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岩山の正体は、秘密基地?



 警戒しながら森を進むのは時間がかかる。


 今こそ使い時! 


《チャージ》《鋼の装備》《身体強化2倍》からのぉ、

 今こそ、見せてやる!


《ステルス》《光学迷彩》発動!! 


 あ、見つかったらダメなヤツだった。見つからないように見せてやる! いや、なんか違うな。〈光学迷彩〉の実用試験だ。


 思い知るがいい! 俺。



 本当に効果があるのかドキドキしながら、早足で森を進む。


 過信はしていない。〈ステルス〉で気配が薄くなるのは、ミラで実証済みだ。でも、だからと言って、俺は生きているのだから、身体の生命活動は行われている。その活動自体は、どうやっても抑えられないはずだ。呼吸、体温、におい、汗、動く音。何かある、と認識されたらそれまでだ。


〈光学迷彩〉にしても、そう。視認はできないかもしれないが、存在感自体は消せない。実際に存在しているのだから、立体感があり、近ければ近いほど、周りの景色との段差というか、距離感にズレができ、ごまかせないはずだ。動物や、勘のいいやつならば、違和感を感じ、警戒されるだろう。


 それこそ、雨に濡れたら一発だ。霧や煙、(ほこり)に砂、何かに包まれてしまっても、すぐに存在に気付かれるだろう。


 俺が動かなくてもそれくらいの弱点はある。それが今、森の中を進んでいるのだ。速く動くほど、自ら存在感を(さら)し出し、違和感を高める事になる。その分、気付かれる危険性も高くなる。


 足跡がつかない訳でもないし、触れられない訳でもない。当然、罠があれば避けなければならないし、攻撃されれば防がないといけない。



 いつもより慎重に進んでるんだから、見つけちゃダメなんだからね。


 おえ、キモ。


 アホな事が言えるような余裕があるのも、多分ミラがいてくれるおかげだろう。いつもの事か? やっぱり仲間が欲しいなって思ってるからかな。1人の気楽さも捨てがたいけど、今は連帯感が頼もしい。人は変わっていく。俺も成長してるって事だな。




 こんな道を進まないとたどり着けないということは、ビンゴか? 盗賊のアジトだったら、一度戻ってどうするか検討だな。規模にもよるからな。

 別の何かの秘密基地とかだったら、どうしよう。改造人間とか出でてきちゃう流れか? ヒャッハーなノリじゃなくて、黒ずくめのシェーなノリなのか?


 俺変身しなきゃ。えっ、変身エフェクト? 何に着替えようかな? うーん。悩ましい。


  *



 見張りもいないし、森もやけに静かだな。


 《双眼鏡》…………あれれ~~?


 またかよ。行き倒れ流行ってるよ。間違いない。強制ノミネートだ。


 …………岩山の近くに1人、……2人いるな。さつきの赤髪獣耳っ子と一緒か? 行き倒れが流行ってるなんて、何かの冗談だと思いたい。


 素早く辺りを警戒。場所を移動し、さらに警戒。


 やはり外に2人。罠でもなさそうだよな。不用意に近づくと、網が飛んでくるとか。実は落とし穴がありますよ、とか。オイラは落とし穴のプロだからな。そこん所の違いは分かる男だよ?


 岩山の中は、さすがにわからないか、うーん。ミラなら、何の躊躇(ためら)いもなく行くんだろうなぁ。


 ふー。〈ステルス〉〈光学迷彩〉の検証も兼ねて行きますか!


 GO!



 ザッ。よい子は急に止まっちゃ危ないよ。

 オイラは急に止まれない。獣耳さん、こんにちは。


 間違いない。この顔は犬人さんだ。後で確認しよ。罠もなく、無事接触できました。事故ってないからね。


 ……ん。意識なし。呼吸が早く、汗が全身から吹き出してるし、顔色も悪い。


 さっきの赤髪獣耳っ子と同じだ。集団食中毒か!

 またあのキノコなのか?

 俺の判断は、……『獣耳は正義』だ! 助ける!


