表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第2話

僕は静かにドアを開ける。

その時、パァン!という破裂音がした。

「ひゃっ?!」

思わず小さな悲鳴が出る。

「「「ようこそ!102号室へ!新入居者さん!」」」

……

「あれ?どうしたの?」

部屋の中にいた男が2人と女1人だった。

女がクラッカーを持ち、男達は手を叩いている。

「え、ここの新しい入居者だよね?」

「うん。」

頷く。

「だよね良かった。」

僕はドアを閉めて荷物を置く。

「えと…」

「初めまして。私は(あおい)。よろしくね。」

女は自己紹介をする。続いて気だるそうな声が聞こえる。

「俺、柘榴(ざくろ)

「僕は(べに)です。よろしくお願いします。」

柘榴は口に何かを含んでいる。キャンディだろうか。そして床寝そべっていた。紅は正座をしてぺこりとお辞儀をした。

「君の名前は?」

蒼が首を傾げる。

「えと、瑠璃。」

「瑠璃!いい名前だね!何年生?」

「…?年生?」

「え?」

「もしかしてお前学校通ってなかったのか?」

柘榴は先程と変わらない気だるそうな声だ。

僕は頷く。

「あ、そっか、ごめんね」

蒼が少し困ったように肩をすくめる。

「僕こそ、ごめん。」

「大丈夫。因みに私は中学部の3年。」

「俺も」

「ぼ、僕は中学部2年です。」

紅だけが中学部2年のようだ。

「よろしくね!」

蒼がニッコリと笑う。

「う、うん!」

自分の中で精一杯の笑顔を作る。

しかし

「ぶはっ、お前の笑顔ぎこちなさすぎw」

そう言って柘榴はクスクスと笑う。言っていることは酷いがでも彼の笑顔はかっこいい、というやつだろう。お姉ちゃんが親の本を指さして時々言っていた。

「紅さん失礼ですよ。」

でも、そうやって笑ってくれることも嬉しかった。

改めて部屋の中を見渡す。

部屋の中には2段ベットが2つと小さな机が1つ、そして座布団が4つある。僕がお姉ちゃんと住んでいた家より狭い部屋だ。

「瑠璃ちゃん。瑠璃ちゃんのベットはここだよ。」

そう言って蒼はドアから見て左側の2段ベットの上を指した。

「分かった。」

「荷物置いたら瑠璃ちゃんの話、いっぱい聞きたいんだ!聞かせてよ!」

僕の話なんて面白いものではないし、そもそも話すようなことはない。

僕は二段ベッドの上の段に荷物を置き、1つ空いている座布団に座った。

「瑠璃ちゃん、改めて102号室にようこそ。ここではいつも新しく入ってきた人に質問してるの。だから瑠璃ちゃんも答えてもらうよ。」

「わ、分かった。」

「じゃあ、私から。なんでここに来たの?」

なんでここに来たか…罪を犯したから。これ以上でもこれ以下でもない。

「親を、殺そうとした、から。」

驚かれるだろうか、引かれるだろうか。3人の反応が怖かった。

しかし

「やっぱり…」

と蒼は呟いた。

「え?やっぱり?」

「俺達みんな、親を殺そうとして捕まったんだよ。だから、お前もか、と思ったんだ」

ここにいるみんな、親を殺そうとしていた…?

「因みに動機はなんなの?」

僕はさっき水月さんに話した内容を話した。

「なるほどねぇ…」

「じゃ、次俺。右目、どうしたの」

柘榴がむっくりと体を起こす。

右目。やっぱり気になるか。

僕は髪をかきあげて眼帯を見せる。

「眼帯…」

「小さい時、親にやられた。右目はほとんど見えない。」

まだ幼かった時、記憶はハッキリとしていないが男に目を傷つけられた。そのせいで右目の視力はほとんどない。家にあった眼帯をして、今まで過ごしてきた。

「そう、か俺からは以上だ。」

「じゃ、じゃあ最後は僕ですね。えと、その首の包帯も親にやられたんですか?」

僕は首を触る。

「うん。小さい時。」

女に暴力を振るわれた時に首が切れた。幸い浅い傷だったけど隠していたいから包帯を巻いている。

「そうなんですか…」

「もう質問ない?」

蒼が2人に呼びかける。

おう、うん、と頷いた2人は僕の方を見る。

「よっし、じゃあそろそろご飯の時間だから食堂、行こ?」

「待て、服に着替えないと。」

柘榴は顔を背ける。

「寮の中にいる時はいわゆる囚人服に着替えなきゃいけないんだよ。多分お前のベットの上に置いてあると思うから着替えたら呼んだくれ。」

僕はハシゴをのぼり、ベットを見る。確かに白と黒のストライプの長袖の服とストライプの長ズボンが置いてあった。その隣には黒いブレザーと白いシャツと黒いベスト、そしてチェックのスカートが置いてある。

