チート持ち対決
「パブロ! ルイ! 戻れっ!」
やばそうな奴が落ちてきた。下にいた奴の仲間か? 倒れてたはずなのに、普通に起き上がったぞ。何だ? 《双眼鏡》
「いきなり落ちてくるな! 危ないだろ! おい、大丈夫か?」
「バカ野郎! 突然攻撃されたんだよ! ふざけんな!」
おうおう。仲間割れか?
今のうちに隠れてしまいたい。
やっちまった感は払拭されたけど、厄介事が降ってきた感が凄い。
大きい声を上げちゃったから、居場所も知られてるし、厄介だぞ。あの感じ、戦闘民族だ。避けられそうにないと思う。あの格好はダメだ。トゲトゲついてるし、世紀末仕様だ。
売ってんだね。どこで買ったんだろうか? 聞いてみる? で、仲良くするフリをして、ごまかしちゃう? うーん。ダメだろうな。悩ましい。
黒髪、薄い顔。アジア系が濃厚だな。
あの格好ができるという事は、日本人? いや、そういう場所でしか見た事ないしな、あんな格好してるヤツ。こっちの世界に来て、頭のネジが1、2本外れたか?
「いってーなー。ちくしょうめっ。ぶっ殺す!」
「すぐにキレるんじゃない。殺すのは金にならない野郎だけだ」
あ、やっぱりね。仲良くなれそうな雰囲気でもない。やる気満々なのが怖い。いくら子供がいるとはいえ、俺なら2対4で戦いたくないけどな。
余裕の顔でニヤニヤしながら近づいてくるって事は、自分のチカラに自信があるという事か。チート持ちか? という事は、指輪持ちなのか?
どこから来た奴らだ? 初遭遇がヤバい奴らなのか? これも日頃の行いの為せる業?
くっそー。
「おそらくニオイはあの2人のモノ。他に仲間はいないかと……」
素早く戻ってきたパブロ。
「はい。あのツーンとした独特の香辛料のニオイ。あの2人のモノだと思います。」
ルイも素早いな。
ほう。同じ香辛料なら、同じ地域の仲間か? 好戦的な民族ってどこよ? チカラに目覚めて、しでかし中のパターンか?
「2人とも、ありがとう。相手が2人だけっていう情報だけでもありがたい。でもあの態度はヤバい事になりそうなヤツだ。警戒してくれ」
「はい。分かりました。こちらは戦力が4あります。囲んでしまえば何とかなるかと……」
「確かにあの雰囲気は、苦手なモノです。子供もいますから、早めに動いた方が良いかと思います」
1人はキレやすく、もう1人が抑える役なのか?
「ああ、分かってるよ。アイツは俺がやる。手を出すなよ」
「分かったから、落ち着け。まだ『鑑定』できる距離じゃない」
「ちっ、使えねぇなぁ。んなもん、いらねぇんだよ。コイツがあれば十分だ」
空手だったはずの両手に何かが握られている。
何だ?
ヤバい。『銃』だ。いきなり銃を出してきた。しかも両手だ。
能力か? マジックバッグか? そっち系のチート持ちなのか? それで、余裕カマシてられる訳か。初見なら皆ヤラレるかもしれない。知ってる俺でもヤバい。
先制攻撃を仕掛けるか?