 一刻を争うかもしれない。同じであってくれよ。《殺菌》


 お腹に手をかざし、状態の確認だ。

 ふわぁん。体がじんわり〈光〉に包まれる。


 同じだ。さっきと同じ紫色の禍々(まがまが)しいモヤが全身に浮かぶ。

「待ってろよ。すぐ楽にしてやるからな。あ、トドメを刺すって意味じゃないからな。(しび)れを取ってやるから。安心してくれよ」


 イメージを強く持ち《殺菌》ふゎ~~ん

 全身に広がる禍々しいモヤモヤを、まとめて握り潰つぶしてやる。


「よし。殺菌完了だ。ここにコップと水を置いておくから、意識が戻ったら飲んでくれよ。洗浄と回復もかけておくから、安静にしておいてくれ。《洗浄》《癒やしの光》」サァー、ポワァーン

「……」


 よし、やはり二度目は早いな。呼吸も安定してきた。すごい回復力だな。これが獣人クオリティなのか? そういうのは後でいいか。よし、次だ。まず1人。



 すぐにもう1人も状態を確認し、《殺菌》《洗浄》《癒やしの光》。ふゎ~~ん サァー ポワァーン


 よし、2人。 ふわ・サァ・ポワコンボだ。とりあえず2人を並べて、《土壁作成》で日陰を作っておく。まだ子どもなのかな? 2人とも茶髪で、ちょっと小さいから、さっきの赤髪獣耳っ子とは雰囲気が違うんだよな。


 もしこれが集団食中毒だとすれば、岩山の中にもまだ誰かいる可能性がある。ここを住みかとしているならば、子どもが3人だけって事はないと思う。大人がいるはずだ。2人とも意識がないから、確認のしようがないけどね。


 これで盗賊とかだったら、笑えんぞ。危険を冒してまで何やってんの、ってね。オヤジにもぶたれたことないのに。


 姿からは、盗賊臭はしないと思い込みたい。格好は全体的に汚れてて、決してキレイとは言えなかったけど、獣耳さんがそんな事するはずない。正義だ!



 もう行くしかないな。時間をかければそれだけ毒が体に回ってしまう。自分の思い込みを信じ、岩山に向かう決断をする。


 罠でも、何でもきてみやがれ。返り討ちなのじゃ!

 ミラの真似。


 念のため、も一度ステルス《光学迷彩》発動。岩山の出入り口を探す。



 ありました。岩の衝立(ついたて)が、申しわけ程度に置いてある。盗賊なら出入り口にはもっと気を遣うはずだ。


『犬の穴』……オイラ覆面被った方がいいのかな?


 よし。突撃。



 お、それなりに明るいぞ。ちょうどいいや。

 勝手におじゃまさせていただきますよ。


 細い通路を抜けると、まさに大広間。こういうのって、入り組んでるのがデフォルトじゃないの? 普通に穴を大きくしただけの洞窟(どうくつ)住居だよ。



 あ、やっぱり倒れてる。獣耳さんが2人。茶髪と赤髪だ。さっきの子達と比較すれば大人で間違いなさそうだね。それにしても生活感ありありだ。全部で5人になるのか? まあ、これくらい取っ散らかってても仕方がないのかな。仮の住居? なのかな?


 罠とかも、……なさそうだし、治療にかかることにしよう。


  * *



 2人も同じ症状だったから、恐らく、例のキノコによる食中毒って事で間違いなさそうだ。手早く治療を済ませ、外の2人も1人ずつ慎重に運び、4人並べて寝かせておいた。



 うーん。茶髪獣耳は同じでも大小の違いくらいは分かる。赤髪獣耳の女性も1人だけだから、分かりやすい。雰囲気は皆似ている。でもこの小さい茶髪獣耳の2人、俺には判別できないかもしれない。どこに違いがあるんだ? さっぱりだ。やはり、まだ違いの分かる男ではないらしい。頑張らねば。


 でも、似てるってことは、家族なのかな? 元気になったら、訳あり臭とか出てきちゃうのかな? なんだろね? どこかから逃げてきた? 流浪(るろう)の獣耳家族? それとも、まさかの獣耳盗賊団なのか? でもここに置いてある物も、生活に使うような物ばかりで、血の臭いはしないしな。回収したお宝とかも置いてなさそうだし。


「さてさて、どうしましょうかね」


 まだ目を覚ましそうにないし、住みかにしてるくらいだから、ここなら危険もないのかな。一度ミラの所に戻りますか。先に助けた獣耳っ子も、恐らくここの子だろうから、一緒に運んでこよう。うん、そうしよう。


 念のために岩山の出入り口は、〈石戸〉で《ロック》しておいた。万が一に備えた安全対策です。優しさ満点? 脱出不可能な岩山の監獄? 岩だけに……、ザ・ロ……ピーッ!



