勉強のお時間です 無双とは?
トイレというのは、オイラが思うにとてもデリケートな部分なので、プライバシーの確保を優先します。L字型に通路を掘り進め、曲がった先に《トイレ作成》便座付き。目隠し用の仕切り《壁作成》も忘れません。《照明設置》(昼白色)《換気扇設置》で1セット。
換気先はどこへやればいいんだ? 流石に外まで通気孔子は開けられないから、最低限部屋の方に臭いがいかないようにすればいいかな。ヒトには妥協が必要だ。
これを少し離した場所にも1セット。
はい、完成です。いつもよりだいぶ時間がかかったけど、得るものの方が大きかったから良しとしよう。
オイラ特製の岩山トイレ。使い方もちゃんと説明します。
トイレに入る場合、通路に入ってL字の角の壁面に1200mmの高さにスイッチ代わりに設置した、厚みを持たせた長方形のプレートに魔力を込める。すると〈照明〉が点灯し〈換気扇〉が起動。
〈便座用土壁フタ〉をどかし、用を足す。……使用後は、魔法が使えれば 自分とトイレの《洗浄》で済む。〈洗浄〉が使えない場合には、使える人にお願いするか、原始的に葉っぱや木の皮を柔らかくした物で処理。それは各自で用意。最後に〈便座用土壁フタ〉で便座にフタをして終了。
〈照明〉〈換気扇〉は、魔力が無くなれば自動で切れる便利仕様となっております。尚、便座は《磨き》でツルツルになっておりますので、ヒヤッとするのがイヤっと言う場合には、お好みに応じて布や何かの皮などを裁断してお使い下さい。
勉強になったのが、魔力のある者ならば、ほぼ〈洗浄〉は使えるという事。魔力の全くない者など、まずいないので、トイレの事後処理の心配はしなくてもいいらしい。
〈洗浄〉が使えないのは、全く魔力のない者か、まだ習得していない子供くらいらしく、親が責任を持って処理してるのだとか。
基本的に風呂に入らないというのも、〈洗浄〉があるから。そもそも風呂自体が、まだ贅沢な部類の物。ただ、習性として、水場があれば水浴びを、なければ毛繕いも兼ねて簡単に体を拭くのだそうだ。
この世界、なんて清潔なんだろうね。俺の常識では、汚物処理には莫大な労力と費用がかかるというのに。しかも、ちゃんと自然に還るんだよ? 循環しております。除菌スプレーとか売れないよ? 多分?
子供も、いつまでも親に下の面倒をみてもらうのもイヤなので、〈洗浄〉〈明かり〉は意欲的に習得してしまうらしい。〈明かり〉は、暗いの怖いから。
〈着火〉〈水〉なども含め、『生活用魔法』という括りらしい。
なーんだ、それならミラも〈洗浄〉使えるじゃん。そう言えば、今までミラが〈洗浄〉使ってるの見たことないよな? って思ったので聞いてみたところ、
「何を言っておるのじゃ。おぬしの〈洗浄〉と一緒にするでないわ。わしらの使う〈洗浄〉は、体の汚れをキレイにしてくれるだけじゃ。おぬしのように、着ている服までキレイにできるのは、普通ではないのじゃ。おぬしは規格外なのじゃ」
と、半ギレで返されてしまった。
へー、そうなんだね。『生活用魔法』と『生活魔法』の違いなのかな? 言葉って難しいね。『用』が間に入るだけで、性能が変わるのか?