いや。もう1人の能力も分からない。今動くのは悪手だ。
「ミラ、パブロ、ルイ。アレはヤバい。弾丸を撃ち出す武器で、撃たれたらまず避けられない。詠唱もいらないし、連射も可能だ。しかも逃がしてくれそうもないぞ。キレてるみたいだしな。まず子供達を逃がそう」
「なんじゃ、そんなにヤバいモノなのか? わしの機動力があれば避けられるのじゃ。わしに任せておくのじゃ」
「……、銃口を向けられ、音がしたと思ったら、魔法が着弾してると思ってくれ。それくらいのスピードで攻撃が飛んでくる。まず視認できない。しかも連射も可能で、威力も申し分ない。当たり所が悪ければ即死だ。避けられるか?」
「ほう。面白そうじゃのう。やってみなければ分からんのじゃ」
やる気なのか? まったくとんだ戦闘民族だな。子供達を逃がす為には時間稼ぎは必要だからな。どちらにしても、やるしかないのか。くっそー。
「パブロ、ルイ。俺とミラで時間を稼ぐ。その隙に逃げてくれ。この先に街道がある。町までは、それを辿れば行けるはずだ」
「そんなに凄い武器なのですか? 私達でも避けられないと?」
「ああ、アレはヤバい。相手の腕前がどれほどか分からないけど、恐らく、撃たれたらお仕舞いだ。自信があるから、あんな余裕な顔をしていられるんだ」
「……そうなんですね。タビトさんが言うのなら、そうなんでしょう。……それならば、私が囮になります。代わりに子供達をお願いします」
「……そうね。あなた、相手は2人。私も手伝うわ」
「2人とも、ありがとう。気持ちは貰っておく。でも、子供達の事を考えてくれ。この子達にはまだ、2人が必要だ。それに、確実に戦闘になる。足手纏いになるなら、早く逃げてもらった方が、こっちもありがたい。言い方は悪いが、理解して欲しい」
「ふん。格好つけおって。素直に子供を逃がしたいから先に行けと言えばいいのじゃ」
「……あなた。タビトさんの言う通りよ。私達はここにいない方がいいわ」
「……そうか。そうだな。タビトさん。何から何までありがとうございます。このご恩は必ず返します! 町で会いましょう」
「そうだね、ありがとう。みんな後でな」
子供達の頭を撫でて安心させてやる。
「……はい。待ってますから」
「「じゃあ、後でね」」
さすがにこの雰囲気に笑顔はなくなるが、冷静でいてくれるだけでもありがたい。しっかり教育されてきたんだな。両親の背中を見てきてるからかな。まったく、いい家族だ。
「おう。任せとけ! 気をつけて行くんだぞ」
「お別れの挨拶は済んだのか? 逃がす訳ないだろうに。バカなヤツらだなぁ」
「ああ、そうだな。逃げられるなんて思わない方がいいぞ。痛い目みたくなければな」
まあ、そうだわな。じゃなきゃ、そんな余裕で近づいてこないよな。なんの能力だ? くっそー。チート持ち対策も考えておくべきだったか。いきなり敵対とか、勘弁して欲しいわ。やれやれだ。
「おっ、ラッキー。犬人族じゃねーかよ。子供までいるぜ。こりゃあ当たりだな。いい金になるぜ。ハッハー!」
「おい。そっちの黒目黒髪の男。お前もしかしてアジア人か? 同郷なら俺達の仲間に入れてやってもいいぞ、まあ、能力次第だがな」
おいおい。ハッハーかよ。ヒャッハーじゃないのかよ。ガッカリだ。同郷のアジア人? やはりこいつら指輪持ちだな。
「おいおい。男なんていらねぇぞ。俺の経験値にするからな。お前にはやらんぞ」
「ちっ。少しは頭を使えよ。コイツを使って首輪をはめさせた方が楽だっただろうが。まったく面倒が増えたよ。いいように使った後に経験値に変えればよかったんだよ」
「はんっ。そんな面倒な事やらずに、チカラでねじ伏せればいいんだよ! チカラが全てだろ!」
あかん。これイッちゃってる奴らだ。
交渉は無理。俺ヤラレる前提の経験値だった。
首輪って、あれか? エコーにはめられてた『隷属の首輪』ってやつか? じゃあ、こいつらが何か関係してるのか?