  * *



 こっちは、どうだ? ……異常はなさそうだな。


 ここで、《ステルス》《光学迷彩》を《解除》しておかないと面倒な事になりそうだから、忘れずに〈解除〉しておきましょう。


「お疲れ様、ミラ。問題なかったか?」


「おお、おぬしか。こっちはこの通り、まだ目を覚ましておらんのじゃ。そっちはどうだったのじゃ?」


 おかしい。これは想定外だ。


「ミラ? ここに出しておいた食料なんだけど、どこかに保管してあるのか? 食器と水しか残ってないんだけど? 先生怒らないから、正直にいってごらん?」


 後ずさりするミラ


「うっ、おぬし、怒らないと言ったではないか。その雰囲気はなんじゃ、もう怒っておるではないか。すまなかったのじゃ。ほんの出来心だったのじゃ」


 あ、やっぱり食べちゃったんだね。俺が人助けに奔走(ほんそう)していた時に、ミラは腹ごしらえをしていたと、しかもこの赤髪獣耳っ子の分までも。しっかりオイラのフラグを回収してくれたんだね。優しいねぇ、ミラは。期待通りだよ。



「ふーん。別に怒ってる訳じゃないぞ。じゃあ腹ごしらえは終わったって事でいいのかな? ミラさんや?」


「うっ、もちろんじゃ。この後、戦いになるやもしれんのじゃ、腹ごしらえをしておくのは、当然の事なのじゃ」


「そうだな。腹が減っては戦ができぬって言うからな。ミラは間違ってないぞ。その子の分まで食べてなければ、な」


「う、それを言われると、ごめんなさいなのじゃ。つい、なのじゃ。つい魔が差してしまったのじゃ。

 …………それにしても、『腹が減っては戦ができぬ』じゃったか? いい言葉じゃのう。わしのためにあるような言葉じゃ。いい事を聞いたのじゃ。ふふふ」



『つい』、じゃないだろうに、『いつも魔が刺さってる』の間違いだ。……いや? ミラは魔人だから、間違いではないのか? 悩ましいな。

 しかも、途中から(つぶや)いてたけど、しっかり聞こえてるからな。この距離だぞ。反省させるどころか、逆に、食いしん坊属性持ちを強化してしまった。俺の方が反省なのじゃ~。


 いかん、これ以上のツッコミは止めておこう。悲しい未来しか想像できないからな。俺はまた、大人の階段を1つ登ったのじゃ。



「じゃあ、すぐ動くぞ。あの岩山は、多分この子と、その関係者の住みかだ。同じように倒れてたから、治療は済ませてある。皆一緒に看た方がいいと思うし、ここよりは安全だと思う」


「そうか、あの岩山は、この子達の住みかじゃったのか。それならそうじゃの、移動した方がよさそうじゃの」


 こっちの赤髪獣耳っ子は、安らかな寝息を立てている。毒の方は、もう大丈夫そうだな。良かったよ。


  * *



 手早く現場を撤収(てっしゅう)し、岩山へ向かう。《身体強化2倍》のおかげで、らくらく安心安全輸送。人体サスペンションフル稼動(かどう)(ひざ)、腰、(ひじ)、全身の筋肉を使って、地面からの衝撃(しょうげき)や振動を吸収して体を安定させる。今、オイラの体の半分は、優しさで出来ております。子供だから、軽いしね。



 ミラは、後方の警戒も兼ねて後ろについている。今、後ろから襲われるのはマズい。両手が(ふさ)がってるからね。と言っても、ミラを先頭にはできないんだけどね。方向音痴だし。いちいち声出して指示する訳にもいかないから。一応警戒しながら進行中。


  * *



 岩山の住みかも、俺が出て行った時のまま、変わりなし。周辺にも異常なし。〈石戸〉を《ロック解除》し、中に入る。こちらも変わりなし。容態(ようだい)も変化なし。なしづくし。