生活に『使う』魔法
生活に『働かせる』魔法
生活に『役立てる』魔法
生活に『用いる』魔法
と『生活魔法』
うーん、やはり違いの分かる男になるのは、まだまだ先のようだ。違いがあったんだと分かっただけでも良しとしましょう。
それから、『生活用魔法』の
〈明かり〉は、手のひらから光の球を一定時間出すというもの。
オイラの《ランタン》に似てる感じみたい。
〈着火〉は、文字通り、対象物に火をつけるもの。燃えやすい物とか、専用の魔石に対して使うものなんだとか。オイラの《バーナー》の下位互換ってとこかな。
〈水〉は、《飲料水》と同じような感じなんだけど、お決まりのように、味が違った。水道水と井戸水くらい違うのかと思ったら、〈硬水〉と《軟水》の違いみたいだね。意外。
軟水に慣れているオイラには、カルシウムとマグネシウムが多く含まれている硬水は、何かのどにひっかかるような感じがして苦手なんだよね。ごくごく飲みにくいから。だからすぐに分かった。ここだけは、違いの分かる男だったね。ふっ。
まあ、これも慣れなんだろうけど、一時期、ダイエットにいいと聞いて、飲んでた事がある。代謝を上げて脂肪の燃焼を助けてくれる。腸を刺激してお通じを促してくれる。運動後の水分補給にもいいとかね。
効果? ないしょ。こういうのは、個人差が大きいからね。
あ、あと、細かいけど、一度に出せる〈水〉の量も違った。なんと、オイラの方が3倍多かった。ふふふ。赤のチカラなのだよ。単純に、指輪が強化されたからだね。指輪がほんのり赤くなって、瞬間最大量が、100mlから300mlになったから、その差だと思う。
それで、結局こうして比べてみると、『生活用魔法』は、基礎的な最低限のもので、オイラの『生活魔法』は、《属性》付きで応用が利きまくり。って事で落ち着きました。
俺が1人で納得してただけだけど。
ならば、もっと応用していかないとな。そう決意を新たに誓うのであった。なんてね。
そんなこんなで、お勉強をして、今日のところは寝ることにしますかね。いい加減眠い。ま、流石に今日は寝不足だったし、いろいろありすぎて疲れたし、風呂入って寝ましょうかね。
本日は、大人しく寝る事にします。魔法の見直し、検証したい気持ちも山々なんだけど、風呂上がりの充実感、…………睡魔に勝てそうに、な……い……か…………
* * *
「おはよう、ミラ。あれ? なんか前より大きくなってない?」
「な、なんなのじゃ突然。……そんな訳なかろう。まだそんなに食べてないからのう。おぬしの気のせいなのじゃ。…………チカラもそんなに戻っておらんのじゃ。流石にわしでも、そんなに早く回復はしないのじゃ」
両手をグーパーして力加減を確認しながら答えるミラ。
え~、不穏な言葉がちらほらと聞こえたような? スルーだよな? 疲れもスッキリ、心地よい目覚めの朝一から、ダメージが入りそうな挑戦は止めておこう。スルースキルの経験値が着実に増えていくな。
「そうか、俺の気のせいか、そう言われてみれば、そうかもな? ははは。じゃあ、上に行って皆で朝飯にしようかね」
「そうなのじゃ。朝飯にするのじゃ。今日もいい目覚めなのじゃ。土の中で寝るのは心地良いのじゃ。あ、おはようなのじゃ」
「うん、おはよう。それは良かったね」
あれ、そう言えば、まだ食事のニオイは流してないぞ? 土の中でもちゃんと自分で起きられるのか? 適応力ハンパないな。俺はスマホの目覚ましがなければ、いつまでも寝てられるけどな。
*
「おはよう。皆もう起きてるね。顔色も良さそうだ。どう? まだ体に違和感とかある?」
獣耳5人家族を1人ずつ見回しながら確認。
「おはようございます。お陰様で、皆体調も良いようです。ありがとうございます」
「おはようございます。ありがとうございます。この通り皆元気になりました」
「……」
「「おはよー、タビトー、ミラー。僕たち元気になったよー」」
茶髪獣耳パブロスキー父さん、もう同じ食卓で食事をした仲なんだから、敬語はやめて、フランクにいきましょう。と提案してもダメだった。
命の恩人で、食事まで提供されて、住環境まで改善してもらった方に対してとんでもないと。それは、赤髪獣耳母さんのルイージャも同じだった。
気兼ねなく話してくれるようになったのは、双子の茶髪獣耳のジャックとレックスだけだった。あとミラも。
ミラにも同じような事をしたはずなんだけどなぁ。感謝はされているとは思いたいが、遠慮のなさは、さすがミラクオリティ。お代わり要求してガンガン食べるからね。別にいいんだよ。その方が接しやすいしさ。俺も望んでそうしてるし。いいんだよ。
でも、赤髪獣耳お姉ちゃんのアリージャだけは、なぜか話してもくれないよ? 両親に確認するも、原因不明。体調不良という事ではないらしいので、恐らく難しい年頃なのだろう。
ふと『エコー』を思い出したが、アリージャとは会って間もないので、まだ性格までは見えてこない。エコーは元気にしてるのだろうか。元気にしてるんだろうな。賢い子だから、大人には受けが良いはずだ。うん。そう思っておこう。頑張れよ、エコー。お前も頑張れよ。ん? 空耳か?