話し合いは、聞く気なさそうだしな。やれやれ。
「みんな、まず俺が奴らを引きつけるから、そのうちに逃げろ。決して振り返るなよ。いいな」
「分かりました。ご武運を」
「はい。後でお会いしましょう」
「はい!」
「「うん!」」
「ミラ、相手の位置を覚えておいてくれ。俺が姿を隠せるように霧を発生させる。合図したら、俺も攻撃しながら突っ込むから、合わせて行くぞ」
「あい、分かったのじゃ。今回もおぬしの言う通りに動くのじゃ。霧とはまた、面白い事を考えるのじゃな。わしが右いる方を相手にするのじゃ」
「おおっとぉ、ヘタに動くなよ。殺しちまうかもしれないからな。兵役で鍛えられたとはいえ、急所を外すなんて芸当はできないからな」
「おい、こいつらは、犬人族の家族みたいだぞ。変わり種だ。いい金になるぞ。『レベル』はまあまあだが、この数値なら、俺達の敵じゃないな。ちょっと素早いだけだ。
そこのちっこいのは、……ほう、魔人族か。珍しい組み合わせだな。『ステータス』がいびつな所を見るに、ハーフかもな。これ位なら大した事ない。当たれば終わりだ。攻撃特化型で、〈火〉と〈風〉魔法の使い手だ。威力はあるから、気をつけろよ。
アジア人っぽい男は、……何だ? 『鑑定』できないぞ! どういう事だ?」
「あーん。んな事はどうだっていいんだよ。どうせすぐ俺の経験値に変わるんだからな」
「何を言っているんだ。俺の『鑑定』が出来なかった事なんて、なかったんだぞ。こいつが異常か、ブロックできる能力持ちかだ」
「じゃあ、『ステータス』が低すぎて『鑑定』できない異常者って事だろうよ。強そうには見えんだろうが。ブロックできた所で、チカラがなけりゃ意味がないんだよ」
こらこら、何を勝手に『鑑定』してくれちゃってんの。
いいなー、それ。欲しいなー。
『レベル』とか『ステータス』まで観れるって事は、在るんだな。レベルも、ステータスも。
くっそー。気になるな。
どんな感じに観えるのかとか、俺のも観て、比較も交えて教えて欲しいよな。鑑定持ちとは仲良くなっていろいろ聞きたいのに、こんなヤツらと一緒にいたくない。まあ、向こうもその気はないようだけど。
それに、俺の鑑定ができないって何でだよ!
何て言われるのか、ドキドキしながら期待して待ってたのに、逆に俺がツッコミたいわ! 恥ずかしいだろ!
〈身体強化〉の作用かな? ずっと発動させてるし、〈雷〉による認識阻害か? まあ実際には、敵に観られていい事なんてないからな。ありがとう〈雷〉さん。
そうだ、〈雷〉さんだー!
「まあいい、不確定要素は早めに処分するに限る」
「そういう事だ。やっちまうぞ!」
迷う事なく銃口を俺に向ける。いつの間にか、鑑定持ちの手にも銃が握られていた。直前まで手の内を見せないとは、おぬし、デキルな。戦い方を知ってる証拠だ。
だが、甘い。殺る気があるなら、まず撃っとかないとな。チート持ち故の傲りってやつか。助かったよ。
《閃光》 ピカッ!
体の前面から相手に向けて強烈な〈フラッシュ〉をお見舞いしてやった。目潰しだ。
調子に乗ってニヤニヤしてたから効果てき面だろ。突然やられると痛いよな? 目の奥までツーンときてるはずだ。
〈フラッシュ〉は相手に向けて手をかざす必要があるから、それだけで、撃たれる可能性が高い。皆には光がいかないように気を遣ったんだけどね。気づいてないと思うけど。
すかさず《防御壁》展開で、盾と逃げ道の確保。
あーんど《濃霧》発動
強化されているから、爆発的に霧が辺りを包んでいく。
目にも留まらぬ早業で、次々と場を作り上げる。あ、目は瞑ってるから、オイラの早業も見えないね。しかも既に霧の中。
「ぐわっ。てんめー、やりやがったなー。死ね!」
ダーン! ダーン!