 赤髪獣耳っ子を獣耳ファミリーに並べて、そっと寝かせる。ファミリーだとは、まだ決まっていない。予想で話しております。予報じゃないからね。



「ミラ、今日はここで泊まっていく事にしていいか? さすがにこの状態のままにはしておけないし、出入り口を固めれば、安全確保もしやすそうなんだよね。どうかな?」


「わしに異論はないのじゃ。ここまで面倒を見たのじゃ。最後まで面倒見るのが当たり前なのじゃ。それに、守りに関しては、全ておぬしに任せるのじゃ。その方が間違いないのじゃ」


「そうか、分かった。じゃあ、部屋の設計は俺が適当に考えるからな。基本的には、前と同じ感じだけど。それでいいか?」


「おお。勿論なのじゃ。あんな落ち着ける部屋といい、風呂まであるのじゃ。ありがたいのじゃ」


 OK。それじゃあ、一丁(いっちょう)いっときますかね。

 あ、その前に一言(ひとこと)(ことわ)っとかないと。


「ミラ、先に言っておく事があるんだけど、いいかな?」


「なんじゃ? 改まって」


「俺がこれから魔法を使う時に、ピカッって光ったり、ビリビリってなったりすると思うんだ。でもそれは、魔法を発動させる時に出てくるもので、そういうもんなんだ。驚く事もあると思うけど、俺には何のダメージもないから、安心してくれ。それと、慣れてくれ。その方がお互いの為だと思うしな」


「前に何度も驚かされたやつじゃな。あい、分かったのじゃ。もう、そういうものだと思っておるから、大丈夫なのじゃ。わざわざ何を言い出すのかと思えば、そんな事じゃったのか」


「おう、よろしくな。突然の事で、変に驚かせても悪いだろ? 戦闘中なら、その(すき)が命取りになるかもしれないし。(あらかじ)め分かってれば、逆に、敵のその隙を突けるかもしれないからな。教えておくべきだと思うだろ?」


「ふむ。確かにの。そこまで考えておったとは、末恐ろしいやつなのじゃ」


「じゃあ、俺は、出入り口の確認と〈強化〉して、この下に〈シェルター〉作ってくるから、この5人の事は頼むな。見ててくれればいい。容態が変化したら、知らせに来てくれ」



「……わしには見てる事くらいしかできんのじゃ。おぬしへの借りはいつになったら返せるのかのう」


 ポツンと立ちすくみ、だんだん声も小さくなってゆくミラ。


 出番がなくて活躍できなかったから、落ち込んでるのかな? それとも、さっきの赤髪獣耳っ子の分まで食べちゃった件かな? 珍しいな。


 てゆうか、そんなキャラじゃないだろうに。ミラは『基礎生活能力のない方向音痴の脳筋ちみっババ食いしん坊属性持ち実は武闘家魔法使い』だぞ。なげーな。明日は大雨でも降るのか? やめてくれよ。早く町に行って、食料を確保したいんだ。俺は。


「そんな事は気にしなくていいぞ。俺は俺の出来る事をしてるだけだ。ミラもミラの出来る事をしてくれたらいいんだ。さっきも言ったけど、役割分担だ。


 人は1人でも生きられるかもしれないけど、それなりに暮らしていくためには、やらなきゃいけない事が多過ぎるだろ? 何でも全部自分でできるのか? やればできるだろうけど、時間がかかり過ぎる。それじゃ時間が勿体(もったい)ない。やりたい事があっても、やれる事が限られてくる。


 やりたい事が何もないならいいけどね。独りで好きにすればいい。そのうち何かに気付くかもしれないから。


 やっぱり、人は1人で生きるより、それぞれが何かを分担して生きていく方が、平和で、楽しい事がたくさんできると思うんだ。皆が皆を必要とするし、皆が皆から必要される。そんな光景を想像をするだけでも明るい姿が見えてこないか?


 まあ、その上に立つ()()()と、進む先、方向さえ間違わなければだけどね」


「…………」



 おーい。ミラさんや。また、ボーッとしてますね。でもあんな湿っぽい表情よりマシだ。ミラには似合わない。よし、これで明日は晴れるだろう。


 また、いい仕事してしまったようだ。


 この勢いで、安全な住みかと、拡張版快適シェルターを作ってしまおう。



 いきます! パン!


 バチバチ、バチッ!






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