新・古今閑話集 1
この作品は、
『どこだか世界で、無理せずいこう』シリーズ
の『3部』に当たります。
1部の『無理せず生きていこう』
2部の『無理せず探していこう』
もよろしくお願いします。
私は『リーレイの町』の冒険者ギルドで受け付けをしています。
人気の職業で、凄く倍率高いんです。自慢なんですよ。へへ。
制服も可愛いくて、ちゃんと専用のネームプレートもしてるんです。でもあんまり名前では呼んでもらえません。何ででしょうね? まだまだ新人だからと思ってますけど。変な視線を感じるんですよねぇ……胸元に……
冒険者ギルドは、王都に本部を置き、主要な町にはだいたい拠点もあります。大きな組織なんです。政治とか商業ギルドとも一線を引き、中立で独立した組織として確立しています。
そういう毅然とした姿勢に惹かれたんです。私もそうありたいと思って応募したんです。制服が可愛かったからだけじゃないですよ? 筆記試験に面接に頑張りました。
面接では想いが強すぎて空回りしちゃいましたけど……。採用が決まった時には、家族、親戚含めて盛大にお祝いしましたよ。嬉しかったです。もう夢のようでした。へへ。
でも、受け付けとして一人前と言われるようになるのはホントに大変で、何年もかかります。
礼儀作法に始まり、言葉遣い、ギルドの仕組み、依頼に関する知識に書類関連、簡単な計算もできないとダメなんです。それに円滑なコミュニケーション能力まで加わって……、覚える事が多くて、もうパニックになっちゃいます。
いろんな人が訪れるから楽しい反面、変な人や、怖い人もいます。私が苦手なのが、イカツくて声も態度もデカい人。もうイヤになっちゃいます。でも同じように接客しないといけません。先輩が隣にいる時は落ち着いていられるんですが、いないと大変。ガチガチに緊張しちゃいます。経験を積むしかないと言われていますので、今日もメゲずに頑張ります!
なんて事を思ってると、お客様がきましたよ。
その人は、気合いを入れて扉をくぐってきました。見えてますからね。
外見で人を判断してはいけませんが、依頼者かな? 依頼を受ける方ではなさそうな……
「ようやくしゃべれたよ」
「………はぁ、で、どういったご用意で?」
ビックリしました。第一声がそれ? こんな人初めてです。
まだまだ新人ですが、これまでの人生経験の中にもこんな人はいませんでしたよ。
つい呆気に取られてしまいましたが、なんとか持ちこたえました。私成長してます。でも、微妙な空気が流れます。
「初めて来ました。登録や制度について教えて欲しいです」
え? 何? ふつーじゃん。普通の人でした。良かったです。私でもなんとか対応できそうです。
「登録はどなたでもできます。…………」
*
私の応答が想像通りらしく、時には嬉しそうに頷いたり、想像と違う場合には驚いたりしていました。感情が顔に出やすい人なんですね。
他にもいろいろ教えて差し上げました。情報の提供は大事なお仕事です。これもマニュアル通りです。マニュアルを見ながらでも大丈夫なので、こういった説明は、簡単なお仕事内容になります。
ランクが存在しない分、双方で依頼内容に食い違いがないよう気をつける必要があります。いくら自己責任とはいえ、信頼と実績のためには、長く続けていく事が必要です。無理せず勘違いがないように、打ち合わせは綿密に行っているんですよ。
それなりに時間はかかるのですが、依頼を定期的に受けるなどして、ギルドに貢献していただければ、それなりに融通も効くようになるんです。内緒ですけどね。へへ。
この町には『クラン』がありません。もっと大きな町に行かないと無いんです。ギルド員同士が集まって作られた組織の事なんですけど、新人さんの教育や、訓練、依頼に合わせてパーティーの編成を考えたりもしているそうです。ルールとかもクラン毎に違うそうなので、詳しくはわかりませんが、ギルドとしても、クランとしても、所属者としてもメリットは大きいですから、あるとありがたい組織です。
残念ながら、この町にはありません。ですから、この町でパーティーを組むのは、それなりに大変なんですよ。
ギルドとしては、安全確保のためにも単独での行動は推奨していませんが、仕方のない時もあります。そんな時には余計に気を遣います。自分の力量をしっかり判断できているか、見極めは大変ですけど、話をしていくなかでお互いに納得できるようにしています。ね。大変でしよ?
登録は誰でもできるので、勘違いしている人も少なくありません。手っ取り早く稼ぐには冒険者ギルドだ。という風潮が広まっていますからね。私達の負担が増えるので何とかしてほしい案件です。はい。
でも実際に、『チカラ』がありさえすればその通りなので、困ったものです。私にはまだ、その見分けはつきませんから。
素材の買い取りなんかは、それこそどなたでも可能ですから、気軽に持ってきていただけるのは、ありがたいですよ、ほんとに。
手数料をいただいていますので、それはそれはありがたい話です。商業ギルドと違い、面倒な交渉はありません。よほどの事がない限り、一律で単価は固定されていますから。
商売上手な方なら分かりませんが、時間と労力を考えれば、ウチで買い取らせていただいた方がお得なはずですよ。時間の浪費はお金に代え難いって聞きましたからね。へへ。
商業ギルドはギルド員には優しいのですが、それ以外の人には冷たいですから、間違いありません。合理的です。ウチでは、いろんなほしょうもしていますから、安心ですよ。
お客さまは神様です。冒険者ギルド職員の理念の1つです。いいでしょう? いい言葉だと思いますよね? 人を大切にしています。
信頼関係って、とても大切だと思います。ギルド員さん毎にこれまでの依頼受注数、達成率、評価などがチェックされていて、保存されているんです。
ですから、その人がどういう仕事をしてきたのかは記録を見れば分かっちゃいます。これも内緒の話です。へへ。
その評価点によっては……、いけないいけない。これ以上はさすがに怒られちゃいますね。反省しますよ。成長しなきゃです。
私達受け付けも、人の子ですからね。ギルド員は平等に扱うべきなのですが、いつも優しく接してくれる方には、ちょっとだけ応対も良くしてしまいます。ほんのちょっとだけですよ。
『ギルドカード』は、その人の信頼度を証明していくための物です。冒険者ギルドとしての『身分証』にはなりますが、残念ながら国や町では通用しません。
なんでも、独立性を保つために、個人情報は秘匿する必要があるのだそうです。難しいですね。考えた人も、仕組みを作った人も凄いと思います。
ですからギルド員と、登録していない人とでは差があります。
登録のない人からの買い取りは、『持ち込み』として扱われ、手数料を余分にいただきます。1点毎に手数料がかかるので、長い目で見ると凄い額になっちゃいます。だから、お互いのためにも登録をお勧めしています。
初めて来たと言っていたはずですが、何でしょう。詳しすぎます。実はギルド職員だったりしますか? 覆面試験なんでしょうか? 質問の質が違います。本質にぐいぐい迫ってくる感じです。私、負けちゃいそうです。
*
……はぁ。何とか乗り切りましたよ。無事に対応できたはずです。へへ。
しっかり説明もして、理解もしていただけたと思うのですが、今回は登録は見合わせるそうです。残念です。
皆様も、リーレイの町へお越しの際には、気軽にお立ち寄り下さいね。お待ちしております。
~~「ほしょう」の違い~~
「保証」確かだと約束する。責任を持つ。保証人。
「保障」権利、自由、安全、生活などを守る。保護。
「補償」損害や出費を金銭などで埋め合わせる。償つぐない。
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