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彼女たちのルセット  作者: 鳥居れもん
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川本八重の場合 その3

川本八重の場合 その3

 我が家は決して裕福ではない。

 父のリストラを機に、家計は一気に苦しくなった。

 高校には何とか入れることにはなったが、弟のことを考えると私は高校卒業のタイミングで就職を考えていた。

 そのことを両親に伝えた日は随分と揉めた。思えばその時きちんと話し合えばよかったのだが、口喧嘩で人を説き伏せられるようなタイプでもないのだ。面倒になった私は妙に両親と気まずくなってしまい、家に帰ってもあまり話をしなくなっていた。

「あのさ」

 しかし、今日は。なんとなく。そんな気分だったのだ。

「話があるんだけど」

 その晩。弟が眠ったタイミングを見計らって、両親と話をした。

「あのさ、高校を卒業したら就職するって気持ちは変わってない」

 どこか納得しない顔の両親。子供がそんなこと心配しないでいいとか、自分の人生だから後悔しない選択をしなさいとか。

「心配はするよ、家族だから。後悔とかそういうのは正直よくわからないけど」

 新しい仕事に毎日へとへとだろう父。それを支えるために忙しい母。

「けどさ、二人も言いたいことも分かったから」

 こうするべきだとか。こうあるべきだとか。こうじゃなきゃいけないとか。

「もし、自分のやりたいってことが見つかったら、ちゃんと相談するよ」

 ほんのわずかな変化だと思う。ちょっとだけ、肩の力を抜いたかなってぐらい。

「意固地になってごめん」

 下げた頭を上げると、足早に部屋へ戻りながら振り返らずに両親に告げる。

「明日からはちゃんとご飯の時も顔出すから」

 眠っている弟を起こさないように、静かに布団に潜り込む。布団の中でLINEを開き、グループトークにつぶやく。

“今日はお弁当ごちそうさまでした。しーちゃんも誘ってくれてありがとう”

 一瞬の間の後、

“お粗末さまでした”

“二人が仲良くなってくれてよかったよ”

 他愛無い会話がうれしい。

“今度はクジョーも一緒にラーメン食べに行こう”

“私は委員会が無い日ならいつでも大丈夫だよ”

“俺もバイトが無い日ならOKです”

“九条くん倍としてたの!?”

“×倍と ○バイト”

 律儀な訂正についつい笑ってしまう。

“あぁ、はい。してますよ”

 もしかしたらクジョーとしーちゃんは付き合ってるのかなとも思ったが、本当に出会ってすぐなんだなと実感する。

“じゃあ次はクジョーのバイト先に遊びにいこー”

“行く!!”

“じゃあ明日にでも場所送っときますね”

“りょーかい”

“おねがいしまーす”

“それではおやすみなさい”

“おやすみ”

“おやすみなさい”


 明日が楽しみだなんて久しぶりだなぁ。

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