僕はストライプの長袖と長ズボンを持ち、着替える。その間柘榴と紅は自分のベットに転がっていた。

着替え終わって降りてくると2人もベットから起き上がった。

「うん!似合ってる!」

「じゃあ、食堂に行きましょう。」

蒼は僕の手をとって立ち上がる。

「ついてきて!」

僕は蒼に引っ張られるようにして部屋を出た。






「ここが食堂。」

部屋を出て階段をのぼり、3階。しばらく歩くと「食堂」と書かれた札が部屋の前に飾ってあった。

蒼がドアを開けると中には沢山の人がいた。全員黙っている。中には座ってもそもそと食べていたり、皿にご飯を盛っていたりする。

「ここでは黙って食べるのがルール。絶対喋っちゃいけないからね。」

蒼は耳元で囁く。

僕は頷いて蒼について行った。

おぼんと箸と皿を持ち列に並ぶ。

おぼんにご飯が入った茶碗と、皿の上に魚の切り身とキャベツの千切りが置かれる。美味しそうだ。

前に並んでいる蒼について行くと、「102」と書かれた札が置いてある机に着いた。

蒼はそこに座りもぐもぐと食べ始める。

僕も蒼の隣の席に座り、食べ始める。

…………うん、美味しい。魚の切り身にクリームソースがかかっている。そしてご飯は茶色い。玄米ご飯だろうか。玄米ご飯は体にいいとお姉ちゃんから聞いた事がある。今までこんなに贅沢な夕食は食べた事がない。幸せだった。




蒼が食べ終わるのを待ち、蒼が食べ終わったら皿を片付け、僕たちはまた部屋に戻る。

「どうでしたか?ここのご飯は。」

紅が話しかけてくる。

「美味しかった。初めて食べた。あんなに美味しいご飯」

紅は顔を輝かせる。

「そうなんですか、ここのご飯って美味しいですよね!」

嬉しそうに飛び跳ねる。紅は食事が好きなんだろうか。

「瑠璃ちゃーん、瑠璃ちゃんのベットの上に制服が置いてあるから明日から学校に行く時はこれ着てね。」

確かにさっき着替えた時に制服らしいものは置いてあった。あれが囚人学園の制服か。

「さてと。俺たちは風呂に入ってくる。」

そう言って柘榴と紅は立ち上がる。

「はーい、じゃ、また後で。」

ほーい、と言って2人は部屋を出た。

「ここは男子と女子、お風呂に入る時間が決まっているの。男子が帰ってくるまでしばらく暇だから話そうよ。」

「うん。」

「私が、ここに来た理由なんだけどね。」

蒼が目を伏せる。

「私、お母さんは血が繋がってたんだけど、お父さんは血が繋がってなかったの。それで、お父さん…いや、お父さんじゃないな。男だな。その男は酒癖がひどくて、お酒を飲むと人が変わったように暴力を振るって来たりしたの。それで、お母さんは耐えきれなくなって私を1人置いて何処かに消えた。私はその男と暮らしてた。でも、だんだんお酒の量が増えて来て、次第に働かなくなって、それで私を殴ったり、私に強引にお酒を飲ませたり、酷い事もした。だから、殺そうとした。本当は息の根を止めたかったんだけど、私には無理だったの。」

そう言って蒼は力無く笑った。

「私も酷いことされたんだから、私だってそれくらいのことはやっていいと思ってた。でも、だめだった、みたい。男はそのあと私やお母さんに暴力を振るってたって事で逮捕されたけど…。なんかスッキリしなかったの。」

僕は黙って話を聞く。

「でもね、ここに来て、柘榴や紅と出会って、初めて、生きててよかったな、と思ったし、殺さなくてよかったな、って思った、だって殺してたら別の部屋にいたからね。ここにいるのはみんな親を殺そうとして殺せなかった人達だから。」

そうだったのか。

「もちろん、瑠璃ちゃんに会えたのもすごく嬉しかったよ。」

蒼はまた笑う。

「そっか。」

「聞いてくれてありがとうね。」

「大丈夫だよ。」

瑠璃ちゃんは優しいな、と言って彼女は笑った。

彼女は笑顔が似合う、そう思った。

「明日から瑠璃ちゃんは学校生活が始まるよね、瑠璃ちゃんのクラスの人は全員犯罪者なんだよ。だからっていって怯えなくていい。みんな事情があってここに来てるんだよ。みんな、心の底は本当にいい人ばかりだから。」

ガチャ

「ただいま」

「お待たせしました」

「帰って来たね。じゃあ瑠璃ちゃん、お風呂いこ!話の続きはまた今度ね。」

「話ってなんだよ。」

「女子だけの秘密〜」

「なんだよそれ」

「まぁまぁ、柘榴さん、きっと女子にも秘密があるんですよ。」

じゃあねー、と言って僕たちは部屋を出る。




『みんな、心の底は本当にいい人ばかりだから。』

蒼の言葉が頭の中で繰り返される。

どこか心配していたところもあったがなんとか乗り越えていけそうだ。

蒼となら。

僕はそっと蒼の肩を叩いた。

「え?なに?!」

僕は思わず笑ってしまった。

大丈夫だ。きっと。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