出て来いや!
何もなし。ま、俺の願いなんてこんなもんだ。
「ミラ、この刺青を見てくれ。見覚えとかあるか? 2人とも同じもの入れてるから、同じ組織のマークという事なんだろうけど」
「ほう、刺青じゃと? どれ、……なんじゃ、この蛇が輪っかになっておるマークは? 初めて見たのじゃ」
「博学なミラが知らないんじゃあ、しょうがないな。これからこのマークには気を付けるようにしよう。さっき言ってた『奴隷狩り』と関係ある組織だと思うからな。要注意だ。
こんな事をやってる奴らだ。それなりのデカい組織だと思うし、仲間が死んだ事が知れれば、警戒される事になるはずだ」
「そうじゃの、おぬしの言う通りなのじゃ。じゃが警戒はするが、わしはこの組織は許せんのじゃ。壊滅させてやりたいのじゃ」
おう、珍しく感情的なミラさんです。こりゃあ過去に何かあったとみて間違いなさそうだ。まあ、俺もだけどね。エコーの件の借りは返させてもらおうかね。
正確には借りはないけど、こんな事をやってる組織は潰しておいた方がいい。悲しみの連鎖を断ち切るには、元から断たなくちゃダメだ。ただの尻尾切りじゃあ終わらない。代わりはいくらでもいるのが、こういう組織だ。実動部隊なんて使い捨て、アタマを見つけて潰す必要がある。
やれるのか? そんな大それた事を? 俺が?
こんなにヤバそうな事に首を突っ込むなんて、俺らしくないけど、どうしたんだろうな? やらなきゃいけない気がする。使命とかじゃない。体の内から湧き上がる感情がある。
指輪の導き? エコーへの感情移入?
「ミラ、それは俺も同じだ。ヤルというなら協力する。だけど、すぐにじゃない。しっかり調査して態勢を整え、準備してからだ。組織の規模によったら、コッチがすぐに消されることになる。壊滅が目的なら、策を錬るべきだ。理解してくれるな?」
「ふん。もちろんなのじゃ。わしとて策を錬る事くらいはしてきたのじゃ。任せるのじゃ」
「分かった。じゃあ、そういう話も含めて、次の町で打ち合わせしようか。パブロ達も待ってると思うからね」
「そうじゃの、そうするのじゃ。それより、コレはどうするのじゃ? このままではマズかろうに」
「そうだよね。ヘタに残すよりは、証拠を隠滅した方が時間も稼げると思うし、〈火葬〉しておくよ。何も持ってなさそうだしね。
あ、そうだ。ミラ、マジックバッグとかアイテムボックスとかって、所有者が死んじゃったらどうなるか知ってる?」
「なんじゃ、また変な質問をして。わしにそんな難しい事は分からんのじゃ。じゃが、確かに気になるのう。どうなるのかのう」
そうだよね。知ってた。でも、もしかしたらがあるでしょ。俺の常識はミラの非常識かもしれないし。
結局、収穫は、弾が数発残った『拳銃』が4つ、『指輪』が1つ、『隷属の首輪』が6つと刺青の写真。
とっとと処理しますか。
ずっと見ていたい光景でもないし。おお、死んでしまうとは何事だ。とか言われて、復活されても困るからね。
正直なところ、次にマトモに戦ったら勝てる気がしないから。銃なんて相手にしたくない。早く処分して、とりあえずこの場だけでも終わりにしたい。
オイラは結構マトモなんだよ?
【追加登録された魔法】
★《変わり身の術》〈エフェクト土〉の半身バージョン
〈石像〉を前後に展開可能。
◇◇◇◇◇