「よし。それなら張り切って、朝飯にしよう!」
「「「おー!」」なのじゃ」
まさか、ハモリスキルまで……食とは恐ろしいものだ。
例によって、ワイワイガヤガヤ。ザクザク食料が減っていった。ま、町までそう遠くはなさそうだし、スルーしよう。皆が笑顔ならそれでいい。うん。稼がなきゃ。
* *
今後の事を相談する前に、気になった事を処理したい。細かい事が気になるのは、オイラの悪いクセ。
「パブロ、例のキノコなんだけど、まだ残ってるのある? ちょっと実験してみたいから、残ってたら持ってきて欲しいんだ」
「は、はあ。確かまだ埋めてはないと思いますが、……何をするので? できればあまり触れたくないというか、何とかいうか……」
「ああ、それもそうだよね。皆で死にかけたヤツだからね。配慮に欠けたみたいだ、ごめん」
捨て置かれておる場所だけ聞いて、自分で行くことにした。
あるある。こんなに採ったの? 山盛りです。犬人は鼻が利くって言ってたから、こういうのを匂いで発見して集めるのは得意なのかもね。
「よしよし。1つでもあれば十分だったけど、せっかくだ。まとめて実験してやろうじゃ、あ~りませんか」
見事に全部同じキノコのようだ。いきます。
《殺菌》
両手をキノコの山に向けてかざす。あ、毒キノコがとても沢山捨て置かれていて、その数で山盛りになってるってう意味だからね。他意はないよ。ホントだよ。カタカナのキノコだし。そもそも毒キノコだから。
なんて、ここにいる誰も分かってはくれないであろうツッコミをしつつ、魔力を込める。ふんってイメージで。
ふわぁん。毒キノコの山がじんわり〈光〉に包まれる。
例によって、キノコに紫色の禍々しい筋が見え、紫色のモヤモヤが毒キノコの山を包んでいるように見える。
これだけの量が山になって置いてあるから、その分毒素が溜まっているという事なのだろう。こりゃあ、ヤバいわ。尖った帽子をかぶった悪い魔法使いのばあさんが作ってそうな、何かよく分からんが、とにかく凄い自信がありそうなほど悪そうなモノに認定します。
俺は負けん! 魔剣じゃないよ? 欲しいけど。
《殺菌》ふゎ~~ん
…………死滅させるイメージが足りないのか? いつもの優しい光が、紫の禍々しいモヤに押されて毒キノコの山を包んでいかない。一気にこの量は無理という事か。
くそー。やはりあれか? あれしかないよな?
セリフ付きだよ。サービスなんだからね。
「俺の『生活魔法』は、伊達じゃない!!」
《エフェクト雷》(大)追加!!
バリバリ! バリッ!!
からの~~
「なんとぉー! 《殺菌》!」
消えた。『ふゎ~~ん』じゃなくて、『ッスヮーー!』て感じで一気に光に包まれた。
再度《殺菌》で確認したが、紫色の禍々しいモヤも、筋も見えない。
終局である。
魔法の検証がしたい!
オイラはまだ、大人の階段を登れる!
いや。やはり〈雷〉との相乗効果で、やれる事が増えるはず。まだ見ぬ強敵のためにも、オイラの快適な生活環境のためにも、『生活魔法王』に、オイラはなるのじゃ!
強くそう思いながらも、現実を見る。
さて、コレをどうやってミラに食べさせようかな。
*
考えるまでもなかった。何の躊躇いもなく食べやがった。
ちゃんと焼いたよ?
《コンロ》の上に王都で買った大きめの焼き網を乗せて、柄(軸)のあった方を上にして並べる。更に時短で上から《バーナー》による両面グリル状態で焼いていく。煙は《送風》で俺には来ない。
キノコの柄の部分は、食感が好きだし、出汁もとれるので捨てたりしない。今回は一緒に素焼きにしてみた。先っぽの硬い石突きの部分はちゃんと切って捨てます。
じっくり火を通して、キノコのカサの裏返から、じわぁ~っておいしそうな汁が染み出してきた所で出来上がりだ。肉厚だから特に弱火で念入りに。今回はもう少し《コンロ》だけで加熱しておくことにした。
すると、いい匂いに釣られた人物が、………
「うまいのじゃー。お代わりなのじゃー!」
満面の笑顔と共に食べられていく元毒キノコ。
また負けたよ。ミラは大物になれると思うよ。体はちっちゃいけどね。胃袋は規格外だ。朝飯食べた後で、自分がヤラレそうになったキノコをこれだけ食べられるとは。獣耳ファミリーみんな引いてたよ? ミラには関係ないみたい。
これで、食料問題も改善できる見通しがつくかもしれない。
そう。
「毒など、俺の敵ではないのだー! じゃんじゃん持ってくるがいいー!」の号令の下、文字通り、獣耳ファミリー全員が駆け回った。
やったね、父さん。今夜はキノコ鍋パーティーだね。リベンジできるね!