「クッソ! いてぇな! やってくれる!」
バーン! バーン! バーン!
うわっ、やっぱり撃ってきたか。見えなくても数撃ちゃ当たるってか? なら、こっちも撃っとくか?
「よし。今だ、逃げろ!」
「はい!」「行くよ!」
壁で霧を遮った逃げ道を、振り返る事なく走り去っていく。
みんな速いな。子供でもあれか。基本のスペックが高いんだな。いい動きだ。無事町まで辿り着いてくれよ。
「ミラ、音が止んだら仕掛けるぞ」
「あい、分かったのじゃ。それにしても凄まじい音なのじゃ。これがその、ヤバい攻撃の音なのじゃな? 喧しくて敵わんのじゃ。それにしても、おぬし。相変わらずいろんな事ができるのじゃな。まだまだ楽しめそうなのじゃ」
ドガッ、ドガッ
鈍い音が交じって聞こえてくるから、何発か防御壁に当たってるな? 貫通はしてない音だけど、銃弾にも耐えられるの? オイラの防御壁、マジ半端ないのな。これも『雷無双』のお陰ですな。
それにしても、よく撃つなぁ。何発撃てるんだ?
銃に詳しくないから、装填数とか分からんぞ。それとも無制限チートなのか?
「くそ、何だこりゃぁ、何も見えねえじゃねえか! どうなってんだ!」
「っく。落ち着け。ただの霧だ。逃げるためのな」
「あー、ただの霧かぁ。ふざけやがって。こんなんで逃げられると思うなよ!」ダーン! ダーン! ダーン!
「こっちに撃つなよ」バーン! バーン!
ドガドガいい加減うるさいぞ。数撃ちゃ当たるわな。この距離なら尚更ね。だけどそれはこっちも同じ事だ。
ヤラレたれたらヤリ返す! 何倍にする?
最近では〈チャージ〉も癖みたいになってきてて、常時充電MAX状態。《鋼の装備》も発動済み。
「ミラ、まず俺が仕掛ける。この音が止むまでは動くなよ。当たれば死ぬからな。頼むぞ。
『我が身を守り賜え』《鋼弾》(大)×10」
ドシュッ! ×10
ドガッ、ドガーン、ゴガッ、ドガーン
拳大だから、弾丸の何倍だ?
数よりデカさ! 見えないなら大きさで当てる!
銃撃戦は初めてなのに、相手も見えないよ。こりゃあ怖いわ。装備の隙間に当たればヤバいのは同じだからな。
ビビりのオイラは、すぐに防御壁から手だけ出して撃ってるけどね。当たるといいな。
安全第一! 銃撃戦なんてしたくない!
どこが安全やねん!
「当たれーー! 《鋼弾》×10(大)」
ドシュッ!
「ぐわあっ、どこから撃ってきやがるんだ。クッソ」
ダーン! ダーン!
「ヤバいぞ。あっちも指輪持ちだ。うおっ。
犬人族が逃げたみたいだな。あっちが本命だ。一旦引くぞ、態勢を整える」
「ミラ、行くぞ。奴らを逃がすのはマズい。ここでケリをつける」
「分かっておるのじゃ。元々そのつもりなのじゃ。ああいう奴らは、早めに処理するに限るのじゃ」
《鋼の装備》で盾を大きく作り突撃だ。
霧の中でも、念のために《ステルス》発動。
うおーーなんて声は上げないよ。こちらの位置をわざわざ教えるような事などしない。攻撃するまではお静かに。
左手で盾を構え、右手で攻撃を続けながら進む。
「『我が身を守り賜え』《鋼弾》×10(大)」
ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!……
「そこか! 死ねやぁ!」ダーン! ダーン!
ドゴッ! ゴガッ! グシャ 「……」
「とりゃあ!」ドガッ! 「グオッブッ……」
………………