ここから、キノコ無双が始まった。
毒キノコであろうと構わずに、みんなで手当たり次第に採りまくりの集めまくり。オイラは《雷殺菌》しまくり。
まさに無双。
★《雷殺菌》〈殺菌〉に〈雷〉を追加する事により、
殺菌の効果が飛躍的に増加。どこまで〈殺菌〉できるかは、今後の検証次第。普通にキノコは焼け焦げないのか? とか思ったけど、問題なし! 結果が良ければ良いのです。
てゆうか、一度も使った事がないけど、〈浄化〉じゃだめダメなの? って思ってやってみたけど、ダメだった。
そもそも〈浄化〉って、ヨゴレや悪を取り除いて、清浄・清潔にすること。って意味だから、細菌の活動を弱め、人体に有害な物質を除去または無害化する《消毒》。特定の細菌を殺し、病原性、有害性を有する細菌、ウイルスなどを死滅させる《殺菌》。すべての細菌を死滅させる《滅菌》。の上位互換かと思いきや、違うみたい。ちゃんと線引きはあるようでした。また、違いの分からない男の復活だ。
この毒キノコを『ジャンボシイタケ』として売り出すか本気で検討したくなった。
干しシイタケには、三大『うまみ』成分である【グアニル酸】がもうタップリ。これだけ量があれば、うまみ無双ができるかも?
元々毒キノコだから、取り放題。誰も手を出してないはず? 口にしてたら、ああなっちゃう訳だしな。ここには俺を除いて、経験者しかいない。被害者とも言う。
味は、俺も食べてみたけど、間違いなくうまい。香りも歯ごたえも、シイタケより味がしっかりしてて食べ応えもあった。柄の部分の素焼きは、おツマミに最適。ビール飲みたくなるね。
シイタケ嫌いにはたまらない香りだろうけどね。まさにジャンボシイタケ。シイタケの上位互換だ。毒がなければ売れるはずだけど、売れるのか?
知ってる人は知っている。だからこんなに森に残ってたともいえる。
おいしいですよー。お1ついかがですかー。って笑顔で毒キノコ出されても、食べんわな。ヘタすりゃ捕まるわ。
ダメだ。自己消費一択か。
スープの出汁としては使えるけどなぁ。
うーん。悩ましい。
【追加登録された魔法】
★《雷殺菌》〈殺菌〉に〈雷〉を追加する事により、
殺菌の効果が飛躍的に増加。
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【うま味】
5つの基本味(甘味・酸味・塩味・苦味・うま味)の一つで、独立した味を指す公式の呼び名。
※辛味は痛覚
トウガラシ・ワサビ・ショウガ・サンショウなど
『生理学的定義』での味覚は、味覚受容体細胞にとって適刺激である上記の五基本味であり、辛味はこれにあてはまらない。
辛味は、神経刺激として舌・口腔の受容体で感じる痛覚で、これに発汗、発熱が合わさったもの。
~三大うま味成分~
【グルタミン酸】
昆布、トマト、タマネギ、アスパラガス、ブロッコリー、グリーンピース、チーズ、緑茶、マッシュルーム、ビーツなど
【イノシン酸】
カツオ、カツオ節、イワシ(煮干し)、サバ、鶏肉、豚肉、牛肉など
【グアニル酸】
干ししいたけ、のり、ドライトマト、乾燥ポルチーニ茸など
~歴史~
1908年 昆布の【グルタミン酸】を5つめの味
【うま味】と命名
東京帝国大学(現在の東京大学)の池田菊苗博士
1913年 カツオ節のうま味物質【イノシン酸】を発見
池田博士の弟子・小玉新太郎氏
1957年 【グアニル酸】がうま味物質であると発見
ヤマサ醤油の研究所に勤めていた國中明氏
1985年 第一回うま味国際シンポジウムで世界に発信
【うま味】は、5つめの味である
英語でも【umami】と呼ばれるようになり、今や世界中の料理人や美食家たちが注目する世界共通語となっている。
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